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第20章 双月の霊廟
第447話 息つく暇もなく
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どうも。長いことお休みをいただいておりました。
これから少しずつペース戻して投稿していきたいと思います。
どうぞまたこの拙作をよろしくお願いします。
***************
「アルマンド大陸よ、僕は帰ってきた!」
「……相も変わらずわけのわからないことをあんたは……」
うん、ごめん、テンション上がって変な感じになってるのは認める。
でもなんか、言わずにはいられなかったって言うかねー……いやーそれにしても、懐かしいな! 久しぶりの我が家! 『キャッツコロニー』!
留守番しててくれたターニャちゃんとコレット、それにアイドローネ姉さんに挨拶して……あとは、うん、ちょうどいい時間だからご飯にしてもらおう! 久しぶりの恐竜の肉! 楽しみ!
『ヤマト皇国』で食べる食事も美味しかったけど、あのパンチのきいた味が懐かしくというか、恋しくなってたところだったんだよね。
「……ま、気持ちはわからなくもないけどね……やっぱり自分達のホームが一番落ち着くな、ってのはあるし」
「それはそうですけど、約1名、全然落ち着けない人がまだいますから……そっちのケアもきちんとしないとダメですよ、ミナトさん?」
呆れ気味ながらも同意してくれたエルクに続く形で、ナナがそんなことを言ってくる。
ああ、うん、それはそうだね、わかってるわかってる。
ここに戻ってきて落ち着くのは、僕らがここでの暮らしに慣れてるからだもんね。
……ここに慣れてない、ましてや初めてくるような人の場合はというと……
「………………(ぽかーん)」
こんな風になるもんね。今のサクヤみたいな感じに。
☆☆☆
ちょっとここ数日の振り返りをしてみようか。状況の整理もかねて。
『ヤマト皇国』を出てから、僕らは確立した航路を使って……行きよりもそこそこ短い日程で、『アルマンド大陸』は『フロギュリア連邦』に帰ってきていた。
そこで、今回の依頼の大本である女王様に謁見し、どんな風に数か月を過ごしていたかを簡単に報告。同時に、オリビアちゃんとドナルドがそれぞれまとめていた、この数か月間の出来事や、『ヤマト皇国』を相手にした外交によって得た成果などをまとめた報告書を提出。
何分、数か月分の量だ。百科事典かコレは、ってくらいに膨大な量の書類束がいくつも積まれ、女王様1人が、すぐに目を通せるような量では確実にない。
それらのチェックは後日、外務部門から人を集め、それを専門にする部署を創設して行うらしい。
そのため、その謁見を持ってひとまず僕らの大仕事は……『ヤマト皇国』へ遠征し国交を結びに行く使節団の護衛、というクエストは、ようやく終了となったのである。
……で、その間ずっと……サクヤは、まあ見事なまでに驚きっぱなし、緊張しっぱなしだった。
まあ、当然だよね。彼女からすれば、今まで『ヤマト皇国』の中しか知らなかったところに……見たことも聞いたこともないものばかりを目にする世界に引っ張り込まれたんだから。
いや、解き放たれたって言った方が正確かな? より広い世界を見る機会を手にしたって意味で。
西洋式の軍艦に、それよりもさらに特殊な、海賊船モチーフの帆船(オルトヘイム号ね)。
その内部には、雑貨類や家具から建材・構造そのものに至るまで、無数のマジックアイテムが組み込まれ、それらによってこの上なく快適な空間が構築されている。……まずそれらの使い方とかを覚えるところから始めなきゃいけない大変さはあるけど。
