魔拳のデイドリーマー

osho

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10巻

10-2

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 レンズの向こうには、上陸準備のためせわしなく動く船員と……その作業に加わらず、思い思いに動いている者達がいた。
 後者はおそらく、護衛のためにやとわれた冒険者か傭兵のたぐいだろう。
 態度や歩き方、武器や装備……少女は色々な点に注目しながら、一人一人、どの程度の実力か予想をつけていく。

(ふむ、やはり一山いくらの者が多いとはいえ、何人かできそうなのもいるな……む? あやつらは顔に見覚えがあるな。確か熟練じゅくれんのAランクで……おぉ、こちらにも。あのチームは確かBランクの……なるほど、なかなか粒ぞろい…………ん?)

 甲板の冒険者(とおぼしき者達)を眺めていた少女は、半分ほど見定めたあたりで、望遠鏡を動かす手を止めた。

(……あの集団は?)

 丸い視界の中にいるのは、おそらく同じ冒険者チームであろうグループだった。
 男一人に女が四人と、ややかたよった男女比。しかも女性陣は皆、年齢やタイプは違うが、美女・美少女と言っていい。
 見ていると、さらに男女が一人ずつ加わった。

(……いいとこのお坊ちゃんが、見目麗しい女ばかりをはべらせている、というわけでは無さそうだな。歩き方、たたずまい、装備……どれを見ても、全員只者ただものでは……っ!?)

 次の瞬間、少女はびくっと肩を震わせ、目を見開いた。
 望遠鏡の向こうにいる、黒髪の少年と……目が合ったのだ。
 しかし一瞬の間を置いて、まさかな、と思い直す。
 向こうは裸眼。島を見ようとした少年と、たまたま視線が重なっただけだろう。
 そう結論付けた少女は、少年に向けてひらひらと手を振ってみた。
 ……まさか、手を振り返されるとは思っていなかった。

「…………」

 あっけに取られた少女は一旦望遠鏡から目を離し、互いの距離を確認する。
 数キロはある。普通の人間が目視できるはずがない。
 しかし少女は、その常識をくつがえす人間を目にしていた。

(……待てよ? 黒髪に黒服、華奢きゃしゃな少年……まさか……!)

 少女の顔には、面白いおもちゃを見つけた子供のような笑みが浮かんでいた。
 その理由は、彼女しか知らない。



 第二話 悪意ある外交


 停泊してた船から手を振ってきた女の子に、手を振り返してから数十分後。
 僕らの乗る『ネスティア』の軍艦もまた、『サンセスタ島』に到着していた。
 僕らは事前に聞いていた通り、本島から少し離れた、調査基地のある離島に船を着けたのに対し、向こうの軍艦は本島に直接接岸している。
 気になって聞いてみたら、『チラノース帝国』とやらは調査基地を持っていないそうだ。だから、さっき僕が言っていたみたいに、船をそのまま拠点にするつもりなんだろう。
 とはいえ、彼らも基地を持っていなかったわけじゃなくて、本島に直接作ったせいで、火山活動に巻き込まれて使えなくなっちゃったんだとか。
 それと、ここからもっと南の海岸に、もう一つ『ジャスニア王国』の調査団の船も停泊しているのが見つかった。
 ジャスニアはチラノースとは逆、ネスティアの南側にある大国で、東西に広い領土を持つ。ネスティアとは割と仲がよく、貿易も普通にしているそうだ。
 この調査中、協力することも可能だろうとのこと。そりゃ頼もしい。
 一方『チラノース』は、妙にプライドが高いというか何というか、他国に対して突っぱねるような態度を取るらしい。
 さすがに外交の場で、他国を堂々とバカにすることはないらしいけど、『我が国のやることに口を出すな』的なところがあるとか。
 そのくせ、相手の弱みを適確に指摘してくるという陰険な面もある。
 一部のうわさでは、他国の弱みを握ったり、技術を盗用しようと工作員を送り込んでる……なんてことまで言われてるそうだ。
 おまけに、領土とか資源とか利権とか、外交上色々な問題が色々な国との間にあったりして……なんか前世でもそんな国あったなー。どことは言わないけど。
 国と国との付き合いに、トラブル皆無の円満なそれなんてそうそうないってのはわかっているけど……特に領土問題って、関わってる国が両方ともムキになった結果、応酬おうしゅうがエスカレートすることもあるみたいだしなあ……。
 めんどくさいなー、関わりたくないなー。
 まあ、その二ヶ国(の調査団)への対応は、スウラさん達と一緒に来た行政府の方々がやってくれるらしいけど……はぁ。
 何も起こらないといいなー、このクエストが終わるまで……。


