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第18章 異世界東方見聞録
第357話 丑三つ時の制圧戦
しおりを挟む城の一番上……天守閣、って言うんだったかな。
ご丁寧にも、ハイエルフ共はそこで待ち構えていた。ここを決戦の場にするつもりらしい。
まあ、そこより下の部分は9割方僕らがすでに制圧したから、ここに集まるしかなかった、っていうのもあるんだろうけど。
天守閣の中は、意外にもかなり開けた状態の広間のようになっていて……その部屋の真ん中で、十数人のハイエルフと、それ以外の種族の……恐らくは戦闘要員と思しき者達が待ち構えていた。
向こうは僕らの接近にも既に気づいている。
このまま引き続き『暗殺』してもいいが、色々と考えて、正面から行くことにした。
「ふん、よくここまで来たな、愚かで薄汚ナ―――ッ!?」
――バキィッ!!
正面から行くとは言ったが、まともに相手をするとは言ってない。
「き、貴様話も聞かずに!」
「実りがないとわかり切ってる会話なんぞする意味ないっつーの。会話スキップ一択だよ」
「意味の分からねー単語が混じったが、まあ概ね同意だな」
「口を開けば罵詈雑言ばっかりで、しゃべってるだけで疲れるからねえ」
師匠及びミシェル兄さんの同意もいただきました。
しかし、僕が2人目を殴るより先に……どうやらそれなりには戦いになれているらしい。素早く四方八方に散開し、一気に片づけられないようにした。
そこで改めて僕は、相手の面子を見る。
(ハイエルフが14人……今1人潰したから13人だな。それに、亜人の……さっきのサクヤさんの話の通りなら、『奴隷』か。13人。全部合わせて27人。残り26人だな)
亜人は、頭に角が生えている『鬼』が6人。
共通しているのはそこだけで、体格は様々だな。背の高い低いもあるし、細身の奴もいれば、ボディビルダーみたいな巨漢のゴリマッチョもいる。男もいれば女もいるし、武器……金棒を持ってる奴もいれば、刀や弓を持ってる奴もいる。……屋内で弓使うの?
加えて、猫耳とネコしっぽが特徴的な獣人っぽい女の子が2人。
よく見ると、尻尾は2つに分かれている……化け猫? いや、『猫又』っていうんだっけか?
その隣には、狐の耳の獣人。1人。こっちも尻尾は生えてるけど、1本だけだ。
いわゆる『妖狐』って奴かな……尻尾が9本じゃなくてよかった。……居ないよな? かの有名なあれ。割と洒落にならんぞ。
残り4人は……妖精? それとも『ピクシー族』と同種の亜人かな?
身長が20㎝くらいしかなく、羽もないのにふわふわと宙に浮いている。手には、木の枝でつくったような簡単な杖を持っていて……うーん、名前わからん。
……でも、何か服装が民族衣装ちっくな気がするな……ひょっとして、琉球か、アイヌ系?
だとすると……『キジムナー』か『コロポックル』とかか?
