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第15章 極圏の金字塔
第278話 開戦のゴング(無理やり)
しおりを挟む予想してはいたけど……洞窟内部だけあって、狭い。
そこまで致命的に……それこそ、集団で動くのに難儀するような狭さでこそないけど、それでも、屋外で戦う時よりも、だいぶ動きが制限されてしまう。
ある程度開けた場所で戦うのと違って……地面はもちろん、壁や天井というものがあるせいで、思うような動きができない。あまり大きく動きすぎると、激突する。
まあその代わり、上下左右前後に足場があるのと同じだから、立体的・縦横無尽な動きができるのはプラスだけど。
そしてそういう空間では、使う魔法も限られてくるし、あまり広範囲に影響のある武器とかも使えないので……それだけで、特に魔法使い系の職業の人や、鞭なんかの特殊な?武器を持ってる人は、多少なり戦力ダウンする結果となってしまう。
その逆に……輝きだすのは、僕みたいな、接近戦が得意なタイプの奴だ。
「――ぅらッ!!」
洞窟に入ってから、何度目かの戦闘。
襲ってくるのは……水生生物系のモンスター達ばかり。
まあ、水没すらあるような洞窟で、陸上系のモンスターが生存できるとは思えないし、それも当然だろう。
そんなことを考えつつ、覆いかぶさってこちらを捕食しようとしてくるヒトデ型の魔物を、横凪の蹴りで吹き飛ばす。
威力を込めすぎたのか、一撃で体が引きちぎれて飛んでいった。
が……この手のモンスターにありがちなものを、こいつも持っていた。
ヒトデやら爬虫類系やらによく見られる……再生能力。
引きちぎれた破片がそれぞれ1つの体に再生しようとして……それができずに崩れ去る。
蹴りの瞬間に僕が流し込んでおいた、そういうのの発動を阻害し、さらに中から敵を殺しつくすための……猛毒の『魔粒子』の作用で。
それを目の端で確認しつつ、前の方から2体同時に襲い掛かってくる『マーライオン』の1体をかかと落としで蹴り殺し……もう1匹は、飛びかかってきてのかみつきをかわし、その後後ろ回し蹴りで仕留める。
そして僕は、ふぅ、と短く息をつき……前後左右を確認する。
どこにも、動くものはいなくなっていた。
魔物は全部倒した。後続もなし……先に進める。
それを知って僕は……失意と共に、もう1つため息をついた。はぁ。
「……どうしてこうなった」
もう一度言う。
僕以外に……『動く者ものはいない』。
動く『者』は、と言い換えてもいい。
……はっきりと言ってしまうと……今僕は、皆とはぐれていた。
……水中モードで水路の中を進んでいる最中に、しかも、ラインハルトさんと離れて探索している時に、突然すごい勢いで水流が起こり……壁際の狭い通路に吸い込まれてしまったのだ。
慌てて戻ろうとしたら……なんと、たった今、それこそ0.5秒前に通ったはずの通路が消えていた。
というか、壁自体がなかった。何もない空間に放り出されていたのだ。
思わず『はぁ!?』と大きな声を上げて仰天してしまった。
ホントに何が起きたのかわかんなかったから。転移魔法とかの気配もなかったし……そもそも、そのくらいなら僕なら抵抗して無効化できる。最悪転移させられても、それをたどって力づくで元の場所までの通路を、空間をぶち破って作ることもできるだろう。
だが……その時僕が置かれている状況は、そういったものとは全く違った。
魔法の気配はある。でもこれは転移魔法の気配じゃない。それに……ひどく希薄だ。
魔力の気配はあり……いやまあ、海域のほぼ全体からするんだけども。
一体何が起こったのかを理解したのは……ちょっとの間、その周辺の空間を観察して……このへん全体に、常時魔法が展開している……否、展開し続けていると気づいた時だ。
「封印系の魔法だ……おそらくは『ピラミッド』のそれの余波……にしては構成が緻密ではっきりしてるな。これもその一部……? まさか、空間に立体的に構築された魔法陣だとは……僕も似たようなことをできないわけじゃないけど、マジで古代文明パないな……」
多分だけど、その魔法の影響で……このあたり、というか、あの洞窟を一定以上進むと、空間そのものが酷く歪んでるんだろう。それこそ、わずかな揺らぎで転移魔法並みの瞬間移動を偶発的に起こすほどに。
