魔拳のデイドリーマー

osho

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10巻

10-3

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 ……護衛とか作業員をぞろぞろ引き連れて、こっちの拠点まで来て、何してるんだろう。
 挨拶回り的な? でも、用務員(仮)さん達が持っている荷物……土産みやげとか、そういうのには見えないけど。
 それに心なしか、うちの責任者さん達との間にただよってる空気が剣呑けんのんだし。
 同盟国とはいえ、調査途中で鉢合わせて、ともすればサンプルの争奪戦になる可能性だってあった昼間の邂逅かいこうより、よっぽど空気が悪いんだけど……?
『チラノース』の先頭に立っている代表と思しき小太りの男は、帰ってきた僕らに、にっこりとした、しかしどこか胡散臭うさんくさい笑みを向けてきた。
 一応、会釈だけは返しておく。

「……おっと、これは失礼。出入り口をふさいでしまっていましたな。ささ、どうぞお通りください」
「あ、ご丁寧ていねいにどうも」

 そう言って、すたすたと入り口の前から移動したチラノースの皆さんだけど、帰るわけじゃないらしく、再びスウラさん達に向き直る。

「さて……話が中断してしまいましたな。して、どうでしょう、ネスティアの方々? お互いにとって、決して損になる申し出ではないと思うのですが……」
「し、しかしですね……何分なにぶん、こちらにも都合というものがありまして。用意も何もしていませんし、部屋も決して余分にあるわけではありません。いきなりそのようなことを言われましても……お気持ちは理解できますが」
「まあ、そうおっしゃらずに。こちらからも協力できることならさせていただきますし、何でしたら、お互いに人材を交換する形での派遣というのはいかがです?」
「そ、それこそ困ります! こちらにも、あらかじめ立てたスケジュールや、その他にも都合というものがあって……」

 なんかホントに、厄介事やっかいごとが起こっているように見えるんだけど……?
 見た感じ、厄介事を持ちかけたのは『チラノース』のほうで、こっちの代表はそれに必死で対応してるというか、外交的な面から、かどが立たないようにお引き取り願おうとしてるっぽい。
 けど、向こうの代表がしぶとくしつこくねばってくるので、もうやだ……って感じだな。
 気になったので、エルクに合図を送り、スウラさんと『念話』でつないでもらって、事情を簡単に説明してもらった。
 聞くと……やっぱりというか、向こうが厄介事を持ちかけてきていた。
 それどころか、協力とか言いつつ明らかにこっちをいいように利用する気でいる。最初から迷惑をかけるつもり満々なようだ。
 どういうことなのかというと、こっちの責任者を呼び出した『チラノース』の方々は、ある提案をしてきた。
 それは、この『サンセスタ島』の調査を、チラノースとネスティアで協力してやらないか、というもの。
 しかもそのために、チラノースの研究者や技術者を派遣するから、この『調査基地』の一部を間借りさせてほしいという。
 場合によっては、サンプルなどを相互に提供したりして、助け合いつつ研究を進めよう、と。
 ……何それ、怪しすぎるんだけど。
 お互いのために共同研究って形にしたいから、こっちの施設に間借りさせろって? しかも、サンプルその他の貸与たいよ・提供・交換なんかもしたいって?
 ……字面じづらどおりに受け取れば普通に善意の申し出だけど……外交の『が』の字も知らない僕でも断言できる。字面どおりに受け取るなんて絶対しちゃいけない申し出だ、コレ。
 さっきから「友好のために」「二国の交流」「お互いの研究の躍進のため」なんて、聞こえのいい言葉がぺらぺらとチラノース代表さんから飛び出している。
 けど、明らかにこっちに不利というか、不安要素が多すぎる提案だ。
 いくら協力するだの何だの言われたからって、自国の研究施設に外部の人間を入れるなんてできっこないだろう。しかも、こんないきなり。
 てか、もしかして用務員(?)達が持っているあの荷持って、引っ越すために持ってきた実験器具だったり?
 この申し出と同時に引っ越しを済ませる気だったのかこいつら?
 気が早いを通り越して、あつかましいな、おい。素人の僕でもわかるくらい非常識な気がするんだけど。
 コレ、ホントに要求をんでもらえると思ったんだろうか? どう考えても断られるのは目に見えているのに……。
 申し出て、断られて、が何回か繰り返されたところで……チラノースの代表さんが、わざとらしく何かを考え込むようなそぶりを見せた。