「お、お前達! こ奴らを捕らえよ!」
ハイエルフの1人の命令を聞いて……やる気満々で、って感じじゃないが、亜人たちのうち半分ほどが一斉にこっちに向かって来た。
鬼と、獣人系の妖怪、総勢9人……前衛系の面子だな。
「……すまない、あんたらに恨みはないが……」
「ご心配なく、あんたらが懸念しているようなことは起こらないからね」
鬼の中でも一番大柄な奴が、横に薙ぎ払う軌道で振るった金棒を、僕は片手で受け止める。
細腕の僕がそんな芸当をやってのけたのが驚きだったのか、全員の顔に驚愕が浮かぶも、それで動きを止める奴は1人もいなかった。なるほど、やはり場慣れはしてるようだな。
金棒を止めた僕に、地を這うように低空で、素早く飛びかかってくる『猫又』の女の子。
鳩尾にめり込むような軌道で拳を振るうものの……
――ぽすっ
「……にゃ!?」
その程度の威力では僕には効きません。
クリーンヒットのはずなのに、ろくにめり込みもしない、後退させることもできない、ってのは予想外だったらしい。
一応、それなりの威力ではあった。獣人みたいに、身体能力がもともと高いんだろうな。下手な鎧なら、装備していても衝撃が貫通して気絶させられそうなくらいではあった。
でも、僕にとっては、ねこパンチ程度のもん……あ、コレでも実際ねこパンチだな。猫又だし。
コレがエレノアさんだったら、同じねこパンチでも、僕の胸には風穴があくか、周りの肉ごと跡形もなく消し飛ばされるか……最低でも肋骨全損くらいにはなってただろうけど、この程度の威力じゃ赤くもならないね。
そこから素早く飛び退ろうとした猫又少女の腕をつかみ……すると、いつぞやのソニアみたいに、腕に絡みつくようにして関節技をかけて来た。
しかし、それも効かない。筋力が違いすぎて、技がかからない。
――バチィッ!
「に゛ゃッ!?」
そしてそのまま、僕が腕から放電したことで、ショックにより気絶、と。
あの時はソニアは気絶せず反撃してきたけど……まあ、普通こうなるよなあ。
「おめーが普通を語ると違和感しかねーな」
「あり、声出てました?」
そういう師匠は、自分の方に向かって来た鬼×2と狐×1を、これまたあっという間に無力化していた。
その手には、また新しい武器が……え、ヨーヨー?
「おめーがこないだ作ってた玩具を参考にして作ってみた。割と使い勝手いいなコレ、勝手に戻ってくるし、先端を重くしとけば十分武器になる。電撃とか流してもいいしな」
師匠は両手にヨーヨーを1つずつ着けて、片方を伸び縮みさせてひゅんひゅん回して風切り音を立て、もう片方の紐の部分で鬼たちを拘束していた。
なお、振り回している方は先端が見えないほど速い。……鎖鎌や鞭みたいに使いこなすな。
「はあ……ちなみに素材とか何使ってんですか?」
「組成式は面倒だから省くが、主に魔力伝導性の高い超硬合金だな。先端の重り部分には、魔力加重合金を使ってる」
魔力加重合金……ああ、あの、魔力を込めると重量が増す、質量保存の法則無視した面白物質。
僕もそれでできてる鉄球を武器として持ってる。最近使ってないけど。
「そんなもん超高速でぶつけたら巨人でも死にますよ……殺してませんよね?」
さっきは気づかなかったけど、師匠の向こう側に見える壁に、鬼が1人めり込んでんだけど。
「加減はしたよ。ま、骨は折れてるかもだが、死にゃしてねーさ……この角の生えてる連中、随分と頑丈みてーだしな。『オーガ』の類型の魔物か何かか?」
「どうですかねえ……調べれば何かわかるかもしれないですけど、さっきミナトから聞いた感じだと、彼ら彼女らもどっちかっていうとあいつらの被害者的な立場っぽいですし……」
そんなことを言うミシェル兄さんは、奴隷たちを近づかせることすらせず無力化していた。
床から出現させた無数のスケルトンをまとわりつかせ、物理的に動けなくさせたところで、『サイコゴースト』に体力を吸い取らせて動く力そのものを奪うという、見た目的にも恐怖なコンボで。
