魔拳のデイドリーマー

osho

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第16章 摩天楼の聖女

第301話 『シャルム教』の闇

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お久しぶりです。
年度末・年度初めで忙しかったのとスランプとが重なりまして……もうしわけない。
感想も全部読んでます。返せてませんが……この場を借りてありがとうございます!

では、第301話、どうぞ。



・・・・・・・・・・



まとめると、こうだ。

彼女達3人は……幼い頃からの仲良し。つまりは幼馴染だった。
それも、もともと貴人でも何でもなく……それどころか、聖都ですらないある町の、寂れた孤児院で育ったんだとか。

貧しいながらも、どうにか皆で――彼女達3人だけじゃなく、孤児院のスタッフや他の孤児たちと一緒にっていう意味で――助け合い、生活してきた。

しかし、その生活は長く続かず……ある時、ネフィアット――呼び捨てでいいって言われたのでこう呼ぶ――が里子にもらわれていった。

その『里子』ということ自体は、孤児院ではいいこととして受け取られているそうだ。別れはつらいけど、いつまでも孤児院にいるわけにはいかないし、新しい人生のスタートをお祝いしてあげよう……っていう方針になっているらしい。

その後、同じようにソニアも里子にもらわれていった。

最後に残ったソフィーは、里子の話が来る前に、望んで『聖騎士』とかの訓練校に入ったらしい。平民だろうと孤児だろうと入ることができ、学費は無料、生きるための知識と技術を学べる……それにくわえて、その頃から、人の役に立つ仕事がしたいと思っていたそうで。

一方、ソニアがもらわれた先は、そこそこ裕福な商人だったらしい。
そこから色々あって……『義賊』なんてことをやるようになったそうだ。

……端折りすぎだって、その『色々』の部分が気になるって言ったら、『そうしたいが冗談抜きに複雑で、本当に色々あった。説明するだけの時間がない』だそうで。

あえてちょっとだけ説明するなら……悪の権力に対抗するために、こちらも悪の道を行く必要があった……とのことだ。OK。そこそこ理解できた。

大方、貰われた家が貴族か何かにちょっかいだされて、それを正攻法でどうにかできなかったから、『義賊』になって盗んだ金で色々と、あるいはその貴族か何かを直接……ってとこか?

なんか色々つらい過去ありそうなので、触れないことにした。

で、最後にネフィアットちゃんなんだが……つれていかれた先は、そこそこ裕福な家。
その家の方針で、修道院に勤めることになった。そこまでは、何も不思議とかはなかった。

しかしその数年後、突如として『シャルム教』の総本部から呼び出しを受け、彼女は『聖女』候補の一人として神殿に招かれることとなった。本当に唐突に。

その後、神殿で色々と修行を続け……ついに昨年、正式な『聖女』として迎えられることが決まった。……その理由が、最後までネフィアット自身に知らされないままに。

「あの時は、よくわからないことばかりで怖かったけど……少なくとも、私には選ばれるだけの『何か』があった、っていうだけで嬉しかったんです。権力とか……豪華な食事も、きらびやかな服も興味はなかったけど、その『何か』で人の役に立てる。聖女として、この国をより豊かにするための仕事に携われるんだ……って、思ってたんです。でも……」

「……実際は違った、と?」

「まあ、宗教なんてそんなもんだしな。教皇だの枢機卿だのって連中のあのザマ見てるだけで一目瞭然ってもんだろ」

「……いや、そうではない」

と、師匠の罵詈雑言に、横からソニアがそう返してきた。
皆が『?』という感じになる中、ソニアと、ソフィーが2人で、ネフィアットから説明を引き継ぐ感じで、

「俗物ばかり、という点ではその通りだ。だが……今私が言ったのは、そういうことではない」

「ええ……あの国、あの者達は……もっと恐ろしい闇を、その身の内に抱えていたのです。そしてネフィは、その犠牲にされようとしていた。だから……我々は、それを助けようとしたのです」