「ふむ……ネスティア代表、色々な事情があるのはわかります。ですが今は、手を取り合ったほうがいいかと思います。火山活動が収まったとはいえ、ここが未開の危険区域であり、危険な魔物も多く存在していることはご存じでしょう?」
「それは、そうですが……」
「でしたら、こう言うのもなんですが……何よりも我らチラノースの調査団との同盟は、その点において有益だと思うのですよ。何せこちらには……ああ、紹介が遅れました。君達」

 護衛らしき数人の中から、三名が進み出てきた。
 一人は軍服っぽいデザインの、豪華だけど動きを阻害しなそうな服を身に纏った壮年の男性。腰にはサーベルをいている。
 大柄で、整えられたカイゼルひげが特徴的。なんか高圧的に見える。
 視線も、身長差のせいだけじゃなく、見下ろされているように感じるし……貴族が平民を見下す感じに近いな。
 返事をしたもう一人は、重厚そうなよろいを着て、ヘルムまでかぶった完全武装の男。
 なんで男だってわかるのかというと、ヘルムが頭の上半分を覆う形で、下半分は見えているからだ。無精髭ぶしょうひげが生えてる。
 それに、一人目ほどじゃないけど大柄で、ゴリマッチョ。鎧の隙間から見える腕毛もすごい。武器は、肩に担いでいる大槌か。
 そして最後。返事をしなかった一人は……細身の女の子だった。
 服装がまた特徴的で、どう見ても……チャイナドレスにしか見えない。たけが少し短くて動きやすそうだから、バトルドレス的なものなのかもしれないけど。
 整った顔立ちにセミロングの赤い髪。凹凸おうとつが控え目なスレンダーな体と、気が強そうな目が印象的だった。
 しかし、それ以上に特徴的なのが装備。
 エルクやシェリーみたいな、最低限急所を隠す軽鎧は別にいい。問題は武器のほうだ。
 弓なんだと思うけど、つるが張ってあるほうとは反対側、射る時に相手に向ける部分に刃がついていた。振り回して、接近戦でも使えそうなデザインだ。
 刃で相手の攻撃を受け止めつつ、弦を引いて矢を射る、なんてこともできそう。見たことない武器だから、何て呼んでいいのかもわからん。
 っていうか……あれ? 昼間、チラノースの軍艦で望遠鏡を覗きながら、僕に手を振ってきた女の子じゃ……?
 すると、目が合った瞬間に向こうも僕のことに気づいたらしく、にやりと笑みを返してきた。
 う……なんかシェリーとか、ギルドマスターのアイリーンさんみたいな笑い方だな。
 曲者くせものの気配。

「はじめまして、ネスティアの方。ゼストール・ゴールマンと申します。チラノース帝国軍において、中将を務めております」
「ちゅ、中将殿ですか!?」

 軍服っぽい服……ってかホントに軍人だった男の言葉に、ネスティアの代表さんは驚きを隠せない様子だ。

「ええ。そしてこちらは、順に、ダモス・ジャロニコフ殿と、シン・セイラン殿。今回の調査に際して我らが雇った、冒険者の方々です」
「いずれも、我らチラノースの調査団が絶対の信頼を寄せている武人ですぞ?」

 と、最後に代表の人が締めくくった。
 ……中将か。随分と上の人が出てきたんだな。
 軍の階級がネスティアと同じなら、確か中将は……元帥、大将に次いでえらい、上から三番目の役職だったはず。偉そうな態度はそのせいか?

「は、はあ……武人ですか」
「左様……セイラン殿もジャロニコフ殿も、AAAランクの冒険者なのですよ。そしてゴールマン中将もまた、それに相当する実力者でいらっしゃいます」
「AAAですか!?」