恐ろしい話だ……副次効果、あるいはただの余波でそんなことを起こすなんてのは。
それに気づいた僕は、最大出力で通信機を使い、僕以外のメンバー――幸い、僕以外はばらけることもなく一緒にいて、無事だった――を地上に帰らせた。
あのまま探索はまずい。同じような現象が起こって、チームそのものがバラバラにされかねない……そうなったら、師匠とかブルース兄さんとかはともかく、クレヴィアさんやラインハルトさん、マークさんが危ない。悪いけど、戦力的に不安がある。
同じように、戦闘能力に乏しいメラ先生も心配だけど……あの体は『ジェミニ』と『バルゴ』の合わせ技で作った偽物……遠隔存在感のロボットだ。
本体はオルトヘイム号にいて、そこから操作して体を動かしているので問題ない。
……ただ、そろそろ例の魔力の歪み、よどみのせいでノイズが入り、動かしづらくなってきているという話だったので、どっちみち限界が近かったんだけど……。
そしてその上、魔力のゆがみのせいで転移その他の魔法がことごとく阻害される。障壁は何とか大丈夫そうだけど……緊急時の救出が難しい。
……最悪、通路とか全部ぶち抜いて地上までまっしぐら……ってこともできなくもないかもだけど、確実に崩落するのでやめときたい。
というか、だ。まともに探索できる気がしないし。
仮に、いくら戦力に不安がないからと言って、僕や師匠なんかが調べても……あの理不尽にもほどがある強制的な転移のせいで、あっちこっちに飛ばされて探索どころじゃなくなるだろう。
時間があれば、アレにも対抗できる転移対策――厳密には転移じゃないけど――のマジックアイテムも作れそうだけど、1日2日じゃ無理だし……
なので、作戦変更。『調査』はやめた。
代わりに……
「師匠、ネリドラ、リュドネラ……進捗状況は?」
『順調だ……相変わらずノイズはひどいがな』
『ん。でも、許容範囲内。何かあってもまずいし……慎重にやる。慎重に』
『でもコレ、すっっごい複雑だね……解析も書き換えも時間かかりそう。……コロニーのマザーコンピューターにつないで、アドリアナさんにも手伝ってもらわない?』
「いや、アドリアナ母さんはほら、君らほど魔力の解析にたけてるわけじゃ……あ、でももともとシャーマンなんだっけ。なら知識はあるかも……コンピュータは動かせるわけだし……よし、頼もう。ナナかクロエに言って連絡させて」
『了解。……解析もハッキングも、人手があった方が楽』
さて、今ちらっとネリドラが言ったけど……今僕らは、ハッキングをしている。
進めないのなら、進まずに、今ここでできることを……そう考えた僕は、今自分がいる場所が、すでに封印魔法式の内部であることを利用して、それそのものへの干渉を試みた。
が……都市1つ使った魔法陣だけあって、今僕が持っているデバイスだけじゃ無理だった。
なので、ちょっとした力技を使っている。
簡単に言えば……僕を中継地点にして、『オルトヘイム号』のメインコンピューターを使って解析・干渉を行う。やるのは、ネリドラ達に任せた。
効率よく情報をやり取りするために作った、魔力版の電波……略して『魔電波』を使い、僕を中継して、ここの魔法陣に、そこにある術式そのものに干渉し解析する。僕という、バカみたいな出力でも耐えられるルーターを間に置くことによって、この距離、このよどんだ魔力の影響下でもそれが可能だ。
欠点としては……漏れ出す『魔電波』の余波で魔物が引き寄せられる点。
さっきから数分おきに戦ってるんだけども……まあ、これくらいなら問題ない範囲だ。スタミナ的にも魔力的にも余裕。まだまだ戦える。
……けど、密室暗所に1人ぼっちで若干寂しくなってきたので、気持ち急いでほしかったり。
☆☆☆
それから数十分。解析が終わった。
局大規模の魔法陣の解析時間としては……まあ、ありていに言って破格である。
いや、訂正。破格どころじゃないな……驚異的だ。
うちの解析班の腕と……何より、『魔量子コンピューター』の住人であるアドリアナ母さんの協力があったからこそだな。作っといてなんだけど、アレの解析力はホントに驚異的だ。
そして、解析を完了したなら話は早い……手元のタブレットにそれを表示し操作する。
ええと……ここに封印されてる魔物は……おいちょっと待て、マジかこれ?
