魔拳のデイドリーマー

osho

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第15章 極圏の金字塔

第270話 人を見た目で判断しちゃいけません

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現地でとった宿は、セキュリティその他を考えて、オリビアちゃんに紹介してもらった一番いいところにした。
例によって、鬱陶しい野次馬その他をシャットアウトしてもらうためである。

そしたら、どうやら件の『雷光』さんも同じことを考えていたようで、そこに宿を取っていて……夕食の時に一緒になった。向こうもちょっとびっくりしてたな。

その時、お互いにチームの自己紹介をすませた。
クレヴィアさんのチーム『籠のカナリア』は、彼女を入れて全部で5人。うち一人は、召喚術使いの男性で……こないだ、川岸で見かけたあの人だった。名前は、ヴォルフ。

残る3人は、当然ながら初顔合わせで……ああいや、厳密に言えば昼間にギルドでパッと見てはいるか。

色黒でがっしりした体格の男性に、軽装のダークエルフの女性、そして魔法使い風の獣人の少女の3人だ。どうやらそれぞれ、前衛、中衛、後衛の役割らしい。

ダークエルフの女性は、品定め、というよりは、ちょっと警戒するような目でこっちを見てたけど……シェリーを見て、その後二度見してびっくりしてたように見えた。
ひょっとして……彼女が『ネガエルフ』だってことに気づいたかな?

人間じゃぱっと見で気づけないような違いにも、同じような種族の人なら気づけるって話をよく聞く。獣人が、犬の獣人と狼の獣人を見分けたりとか。
彼女がどっちなのかはわからないけど、その可能性は高いだろう。多分。

印象は三者三様違えど、そんなに話しづらい相手ってわけでもなかったので、世間話なんかしつつ料理を楽しむ。

そんでその料理だけど……今回の『防衛クエスト』の標的である魔物の肉が大量に入荷して……大量すぎて値崩れしてて、安く食べられる状態だった。
なんと、銀貨2枚で食べ放題である。すごいな。

そしてそこで食べれたのは、オリビアちゃんからも聞いてた『ブルーベルーガ』の分厚いステーキだったんだけど……なんというか、豚肉と牛肉の中間、って感じの味。

肉厚でうまみたっぷりな上、脂はしつこくなくてサラッとしてて、のど越しも滑らか。肉の味ががっつりと感じられて、付け合わせのパンにもよく合う一品。
さらに、その肉を使ったシチューや、肉汁を使って作ったドレッシングがかかっているサラダなんかもあって、こちらも絶品。

『シィルセウス』でも思ったことだけど、全体的に味付けの濃い感じで美味しかったので、思わず目いっぱい食べてしまった。

ただ、さすがに数十人分を1人で、一気に食べる客は珍しかったんだろう……一緒に食べてたクレヴィアさんたちや、お店の人たちも皆唖然としてたな。

別に気にしないけど……さすがに食べすぎたかもしれないので、お代は余分に払っておいた。

なんか横目で見てた感じ、僕がそう、ちょうど食欲に火がついたあたりから、満員の客がいるみたいに店員さんたちが大忙しになってたので、その分の手間賃? も込みで。

☆☆☆

事態が動き出したのは、翌日のことだった。

僕らがレストランで朝食を食べていたところに……突如として町全体に響き渡った、カンカンカンカン……という、甲高い鐘の音。
聞けばこれは、件の討伐対象の魔物が攻めてきたことを知らせる合図なんだそう。

おや仕事か、と思って、一気に食事を掻っ込んで平らげた僕らは、食堂から出ようとしたところで、クレヴィアさんたち率いる『籠のカナリア』の皆さんとも合流。
これからバトルとあって、皆さん昨日はなかった装備に身を包んでいた。

クレヴィアさんとヴォルフさんの装備は前に見たことあるけど……残る3人、色黒のザードさん、ダークエルフのレムさん、獣人の二コラさんは初だな。あ、でも二コラさんは昨日とほぼ同じだ……外套来てるくらいか。

で、ザードさんは重厚な鎧に、大きな盾と斧。典型的なタンカーって感じだ。
レムさんは……弓使いだったか。軽装も立ち回りをしやすくするためらしい……ただ、さすがに防寒装備で多少厚着になってるけど。