説明は続く。

ちょっと時間は戻り、ネフィアットが聖女に選ばれる2年くらい前。
幼馴染3人は、再会を果たしていた。

まず、聖騎士として実力をつけてきていたソフィーが、その実力を評価されて、聖都・神殿に務めるという栄誉を手に入れ……そこで、『聖女候補』になっていたネフィアットと再会。
『シャルム教』の俗物な部分を目の当たりにしてきて、辛くなっていたところに、光明だった。

次に、ソフィーが仕事中……偶然『義賊』の襲撃に遭遇。それを追いかけて捕らえようとしたら……なんとその『義賊』がソニアだった。びっくりしたそうだ、2人とも。
それ以降、捕らえるどころか癒着するようになって……悪い噂を聞く貴族とか商人とかの情報をソフィーが流して、ソニアが襲撃、とかやってたらしい。やるなオイ。

そしてその流れで、夜にこっそりではあるけど……ソフィーの手引きで、ソニアとネフィアットが再会した……と。

そこまでなら感動のストーリー――所々黒い関係が混じってるけど――でよかったんだが、1年前、ネフィアットが正式に次期『聖女』に選ばれたあたりから、事態がおかしくなっていく。

それを感じ取ったソフィーが、不安に思って色々と調べた結果……恐ろしい事実が明らかになった。

「……そもそも、連中が……教皇達がありがたがって崇め奉っている『聖女』というものが、まともな宗教的な象徴存在『だけ』のはずがなかったのです」

「……つまり、その『聖女』という地位そのものに何か秘密があったと?」

「正確には、その地位に立つ『個人に』ですね。……黒い噂を耳にした段階で、私は色々と、手を尽くして調べました」

最初は、彼らの欲望のために、何らかの形で利用するのか、と思っていたらしい。

前にちらっと言ったと思うが、『聖女』というのは、ただの象徴じゃなく、実際に不思議な力を持った神聖不可侵な存在としてあがめられている。

例えば、強力な癒しの魔法を使えたり、魔物を追い払う『聖水』を作りことができたり、光属性の極めて強力な魔法を使えたり……そういうのをみせつけるデモンストレーションみたいなのも、不定期ではあるが、行われているそうだ。

ちなみに、ネフィアットにもそういう力はあるらしい。
一応彼女、聖水作りと回復魔法、それに呪いの解除ができるらしい。特に最後の、呪いの解除については……実演してもらったんだけど、普通に見事だった。

かなり強力な呪いがついていたい剣を、一瞬で浄化してしまった。なるほど……これは、宗教的に美味しいというのはわかる。呪いを退散させるなんて、いかにも『神聖さ』のアピールになりそうな力だし。

……ただまあ、このくらいなら、僕やミュウちゃん、ネールちゃんもできるんだけどね。
道具や薬品使ってよければ、ネリドラや師匠も。

ついでに言えば、その剣の呪いは『死霊術師(ネクロマンサー)』のミシェル兄さんがかけたものです。
その理由は……特にない。僕がなんとなく作った剣が『なんか呪いかかってそうな見た目だなオイ』『じゃあ実際にかけてみちゃいましょう。おーい、ミシェル兄さーん』こんな感じ。

……話を戻そう。

きな臭くなって来たんで、ソフィーが、ソニアにも協力してもらって色々調べた結果――合法な手段も違法な手段も使って。友人のためなら躊躇わないねこの人たち――恐ろしい事実が発覚。

「……最初は、先程申し上げましたように、『聖女』の力を使って、違法に利益を上げることに協力させたりするのではないか、と思っていました……しかし、奴らの悪辣さは、そんなものではなかった……このままでは、ネフィの身が、命が危ないとさえ思えるほどのものだったのです」

ぐっ、と、膝の上に置いている手を、血が滲みそうなほどに強く握って……絞り出すような声音で言うソフィー。その様子を、つらそうに見ているソニアと、こちらは何を思い出したのか、怖がっている感じに見えるネフィアット。