なお、『サイコゴースト』は高位のアンデッドであり、『ゴースト』等と同じく実体を持たないタイプの魔物だ。ランクはAA。強力な呪いを使いこなし、精神力の弱い者は、その姿を見たり、声を聴いただけで動けなくなるとまで言われている。
「ひぃいいっ!? た、助け……」
「ば、バカな、は、反魂の術!? そんな、こんな術を使える者が……」
「い、命だけは……」
「……仕方ないっちゃそうだけど、相当怖がられてるねえ……まあ、今更か」
「大人しくしとけば何もしない、って言っても信じなそうだな……つか、『ハンゴン』の術、って何だ? ネクロマンシーのこと、こっちじゃそう呼ぶのか?」
「確か、死者の亡骸やら霊魂を使う禁忌の術の総称……だったような気がしますね。大陸でもそうでしたけど、こっちでもそれ系は忌避されてるっぽいです」
「ふーん、ありがとミナト。まあ、それも含めて今更……おっと」
話の途中で、突如として飛んできた『ファイアーボール』を、ミシェル兄さんが『サイコゴースト』に命じて障壁を発生させて防がせた。
同時に何発も飛んできてたけど、それら全部。
おいおい、完全に『奴隷』の連中を巻き込むコースと威力で飛んで来たぞ? 今のは……
「ちぃっ、役に立たん奴隷どもめ!」
「それに侵入者共もだ、我らの裁きの鉄槌を防ぐとは、生意気な!」
やっぱこいつらか。
相変わらず同族以外を見下して、巻き添えにすることにも何のためらいもない連中だ……
「おい! さっさと立ってそいつらを拘束しろ! 我々が高位魔法を使うまでの時間を稼げ!」
「さっさとしろ! 貴様……いうことを聞かなければ、仲間がどうなるかわからんぞ!」
そう怒鳴られて、残る面子がそれぞれ武器やら何やらを構えたり、拘束されてる者達も、どうにか抜け出そうと身をよじる。その顔に一様に、悔しそうな、あるいは焦ったような表情を張り付けて。
なるほどね……下の階でサクヤさんに聞いた通りだ。人質とられて従わされてるっぽいな。
そして、拘束したらしたで、もろともにその『高位魔法』とやらで吹っ飛ばすつもりなんだろうけどね、あいつらは……。
「おい『コロポックル』共! お前たちもさっさと働け! 呪術で奴らの動きを止めろ!」
「さ、さっきからやってるわよ! でも、全然聞かないの……格が違いすぎて、無力化されてる!」
あ、やっぱり『コロポックル』だったんだ?
僕らに魔法か何か使って、動きを止めようと小細工してたようだけど、効いてないのでどうしたらいいかわからなくてパニクってるな。
「もっと魔力を込めるなりして何とかしろ! この城が滅ぼされれば、困るのは貴様らだろうが! ここ以外に貴様らが生きていく場所があると思うのか!?」
「それは……っ……!」
……今の会話の意味が少々気になったけれども……後で調べればいいか。
「で、でも、こんな……ひゃあっ!?」
「何っ!?」
その瞬間、師匠がヨーヨーで『コロポックル』を4人まとめて絡めとり、手元に引き寄せて回収してしまっていた。
反対側では、残る奴隷たちをミシェル兄さんが、同じくスケルトンを使った人海戦術というか、数の暴力で押さえつけて(物理的に)無力化。力を吸い取っている最中である。
奴隷のうちの最後の1人、金棒を振り下ろしながら突っ込んできた鬼――最初に攻撃してきた奴だ――は、僕が裏拳で金棒を粉砕し、そのまま懐に踏み込んで、胸にぽんと手を当てる。
そして『アノキャリボール』を発動。赤黒い電撃が迸り、全身から酸素を奪って気絶させた。
その巨体が倒れるより先に、僕はその横をすり抜けるようにして前に飛び出し……迫ってきていたハイエルフの魔法攻撃(巻き添え前提)を拳で消し飛ばしながら接敵。
受けに徹し、最初の位置から動いていなかった僕が、突如として突っ込んできたことに虚を突かれた様子だった1人を、まずぶっ飛ばす。
殺さないように……顔面粉砕骨折くらいにとどめて、壁まで殴り飛ばした。
自分で言うのもなんだが、手加減が難しい。敵対しているハイエルフってだけで、苛立ちで攻撃力が上がっちゃうんだよね……。
「……アレならひと思いに殺された方が楽だと思うがな」
