魔拳のデイドリーマー

osho

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15巻

15-3

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「ふむ……なるほど。確かにこれは捨て置けませんね……」

 とある場所にある、隠された施設の一室。
 白い肌に黒い髪、赤い目の男が、部下――ドロシーから上がってきた報告に目を通し、笑みを浮かべていた。

「いかがいたしましょう、総裁?」
「……どうやら長いこと泣き寝入りに近い形で引きこもっていた骨董品が、ようやく動き出すようですね。暗がりから出てくる決断を下したのは評価できますが……大局を見据える目を持っていないようでは、その先はたかが知れている」
「では、こちらから干渉はしない……という方針でよろしいでしょうか?」
「いえ、多少の介入はさせていただきましょう。ただし逆の立場で、ですが。そうですね……ウェスカーに動いてもらいましょうか」

 そう呟くと、『総裁』と呼ばれた男は、机に備え付けられていた便箋びんせんを一枚手に取り、さらさらと羽ペンで『指令書』を書きつづった。彼の、忠実な部下に届けるためのものだ。

(見極めさせていただきますよ、『黒獅子』ミナト・キャドリーユ……あなたの力を……)

 そんな思いを心のうちに秘めながら。


 ☆☆☆


「はあ……ったく、交代おせーなあ……」
「バカ、まだ当分交代なんざこねーよ。こないだの戦いとやらで負傷兵が出ちまったおかげで、各人のシフト時間がびてんだから」
「ああ、そーだったな……くそっ」

 リアロストピア北部の『ガラスタ要塞』は、日が落ちてもう肌寒くなってきている。
 門の警備に就いている兵士達は不運を嘆いていた。
 通常なら、もうそろそろ別の兵士と任務を交代して暖かい室内に戻れるところを、あと二時間近くもこうして外に立っていなければならないのだ。
 理由は簡単。先日キャラバンを襲撃した際、多数発生した重軽傷者の一部がこの砦に運び込まれ、その世話など予定外の仕事に人員がかれているためだ。
 ゆえに歩哨ほしょう任務などの担当兵士が、こうして『残業』をいられているわけである。

「……なあ、もうサボって中に入っちまわねーか? ちょっと休憩するくらいはいいだろ?」
「バカ、ばれたら重罰モノだぞ、めったなこと言うもんじゃねーよ」
「そうは言ってもよお……別に何も起こる気配なんざねーじゃんか。平和なもんだよ」

 やや不真面目な兵士は、槍を抱えてその場に腰を下ろす。そして、どこに隠し持っていたのか、酒瓶を取り出して中身をあおり始めた。
 強めの酒らしく、同僚の鼻にまでアルコールの匂いが届く。

「おい、何してんだバカ」
「うるせーな、コレは気付け薬だよ、気付け薬。せっかく女を捕虜にしたのに、あの亜人野郎が独占しちまうし……ああくそ、今頃尋問っつってお楽しみ中なんだろうな……面白くねェッ!」
「お前なぁ……ん?」

 真面目に職務に当たっていた男が、呆れたような声を出したその時……彼はあることに気づいた。
 地平線の彼方かなたで何かが光っている。
 太陽のように強い光ではないが、ここからでも見える以上、決して弱くもないのであろう。

「? おい、どうかしたか?」
「いや、何か――」

 ――ドガァァアアアアン!!!!
 はるか彼方から音速の数倍もの速さで飛来した光の砲弾が、二人が守っていた城門に直撃、炸裂さくれつした。二人の兵士は、自分達の身に何が起こったか……否、『何かが起こった』ことも知らぬ間に、周囲の地面ごと吹き飛んで蒸発した。
 その数秒後、爆風で土埃つちぼこりを吹き飛ばし、亜音速から急ブレーキで一気に減速したバイクに乗って……中心部が大きくえぐれて消し飛んだ門の前に、その下手人げしゅにんが姿を現した。

「……ノックにしちゃちょっと派手だったかな?」

 そう呟きながら、ミナトはバイクを降りた。
 そして、肩に止めていたアルバを、腕を前に突き出して移らせる。

「じゃ……アルバ、作戦開始。上手くやれよ」

 ――ぴーっ!!
 そう一声鳴いて、エルクを除けば一番付き合いが長い、もう一人の『相棒』が夜の闇に飛翔していくのを見届ける。そしてミナトは、騒ぎを聞きつけて集まり始めた兵士達に向き直った。