で、その皆さんと、この鐘が鳴った際の集合場所であるギルドに向かいつつ……クレヴィアさんが教えてくれた話なんだけども、

「え、手加減?」

「ああ。まあ、暗黙のルール、みたいなものなんだが……」

聞けば、相手にもよるらしいんだけど……僕らみたいな高ランクの連中は、BとかA程度の魔物であればさして苦労もなく瞬殺できることがほとんど。

しかし、こういう場でそういう高ランクが思うように戦って狩りまくると、その他の……言ってしまえば『低ランク』の連中の獲物がなくなってしまう。

だから、ほどほどに手加減しつつ倒す――取りこぼしを拾うぐらいにとどめるのが、暗黙のマナーみたいなものらしい。オリビアちゃんも言ってたけど、この防衛線は通常、一発を狙う冒険者や傭兵たちの稼ぎ場でもあり、国内の経済活性化の起爆剤でもあるらしいし。

「なるほど……初耳だわそれ。ありがと、教えてもらって」

「何、同業者のよしみだ……そもそも、こちら側も数はかなり多いから、何なら我々は全く手出ししなくても大丈夫なくらいさ」

「そうだな、俺らの出番はむしろ……それ以上の連中が来た場合になる」

と、召喚術使いのヴォルフさん。
ああ……大量発生の有象無象よりも強い連中ね。『シーサーペント』や……それこそ、情報にあった『モビーディック』とかの。

「ですが、そういうマナーをわきまえない連中もいます」

「……うむ」

「ああ……あのあたりだな」

と、二コラさんにザードさん、そしてレムさんの順に。
その視線の先を見ると……昨日絡んできた、あの集団がいた。

「おい、いつまで待たせる気だよ!?」

「そうだ、俺たちを誰だと思ってんだ!」

「俺たちは『氷の牙』! この国北部で最強の傭兵団、今回のクエストでだって、最大の討伐数を記録してるんだぞ!」

「……手当たり次第に狩りまくって、横殴りもガンガンやってのスコアの癖に、偉そう」

二コラさんのぼそっと言ったセリフのおかげで、全てがわかった。
ああ……その『暗黙のマナー』をわきまえないと、あんな感じになると?

「まあ、アレは元々のマナーの悪さもあるからああなってるんだろうがな。ただまあ、連中は一応腕は確かだ。昨日君に絡んできた男……ガムールも、戦闘能力はAAAランクに間違いなく届くレベルだからな……怒らせると面倒だ」

「ふーん……勝手に怒って絡んできた場合はどう対処すればいいもんかな?」

「……さあな……まあ、それはそうと、私たちも受付を」

と、クレヴィアさんが言いかけたところで……

「ヒャッハー! お頭、いましたぜ! 黒髪に黒目! こいつが『災王』だぁ!」

(…………うげ)

そんな声が聞こえて、振り向くと……うわぁ。

そこに集まっていたのは……ある者はモヒカン、またある者は禿頭、またある者は逆立った髪という、何かもう……怖いというか、とりあえず言葉を失う感じの見た目の方々。
間違いなく……昨日ニアミスした人と、おそらくはそのお仲間さんたちである。

装備も……何だろうコレ、やたらとげとげした見た目の鎧が多く、革製の鎧や防寒具なんかを身にまとっているので、ますますアレな見た目だ。

そして、そんな人たちに囲まれて立っているのは……2m近い背丈を持つ、筋骨隆々の大男だった。それこそ……僕が今まで見た中で、1、2を争うぐらいのボリュームの。
短い金髪を持ち、いかついながらも整った感じの顔だち。マント型の外套に身を包んだその姿は、威厳を通り越して覇気すら漂わせる。