その過程でサクヤには船の中を案内したけど……まあ、いちいち驚いてたな。見たことないものばかりだから仕方ないだろうけど。
快適すぎるくらいに便利づくしな生活スペース、
パッと見じゃ何ができるのか、何がどう凄いのかもわからないレベルのテクノロジーの数々……特に、メインコンピュータールームとか、オーバーテクノロジーが搭載されてるあたりが顕著。
さらには、船の中に作物やら何やらを栽培できるプラントがあったり、空間歪曲でどう考えても船の大きさに合ってないレベルの保管庫やら何やらが用意されていたり。
……ただ、サクヤは一応、『酒吞童子の乱』の時に、軍艦として運用したコレに乗ってるはずなんだけどな……いや、その時はあくまで移動手段として使ってたし、戦いの方に神経というか意識が言ってたから、こういうとこまで見てないし、見る余裕もなかったか。
あらためて、この船の乗組員の1人として、ゆとりを持って見て回った結果……逆に心にゆとりがなくなるような状態になっちゃったんだな。ある種の皮肉か。
そんな船での船旅をしばらく続けた後もまた、サクヤには驚きの連続だっただろうけどね。
フロギュリア連邦到着。初めて目にする異国の街並み。
謁見することとなった異国の貴人……まあ、フロギュリアの貴族とか女王様なわけだが。
故郷ではもちろん、僕らの船でも食べたことのなかった料理の数々でもてなされ、おっかなびっくり口に運んで味わっていた。
味付けは大分『ヤマト皇国』のそれとは違うけど、美味しいって言ってたな。よかった。
それからも、見るもの聞くこと、全てが初体験の連続の中で、驚きながらもどうにか咀嚼して知識と経験にしていたサクヤなわけだが……そうして鳴らしつつ来たとしてもなお、『キャッツコロニー』は刺激的どころじゃなかったようで。
まあ……大陸の中世的な世界観とも、ヤマト皇国の時代劇的な世界観とも思いっきり乖離してるからなあ、ここ。近現代どころか、近未来な要素すらあちこちに取り入れてるし。
それら全部、マジックアイテム技術によるなんちゃってだとしても、同じような機能を持っている分には、十分驚愕ものだろうしな。
まあ、さっきも言った通り、この症状は彼女に限らず、ここに来た人なら誰でも大なり小なり陥るものなので……うん、まあ、慣れてね。ちょっとずつでいいから。
設備の使い方とか、分かんなければ教えるから。ちゃんと。
「が、頑張ります……」
「うん、頑張って。あ、ギーナちゃん、よければさ……同じように、外から来てここに住み始めた経験を持つ立場で、色々アドバイスとかしてもらえる?」
「はい、お任せくださいミナト殿! ……と、言いたいところなのですが……」
と、なぜか歯切れが悪い感じの返事を返してくるギーナちゃん。え、どしたの?
「何か、都合でも悪かった?」
「悪い、と申しますか……先程私の部屋に戻った時なのですが、手紙が来ていまして……一度、本国へ帰還するようにという指示だったのです。超速達の『リビングメール』でしたので、恐らく、我々がフロギュリアに帰還したことを聞きつけて、本国のイーサ大将が出したものと」
聞けば、さっき部屋に戻って荷ほどきをしていた時、ちょうどのタイミングで部屋のベランダに1羽の鳥が降り立った。
それに気づいたギーナちゃんが窓を開けると、鳥は彼女の手の上にちょこんと乗って……次の瞬間、変身が解けて手紙に戻ったそうだ。赤い縁取りの便せん……僕の発明品である、『リビングメール』に。
伝えたい内容を書き記した後、決まったやり方で魔力を込めると、鳥に変身して超音速で飛び、自分で自分を届ける便せん。仲のいい何人かに、連絡用として渡しているものだ。どうやら今回のそれは、ネスティア王国軍の大将……イーサさんから届けられたみたいだな。
しかも、帰還命令か……急だな。何かあったんだろうか?