 第四話 『黒』と『緑』の夜騒曲


「な、なんだ貴様は!? 何者だ!?」
「おい、今の光もまさかお前の仕業か!?」
「ここをリアロストピア王族直下の軍事拠点、ガラスタ要塞と知っての狼藉ろうぜきか!?」

 次々に浴びせられる言葉をまるで意に介さず、そこに立っている黒装束くろしょうぞくの少年が尋ねる。

「最初に確認と、用件だけ。ここに捕まってる緑髪の女の子、返してもらいに来たんだけど……いるよね? 大人しく出してもらったりとか、できる?」

 その言葉に兵の一人がはっとした。

「た、隊長! 確か、昨日運び込まれた捕虜にそんな感じの女が……よく見ればこいつ、その仲間の一人と容姿が一致します! 若い男で、全身黒ずくめ……」
「何っ!? そうか、貴様が例の……くくくっ、ちょうどいい、探す手間が省けたってわけか」

 隊長と呼ばれた男は、にやりと笑って部下達に手で指示を出す。
 兵達は、いまだ困惑の中にあった者も含め、リーダーの指示にはっとして体を動かし始めた。
 仮にも軍隊、統率はとれているらしい。数秒とかからず、兵士達がミナトを包囲する。

「明朝、捜索隊を増員して派遣しようかと思っていたんだが、そっちから来てくれるとはありがたい。しかも一人でとは。さあ、大人しく捕まってもらおうか? 王族の生き残り様」

 その言葉にミナトは答えず、代わりに、はぁとため息を返す。

「ま、素直に出してくれるなんて思ってなかったけどね……」

 かたわらに止めてあるバイクのモニターのひとつ、タッチパネルを操作しながら叫んだ。

「じゃ、うちの嫁、返してもらおうか。変形装甲展開……『ジェノサイドアームズ』発動!」

 直後、ミナトの体を……バイクごと、黒紫色の竜巻が包み込む。
『パワードアームズ』発動時と同様の、魔力で出来た半透明の暴風。
 その中で突如、バイクがガシャンガシャンと機械音を響かせながら変形を始める。
 乗り物の形をしていたそれは、装甲を展開させてミナトの背後から覆いかぶさり、その形状をまるで鎧のようなものに変えていった。胸を、肩を、腕を、足を、胴体を、頭を、次々に黒と金色の装甲が覆っていく。一部に残る機械的な機構を残したままに。
 数秒後、竜巻が掻き消えた時……ミナトは、黒と金の鎧で全身を覆われていた。
 デザインとしては、重装甲の歩兵か何かを彷彿とさせないでもないが……だとしてもいくらなんでも、という感想を抱かざるを得ないほどに、その鎧は重厚。
 見た目一発、動くのにも苦労しそうに見える。まるで、それを考慮していないかのようだ。
 メインカラーが黒と金、いわゆる『警戒色』の組み合わせであることも手伝って、相当に威圧的な見た目になっているうえ、体の各所から、銃火器などの武装が覗いていた。
 さっきまで華奢きゃしゃだった少年の突然の変貌に、驚きつつも陣形を崩さない兵士達。
 その中心にいる隊長は、少し驚いた様子だったが、すぐに調子を取り戻す。

「へっ、おどかしやがって……そんな鎧を着たところでムダだ! この砦に詰めている人数は、山道でお前らを奇襲した時の五倍以上だぞ? 勝てると思ってるのか?」
「…………」
「それにだ。さっき自分で言ってたよなぁ? お仲間の緑色のお嬢ちゃんは、今俺達が捕まえてるんだ、その子の命が惜しければっ!?」

 ――キュボッ!
 隊長の男が「惜しければ」まで言ったところで、鎧の両肩についている砲筒から光弾が発射され、周囲の部下ごと隊長を吹き飛ばした。
 一瞬のことに、何が起こったかわからず絶句している兵士達に対して、ミナトは言った。