そんな男が……ゆっくりとした足取りで、こちらに歩いてくる。うわ、何か面倒そう……。

「……貴様が『災王』か? 聞いていた通り、まだ年若いようだな」

「あーまあ、はい、そうですけど……何か?」

「何、ただの物珍しさよ……この寒い中にこんなところに来るというから、どんな物好きかと思ってな……ふっ、ご苦労なことだ。西方の冒険者には暇人が多いらしい」

へっへっへ……と、周囲にいる取り巻き連中が笑う中で、物理(身長)的にも態度的にも見下した感じでそう言ってくる、リーダーさん。

名前知らないからそう呼ぶしかないけど、まあ別に何も不都合はないからいいか……と思っていたら、横合いから口をはさんでくる者が。

「それは私に対しても言っているのか、ノウザー?」

「ほう、ここにも最近随分とよく見る顔がいたか……毎度ご苦労なことだな、クレヴィア」

クレヴィアさんに対してそう言い返しながら、鼻で笑う感じの……ノウザー、って名前か。

「金が目的か、名が目的かしらんが、精力的で結構なことだ。張り切りすぎて下手を撃つようなことがないよう、せいぜい足元に気を付けて戦うことだな」

「大きなお世話だ、体調管理ぐらいできている。……それよりお前、まだそれ……」

「貴様がどうなろうが知ったことではないが、我々の方針に口を出すのは感心できんぞ。せいぜいそこの線の細い若造と共に励むがよかろう」

「やれやれ……」

「見れば、そちらの連れは重そうな鎧を着ている者に、これまた線の細い、か弱そうな女子(おなご)が随分といる様子だ……戦場に出るにはやや薄着に見えるが、くくっ、凍えて動けず、べそをかくようなことにならねばよいがな? 今からでも宿にさっさと帰ってはどうだ?」

僕の仲間たちを見ての、その言葉にちょっとむっとしたけど……ふと、おかしいなと思う。

さっきから色々言われているクレヴィアさんだが……なんというかこう、全然怒ったり苛立ったりするような様子がないのだ。
むしろ……『やれやれ』って感じの……呆れ? みたいなのが見られる? 何で?

というかよく見ると、『籠のカナリア』のチームメイトの皆さんや……いやそれどころか、遠巻きにこっちの様子を見てる野次馬連中ほぼ全員がそんな感じだ。何で?
中には……笑っているというか、微笑んでいる者すらいる。

そしてそれには当然、ノウザーや取り巻き連中も気づいているだろうに、何も言わない。

すると、僕らの様子に気づいたのか、クレヴィアさんが、

「……ああ、君たちは知らなかったんだな。いや、彼らは……」

「貴様らがどうなろうとどうでもいいが、吾輩たちの邪魔になるな、とだけ繰り返しだが言っておく。暇ではないのでな、これで……」

一人称『吾輩』って初めて聞いたな……と、僕がどうでもいいところに感心していると、

「お頭! 報告が……」

「む、どうした?」

「薬屋のババァの件です。今朝までに納入するはずのポーションがまだできてねえとか言い出しやがった例の……仰せの通りにしてまいりやした」

「ああ……そうか。ふん、あの婆め……身の程をしらんからそうなるのだ」

手下からの報告に、眉をひそめて眉間にしわを寄せるノウザー。
気の弱い人なら、見ただけで泣き出しそうな感じの濃い+怖い感じの顔になって……うわ、これちょっとやばいんじゃないのか?

報復?に何かしたっぽいけど、その間に合わなかったっていう薬屋のおばあさん大丈夫……

「仰せのとおり『薬は明後日まで待ってやる、寒さが骨身にしみてきつい季節だから冷えないようにあったかくして体に気をつけて無理せず頑張れ』と言いつけておきました。へへへ……」

……うん?

あれ、何だ? 今、手下さんの口から予想とだいぶ違う対応が知らされた気が……え?
何、その敬老精神にあふれた優しい対応? ヤキ入れたとかじゃなくて? 待ってあげる上に体に気を付けて的なことまで……?

「ふん、いい気味だ。あの身の程知らずめが……『お兄さん達お得意さんだからおばあちゃんがんばって明日までに仕上げるよ』などと出来もせんことを言うからだ。こちらは最初から3日後でいいと言っていたというのに……あの量を1日で作れるはずもないだろうが」

「へい、まったく……無理して体壊したら元も子もねえって何度も言ったんですがね。変なところで頑固なババァですよ」

「それと代金は前払いで払ってやれ。今はどこも材料不足で物価が上がっている……それに、暖を取るための燃料費も安くはないだろうからな。少し多めに渡してやるがよい」

「問題ありやせん、そのようにしておきました」

「へへっ、その時のばあさんの顔、お頭にも見せたかったですぜ……いい気味だ」

「ああ、泣きながら『ありがとよお兄さん達……あんたたちみたいなのが孫だったら私も嬉しいんだがねえ』なんて言ってやがったもんなぁ」

「ああ、たまんねえぜ。俺なんかうれしくなって持ってた肉まんじゅうお土産ににあげちまったよ」


「………………」←僕


「お頭、それと例の件なんですが……例の、俺たちの団の倉庫を作ろうと思って、買い取りの交渉をしてるあの土地についてなんですがね?」

「何だ、あの男、まだ首を縦に振らんのか? ……仕方がない、これは実力行使……腕ずくででも譲ってもらうしかないようだな。とりかかれ!」

「へい! ちっ、あの野郎が……何が『住み着いた盗賊団の退治までしてもらった上に、そのせいで買い手がつかなくなってしまった小屋まで買っていただくなんて、いくら何でもそんなことはできません! 申し訳なさすぎます!』だ!」