「そういうわけですので、しばしの間お休みをいただきたいのですが……よろしいでしょうか」
「そりゃもちろんいいよ。仕事だもんね……仕方ない。準備ができたら、こっちで乗り物を用意して送るから言ってね」
「ありがとうございます。サクヤ殿へのご指導は、申し訳ありませんが、ひとまずは皆さんで、ということでお願いします」
「りょーかい。お仕事頑張ってね」
そんな感じで、ギーナちゃんは帰還早々、ネスティアに一時帰国することになっちゃったけど……その他のメンバーは、荷解きをしてしばらくぶりの『キャッツコロニー』を満喫している。
オーバーテクノロジーだらけの人街魔境でも、れっきとしたホームだからね、僕らにとっては。
遠征任務には持っていけなかった嗜好品……お酒とかスイーツとかを楽しんだり、
買い込んで持ち帰った土産物、ないし娯楽品の整理をしたり、
ああもちろん、仕事関係でやることが多い人もいるけどね……ここを開けてた間に入ってきていた情報の整理とか、遠征任務を通してのお金の動きをまとめた帳簿の作成とか。
それに、留守にしてた間に冒険者ギルドから持ち込まれていた仕事その他の確認とかも、かな。
実際僕はそうしてるしね。秘書であるナナと一緒に、部屋で、アイドローネ姉さんとセレナ義姉さんの2人を交えて、ここ最近のギルドからの書類をチェックさせてもらってる。
「超長期のクエストに出てるって言って、大体の指名以来とかは断ってるけど……戻り次第取り組んでもらいたい、っていう依頼が何件か来てる。あとは、単純に難易度の関係でお呼びがかかった依頼……これも何件か」
そう言って、相変わらず眠そうな目で、しかしきちんと整理された書類を並べて見せてくれるアイドローネ姉さん。相変わらず仕事はばっちりできる人なんだよな。
……僕らが留守の間は、さぞかし有意義な食っちゃ寝ライフを送ってたことだろう。ギルドの仕事を除けば、身の回りのことは全部メイドロボ達がしてくれるこの箱庭で。
まあ、それはもう姉さんの個性みたいなもんだからいいとして……ふむ、色々あるな。
超のつく大仕事の後だし、しばらくはゆっくりさせてもらおうかな、と思ってたんだけどな……ごく一部だけど、まあまあ興味をそそられる依頼もあるじゃないか。
「火山地帯での希少鉱石の採取……主要漁場の周辺海域に住み着いたと思しき魔物の討伐……『トロイアゴールド』1kgの納品……最後のはただの発注だろコレ。うちの庭に自生してるの知ってて……まあでも、他は割と面白そうだな。休み明けに受ける候補にはしとこうかな」
「普通の人からしたら、どれもこれも『死んで来い』って言われてるのと同義の依頼ですけどね」
「火山地帯は有毒ガスや溶岩の噴出が頻繁に発生したりする上、狂暴で危険な魔物があちこちに出る危険区域。そんな場所の深部に見つかった鉱脈から一定量の鉱石を採取……漁場周辺に住み着いた魔物ってコレ、要するに海で戦えってことよね? しかも結構な沖合で、さらにはこの特徴……龍族じゃない?」
「片や戦闘能力とは無縁なところまで危険極まりない採取依頼。片や強力な魔物を相手のホームグラウンドで狩猟……なるほどね、長期間不在にしても残ってるわけだ。こんなんSランクでも受ける奴いるかどうか」
「ミナトさんならさほど苦労もなく片づけちゃえそうですけどね……」
「……Sランクで思い出した。近々正式に話が来ると思うけど……内々に、シェリーにランクアップの話が来てる」
「え、ホントに?」
と、ふいにアイドローネ姉さんからもたらされた情報に、僕のみならず、ナナ、そして義姉さんの視線もアイドローネ姉さんに集中する。
マジか……シェリーにランクアップの話が。
シェリーって今、AAAランクだから……とうとうSランクか! すごいじゃん! 早く本人に教えてあげたいな。
「他のメンバーにもそういう話は検討されてるみたい。近々動きがあるかも」
「そっか……まあ、今回の仕事が相当大きいそれだったし、リターンも大きかったってことかね? なら、鉄は熱いうちに的な感じで、いくつか依頼受けて点数稼いでみるのもありかな?」
「今言った中の1つでもこなせば十分な気もするけどね……これから私も、『ヤマト皇国』でのこと報告書にして出すし、その分も多分加点されるわよ」
ふむ、なるほど。
そうなったとして……みんなのランクはどうなるやら。