「……勘違いしないでいただきたいのは……そちらの方」

と、ここでソフィーは、部屋の隅にいたテレサさんの方を見て、ふいに言った。

「あなたも修道女のようですが……この辺りの、少なくとも聖都の方ではありませんね?」

「え? ええ……私は今は、ジャスニアの国境付近の区画に赴任しているから……よくわかったわね。ついでに言うなら……細かい『派閥』のようなものも、中央とは別枠だから。けれど、今回は新たな『聖女』が選ばれる式典ということで、一時的にここに来ることになったの」

「聖都にいる修道女の顔は全て覚えておりますので。……なるほど、そういうことでしたか、でしたら……そちらのあなたのいる場所の教会は、大丈夫なのでしょう」

「? というと? ああ、申し遅れたけれど……私の名前はテレサよ」

「ありがとうございます。テレサ殿のいる教会……より正確に言えば、皮肉な話、辺境にある教会ほど、中央の腐敗した権力が届いておらず……弱者を、困っている者を救うという、教会本来の在り方に即した運営を行っているそうです。ですので……他の教会も含めた『シャルム教』の全体が腐敗しているわけではないと、皆様の頭の片隅にでも置いておいてもらえれば、と」

「……私も、本当なら、そういう場所の教会に行った方がいいんじゃないか、って、何度も言ったんですけど……聞き入れてもらえなくて……」

「自分たちの目的のためだけに、ネフィやその他の聖女たちを育てていたんだからな……当然と言えば当然だ。連中は、金にもならん人助けなどには微塵も興味はないからな」

そのソニアのセリフを皮切りに、話は元のルートに戻った。
シャルム教のお偉いさんたちが、ネフィアットを利用して何かを企んでいる、という点に。

「『聖女』というのは、今見せたネフィの力と比してなお、隔絶したレベルの力を使うことができます。実際に私も何度か見たことがありますが……並べて横たえられた数十人もの重傷者達が、たちどころにその傷を癒されていく様子は、この目に焼き付いています」

「私もです……アレを見て私、聖女にあこがれる気持ちもあったんですけど……」

「ほー……それが本当なら大したもんだ。俺の知り合いにも、そんなことできる奴は、両手の指で数えられるくらいしかいねーな」

と、師匠が言っていたのを、ソフィー達は三者三様、驚いたり、疑うような目で見てたりしてたけど……マジだからね、この人の知り合いは普通じゃないの多いから。

ていうか、そのうちの1人は間違いなく、ここにいるテレサさんだろう。あとは……アイリーンさんとか、母さんあたりかな?

しかし、そういうレベルは世間一般でいう『奇跡』レベルになるわけで。
もしそのレベルの力をホントに使えるのだとすれば、そりゃ聖女、普通にすごいなって話だ。

……が、どうやらそう単純な話じゃない……と見た。

「……聖女の力は、修行によって得られるものではないのだ。いや、正確に言えば……修行『だけで』それほどの力を発揮できるわけではなかった、ということだ」

「真面目に修行する他に、何か重要な要素があった……ということ?」

テレサさんが問いかける。
……ここまでくると、大体予想つくなあ……そういう強い力を、修行とか才能とは違う、つまりは『まともじゃない方法』で得る、ということなわけだし……。

……ひょっとしなくても……ドーピング?

「……その通りだ。神殿の連中は……どこから入手しているのかはわからないが、そういう薬を……いや、あれはもはや毒物ないし劇薬とでも言うべきものだろうが、持っている」

「飲んだ者の魔力を、そして扱える魔法の威力や等級を大幅に引き上げる代わりに、急激に寿命を縮め……また、自我を奪い操り人形にする、という効力のある薬です。神殿では……それを『御神酒』と称し、就任の式典の際から、定期的に聖女に飲ませて、力と支配を保っているのです」

息をのむ音がした。見ると、こういうえぐい話題に慣れていなさそうな国賓ズが絶句していた。
政戦の中に立ったことがある、ルビスとかエルビス王子はまだマシっぽい。オリビアちゃんもなんとか。でも……リンスとレジーナはちょっとドン引きレベルだな。顔も青いし。