「死にたい奴からかかってこい……かかって来なくてもこっちから行くけど」
「か、か……かかれぇ――っ!!」

 先ほど、隊長にミナトの正体と目的を進言した男がそう叫ぶと同時に、周囲の兵士達が武器を手にミナトへ殺到する。
 接近されるより早く、ミナトは両手にひとつずつ、ガトリング銃を思わせる射撃用マジックアイテムを装備した。
 さらに、腰の左右の両側、肩にも左右ひとつずつ、キャノン砲のようなものが出現する。
 どちらも鎧の中から生えるように現れた。大きさ的に、格納できそうにないのに。

「せいぜいあがいてみせろ……ザコ共」

 次の瞬間、それら全てが火を噴き……暴力的な魔力弾の弾幕が周囲を覆った。


 ☆☆☆


 城内に知らせが行きわたったのは、その数分後のことだった。
 突如として城門付近に現れた黒衣の襲撃者が、兵士達を相手に破壊の限りを尽くしていると。
 あせりと恐怖を覚えた砦の責任者は、人質として地下牢に捕らえているエルクを使うようハイエルフ達に迫るが、クラウドは頑として承知しなかった。
 緊急の軍議は、口汚く両者がののしりあう罵詈雑言合戦へと姿を変え……その後、『緑髪の娘と茶髪の王家の娘以外なら好きに使えばいい』とハイエルフ側が妥協(?)したため、それなら残りの一人、ステラを使おうと話が決まった。
 しかしその時、血相を変えた二人の連絡兵が、会議室にノックもなく飛び込んできた。

「も、申し上げます! 捕虜達を収容していた牢屋が襲撃を受け、幽閉していた捕虜三名に脱走されました! 捕虜達は現在城内を逃走中と思われ……また、番をしていたハイエルフの女戦士が裏切って、現在も逃走に手を貸している模様です!」
「こ、こちらも報告が……門のところで暴れていた男が、急に速度を上げて城に向かって進攻を……こ、このままだと数分も経たずにここに来ますっ!!」
「なんだとぉっ!? それはどういうことだ!?」

 人間の司令官のみならず、この報告にはクラウドも驚きを隠せなかった。
 一方、話題に挙がった捕虜三名と裏切り者一名は……城の廊下を、外へと急いでいた。地下牢の金庫から武器を取り戻し、エルク、レジーナ、ステラ、そしてリュドネラの順番で、必死に走る。
 彼女達の頭上をアルバが飛び、襲ってくる追っ手達を蹴散らしたり、壁や扉を魔力砲撃でぶち抜いて進攻ルートを開拓したりしていた。
 そして、アルバ以外に暴れている者がもう一人。リュドネラである。
 彼女は今、『ステファニー』の死体に取り付いている状態ではなく、普段使っている『アバター』のように、彼女本来の姿で実体化していた。
 加えて、まるで戦乙女か何かのような、鎧とドレスを組み合わせた美しさと防御力、そして動きやすさを損なわないようにしたデザインの戦闘装束に身を包んでいる。手にしているガンブレードのような武器から、魔力弾や魔力砲撃を放って周囲の敵を攻撃していた。
 これはミナトが開発した、リュドネラの戦闘用義体だ。
 調整を終え、アルバに『収納』して持たせてあったものを取り出し、リュドネラは『ステファニー』からこちらに乗り換えて使っている。姿がリュドネラ本人なのは、使用者に合わせて義体が変容するためだ。

「いたぞ、こっちだ!」
「待てぇ、大人しくしろ女共!!」

 戦闘音や破壊音、あるいは味方の呼び声に誘われ、絶え間なく集まってくる兵士達。
 アルバがその都度蹴散らしてはいるものの……十数人に一人程度の割合で、その砲撃魔法の雨あられをかいくぐって接敵してくる。
 これが屋外であればまた違ったのだろうが、屋内である以上、アルバもあまり派手に周囲を破壊する魔法は使えないのだ。天井や床が崩れてしまえば、面倒なことになる。
 そのため、取りこぼしはエルクの魔法やリュドネラの銃で迎撃していた。
 しかしそれも、捕獲に来る兵士にハイエルフが交じり始めてからは、さすがに通用しなくなる。
 迅速に反応してついてきたハイエルフの兵士達は、アルバの砲撃魔法の前に半分ほどが散った。
 それでも残り半分、片手の指の数ほどの兵士は、かいくぐったり障壁を上手く使ってしのいだりして、アルバの弾幕を突破した。
 そのまま先頭にいるエルクに襲い掛かろうとして……。