「……ざっと30000体超……ってどういうことコレ!? あ、でもよく見ると……」
『ええ、正確には30429体。でも、そのほとんどは大した魔物じゃないわ……これって、周辺に近づいた魔物を片っ端から取り込んでた、みたいに見えるわね』
と、通信の向こうから聞こえるアドリアナ母さんの声。
片っ端から、か……
『付け加えて言うなら、封印式と、この周辺に漂う異常な魔力に生かされてる魔物が相当数いるな……封印解除したら、その瞬間死ぬぞ、それらは』
『その割合は……およそ94%といったところ』
『それでも2000体くらいは生きて放たれるか……でも、そのほとんどは多分CとかBランク以下のザコ魔物だね。数がちょっと絶望的だけど……』
『それに、その中の1割くらいはAランク以上ね』
……ひどい話だな。Aランクオーバー200体を含む、2000体の魔物が解放されるのか……普通に小国1つ、あっという間に滅ぶなコレ。
けど見る限り、一気に全部、ってわけじゃなさそうだし、なんとかできなくはない、か。
数に関しては……僕にちょっと手があるし。
けど問題は……3つほど、どでかい反応がある点だ。
間違いなくSランク以上の魔物。それが3匹……いや、その中の1匹の気配が特にやばい。
『モビーディック』とかそれ系のがいそうだ……どんなのかまでは、解析が及ばなかったか。
……けどまあ、やるしかないか。
時間もあまりないだろう……作戦会議とか、迎撃準備のためにいったん戻って、その間にコレが解放されたら、それこそ大事件だ。ここでやるしかない、うん。
……さて、じゃあ……
「……30分後に封印を開放するので、全員戦闘準備。強制転移……は難しいから、歪曲空間に指向性を持たせて、目覚めた連中が上へ上へ行くようにする。弱いのは極力、洞窟内にいるうちに始末できるようにするから……」
『中で、って……どうやって? いくらミナトでも、入り組んだ洞窟の中でそれらを始末してまわるのは難しいんじゃ……』
『『マウス』と『ピスケス』を使う……あんまり気は進まんけど』
『……マジで?』
マジです。リュドネラにそう返しておく。
だって、それしかないよ……こんな入り組んだ迷路の中で、大量の敵を相手にするっつったらね。
それから30分待って……その間に、準備は済ませてある。
タブレットからの操作で、外部から強制的に封印を解除。
一気に騒がしくなるダンジョンの中……僕は、この空間歪曲に乗って脱出する用意をしつつ、2枚の『CPUM』のカードを取り出す。魔力を込めて投げれば……電子音声と共に、2匹の人工モンスターが現れる。
『Mouse!』
『Pisces!』
1匹は、今いる、ちょっと広い空間にぎりぎり収まるくらいの、金属光沢を放つ巨大な魚。
もう1匹は……実戦では初めて使う、ごく小さな魔物……十二支枠の1つ『マウス』。
といっても、見た目はちょっとネズミには見えない。
だってコレ……手のひらに乗るくらいの楕円形の、ぷにぷにした半透明の物体に……紐状の尻尾が1本生えてる、ってか、くっついてる状態だもの。
すさまじい手抜きデザイン。幼稚園児の落書きだってもっと何かあるだろう。耳とか、足とか。
まあ、それも仕方ないだろう……なぜならこの『マウス』は、ある能力を持っているために……あえて複雑な体構造を持たせていないのだから。
足元で、足もないのにとっとこ走り回ってる、ちょっとかわいい『マウス』を、尻尾をつかんで持ち上げ……近くにあった大きな水たまりに、ぽちゃんと投げ入れる。
……すると、数秒後。
その水たまりの水をすべて吸収し……分裂して数百匹に増殖したマウスがそこにいた。
この『マウス』……体構造は、スライム系統の魔物をベースにしている。
なので、水を与えると……あっという間に分裂して増殖するのだ。そして、数の暴力で敵に襲い掛かり……おっと、ちょうどいいのが来た。
早くも、解放され(そして封印の負荷に耐えきり)、洞窟を上がってきた魔物の一団がこっちにやってきた。
マウスの一部がそれに殺到する。そして、足元から駆け上がって魔物の体にまとわりつき……
――ドドドドォォン!!
……とまあ、このように自爆する。
爆発と、その際にまき散らす酸の体液で殺す。
これが……増殖&自爆型無差別大量破壊用CPUM『マウス』だ。
さて……この洞窟は、水たまりならそこら中にあるし、水没してる通路すらある。『材料』には事欠かない……魔力も大量に流し込んでおいたので、数万匹単位まで増えることができるはずだ。
そして、もう1つ……ピスケスの方も。
この、鯨なみの大きさの巨大魚『ピスケス』は、普段こそその大きさを生かした丸飲み&溺死殺法や、まとっている水を使ったレーザーでの攻撃が主な戦闘手段だけども……もう1つ、こいつには別な姿がある。
僕がピスケスに合図を送ると……次の瞬間、ピスケスの体を覆っている魚の鱗――といっても、1枚が人の顔くらいの大きさがあるんだけども――が、ぺりぺりとはがれ落ちていく。
あっという間に、頭から尻尾まで全部の鱗が剥がれ落ち……その後には、何も残っていなかった。骨も、何も。
そして、剥がれ落ちて空中に漂っている数千枚の鱗に……変化が起きる。
鱗の1枚1枚に、切れ込みが入って口ができ、そこに牙が生え……尾ひれが、背びれが、胸鰭が生え……1匹の大きな銀色のピラニアになった。
同じ事が、全ての鱗に起こり……数千枚の鱗は、数千匹の空飛ぶピラニアになった。
これが、『ピスケス』のもう1つの姿……名付けて『パニックモード』だ。
空飛んだり、突破力のあるような奴がいると、マウスじゃ取り逃がす可能性があるからね。
こいつで、進路をふさいで……仕留めるわけだ。
「行け……食い散らかしてこい」
号令と共に、通路へ殺到していくピラニアたち。
数秒後には、R18-G(グロ描写)間違いなしの過激極まりない流血パーティーが開催されるだろうけど……別に見たくもないので、さっさと『歪曲』に乗っかって転移する。
外に出ると……まだ、魔物は出てきていなかった。
師匠たちが待っていてくれたので、合流して……さて、数分後には……『マウス』の自爆地獄と、『ピスケス』の捕食地獄を逃れてきた奴らを相手に、バトルだな。気合い入れよう。
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