 今度は、こっちの調査団全員の顔に戦慄せんりつが走った。無理もないけど。
 AAAランク三人って……そりゃ怖いわ。人間兵器が目の前に三人いるんだもん。
 てか、そんだけの戦力ちらつかせてこの人、改めて「どうですかな? お互いの安全のためにも、ここは共同研究を」とか「なんでしたら、彼らのうち一人くらいなら、派遣人員とすることも可能ですが」とか言い出した。
 ……もしかしてこれ、ただの脅迫きょうはくじゃ?
 同盟組まないとこの人達が黙ってないぞとかって……いや、さすがに直接的に襲わせるのは問題あるだろうから、暗に『調査中に不幸な事故が起こって云々うんぬん』とか示唆しさしてるのかも? 口には出してないけど。
 あーまあ、確かに普通の人にしてみたら、AAAランクなんていう化け物に襲われた日にゃたまったもんじゃないだろうしなあ。かなり雑っていうか乱暴な脅迫だけど、全く効果がないわけじゃないのか。
 それにしたってあまりにも無理矢理すぎる。共同研究と調査基地間借りの申し出をされ続けて、精神的に疲弊ひへいし始めた代表の人が気の毒になったのか……どうやら助け舟を出す気になったらしいスウラさんが、視線で僕に合図を送ってきた。
 その意図を察し、僕が了承の意味を込めて頷くと、スウラさんは『おっほん』と咳払せきばらいをして、代表さん達の会話に割り込む。

「ご心配痛み入ります、チラノース代表。しかし、正式な国際同盟関係にもない我々が、ご厚意からとはいえそのような大きな約定やくじょうを受けることは出来ません」
「はっはっは、そんなお気になさらずともよいのに。我々はただ、この危険な島で、お互いが安全に調査を進められるように願っているだけなのですから」

 心なしか、さっきより態度がでかくなった気が。
 AAA三人の公表と……無関係じゃないんだろうな。調子乗ってる? まあそれも、もう少しの間だけだろうけど。
 するとスウラさんが、待ってましたとばかりに。

「ええ、ですから、こちらも護衛として相応の戦力は揃えてきておりますので、あなた方のお手をお借りするまでもありません」
「はい? はっはっは……いやいや、そうですか、それは失礼。しかしながら、見栄みえを張っても仕方ありませんぞ? あなた、見たところ軍関係の責任者のようですが……とてもそこまでの実力をお持ちには見えませんが……」

 はったりだと笑うチラノース代表。
 軍人さん達はナメられたとでも思ったのか、眉間みけんにしわを寄せてやや不快そうにした。
 しかしシン・セイランという女の子は、ぴくっとまゆを動かして反応し……なぜか、僕のほうに視線を向けた。え、何で?
 次の瞬間、笑い声をさえぎるようにスウラさんが言った。

「ええ、私の戦闘能力は大したことはありません。ですが、こちらにも……AAAランク、もしくはそれに値する戦闘力の者が三人ほどと……何より、Sランクが一人おります」
「はっはっ…………は?」

 沈黙。
 一時停止ボタンでも押したのかってくらいに、キレイにその場から音が消えた。
 今回絶句するのは向こうの番だったようで……今しがた聞いた言葉を理解するのが難しそうに、代表さんが唖然としている。
 口をぽかんと開けた顔はなかなか面白く、笑いをこらえるのがちと大変だ。
 代表さんの横で、AAAランクの男二人も同じように驚いていて……女の子だけが、またこっちを見た。
 数秒かけて再起動した代表の人は、さっきより若干硬い笑みを浮かべた。