今の冒険者ランクって……僕がSSで、シェリーがAAA、エルクがA、ザリーがAAだっけな。その他のメンバーは、チームには入ってるけど、冒険者資格は取ってないんだよね。なので、ランクはついてない。
これが、カンストしてる扱いの僕以外がまた1つ上がるとすると……シェリーがさっき言った通りSランク、ザリーがAAAで、エルクがAAか……豪華な構成になったもんだな。1つのチームに、SSが1人とSが1人とは。
その他のメンバーも、恐らくAA相当より下はいない面々が揃ってるし。というかエルクも、装備とか揃えれば、もう実力派AAどころじゃないと思うな。
けどまあいずれにせよ、しばらくはゆっくり休みたいかな。特に疲れてダメってわけじゃないけど……大仕事が終わったところだし、のんびりしてもバチはあたんないでしょ。
今すでに出てる大仕事は……悪いけど、さっきも言ったように、少し休んでからってことで。
「休むって言いつつ……あんたが欲しいのは、『ヤマト』から持ち帰った各種素材や研究資料の整理ないし研究のための時間でしょうが」
「まあ、それは否定しない」
義姉さんの指摘には、誤魔化す気もなければ意味もないので、しれっとそう返しておく。
はい、その通り、そのための時間も欲しいです。なのでしばらく休みます。
『妖怪』の素材各種に、『陰陽術』の資料……向こうでまとめておいた研究論文……あとは、『酒吞童子の乱』での戦利品や、タマモさんからもらった報酬的な奴、その他諸々……ああ、あと、手に入るもの片っ端から買っておいた、あっちでしかとれない作物とかの種なんかもだな。品種改良してこっちでも問題なく育つようにして……普段から食べたい。
シェーンに和食覚えてもらったし、ノウハウを知ってるサクヤもいるし……ふふふ。
オルトヘイム号の『ラボ』じゃあ設備の関係上限界があったからね。こうして拠点に帰ってきた今、ようやく思う存分研究に取りかかれるってなもんだよ。
「そんなわけでアイドローネ姉さん、後で、ギルド本部の方に連絡とってくれる? 今回まあ、超長期の依頼が終わったところってことで、ここからどのくらい休めるか確認しといてほしい。ガッツリ腰入れて研究に取り組みたいから」
「わかった、確認してみる」
「よろしく」
気分は大仕事を終えて長期休暇をもらうサラリーマン、ってとこだろうか。思う存分趣味に走らせていただきます。
さー、これから忙しくなるぞー! 頼むから、こんなタイミングでどっかから厄介事とかハプニング的なもん、出てきてくれるなよ……?
『ミナトの兄貴、俺っす! ビートっす! すいやせん、今少々よろしいでしょうか……マーブロの奴から連絡が入って……ちっと厄介なことになってるみたいでして』
……フラグ、だったんだろうか?
これから少しずつペース戻して投稿していきたいと思います。
どうぞまたこの拙作をよろしくお願いします。
***************
「アルマンド大陸よ、僕は帰ってきた!」
「……相も変わらずわけのわからないことをあんたは……」
うん、ごめん、テンション上がって変な感じになってるのは認める。
でもなんか、言わずにはいられなかったって言うかねー……いやーそれにしても、懐かしいな! 久しぶりの我が家! 『キャッツコロニー』!
留守番しててくれたターニャちゃんとコレット、それにアイドローネ姉さんに挨拶して……あとは、うん、ちょうどいい時間だからご飯にしてもらおう! 久しぶりの恐竜の肉! 楽しみ!
『ヤマト皇国』で食べる食事も美味しかったけど、あのパンチのきいた味が懐かしくというか、恋しくなってたところだったんだよね。
「……ま、気持ちはわからなくもないけどね……やっぱり自分達のホームが一番落ち着くな、ってのはあるし」
「それはそうですけど、約1名、全然落ち着けない人がまだいますから……そっちのケアもきちんとしないとダメですよ、ミナトさん?」
呆れ気味ながらも同意してくれたエルクに続く形で、ナナがそんなことを言ってくる。
ああ、うん、それはそうだね、わかってるわかってる。
ここに戻ってきて落ち着くのは、僕らがここでの暮らしに慣れてるからだもんね。
……ここに慣れてない、ましてや初めてくるような人の場合はというと……
「………………(ぽかーん)」
こんな風になるもんね。今のサクヤみたいな感じに。
☆☆☆
ちょっとここ数日の振り返りをしてみようか。状況の整理もかねて。