「――邪魔」

 壁を粉砕して現れた、ミナトの乗る黒い大型バイクに跳ねられ、吹き飛んだ。


 ☆☆☆


 第一段階。僕が『ジェノサイドアームズ』を装備して派手に暴れ、注目を集める。
 第二段階。アルバがエルク達に接触し、解放。装備を整えた上で脱走。
 第三段階。そのまま合流し、一気に連れ出す。今ここ。
 以上が、短期決戦でエルク達を助け出すための作戦だ。特に、第二、第三段階の迅速さがきも
 破損した『パワードアームズ』の代わりに今回使っている新兵器『ジェノサイドアームズ』は、さらに物騒な兵装だ。絨毯じゅうたん爆撃にも耐える重装甲と、近代兵器をモチーフにした数々の魔力火砲兵器による超火力の弾幕を武器にして、戦う。
 僕本来の戦い方である徒手空拳とは相性以前の問題であるものの、ザコを一掃するのには申し分ない火力だし、見た目の恐ろしさも相まってインパクトは十分。今回の作戦には適している。
 やがてリュドネラから、『念話』でエルク達と脱出に成功したという連絡があったので、陽動はやめてそっちに全速力で移動する。
 装甲モードからバイク形態である『ジェノサイダー』に再変形させ、それに乗って砦に突入。
 ハリウッド映画のアクションか、悪路をかっ飛ぶモトクロスよろしく、屋内をバイクで爆走する。
 途中の邪魔な壁とかエルフとか人間とかは物理的に粉々にしながら。
 そうして、ようやく今、エルクに襲い掛かろうとしていた不届きなハイエルフをフライアウェイして、こうして合流したわけだ。
 突然現れた僕に驚いている後ろの二人には悪いけど、説明とかフォローは後にする。

「ミナト! あんたはまた……何作ったのよ」
「話は後! よし、皆いるね……はい、じゃ全員乗って!」
「え、ちょ、ミナト? 何コレ?」
「レジーナいーから乗る! ステラさんも! あ、リュドネラは一旦『収納』ね」
「はーい、了解!」
「で、ではその……し、失礼します……」

 エルクとレジーナ、それにステラさんを座席に乗せ、さらに一旦リュドネラを装備ごと帯に『収納』し――このアイテムで武装してる状態だと、まとめてアイテムとして扱えるんだよね――アルバが肩に止まったところで……はい、発車&急加速!
 始動から二秒で時速百キロを出す『ジェノサイダー』が超高速で外に飛び出し、その辺にいる兵士をね飛ばしながら爆進した。
 途中の障害物を破壊して、直線ルートで外に出るが……。

「逃げられるとでも思ったのか? 人間共」

 突如、空中に魔法陣が現れ、そんな声がしたかと思うと、出てきた。
 あの、スカし顔のハイエルフ野郎。クラウドとかいう名前のあいつが、部下達まで何人も引き連れて。足では追いつけないと見るや、転移魔法で追いかけてきたってわけか!
 すでにそいつらは、得体の知れない乗り物に乗った僕らに狙いを定め、武器を構え、あるいは手に魔力を集めて殺到してくる。
 そして、やはり一番優秀ということなのか、その刃を一番に僕らに突き立てようとしたのは、例のクラウドって奴だった。

「タイミングはともかく……想定内だバカ」

 直後、僕は『ジェノサイダー』の車体を大きく傾け、横向きにスピンするように動かす。その動きで、襲い掛かってくるハイエルフ達を弾き飛ばす……のではなく。

「な――ぐぉっ!?」

 ――背部に装着したロケットブースターから、推進力のためではなく、攻撃のために機能をシフトして爆炎を放射した。スピンしながら、全方位に竜巻のごとく。
 突然のことで面食らったハイエルフ達がひるんだ一瞬の隙に、もうもうと立ち込める黒煙と土埃で何も見えなくなったその場を突破して抜け出る。
 その直後、置き土産代わりに放ってきた魔力式機雷が全弾爆発した音がした。
 空気を伝わる爆音と衝撃を背に、乗るバイクは無事にハイエルフ達の包囲を突破し……背後からの爆風もあって、だいぶ離れたところに着地した。

