異世界に転生しましたが、なんですか? 性善説はどうしたのですか?

一ノ塾 諒

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決着には早すぎるかもしれないが、それほどの差がそこにある

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「ないだろ」

 団長と呼ばれた男は「異世界人か……」深く考え込む。手をあごに当てている動作だけでも油断はなく、どこからの奇襲にも対応できそうだ。

「ねえ、どうしたら家族に会わしてくれるの?」

 そういえば彼女の要求は家族に会うことだ。どうしたら家族に会えるのだろうか。俺が何とかすればいいのか。それとも?

「あぁ、ならまずはこの奴隷を売りさばいてくれ。その金額によっては考えてもいい」
「そんな。ならせめてどれくらいに売りさばけばいいのか教えてほしいわ」
「駄目だ、さっさと行ってこい」

 もう興味がないのか団長と呼ばれた男は屋敷に戻ろうとしていた。クリスは膝を抱え込み涙を流しているようだった。

 その時だった。

 俺は体が動くようになり、状態異常『魅了』が解けたことで驚いたクリスはこちらを向いた。団長と呼ばれた男は空を見上げている。
 そして近くに落ちた衝撃、太陽と被って見えなかったが晴れていたのに、近くに落雷が落ちたような衝撃が走る。
 土煙が上がる。どこからともなく煙幕のようなものも広がる。どうしてだ? ここは石畳なのに……。

「奴隷と聞こえたがもしかして、奴隷を売買しているのではないか?」
 その声に俺は聞き覚えがあった。
 まだ土煙で見えないが、彼で間違いない。俺の知ってる、マンションの下の階の住人だ。
俺はこいつが嫌いだ。その理由が、
「奴隷売買は許さない。俺は人を助けるため、人の世を正すため、そのために俺は英雄になる」
 彼のこの性格だ。英雄志望というか、ヒーロー願望というか、彼は人のために何事もいとわない。昔からそうだった。俺が池に落ちたときも真っ先に飛び込んだのが彼だし、学校でいじめが起きたときも、後輩なのにもかかわらず俺の学年のいじめを解決したのだ。その時俺はいじめてきた不良たちに気絶させられていたが、あきらが全員を絞めてしまったらしい。つまりはいいやつすぎるのだ。
 俺は彼のその性格が嫌いだ。誰に頼まれたわけでもない。彼は他人を助けることが生きがいなのだ。それに何度も助けてもらった。

「あれ?わたるじゃん。何してるんだ?」
「それはこっちのセリフだ、あきら。いやその前になんだその恰好は?」
 ヒーロー着地から立ち上がり、コスプレのような見た目の、騎士の格好をしている。やけに白い光を反射するその鎧は、団長の鎧と同じ形をしている。まさに対極の立場にいるようで、二人の得物、団長と呼ばれた男は大剣であるにも関わらず、あきらが持つ剣は片手剣だ。その刀身は太陽に照らされ輝く。
「俺、ヒーローになりたくてさ、気が付いたらチート付きで転生していたんだ」
「チート?」

 そこで動き始めたのは団長と呼ばれた男だった。大剣を片手持ちで切りかかる。あきらはこちらを向いたまま、まるで手が意思を持つように刀をはじき続ける。
 団長と呼ばれた男は、片手では埒が明かないようと分かったのか両手に持ち替えた。全力で刀身をあきらに向けるが、それをあきらはものともしない。
「そう、この世界でもらったチートは二つ。一つ目はこうやって、剣の達人になること」
 そうして団長と呼ばれた男を一振りで薙ぎ払う、俺は顔を覆うがその風圧は電車が
通り過ぎるよりも強かった。

「そしても一つが……」 
「マジック・コントロール!!!!」
 俺の心はそのままに、体は勝手に正座していた。あの町で出会った狂乱の男のように。
団長と呼ばれた男が叫ぶと同時に、俺とクリスは魔法の影響を受け、頭を下げる。しかし、俺が正座したのを見ると、あきらが叫ぶ。

「マジック・リセット」
 すると俺の体が言うことを聞く。誰もどうやらあきらの魔法はリセット。俺の状態異常を直してくれたのだろう。しかし、彼の魔法が使えているということは、彼は状態異常『支配』を受けないのだろう。しかもその影響は周りにまで及んでいる。俺も体が動くようになった。

「いやこれは俺が自力で得たものだ。状態異常のリセットは実質デバフなんだよね」
「そうなのか」
「あぁ、そうなんだよね。俺はこの世界がすきだ。好きになった。俺はこの世界を元に戻したい。平和で、世界が笑顔に包まれて、明日を憂う人がいない世界を作りたい。そうだな。国を作るなら魔物を滅ぼして国を作るのもいいかもしれないな」
「はぁ」

 こういうところも俺は嫌いだ。笑顔があふれる世界? 国を作る? あまりにもそれは無謀で無理な話ではないか? だがこの男は一方的にかつ説得力を有して、仁王立ちする。これだ!! こいつはいつも、無理なことを言い始める。そしてそれを叶えてしまう。有言実行を誰よりも成し遂げてきた男。そういえば昔言っていたこと、今は叶っているのかな?
 