『ヤマト皇国』を出てから、僕らは確立した航路を使って……行きよりもそこそこ短い日程で、『アルマンド大陸』は『フロギュリア連邦』に帰ってきていた。
そこで、今回の依頼の大本である女王様に謁見し、どんな風に数か月を過ごしていたかを簡単に報告。同時に、オリビアちゃんとドナルドがそれぞれまとめていた、この数か月間の出来事や、『ヤマト皇国』を相手にした外交によって得た成果などをまとめた報告書を提出。
何分、数か月分の量だ。百科事典かコレは、ってくらいに膨大な量の書類束がいくつも積まれ、女王様1人が、すぐに目を通せるような量では確実にない。
それらのチェックは後日、外務部門から人を集め、それを専門にする部署を創設して行うらしい。
そのため、その謁見を持ってひとまず僕らの大仕事は……『ヤマト皇国』へ遠征し国交を結びに行く使節団の護衛、というクエストは、ようやく終了となったのである。
……で、その間ずっと……サクヤは、まあ見事なまでに驚きっぱなし、緊張しっぱなしだった。
まあ、当然だよね。彼女からすれば、今まで『ヤマト皇国』の中しか知らなかったところに……見たことも聞いたこともないものばかりを目にする世界に引っ張り込まれたんだから。
いや、解き放たれたって言った方が正確かな? より広い世界を見る機会を手にしたって意味で。
西洋式の軍艦に、それよりもさらに特殊な、海賊船モチーフの帆船(オルトヘイム号ね)。
その内部には、雑貨類や家具から建材・構造そのものに至るまで、無数のマジックアイテムが組み込まれ、それらによってこの上なく快適な空間が構築されている。……まずそれらの使い方とかを覚えるところから始めなきゃいけない大変さはあるけど。
その過程でサクヤには船の中を案内したけど……まあ、いちいち驚いてたな。見たことないものばかりだから仕方ないだろうけど。
快適すぎるくらいに便利づくしな生活スペース、
パッと見じゃ何ができるのか、何がどう凄いのかもわからないレベルのテクノロジーの数々……特に、メインコンピュータールームとか、オーバーテクノロジーが搭載されてるあたりが顕著。
さらには、船の中に作物やら何やらを栽培できるプラントがあったり、空間歪曲でどう考えても船の大きさに合ってないレベルの保管庫やら何やらが用意されていたり。
……ただ、サクヤは一応、『酒吞童子の乱』の時に、軍艦として運用したコレに乗ってるはずなんだけどな……いや、その時はあくまで移動手段として使ってたし、戦いの方に神経というか意識が言ってたから、こういうとこまで見てないし、見る余裕もなかったか。
あらためて、この船の乗組員の1人として、ゆとりを持って見て回った結果……逆に心にゆとりがなくなるような状態になっちゃったんだな。ある種の皮肉か。
そんな船での船旅をしばらく続けた後もまた、サクヤには驚きの連続だっただろうけどね。
フロギュリア連邦到着。初めて目にする異国の街並み。
謁見することとなった異国の貴人……まあ、フロギュリアの貴族とか女王様なわけだが。
故郷ではもちろん、僕らの船でも食べたことのなかった料理の数々でもてなされ、おっかなびっくり口に運んで味わっていた。
味付けは大分『ヤマト皇国』のそれとは違うけど、美味しいって言ってたな。よかった。
それからも、見るもの聞くこと、全てが初体験の連続の中で、驚きながらもどうにか咀嚼して知識と経験にしていたサクヤなわけだが……そうして鳴らしつつ来たとしてもなお、『キャッツコロニー』は刺激的どころじゃなかったようで。
まあ……大陸の中世的な世界観とも、ヤマト皇国の時代劇的な世界観とも思いっきり乖離してるからなあ、ここ。近現代どころか、近未来な要素すらあちこちに取り入れてるし。
それら全部、マジックアイテム技術によるなんちゃってだとしても、同じような機能を持っている分には、十分驚愕ものだろうしな。
まあ、さっきも言った通り、この症状は彼女に限らず、ここに来た人なら誰でも大なり小なり陥るものなので……うん、まあ、慣れてね。ちょっとずつでいいから。
設備の使い方とか、分かんなければ教えるから。ちゃんと。
「が、頑張ります……」
「うん、頑張って。あ、ギーナちゃん、よければさ……同じように、外から来てここに住み始めた経験を持つ立場で、色々アドバイスとかしてもらえる?」
「はい、お任せくださいミナト殿! ……と、言いたいところなのですが……」
と、なぜか歯切れが悪い感じの返事を返してくるギーナちゃん。え、どしたの?