 拠点に物資を運び込んだ後、僕らネスティアの一行は、あらかじめ決めてあった役割に従い動き出した。
 冒険者や傭兵は、『調査団に同行して火山島に入り、調査団を護衛しつつサンプル等の採取を手伝う組』と、『船および調査基地に残って警戒する組』の二手に分かれる。
 調査団に同行するチームは、さらに調査団の部隊数に合わせて組を分け、それぞれの部隊と一緒に火山島を調べていく……って感じだ。
 この組分けは日によって変わる。昨日調査チームだったのが、今日は警戒チームだったりとかする。毎日変わるわけじゃないけども。
 ちなみに僕ら『邪香猫』は、組を細分化する際にそのまま一つのチームにされた。
 普段から一緒にいるチームなら、まとめておいたほうが連携も取りやすいってことで。
 そして僕らが同行する調査チームには、ギーナちゃんと、僕の『担当』である義姉さんが一緒だった。
 ちなみにスウラさんは船番の組。
 船には他にも実力者が残るし、冒険者でも軍人でもないのに強いシェーンもいるから、まあ安心だろう、あそこは。
 というわけで、調査団と一緒に火山島に踏み込む僕らは、きっちり集中して、調査団の皆さんをお守りするとしましょうかね。


 調査スケジュールは、事前に調査団のほうで作っていたらしいので、その通りに進んでいく。
 護衛がSランクのチームだからだろう、僕らのつく調査チームに振り分けられたのは、調査予定地域の中でも一番危険なルートだった。
 過去数百年、人の手がほとんど入っていないってことで、オールウェイズ道なき道なのはもちろんのこと、岩場とか砂地とかもあって足場は悪いし、密林を突っ切ったりもするし、川を渡ったりもするという、なかなかすさまじいルートである。
 どこの秘境探検隊だっていう話……あ、実際にそんな感じだっけこの任務。
 もっとも、きちんと訓練を積んだ軍人や、荒事が日常茶飯事さはんじの冒険者であれば、苦労はしても命の危険まではない。
 けれど調査チームの中には、普段は机にかじりついて書類や実験器具をいじっているインドアな人も多い。
 さっき言った通りの大自然。舗装なんてされていない道。
 インドアな方々にとっては歩くだけでもきつい……ってのは、僕が前世でそうだったのでよくわかる。
 遠足で山登りとか、本気でサボりたかった。
 そして極めつけは、数百年の間に、そこらじゅうに大量に降り積もった火山灰だ。
 まだ固まってなくて、踏むと新雪を踏んだみたいにズボッと足が沈むところもあれば、かちかちに固まって岩石のようになっているところもある。
 そのおかげで歩きにくいし、風が吹けば火山灰が巻き上がって視界がふさがれるわ、鼻に入ったらむせるわ、体について不快だわでもう散々。
 おまけに、環境に適応した魔物もいた。降り積もった火山灰の中にひそんでいたり、風で吹き上がった火山灰の陰から奇襲をかけてきたりして、油断できない。
 そんなことが当たり前に起こるのだ。この島の調査では。二百年以上、放っとかれた理由がわかるってもんだろう。
 ……まあ、さっきからそのへんガン無視してるけど僕ら。
魔法』、大活躍。