「うわあ、歯とか全部折れてるね」
まあ、慈悲とか仏心で助けたわけじゃないからね。
あくまでも、ロクスケさん達が処刑する用ってだけだ。彼らが司法機関を担っている以上、形式上だけでも花を持たせた方が、今後のためにはいいかもしれない……って、オリビアちゃんが言ってた。
ハイエルフ関連でキレてる僕らを止めることは無理そうだからって、ロクスケさん達にあらかしめ話つけてくれたんだよね。マジ助かる。今度何かお礼しよう。
なお、もし処刑されなかった場合は、護送中や服役中に原因不明の死が訪れるかもしれない。
……こないだ、死体から成分が検出されない、遅効性の毒作ったんだよね。理由は特にない。
繰り返すが、ハイエルフの中でも、差別意識に凝り固まった奴に仏心をかけて逃がしても、絶対にいいことにはならない。僕も師匠も、それを経験則で知ってる。
例外的に、良識を持ってるハイエルフもいるけど、これからこいつらがそうなる可能性は限りなくゼロだからな。そうなるまでに起こすであろう面倒の方が問題なので、さっくり処分すべきだ。
そんなわけで、『今は』殺さないように順次無力化する。
ただし、あんまり抵抗したり、この期に及んで悪辣なことをするようなら例外もある。
「う、動くな! この娘がどうなってもいいのか!」
こんな風にね。
2人目、3人目のハイエルフを殴り倒しながら、ちらっとそっちを見ると、ハイエルフの1人が、1人の少女の首もとに剣を突き付けて、こちらに見えるようにしていた。
ド定番の人質である。予想通り過ぎてリアクションも湧いてこない。
そして、人質にしているその女の子なんだが……
「こ、この娘の命が惜しければ、大人しくバギャ!?」
「あー、やっと出番来たー。全く、予想通りにしか動かないわねこいつら、ホントに」
そして、速攻それを返り討ちにする少女……もとい、リュドネラin『バルゴ』。
この城に踏み込む大義名分にするために、あえて捕まった偽物の体を操縦し、リュドネラもそこから戦闘に加わった。
無力な少女のような装いが、一瞬でバトルドレスとガンソードを装備し完全武装になった。
うん、似合う。
さて、そんじゃもうそろそろ……終わりにしますかね。
人質もいなくなり、奴隷達も無力化され(ミシェル兄さんが部屋の真ん中にひと固まりにして拘束してます)、身一つで戦うしかなくなったハイエルフ達。
それでもなお、罵詈雑言を口から吐き出すことをやめず、こっちを見下した姿勢を崩さないのは……手加減なしで魔法を放つなりなんなりすれば、勝てるとでも思ってるからだろうか?
相変わらず、力は強いのに頭と思想、そして思考が残念な連中だ。自分達に都合のいいように物事が運ぶ、という発想しかできないってのは……迷惑以前に、あまりに生存に適さない思考だよな。力が伴ってなかったら、とっくに絶滅してたんじゃないか? アルマンド大陸でも。
いや、なまじ力があったからこうなったのか……その辺はニワトリタマゴだな。
戦闘能力をもうちょっとそっちの方に振り分けてたら、自分の『分』ってもんをちょっとは理解して、節度ある生活って奴ができてたんじゃないかね……逆に想像しづらいけども。
いまさらそんなこと考えても仕方ないし……さっさと終わらせよう。
諸事情で、ちょっとこの城が気になりだした部分もあるので、あまり破壊されるのも困るし。
コレが終わったら一眠りして……その後は……
(ハイエルフの中でも偉そうな奴を1人か2人選んで、尋問だな。色々と聞きたいことがあるし。それに……カグヤさんにも、色々と事情を聞かないと)
僕の予想が正しければ……そこまで急を要する事態ではないとは思うけど、急いだ方がいいのは確かだからな。
時刻は午前2時から3時の間くらい(だと思う)。色々あったし、いい加減眠くなってきた。
5分後。無事に全ハイエルフを沈黙させた。
八つ当たりもかねて、主に拳その他、物理的な手段で。
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