「ずいぶんと悠長だなぁ」
 男は俺たちを待ってくれたのか。それとも次の作戦を決めたのか。語り掛けてくる。
「俺たちが、なぜ協力を止めたかわかるか。神、そうだな。俺はあったことはないが神というやつがいてな。魔法がなかった時代、神が俺たちに与えたギフトはデバフと状態異常だ。なぜだ? 俺たちは魔物を殺す手段が欲しかったのに……。どうしてだ? 与えたものは補助呪文ばかりだ。おかしいだろ? いいか? 人はな、間接的に人を殺すという行為に躊躇しない。補助呪文はその力がある。つまりどうなったか分かるか? 暗殺、奇襲、毒殺、心臓だけを狙った麻痺、魅了して崖を飛ばせる、支配して一生……、その場にとどまらせる!! 簡単なのさ。間接的に人を殺すのは。補助呪文はそれができる。猜疑心に包まれた世界の崩壊は早かったさ。欲望にくらんだ人間は蹴落とし合いだ。そこに善意はない」
 
 そこには団長としての顔がなかった。深く絶望した顔だった。俺はこの顔を見たことがある。最後まであがいた顔だ。最後の最後の最後まであがいて、もがいて、戦って、そして諦めた顔だ。
 俺と一緒だ。
「どう思うあきら!! これがこの世界だ!! 救いもない。希望もない、明日も生きているか分からない。そんな世界をどうやって生きればいい? 世界を救う? それができるならだれかがしているに決まっているだろう。できないから人間は諦め、このありさまだ!!」
 俺はこの男に自分を重ねていた。一人で戦った男。最後まで戦い抜いた男。その先にあった一縷の希望すら俺を見放したこと。この男はそれを経験している。
 この男は同情してほしいのではない。俺は知っている。こういうときは好きなようにさせてほしいのだ。それで自分が破滅しようとも。それがごみ溜めに落とされた男が望むことだ。  
そしてそこでじっとしていたいのだ。地獄で罪を認めたものは諦めて、何もしたくはなくなるのだ。
「おい!! 答えろよ!! あきら!!」
 あきらは視線を外さない。この一瞬でもこの男に怯めばお終いであることは俺だけが分かっているのかもしれない。彼は感覚で、今まで生きていた人生のすべてをかけてしようとしていることがある。
「助けたい」
「はぁ?」
 あまりにも意外な答えだったのか、団長と呼ばれた男は、目を丸くする。驚きのあまり何も言葉が出ないようだった。その一方であきらは目を輝かせ、晴れ渡る空のような心で真っすぐに答える。

「助けたい、お前の言葉なんていらない。俺は世界なんてどうでもいい。俺の願いが世界を救うからだ。ほかはどうでもいい。お前たちのいう欲望が、俺の欲望と一緒だと思うな。俺はお前たちを救いたい。誰でもいいのさ。お前が戦わずに済み、笑顔で眠り、明日を楽しみに待つ。そんな世界を作ることが俺の目標だ。お前に邪魔はさせない」

 違った。これは怒っているときのあきらだ。こういうやつなのだ。彼は怒ってはいないというがこれは間違いなく怒っているのだ。

「どうやら、お前は倒さないといけないらしい。その曲がった感情、正してやる」
 あきらは剣を両手で握る。意志の強さ。それはあきらが身に纏うもの。オーラというものがあるというのならば彼が身に纏っているものがそれだろう。風が、彼を中心にして吹き荒れる。
 団長と呼ばれた男は、剣を構える。そこにはもう騎士の風格はない。一人の救済を望む者だった。剣を構える。
「なら俺を倒せよ!!俺を超えるものを……、俺の代わりに世界を作ってくれよ」
「あぁ!!もちろんだ!!」
 
 剣を交え、体術を駆使し、デバフを駆使するがリセットされる。成すすべなく、すべての手を覆し、そして息が切れそうになってもまだ剣撃を続ける。

 剣を交えるにつれて、俺は団長の笑顔が見えた。そうか。これがあきらが望むことか。

「そうだ!!俺に見せろ。その力のすべてを……、そして俺はそれを覆してお前のすべてを否定してやる。お前のすべてをな……」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 最後の一撃は切なかった。団長は大剣を上から下へ振り下ろす。それを最小限の動きでかわし、刹那の瞬間、かろうじて見えるか見えないかの手刀だった。団長は固まる。そこに意識はなかった。白目をむき、前に倒れこむ。

 決着。

 晴れ渡る空の下、黒く輝く鎧が一つ。最後までたっていたのは納刀しているあきらの姿だった。
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