「…………」

 見てごらん、調査団の人達がリアクションを取れずに絶句しているよ。

「……無理ないと思います」

 疲れた様子のギーナちゃんが、何度目かになるため息をついた。
 もちろんというか、肉体的ではなく、精神的な疲れだ。
 僕らは今、さっき話した厳しい環境を、鼻で笑いながら進んでいる。
 先頭を行くのは僕とシェリー。
 その後ろにザリーとエルク、そしてミュウに守られた調査団の人達がいる。
 最後尾はギーナちゃんとナナ、そしてセレナ義姉さんだ。
 砂地や火山灰なんかの、足場が最悪な場所もある。それを僕は、水面を歩く時と同じように、足の裏に魔力で力場を作ることで解決した。
 雪駄せったを履いて雪上を行くように、砂だろうが火山灰だろうが、足を沈めずにすたすたと歩いているのだ。
 そして師匠のところで修業した結果、『邪香猫』は全員、僕と同じように水上歩行が可能になっているので、僕と同じく足場の悪さを無視して歩いている。
 速度に違いはあるけど、そもそもゆっくり周囲を調査しつつ進む予定なので、問題ない。
 ただし、ミュウだけはび出した『召喚獣』に、調査団の(ひ弱な)皆さんと同乗していた。
 巨大なエイの魔物『オーグルライア』。


 水中だけでなく空中を飛行することも可能なこいつに、魔法の絨毯じゅうたんよろしく調査団の皆さんを乗せ、ミュウ自身も乗って指示を出す。
 なお『オーグルライア』に乗らず、『邪香猫』でない故に『水上歩行』も使えないギーナちゃんは、自分の足で、悪路に苦戦しながら歩いてる。
 いや、別に彼女だけ仲間外れにしているわけじゃないんだけど……。

「……無理しないでギーナちゃんも乗れば? ミュウの召喚獣ならまだ他にもいるし」
「い、いえ。もう様々な魔法の恩恵にあずからせていただいているのに、さらに甘えるわけには……。それに私は、何かに乗っているよりも、きちんと地に足をつけて立っていたほうが、いざという時に機敏きびんに動けますから」

 ……ってな感じで、断られてるんだよね。
 一応その心意気を尊重したけど、一人だけ明らかに疲労の蓄積スピードが違うし、しかも心なしか、精神的疲労も加わっている気がしていたたまれない。
 ……精神的疲労はお前のせいだって? アーアー、キコエナーイ。
 てか、ホント別に気にしなくてもいいんだけどなあ。
 だって……。

「いや~、快適♪」

 うちの義姉なんか、何の遠慮えんりょもなく『オーグルライア』に普通に乗ってるし。
 ……まあでも、ギーナちゃんの気持ちもわからなくもない。
 風で巻き上がる火山灰は、エルクの『否常識魔法』、粉塵ふんじん・有毒ガスを遮断しゃだんする風の結界『エアーコンディショナー』で防いでいる。
 襲ってくる魔物も、師匠のところで強化され、魔物だろうと人だろうと探知できるようになった完成版『マジックサテライト』でチェックしている。
 そもそも、同じく改良して人間には効かなくなった『マジックフェロモン』を使いながら歩いているので、よっぽど強いか、実力差がわからないバカじゃない限り、魔物は寄ってこないのだ。
 とまあ、ただでさえ「なんだこの予定の百倍快適な道中は」って感じで進んでいるから、遠慮したくなる気持ちはわかる。
 ……さて、どーしようかね。
『サテライト』があるんだから敵の接近は事前にわかるし、いざとなったら足場を確保するために、風魔法で周りの火山灰なんて全部ふっ飛ばす予定だから、ホントに遠慮とかしなくていいんだけどな……。
 もし疲労が限界を超えるようなら、無理矢理にでも乗せよう。
『元中将もバリバリお言葉に甘えてだらけまくってんだから、気にしない気にしない』ってな感じで、義姉さんをダシに使わせてもらおうか。


 ☆☆☆


 道中では、調査団の人達から「止まってくれ」って言われたところで止まり、色々な作業をしていく。
 火山灰や、それが固まったと見られる岩石、その下に埋もれている土や周囲の草花を、研究用のサンプルとして採取したり。
 地層が見られるがけでは、観察して特徴を記録し、既存の情報と照らし合わせたり。
 その際、邪魔じゃまな岩石があったら僕らがくだいてどかしたりしていた。
 一通りそれらの作業が終わったら、移動を再開し、また次の調査場所へ……ってな感じで繰り返していく。延々と。