「そんな薬……マジであんの?」

と、レジーナ。丁寧な言葉遣いに取り繕う余裕はないと見た。

「……事実です。連中が徹底的に秘匿しているため、表には出てきていません。知っているのは……教皇と枢機卿達の他は、奴らに抱き込まれている一部の聖騎士と、神殿関係者のみ」

「……現役の『聖女』は? 3人いるはずだが?」

「彼女達も知らないでしょう……いえ、仮に知っていたとしても、彼女達はすでに薬によって、自我を殺されています。口なしも同然です」

「私たちがそれを知ることができたのは……その仕組みを知っている末端の聖騎士の1人から聞き出したからだ。……同じように俗物で、ソフィーに色目を使っている奴だったからな、少々……人には言えない目に遭ってもらったあとに、行方不明になってもらった」

おう、黒い告白。まあ、別にいいけど。

「あの薬の恐ろしいところは、廃人にするのではなく、あくまで『自我』を奪うに留めるところで……感情や欲求といったものは抜け落ちますが、声をかければ普通に受け答えでき、少し話した程度では、その異常な状態に気づけないところにあります。基本的に『聖女』は神殿の奥から出てこず、身の回りの世話をする侍女たち以外は、教皇や枢機卿たちとしか会いませんから」

聞いてみると、国賓ズからも肯定が返ってきた。

シャルム教の象徴である『聖女』だが、それは教義だか戒律により――それもどうせ権力者たちが都合のいいように定めたものの気がするが――出歩かないし、誰とも会わない。誰が来ても合わせないし、呼ばれてもどこにもいかないそうだ。

唯一外に出ることと言えば、何か宗教儀式の時のみ。
ソフィー曰く、それも実態は、さっき言ったような『デモンストレーション』なんだが。

それ以外の時は、『お勤め』という名の存在しない仕事のために、ずっと神殿の奥深くにこもって修行している。瞑想とか、ただやるだけの効果のない修行を。

身近にいる侍女とか聖騎士とかからしても、基本的に『神聖不可侵なる存在』としてフィルターがあらかじめかかってるような状態だから、微笑を浮かべてじっと何もせずたたずんでるだけ、っていう在り方でも、そんなに不自然には思わない。ちょっとそう思っても、その後に見ることになる『奇跡』のインパクトで上書きされるわけだ。

「それと、他の副作用以上に、あまりにも毒性が強く……あれを飲んでそもそも生きていられる者は限られるそうだ。体質の問題で、確率的には数万人に1人、しかも女性だけだとか……。神殿はそれを探し出し、何かと理由をつけて『聖女』候補として召し上げ、修行という名目で近くに置く。そして、前任の聖女が死ぬと、候補の中から次の操り人形を選ぶ……そういう仕組みだ」

「一番、薬への適正ないし耐性が優れた、長く使える者を……な。今回はそれが……」

「……私だったそうです」

と、ネフィアットが悲しそうに締めくくった。

……よく考えられてるもんだ……褒めるようなもんじゃないことはわかるが。

で、だ。
『シャルム・レル・ナーヴァ』セミファイナルの今日、彼女……ネフィアットは、その『御神酒』を飲まされることになっていたのだが、その直前になって彼女たちが助け出した。

本当はもっと早く助け出したかったらしいんだが、どういうわけかここ数か月、警備概要に厳しくなっていて、それはできなかった。ソフィーという協力者がいてもだ。

もっと早く動けていれば、と2人とも悔しがったそうだが、それで諦めることはなく、じっとチャンスを待った。色々と準備を重ねながら。
神殿の構造の調査、スケジュールの確認、警備のシフトの確認……etc。

結果として、神殿関係者以外に人がおらず、神殿の最深部……『聖堂』で行われるがゆえに、警備は厳重だがあくまで外に向けられたもの、という状態になっていた今日を狙った。