「は、はっはっは……これは面白い冗談ですなあ。いやいや、一本取られました。しかし、さすがにSランクなど……」

 しかし今度は、チラノース側から言葉を遮られる。

「……黒髪に黒い瞳、黒服に黒い装備……ふむ」

 その犯人は、さっきからこちらをガン見している赤い髪の少女。

「なるほど、あなたが『黒獅子くろじし』か。つい最近認定されたという、現在世界に四人しかいないSランク冒険者の一人……」
「……ま、まさか……本当に?」

 落ち着いたトーンで、しかしそれ故に冗談には聞こえない、しかも自分の陣営からの解説に、さっきまでの余裕はどこへやら。代表さんのほおを、たらりと汗が伝う。
 大枚をはたいて雇ったのであろう、AAAの戦力を頼りにした静かな脅迫が意味を成さなくなったことへのあせりか、それともただ単に、Sランクに喧嘩を売ってしまったことへの後悔か……。
 ちなみに僕の後ろには、スウラさんが言っていたAAA相当の実力者(シェリー、ナナ、セレナ義姉さん)もいるんだけど……なんかすでに紹介する必要も無さそうである。
 先ほどまでとは打って変わって、焦りを隠せずあたふたしているチラノースの代表さん。
 どうにか持ち直したものの、さっきまでのしつこさが嘘のように消え、すごすごと退散していった。
 護衛達もそれに続く。
 AAAの男二人は、若干戸惑いつつも、計画を狂わされた元凶である僕に、忌々いまいましそうな視線を向けた。
 そして赤い髪の少女は、恐怖でも焦りでも苛立いらだちでもない、何というか……嬉しそうな、好奇心に満ちた視線で、流し目気味に僕を見て去っていった。
 やれやれ、初日からなんだよ、このトラブル。ってか人災。
 なんかこのクエストも、何事もなく終わってはくれなさそうな感じだ……あーやだやだ。



 第三話 交錯する数多あまたの思惑


 調査一日目、夕食時。
 調査基地の食堂で、シェーンが腕を振るって作ってくれた料理を食べながら、僕らはいつもどおり談笑しつつ、食事を楽しんでいた。

「はー……幸せ。昼は未開の島を探検して、夜は皆で楽しく食事できて、美味しいもんお腹いっぱい食べられて。いいもんだね、こういう探索クエストってのも」
「だから、普通はこんな感じじゃないんだからね、ミナト君。未開の危険区域の探索なんて、本来なら危険と隣り合わせな上、食事だって安心して取れるわけじゃないんだから」

 と、ザリー。僕がだらけていると思ったのか、釘を刺すようにぴしゃりと言う。

「国の施設があって、きちんと設備が整っているから、こういう快適な環境に身を置けるだけ。本当はこの島、何がいるかもわかっていない危険区域なんだって、ちゃんと頭に留めといてよ?」
「わかってるって。むしろそういう場所で寝泊まりする危険なら、七歳の頃から知ってるよ。母さんの修業の中に、AAの樹海でテント張って二泊三日、自給自足で魔物の襲撃に耐えながら生活する、ってのもあったから」
「……うん、まあ……そこまで極端に考えなくてもいいけどね?」

 いや、あの時は大変だったなあ……まだ僕小さくて、魔物にしたら格好の獲物だったから、ひっきりなしに襲われたっけ。
 襲撃で初日にテントをだめにしちゃった上に一睡も出来なかったから、次の日は魔物のになってる洞窟に殴りこんでいって全滅させて、ねぐら強奪して寝泊まりしてたっけ。
 あの時の大変さは今でも覚えてる。
 危険区域で寝泊まりするのがどれだけ危険なのか。少し油断しただけで簡単にやられちゃう。

「ちゃんとわかってるよ。今のコレが、すごく恵まれた環境だってことは」
「……繰り返すけど、そこまで極端じゃなくてもいいんだけどね……」
「むしろ、そんな環境下を標準として考えられたら、私達即行で死んじゃうわよね」
「AAの危険区域で単独野宿って……我が義弟ながら、すごい環境で訓練してきたのね」
「まあ、我ながら比較基準がおかしい気もするけど、それに比べりゃここは……あ、でも」
「どうしたのよ、ミナト?」

 言ってる途中で僕がふいにつっかえたため、エルクから、疑問の視線と質問が飛んできた。

「……いや、魔物とか環境以外に、危険というか面倒くさいのがいたな、って思い出して」
「……ああ、夕方のあの連中ね」

 ワンテンポ遅れて放たれたエルクのその言葉で、食卓についていた全員が、僕が何のことを言っているのか気づいたらしい。
 そう、夕方に訪ねて来た、あの迷惑な連中……『チラノース帝国』とやらの調査団だ。