「……なんか、探索って思ったよりやることないね。ちょっと意外かも」
「いや、明らかにあなた達のせいですから。この状況。本来なら……悪い意味じゃないですけど、こんなはずじゃなかったんですから」

 と、ギーナちゃん。
 あ、ちなみに今は調査団の皆さんが採取にいそしんでいるので、護衛の僕らは、周囲を警戒しつつ休憩中だ。

「本来、こんな未開の危険区域なんて、ずっと魔物に襲われっぱなしでもおかしくないんです。ましてや、ここは数百年もの間、ほとんど人の手が入ってこなかった孤島。外敵に対して魔物は過敏に反応するだろう……っていう予想だったんですよ」
「しかし、その予想は外れちゃったわけだ」
「『外れた』じゃなくて『外された』んですよ……力尽ちからずくで」

 お、ギーナちゃんが初ジト目。結構かわいいな、似合ってる。

「しょうがないんじゃないかな、それも。魔物に限らず野生の生き物は、繁殖期はんしょくきや子育ての時期なんかを除けば、自分より強い生き物を襲うことはないからね」
「そして多くの場合、匂いなどで実力差を感じ取る……ミナトさんの『マジックフェロモン』は、それを逆手さかてに取った虫除けなわけですから」

 ナナが言うと、ギーナちゃんが肩を落とした。

「……あえてわかりやすくしてるわけですか。魔物に対して……彼我ひがの実力差を」
「そんなとこだね。自画自賛じがじさんになっちゃうけど……僕はもう、AAAランクより下の魔物にはほぼ負ける気しないし」
「そんなこと言ったら……なんだっけ、フラグ? が立つんじゃないの? どーすんのよあの『ディアボロス亜種』くらい強い敵がまた来たら」

 エルクの突っ込みにミュウが反応した。

「むしろ、そのものが来ちゃったりするかもしれませんねー」

『邪香猫』メンバーにギーナちゃんも加わって、こんな感じの緊張感に欠ける雑談。
 無論、『サテライト』と『フェロモン』は継続して発動中で、きちんと警戒は続けている。
 しかも完成した『サテライト』はエルク一人、もしくはアルバ一羽で発動が可能であり、ある程度の範囲をカバーできる。移動中も含めて交代で発動させることで、消耗を最小限にしていた。
 今は、僕の肩の上で干し肉をついばんでいるアルバが発動し、『邪香猫』とギーナちゃんの頭にリンクさせている。
 わざわざアルバが空高く飛び上がって、エルクとリンクしなくても発動できるようになったので、こんな風に自由に動けているわけ。
 ……これだと『衛星サテライト』って名前はどうなんだろう? 単体発動版は名前を別にしたほうがいいかな?
 すると、ため息をついて水分補給をしていたギーナちゃんが、ふと、少し離れた岩に座るセレナ義姉さんを見た。

「……そういえば、セレナ殿は……平気なのですね」
「平気? 何が?」
「いえ、その……ミナト殿と初めて行動を共にする場合、その強さや、聞いたこともない多彩な魔法に唖然とさせられて、ついていくだけで大変だ、とスウラ大尉もおっしゃっていました。私も実際、身をもって知りましたので……」

 なるほど、平気そうにしているセレナ義姉さんはさすがだな、と。
 そういやそうだな……。
 自分で言うのもなんだけど、この道中、僕らが何してもリアクションは『ほー』とか『ふーん』とかだったし、驚いてる様子もあんましなかった。
 やっぱ、王国軍で『中将』までのぼり詰めた人は違うってことかな? それとも、一世紀以上の時を生きた年のこうか。はたまたやっぱり『キャドリーユ』に嫁いだ女ってことなのか……。
 すると義姉さんがこちらに顔を向けた。