神殿に、『枢機卿』以上の地位の者達しか知らない、非常用の『隠し通路』があることを突き止めたソフィーが、そこを通してソニアを中に招き入れた。そして、聖堂まで忍び込み、ネフィアットを強奪、そのまま逃走。

その後、逃げる途中で意図的に神殿の一部を崩し、さらにそこに血液のついたネフィアットの……儀式で着ていた『聖女』の衣装やアクセサリーを一部置いておく。そして火をつける。上手い具合に燃え残るように調整して。

これで死を偽装し、混乱に乗じて聖都から逃亡。今までソニアが『義賊』としての活動でためた資金――全額寄付はしないで少しずつちょろまかして蓄財してたらしい――と、行き掛けの駄賃とばかりに神殿からかっぱらってきた調度品や貴金属を路銀にして、どこか新しい土地に引っ越して3人で暮らそう、と考えて。

しかし、ネフィアットを攫って偽装工作を済ませ、外に出たところまではよかったものの……そこで想定外の事態が2つも発生。

1つは、『蒼炎のアザー』とその一味の襲撃。

もう1つは……あの謎の獣型の魔物の襲撃。

そのせいで、神殿が滅茶苦茶に破壊されるわ、魔物に追い回されてソニアとソフィーが傷を負うわ、踏んだり蹴ったりだった……で、どうにか凌いだ上で、僕らに助けられて今に至ると。

……なるほど、話は大体わかった。

けど、さすがにことがことだ。まるっと鵜呑みにする、ってわけにもいかないかなコレは。

「……信じてはもらえない、ということだろうか?」

「ん、まあ……すぐにはね」

何せ、関わってる人が人だ。一介の聖騎士や、百歩譲って義賊はともかくとしても……さすがに、今回開かれた式典に置ける中心人物である『聖女』である彼女の存在は大きすぎる。

……無いとは思うけど、もし今の説明が全面的に出たら目だったりした場合、『聖女』がいなくなって困ってる教会に彼女を返さないといけない、みたいなこともあるだろうし……繰り返すが、無いとは思うけどね? あんだけ必死になって言ってたことだし。……ないと思いたい。

「……っ……私たちは嘘など!」

「待てソニア! ……無理もない、私たちは今、客観的に見てみれば、酷く疑わしい状態だ……すぐに、無条件に信じてほしい、というのは虫のいい話だ」

落ち着いた口調でそう言いながら……ソフィーは、懐から何かを取り出した。
手に乗るくらいのサイズの小ビン。その中に……透明な何かの液体が入っている。

……これって、もしかして?

「……無条件に信じてもらえないのなら、証拠を、ってこと?」

「はい。……連中のところから、わずかだが盗ってくることに成功した、『御神酒』です。これを調べてもらえれば……少なくとも、そういう所業を可能にする手段があることはわかるかと」

「けれど、これを教皇たちが持っていた、っていう証拠にはならないんじゃない?」

横からセレナ義姉さんが指摘するも、ソフィーは落ち着いたまま、さらに懐に手を入れる。
そして今度は、小さな布袋を取り出し……その中から、明らかにそれに収まりそうにないサイズの書類の束をいくつも取り出した。……保存用のマジックアイテムか何かか。

「『御神酒』を飲ませ続けた、他の『聖女』の経過観察の記録です。ご丁寧に教皇自らが書き記していたらしく……筆跡を調べればわかるはずです。時間がなかったので、まだ私も詳しくは読み込んでいないのですが……そのこと以外にも重要な情報が載っている可能性はあると思われます」

「……どこでこんなものを?」

「奴の私室だ。今日の式典の直前、奴がいなくなったタイミングで、ソフィーの手引きで私が侵入して強奪してきた。金庫を破壊してな」

金庫破壊って……マジかよ、そんなことできんの?
いや、でも確かに、あの獣とのバトルっぷりや、こないだ僕が戦った時の戦闘力……あれなら確かに、普通の金庫とかなら破壊するのは簡単、かも。金具引きちぎってドア外すくらいなら……。