「何か、都合でも悪かった?」
「悪い、と申しますか……先程私の部屋に戻った時なのですが、手紙が来ていまして……一度、本国へ帰還するようにという指示だったのです。超速達の『リビングメール』でしたので、恐らく、我々がフロギュリアに帰還したことを聞きつけて、本国のイーサ大将が出したものと」
聞けば、さっき部屋に戻って荷ほどきをしていた時、ちょうどのタイミングで部屋のベランダに1羽の鳥が降り立った。
それに気づいたギーナちゃんが窓を開けると、鳥は彼女の手の上にちょこんと乗って……次の瞬間、変身が解けて手紙に戻ったそうだ。赤い縁取りの便せん……僕の発明品である、『リビングメール』に。
伝えたい内容を書き記した後、決まったやり方で魔力を込めると、鳥に変身して超音速で飛び、自分で自分を届ける便せん。仲のいい何人かに、連絡用として渡しているものだ。どうやら今回のそれは、ネスティア王国軍の大将……イーサさんから届けられたみたいだな。
しかも、帰還命令か……急だな。何かあったんだろうか?
「そういうわけですので、しばしの間お休みをいただきたいのですが……よろしいでしょうか」
「そりゃもちろんいいよ。仕事だもんね……仕方ない。準備ができたら、こっちで乗り物を用意して送るから言ってね」
「ありがとうございます。サクヤ殿へのご指導は、申し訳ありませんが、ひとまずは皆さんで、ということでお願いします」
「りょーかい。お仕事頑張ってね」
そんな感じで、ギーナちゃんは帰還早々、ネスティアに一時帰国することになっちゃったけど……その他のメンバーは、荷解きをしてしばらくぶりの『キャッツコロニー』を満喫している。
オーバーテクノロジーだらけの人街魔境でも、れっきとしたホームだからね、僕らにとっては。
遠征任務には持っていけなかった嗜好品……お酒とかスイーツとかを楽しんだり、
買い込んで持ち帰った土産物、ないし娯楽品の整理をしたり、
ああもちろん、仕事関係でやることが多い人もいるけどね……ここを開けてた間に入ってきていた情報の整理とか、遠征任務を通してのお金の動きをまとめた帳簿の作成とか。
それに、留守にしてた間に冒険者ギルドから持ち込まれていた仕事その他の確認とかも、かな。
実際僕はそうしてるしね。秘書であるナナと一緒に、部屋で、アイドローネ姉さんとセレナ義姉さんの2人を交えて、ここ最近のギルドからの書類をチェックさせてもらってる。
「超長期のクエストに出てるって言って、大体の指名以来とかは断ってるけど……戻り次第取り組んでもらいたい、っていう依頼が何件か来てる。あとは、単純に難易度の関係でお呼びがかかった依頼……これも何件か」
そう言って、相変わらず眠そうな目で、しかしきちんと整理された書類を並べて見せてくれるアイドローネ姉さん。相変わらず仕事はばっちりできる人なんだよな。
……僕らが留守の間は、さぞかし有意義な食っちゃ寝ライフを送ってたことだろう。ギルドの仕事を除けば、身の回りのことは全部メイドロボ達がしてくれるこの箱庭で。
まあ、それはもう姉さんの個性みたいなもんだからいいとして……ふむ、色々あるな。
超のつく大仕事の後だし、しばらくはゆっくりさせてもらおうかな、と思ってたんだけどな……ごく一部だけど、まあまあ興味をそそられる依頼もあるじゃないか。
「火山地帯での希少鉱石の採取……主要漁場の周辺海域に住み着いたと思しき魔物の討伐……『トロイアゴールド』1kgの納品……最後のはただの発注だろコレ。うちの庭に自生してるの知ってて……まあでも、他は割と面白そうだな。休み明けに受ける候補にはしとこうかな」
「普通の人からしたら、どれもこれも『死んで来い』って言われてるのと同義の依頼ですけどね」
「火山地帯は有毒ガスや溶岩の噴出が頻繁に発生したりする上、狂暴で危険な魔物があちこちに出る危険区域。そんな場所の深部に見つかった鉱脈から一定量の鉱石を採取……漁場周辺に住み着いた魔物ってコレ、要するに海で戦えってことよね? しかも結構な沖合で、さらにはこの特徴……龍族じゃない?」