「で、で……出られ、た……!」

 外の冷たい空気を肌で感じたことで、思わず、といった感じでレジーナがそう呟いた。
 ここはまだ敵地なので安心するのは早いんだけど……まあ、無理もない。
 監禁されるのなんて人生初だろうし、そこから解放されたんだ、気が緩んでも仕方ない。それに、実際僕が来たからには、手出しさせる気はなかった。
 とりあえず一旦バイクを下り、後ろに座っていたエルクを一緒に下ろし…………そのまま、ぎゅっ、と抱きしめる。

「エルク、よかった……無事で……!!」
「もう……バカ」

 エルクの方も抱きしめ返してくれた。数秒間抱き合い、互いの存在を、呼吸を、体温を感じた後、ゆっくりと手を解いて、互いに顔を向き合わせる。
 エルクの瞳を見ていると、いろんな感情が心の底からこみ上げてくるけど……結局何から言ったらいいのかわかんなくて、こうして黙って見つめ合うことしかできないでいる。
 そのうちに……やはり不安から文字通り解き放たれて、感極まったんだろう。
 肩が小刻みに震えたかと思うと……ほろり、ぽろぽろと、涙が頬を伝って流れ出し、あごのあたりまできらめく水の道を作った。
 その涙は、この救出作戦が無事成功し、こうして二人が再会できたことを、まるで象徴するかのように、黄昏時たそがれどきの温かな光を反射して、優しくきらめいているように見えた。
 …………あ、でも、泣いたのはエルクじゃなくて僕の方なんだけど。

「って、助けた男あんた助けられた女わたしより先に泣いてどうすんだァ――ッ!!」

 潤んではいるものの、一応まだ目からは涙が出ていないエルクが、即座にシリアスを放り投げたツッコミモードに切り替わり、僕の脳天にハリセンを一閃させた。
 すぱぁん、といい音が鳴るのを聞きながら……僕は、ああ、帰ってきてくれたんだな、としみじみ思ったりなんかしちゃってたり……。
 あと、視界の端に見える、さっきまで僕らの抱擁を見て『うわー……』って感じで顔を赤くしてたレジーナ達が、一瞬で『えー!?』という感じの顔になってたり。
 そして直後、今度はエルクが僕の胸倉をつかんで、がくんがくんと揺さぶる。

「あんたはもー、ほんっとにいつもどうしてそうなわけ!? なんで真面目な場面が長く続かないの!? なんでいちいち行動と結果にこうもオチがつくのよ!? 私ホントにこれでも安心してるっていうか、助けてもらえて感激してるっていうか、そんな感動的で感傷的な場面でなんで先に泣くかな!? 私一応、このあとどうしようかとか事前に考えてたんだけど!? とりあえず胸に飛び込んで抱きしめてもらって、その後甘い言葉を囁いたり囁かれちゃったりしながら再会を喜んで、周囲の視線とか気にしないで適度にいちゃつく覚悟やら心の準備もあったし、なんならさりげなくキスに移行とかされても応じる用意もあったのに、何この展開!? どーすんのこの空気!? あといい加減泣きやめ! 私の方の涙がキレイに引っ込んだじゃないのよ!」
「だ、だって……念話で無事なのは知ってたけど、実際に……ひっく、こうしてちゃんと直接、顔見るまでは安心できなくて、それでやっとあえて嬉しくて……ぐす……」
「ったくもー……どうして私らの絡みはこういう感じの空気に帰結しちゃうのかしらねー……」