 いい機会なので、今この島にいる、ネスティア以外の二国について、詳しく聞いてみた。
 まず、『ジャスニア王国』。
『ネスティア王国』の南にある隣国であり、『六大国』の一つ。
 東西に長い国土を持ち、その面積はネスティアと大体同じくらい。温暖な南洋に面した国土を所有しており、漁業はもちろん、他の様々な産業が発展している。
 国の気候も温暖で安定しているため、作物の実りもよく、豊かな国である。
 国土が広い分、多くの国と接しており、そのせいで色々外交で気を揉む部分があったり、多種多様な魔物が棲息せいそくしていたりと、抱えている課題も少なくはない。だが、精強な軍隊を持ち、冒険者ギルドの支部も多くあるため、国力はネスティアに劣らない。
 おまけに、世界に四人しかいないSランク冒険者の一人をようする国なのである。
 といっても、明確に味方をしてるわけじゃなく……僕と同じ感じで、ただその国に本拠地を置いてる、ってだけらしいけどね。
 ネスティアとは古くから友好的な関係を築いており、貿易なども盛んに行われているほか、有事の際は手を取り合って対処に当たったりもする同盟国家。
 大切な仲間というか、隣人というか、そんな感じだ。
 後は別に……戦争や紛争もなく平和だから、特筆すべき点は特にない。
 一方『チラノース帝国』は、問題児というか……『ジャスニア』とは打って変わって困った部分が多いらしい。
 ネスティアの北にあるこの国は、同様に『六大国』ではあるものの、ネスティアやジャスニアに比べると国土面積は半分以下。
 気候も寒冷で、農業その他にも不向きなため、主力の産業は漁業。農業は、寒冷でせた土地でも育つ作物をメインに作っているそうだ。
 そしてこの国、外交でやたら強気というか、高圧的らしい。
 時には戦争のきっかけにもなりかねないような、他国を舐めているとしか思えない政策や措置を取ることもあるとか。
 さっきのあの、脅迫としか思えない交渉もその一つだそうだ。
 他国を見下していると思えることも多く、手を取り合ったり、歩み寄ったりする姿勢がほとんどないらしい。あくまで『お前が歩み寄れ』的な感じなんだとか。
 そのくせ、他国から自国の政策に干渉されることを嫌がるそうだ。
 自分の国の政治はあくまで自分の国でやるから口を出すな、的な感じで。何なんだそれ。
 ……どうしよう。ここまで聞いた限りだと、『チラノース=迷惑な国』っていうイメージしかないんだけど……何でそんなことになってんの?
 そのへんが気になったので、もうちょっと掘り下げて聞いてみると、ちょっとした歴史の授業っぽい話の末に理解できた。
 この国、もともとは東西で別々の国だった。それがおよそ四半世紀前、大きいほうの国が小さいほうを吸収する形で誕生したらしい。
 西の国は当時から『大国』で、東の国はその同盟国……といっても、ほとんど属国みたいな扱いだった。
 お互いをより大きく発展させるためってことで合併した際、二つの国の要人達がそのまま新たな大国の中枢を担った。
 そこからしばらくの間は、目論見もくろみどおり結構な勢いで国は成長した。
 一時は、このまま成長を続ければ他の大国と遜色そんしょくない国力を手にするだろう、なんて言われていたそうだけど、その勢いは長く続かず、ある時を境に成長は止まった。
 そして、見事にバブル的なものが弾けたらしい。
 そのせいでピンチになった自国の状態を何とかするために、今、軍事や経済、色んな方面の改革に躍起やっきになっているんだとか。
 それだけなら、なんか大変だな、って程度なんだけど、この国……もっと厄介な持病(?)を抱えていたのである。
 西の国はそれまで、一応『六大国』とは称されながらも、他の五国と比べ国力で明らかに劣る部分があり、それがコンプレックスになっていた。
 しかし合併後、急速に力をつけ、大国の仲間入りをしただのと持てはやされて、さらに今まであった劣等感の反動が作用した結果……国全体に、選民意識みたいなものが芽生めばえてしまったらしい。
 自分達の国は大国であり、周りの国よりも優れているんだとか、もう周りの国の顔色なんてうかがったりしないぞとかいう姿勢で、しかも『来るなら来い』っていう謎の喧嘩腰。
 中途半端に力をつけたせいか、根拠のない自信が国内に満ちている。
 それがそのまま『お国柄』になり、現在の妙に強引で高圧的な外交に見られるような問題児国家として認識されるようになった……というわけだそうだ。
 なんか、つくづくどこかで聞いたことのある内情だな。例によって前世でだけど。
 異世界でもやっぱり、こういう感じの国ってあるもんなのか。何かが上手くいくと調子に乗るってのは、人間のさがってやつなのかね、うん。
 まあ、だからっておどされたりしちゃたまったもんじゃないし、理解なんぞする気は全くないけども。


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