「片や戦闘能力とは無縁なところまで危険極まりない採取依頼。片や強力な魔物を相手のホームグラウンドで狩猟……なるほどね、長期間不在にしても残ってるわけだ。こんなんSランクでも受ける奴いるかどうか」
「ミナトさんならさほど苦労もなく片づけちゃえそうですけどね……」
「……Sランクで思い出した。近々正式に話が来ると思うけど……内々に、シェリーにランクアップの話が来てる」
「え、ホントに?」
と、ふいにアイドローネ姉さんからもたらされた情報に、僕のみならず、ナナ、そして義姉さんの視線もアイドローネ姉さんに集中する。
マジか……シェリーにランクアップの話が。
シェリーって今、AAAランクだから……とうとうSランクか! すごいじゃん! 早く本人に教えてあげたいな。
「他のメンバーにもそういう話は検討されてるみたい。近々動きがあるかも」
「そっか……まあ、今回の仕事が相当大きいそれだったし、リターンも大きかったってことかね? なら、鉄は熱いうちに的な感じで、いくつか依頼受けて点数稼いでみるのもありかな?」
「今言った中の1つでもこなせば十分な気もするけどね……これから私も、『ヤマト皇国』でのこと報告書にして出すし、その分も多分加点されるわよ」
ふむ、なるほど。
そうなったとして……みんなのランクはどうなるやら。
今の冒険者ランクって……僕がSSで、シェリーがAAA、エルクがA、ザリーがAAだっけな。その他のメンバーは、チームには入ってるけど、冒険者資格は取ってないんだよね。なので、ランクはついてない。
これが、カンストしてる扱いの僕以外がまた1つ上がるとすると……シェリーがさっき言った通りSランク、ザリーがAAAで、エルクがAAか……豪華な構成になったもんだな。1つのチームに、SSが1人とSが1人とは。
その他のメンバーも、恐らくAA相当より下はいない面々が揃ってるし。というかエルクも、装備とか揃えれば、もう実力派AAどころじゃないと思うな。
けどまあいずれにせよ、しばらくはゆっくり休みたいかな。特に疲れてダメってわけじゃないけど……大仕事が終わったところだし、のんびりしてもバチはあたんないでしょ。
今すでに出てる大仕事は……悪いけど、さっきも言ったように、少し休んでからってことで。
「休むって言いつつ……あんたが欲しいのは、『ヤマト』から持ち帰った各種素材や研究資料の整理ないし研究のための時間でしょうが」
「まあ、それは否定しない」
義姉さんの指摘には、誤魔化す気もなければ意味もないので、しれっとそう返しておく。
はい、その通り、そのための時間も欲しいです。なのでしばらく休みます。
『妖怪』の素材各種に、『陰陽術』の資料……向こうでまとめておいた研究論文……あとは、『酒吞童子の乱』での戦利品や、タマモさんからもらった報酬的な奴、その他諸々……ああ、あと、手に入るもの片っ端から買っておいた、あっちでしかとれない作物とかの種なんかもだな。品種改良してこっちでも問題なく育つようにして……普段から食べたい。
シェーンに和食覚えてもらったし、ノウハウを知ってるサクヤもいるし……ふふふ。
オルトヘイム号の『ラボ』じゃあ設備の関係上限界があったからね。こうして拠点に帰ってきた今、ようやく思う存分研究に取りかかれるってなもんだよ。
「そんなわけでアイドローネ姉さん、後で、ギルド本部の方に連絡とってくれる? 今回まあ、超長期の依頼が終わったところってことで、ここからどのくらい休めるか確認しといてほしい。ガッツリ腰入れて研究に取り組みたいから」
「わかった、確認してみる」
「よろしく」
気分は大仕事を終えて長期休暇をもらうサラリーマン、ってとこだろうか。思う存分趣味に走らせていただきます。
さー、これから忙しくなるぞー! 頼むから、こんなタイミングでどっかから厄介事とかハプニング的なもん、出てきてくれるなよ……?
『ミナトの兄貴、俺っす! ビートっす! すいやせん、今少々よろしいでしょうか……マーブロの奴から連絡が入って……ちっと厄介なことになってるみたいでして』
……フラグ、だったんだろうか?
0
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