 たはは……と呆れにあきらめの混じった乾いた笑顔になるエルク。
 ははは……まあ、いいじゃない。この方が『元通りになった』って感じするし。
 さて、いい感じに脱力したところでシリアス、もといバトルモードに復帰しますか。
 周囲を囲んでいる兵士さん達が、徐々に迫ってきていた。
 さっきの爆発で生き残ったハイエルフの皆さんも態勢を立て直しつつある。
 まあ、死んだとは思ってなかったけど……思ったより負傷軽いな。せいぜい火傷程度か。
 火炎放射が直撃したはずのクラウドも……服のホコリをはらったりなんかして、余裕たっぷり的なアピール? と共にこちらに向けて歩みを進めてきていた。

「気は済んだか、罪深き者共……そろそろ現実を見るがいい」

 さして感情のこもっていない、抑揚もあまり感じられない声で、ハイエルフの野郎……クラウド・クレリオンは、僕らに向かってそう言い放つ。
 その周囲には、部下であろうハイエルフ族の戦士達も十数人控えていた。
 さっきの火炎放射と機雷によるものだろう、ほとんどの連中の顔や体に傷が見られるが……さすがに訓練された強力な戦士ってことか、戦いに支障がありそうな者はいない。
 むしろ、彼らが言うところの『下等種族』『罪深き者共』に攻撃されたことで頭にきてるのか、ほとんどが顔に怒りや苛立ちを浮かべている。今にも襲いかかってきそうだ。
 そんな彼らのボスであるクラウドは、見下し全開+呆れたような口調で、諭すようにこっちに話しかけてくるけども。

「さらに罪を重ねるか、愚者よ。罪をわずかでもそそがせんとする我らの慈悲を……」
「その話長くなりそう?」

 別にまともに聞く気はない。
 ばっさり流れを切る感じで言い放った僕の言葉に、周りの取り巻き達は苛立ち、クラウドは少し驚いたようだけど、すぐにまた口を開く。

「お前達は愚かにも、ここに来てさらに罪を重ねた。我らの意向に背き、その我を通さんとする野蛮なる振る舞いによって、我らと我らの友軍に対して危害を加えた……すでに、我らの法に照らし合わせれば死罪を言い渡して余りある罪科だ。これ以上は、贖罪の機会を与えることも叶わなくなろう」

 ……なんか今僕、前世まであわせて、人生で一番無駄な時間を使ってる気がする。
 ホントにこいつらはさあ……どんだけ自分と自分の立場その他に酔ってたら、あんな詩的なセリフがすらすら口から出てくるんだか。しかも真顔で。

「めんどい。罪とか知らん、説教うざい。来るなら来い、来ないなら早くそこどけ」
「貴様っ……言わせておけば! クラウド様、このような物分かりの悪い愚か者共に、もはや何を言っても無駄です! 我々の手でその罪を処断すべきです!」

 取り巻きの一人がそう言ったのを皮切りに、そうだそうだ、と周囲のハイエルフ達も騒ぎ立て……それを受けて、クラウドは目を閉じて、はぁ、とため息をひとつ。

「愚者であれど、最後に己の罪をそそぐ潔さを期待したが……ムダだったようだ。ならば……」

 そう言いながら、クラウドは手にしている剣の切っ先をこちらに向け……やっぱりというか、最後まで芝居がかった感じの振る舞いと台詞回しのまま、言い放った。

「ならば仕方がない、その命で、せめて罪をわずかでもそそぐがいい……このクラウド・クレリオンが、ハイエルフの総本山『ステイルヘイム』の法の下、この場にてお前達に極刑を言い渡す!」

 その言葉を合図に……ハイエルフの戦士達が一斉に僕らに剣を、弓矢を、杖の先を向けた。
 全方位から矢や魔法が放たれ……それを追う形で、剣を手にした者達が殺到する。

(そーそー、それでいい……ちゃんと殺す気でかかって来い。じゃないと……)

 おそらくは接近戦部隊の掩護えんご目的で放たれたのだろう、遠距離攻撃。
 しかし、矢は魔力で強化されていて、燐光りんこうをまとっており……魔法はというと、やはり種族特性なのだろう、普通の人間が放つ同種の魔法よりも遥かに威力があるものだった。
 直撃すれば普通に考えて人間なんて粉々にできるであろう、魔法と矢の集中砲火は……しかし、僕らに届くことはなく、アルバによって瞬時に展開された障壁によって、全て弾かれた。

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