「全くだ、全く持って身の程を知らん……すぐに、盗賊共の不衛生な生活のせいでその小屋に住み着いた『雪毒ネズミ』と『フロストバット』の駆除を行った上で、店主に『我々はこの家で満足している、害獣の駆除も完了したから適正価格で買い取る』と伝えろ!」

「へい! 倉庫として使うには、多少なり改修が必要になりますが、どうしやす?」

「そこを不当に占拠していた盗賊連中からせしめた財宝がまだあるだろう?」

「ああ……確かに、元の持ち主に返した後、持ち主不明で俺たちのところに持ち込まれた奴がまだありましたね。承知しやした」

「よし、やれ。ふん……あそこは我々にこそふさわしい。盗賊退治の時に暴れすぎてかなり家屋そのものを壊してしまったのだからな」


「……………………」


「ああお頭、忘れてやした……こいつを」

「む……何だこれは?」

「ほらこの間、坂の通りで滑って転んで痛がってたガキを起こして、肉まんじゅうを食わせてやったでしょう? そいつから仲間が、お頭に渡してくれって頼まれたようで」

「ほう……?」

そう言って渡された手紙……にしてはちょっと分厚い、小包的なものを開く。
中には、子供のお小遣いでも買えるような安物の飴玉が袋入りで数個と……手紙が。
紙の裏から、何て書いてあるか透けて見える。えーと……『おじちゃんありがとう』、か。

「……ふっ」

そう短く笑うと、丁寧に手紙をたたんで堤に戻し、飴玉をひとつ口に含んで、残りを手下に渡して『しまっておけ』と一言。


「……………………」


そして、

「何度も言うが、吾輩たちの邪魔だけはせんことだ。下手にしゃしゃり出てくればろくなことにはならんぞ? この時期のこの地域は風が冷たい上に、海からは水しぶきも上がる。腕に自信があるからと言って突出しすぎれば思わぬケガにつながることも多いから努々注意することだ」

と、言い残して去っていった。

絶句している僕、と、仲間たち。
ぽん、と、後ろから僕の肩が叩かれる……というか、手が置かれる感触。

見ると、なんか優しい感じの目で、クレヴィアさんが微笑みかけてきていた。

「まあ、こんな感じでな……」

「……いい人たちだったんですね。すごく」

「ああ……だいぶめんどくさいがな」

「良心的で道徳的な集団なんだが、だからってなめられないように威厳を保とうとして……変な方向に行ってしまったらしい」

と、ヴォルフさんからも補足。

……ひょっとして、さっき僕らに言ってたことも……

「ああ、おそらく……」


『張り切りすぎて下手を撃つようなことがないよう、せいぜい足元に気を付けて戦うことだな』

『最近頻繁に戦っているみたいだけど、疲れがたまったりして足を取られたり、不測の事態にならないように気を付けた方がいい。この時期は足元も悪いから』

『戦場に出るにはやや薄着に見えるが、くくっ、凍えて動けず、べそをかくようなことにならねばよいがな? 今からでも宿にさっさと帰ってはどうだ?』

『これから行く先はかなり寒いのに、そんなに薄着で大丈夫か? もし装備が整わなかったのなら、無理せず大人しく待って、準備が整ってから行くといいぞ』
※僕作成の防寒具は、性能はいいけどやや薄手に見えるから……。


「……だと思う」

何そのめんどくさいツンデレ。いや、気持ちはありがたいけど。

と、その時、ギルドの受付から声が。

「えー……16番の番号札でお待ちの、『慈愛と抱擁の騎士団』の皆さまー?」

「うむ」

「「「ヒャッハー!!」」」

あんたらかよ。

オリビアちゃんちでも聞いて、何かNGO団体みたいなすごい名前のグループがあるんだなって思ってたけど、まさかまさかのあんたらかよ。
でも納得だよ。見た目以外はびっくりするほどしっくりくるよ。

ちなみに、リーダーのノウザー・グランダーソンさんは『救世主』『裁きの刃』『金色の勇者』『気は優しくて力持ち』『弱者の味方』などの様々な二つ名で知られる、AAAランク冒険者らしい。

……世界は広いな。いろんな人がいる(放心)。

「とりあえず……我々も手続きをしよう」

「……そうですね」


************


感想に返信できることを最近知りました。
とりあえずというか、年明けてからの感想には変身させていただいております。
あと、感想は全て読んで励みにさせていただいております。ありがとうございます!

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


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