ともあれ、くれるならお言葉に甘えて。調べてみよう。
この場にあるのは簡易的な検査用具だけだけど……何とかなるはずだ。

……僕と師匠、メラ先生で解析に入って……その間に、聴取の続きを進めていてもらおうか。
色々ややこしいことが起こってて、時間はあまりないみたいだし。


「それで、あなた達は結局この後どうしたいのですか? 先程簡単に希望は聞きましたが、具体的なビジョンがあれば聞かせていただきたいのですが」

「それは、私たちも……そこまで考えているわけではないんです。漠然と……ただ、この国を出て、どこか静かなところで暮らしたいな、って……」


ふむふむ、あー、これがこうなって……


「どこかの国家に所属したり、庇護下に置かれることを検討したりは? もちろんその場合は、対価として何某かの情報、あるいは、能力を提供することが必須ですが……」

「情報なら、いくつか神殿から持ち出してきた機密書類がありますが……能力となると、私の力は十人並のものですし、これといって……」

「わ、私、さっき見せましたけど……呪いの解除や回復魔法なら自信があります!」

「私は……せいぜい腕っぷし程度、だな。どこまで評価してもらえるかはわからんが……」


えーと、これはそうか……うん? ……あれ?
え、ちょっ、師匠コレ……はい、これでも……えーっと、ですよね?


「その場合、ソニア殿の身柄が問題になりそうだな。露見しなければいいとはいえ、今まで数々の豪商や貴族家に打撃を与えたかの『義賊』ともなると……」

「……その場合は、私は1人でも何とか生きていけます。2人だけでも……」

「ダメだよ!」

「ダメよ!」


……え、ちょっと? ちょっとちょっとちょっと!?


「国のお世話になれないなら、前もって考えてた通り、私たち3人で協力して生きていければいいよ! もともとそうするつもりだったんだから! そうしなきゃ……だって、ソニアだけそんな不幸なことになるなんてダメだよ!」

「だが、今後のことを考えれば、何らかの形で権力による庇護があった方がいいのは確かだろう……もし、何かのきっかけで何者かにネフィの存在が気づかれて、襲ってきた場合……我々の力では、守り切れるとは限らないんだぞ……」

「それはっ……だけど、なら私たちがここまで必死にやってきた意味がなくなるだろう! 少なくとも私は、私たち3人で一緒に未来をつかむために、この1年間を頑張ってきたつもりだ! 後で誰にどのように罵られることになろうとも、今まで積み上げて来た全てを捨てても、私たち3人で未来をつかむために」



「お話中ごめんね! ちょっといいかなマジで聞いて皆の衆!」



「「「!?」」」

とまあ、僕が横から割り込む形で声を張ったので、びっくりしてその場にいる全員の視線がこっちに集まった。
さっき受け取った『御神酒』のビンを持ってる僕に。

何事か、という顔になっていた皆さんのうち、はっとしてソフィーが、

「! ミナト殿、解析が終わったのか? それで……その『御神酒』が危険な薬物であることは、わかってもらえた……だろうか?」

「……半分ね」

「? 半分、とは?」

僕の答えが予想外だったんだろう。ソフィーが……いや、彼女だけでなく、ソニアやネフィアットも、さらには、それを横で聞いている他の皆も……何を言っているかわからない、という顔になっていた。

「……ソフィー、さっき君こういったよね? この『御神酒』は、自我を奪って寿命を縮める代わりに魔力その他を増幅して、教皇連中に都合のいい操り人形を作るための薬だ、って」

「ああ、そうだが……違ったのか?」

「……ああ……逆の意味でね。この薬…………



…………そんなレベルじゃない。もっとずっと危険で、凶悪なものだ」



……どうしよう、こんなもん持ってるっていうか、用意できるとか……『シャルム教の闇』とやら、マジで、冗談抜きにヤバいんじゃないのか……?



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