「なんか失礼な想像されてる気がするけど……まあいいわ。色々あんのよ、百年以上も生きていればね」
「そんなもん?」
「そんなもんよ」

 なんか、だらけた中にも達観したというか、きちんとした先達せんだつっぽい貫禄を義姉さんに感じつつ、そろそろここでの調査も終わるかな……と、思ってたら。

「――!」

 ……サテライトに感あり。
 リンクしていた七人と一羽が、同時にそれを感じ取った。
 どうやら人……みたいだな。それも、結構な大人数だ。歩いてこっちに近づいてきている。
 配置が僕らと一緒で、護衛する者とされる者に分かれているので、目的も僕らと同じだろう。
 けど、ネスティアの他の調査チームとは、調査コースがクロスしたりはしないはずだ。
 つまり、こいつらは……。
 同様の考えが、おそらくいっせいに僕らの頭の中に浮かんだ数秒後。茂みをかきわけて、その人達は姿を見せた。
 全員、登山などアウトドアに適していそうな格好だったが、護衛する側とされる側で、明らかに雰囲気が違った。別な種類の人間だと割とはっきりわかる。
 前者は、普段は室内にいることが多いけど、外に出る必要が生じたから、一通り装備を揃えて出てきました、って感じ。こういう未開の危険区域を歩くことには慣れていなそう。
 それに対して後者は明らかに慣れている。服装や持ち物も、何度も危険な場面をくぐくぐ抜け、経験で必要なものを理解して揃えている感じ。
 ってことは、この人達は……。

「……他国の調査チーム、かな?」
「みたいだね。服に刺繍ししゅうされているマークからすると……ジャスニアのだ」

 僕の問いに、ザリーが小声で教えてくれた。
 当然というか何というか、茂みから出てきた『ジャスニア王国』の調査団の皆さんは、ミュウの『オーグルライア』を見てびっくりしていた。
 その後は、普通に挨拶してきた。『オーグルライア』に暴れる様子がないことから、支配下にあることはわかったみたい。
 こちらは、『ネスティア』の調査団の人達が対応している。
 遠目に見ていると、「やあ、これはこれは」とか「どうもどうも」とか、無難ぶなんなやり取りをしている。別々の国の調査団である以上、これもいわゆる『外交』の一種なんだろう。
 だったら、素人しろうとが口出ししないで、専門(?)の人に任せといたほうがいい。
 僕ら冒険者の仕事はあくまで護衛であって、彼らの相手や接待じゃないし。
 その考えは向こう……ジャスニアの皆さんも一緒なのか、護衛とおぼしき人達は、調査団同士の話し合いには関わろうとせず、数歩ほど離れて様子を見ている。
 同時に、こっちの護衛である僕らを観察したり、周囲に魔物がいないか気を配ったりしていた。
 けど、それ以外は何もしないし、話しかけても来ない。
 目が合ったりすると、軽く会釈えしゃくすることはあるけど、それだけ。
 事なかれ主義……っていうと変な感じに聞こえるけど、必要ないことはしない、波風立たないならそのほうがいい、っていう考え方は共通みたいだ。
 それに、もともと『ジャスニア王国』と『ネスティア王国』は仲がいい。
 ナナやセレナ義姉さんによると、こういう場面でめる心配はあんまりないから、そんなに緊張しなくていいらしいけど。
 その言葉どおり、向こうの調査団とは、双方の代表っぽい人が話したり握手したりした後、お互い頑張りましょう的なことを言って別れ、何もトラブルは起こらなかった。
 ……起こらなかったんだけど。
 もう一つの国のほうとは……なんというか、そうはいかないようで。


 さらに数時間後。
 今日の探索を終えて、僕らが拠点に戻ってみると……何やら入り口付近が騒がしくなっていた。
 見るとそこには、『ジャスニア』とはまた違った服装の人達がいて、スウラさんや他の調査団関係者と、あーだこーだ話していた。
 他には護衛らしき人達と……作業員か用務員かなって人達もいた。結構な量の荷物を持って。
 しかも、さっき遭遇そうぐうした『ジャスニア』の調査団に比べて、何やら護衛の人数というか比率が多いような気も。
 僕らに気づいて振り向いたその人達の胸元には、見覚えのある月と百合の花のマークが。
 昼間に船から見た、一足先にこの島に着いていた軍艦にあったマークだ。
 つまり、この人達が『チラノース帝国』とやらの調査団、もしくはその関係者であることはほぼ確定。


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