魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第558話 敵拠点(推測)への道中

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 テオに案内してもらってたどり着いた、龍の『集落』。
 残念ながらそこでは僕らは歓迎してもらえてなかったっぽいので、ギスギスした空気の中に長いこといても楽しくないし、さっさとお暇することにした。

 排他的……というよりかは、そもそも外部とやり取りするっていうことを経験も想定もしてない人達だ。いや、人じゃなくて龍か。
 いくらこちらに敵意がなくて、打ち解けたいと思っても、まあ……普通に考えて難しいだろうしね。

 あまり強引にこちらから迫ったりすれば、余計に警戒されかねないし……そもそもそういうのは、僕自身も嫌いな『価値観の押し付け』にあたるわけだし。

 ちょっとドライな話、将来的にはともかく、今は別に彼ら(っていう言い方でいいんだろうか)の協力とかがあってもなくても、この星の探索には支障はない。
 ひとまず目的は果たした。彼らが知っている限りの『怪しい場所』については聞けたわけだし、さっさと僕らは僕らの方の幼児を済ませることにしよう。

 ……とまあそういうわけで、ただいま僕ら、また移動中である。

 さっきの『集落』で聞けた、おそらくは『ダモクレス』の連中が拠点か何かを構えていると思しき場所を目指して。

 そこそこ距離あるみたいなので、徒歩じゃなく、いったん船に戻って空飛んで移動してます。
 地上の動物や、そのへんを縄張りにしている龍を刺激したりしないように、高度は高めにとって、なおかつステルスその他の明細系の機能も使った上で。

 移動中はせっかくなので、甲板でくつろぎながら景色とか眺めてたんだけども、船の淵の手すりに寄りかかっている母さんが、はあ、とつまらなそうにため息をついている。

「まあ、目的地になりそうな場所が割れたのはよかったけどさあ、せっかくのダンジョン攻略なのに、まずやらなきゃいけないのが悪者退治ってのもなんだかなあ……」

 あくまで『渡り星』がダンジョン扱いされてるのにはもう今更だから触れないとして。

「もうちょっとこう、さあ……みんなで景色のいい場所見つけてお弁当食べたり、珍しい魔物見つけて倒して素材持ち帰ったり、隠された秘宝を探して大冒険とかしてみたかったのに……」

「まあまあ、そういうなよリリン。事前にタチの悪いトラップとか解除するための作業みたいなもんだと思えばいいじゃない。それこそ遺跡とかにはよくある奴だろ?」

「そーそー、快適に冒険するために、お邪魔な障害物は先に排除しておくに限るニャよ」

 そして、新進気鋭で得体のしれない部分数多の悪の秘密結社が、見事に障害物扱いかあ……しかも、アイリーンさんやエレノアさんがこう言ってる当たり、このへんは恐らく『女楼蜘蛛』に共通の認識なんだろうな。

 これにはさすがに、僕やエルク、ザリーやナナも、傍で見ていて苦笑するしかない。

 まあでも、言い方や受け取り方はともかく、邪魔な連中だっていう点には同意するし、先にそういうのをきちんと処理しておいた方が、あとから楽しく探索できる、っていう点もその通りだ。

 それにもしかしたら、その『邪魔者』であるダモクレスの連中を排除すれば……その被害を受けて縄張りを追われることになった、龍の皆さんも助かるかも。
 そうすれば、さっきの集落の皆さんの態度も、少なからず軟化するかもしれないし。

 うん、それがいいな。やっぱりまずは邪魔者を片付けて、平和になった『渡り星』でゆっくり探索とかいろいろやることにしよう。

「あーそうだ母さん、さっきテオに聞いたんだけどさ。もしかしたらこの星のどこかには、『龍神文明』の時代の財宝とかなら眠ってるかもしれないらしいよ?」

「え、マジで? やだ、面白そうな話じゃない、詳しく」

 母さんだけでなく、アイリーンさんやエレノアさん、そして向こうで酒盛りしてたシェリーや義姉さん、テーガンさんも興味津々らしい。ずい、と身を乗り出して近寄ってきて聞く姿勢である。

 なお、師匠はその時一緒にテオの話を聞いてて既に知ってるので、危機はするけどそこまで注意は向けてきてないようだ。

「ほら、ここの……『渡り星』の龍ってさ、『龍神文明』時代に地上を支配してて、生贄とか受け取ってたのは知ってるでしょ? けどその時、生贄だけじゃなくて、色々財宝とか貢ぎ物みたいなものも捧げられてたんだって」

 その種類は多種多様で、単純な金銀財宝はもちろんのこと、希少な鉱石やら何やらの素材や、それらを使った強力なマジックアイテムなんかもあったそうだ。
 それらのうち、『渡り星』の肥やしになりそうな、高エネルギーを持ったものは、その力を星に還元していたそうだけど……そうでない、ただ単に高価なだけの財宝はというと……率直に言って、龍達には使い道がなかったものなわけで。
 ぶっちゃけて言えば、もらっても仕方ないものだった。

 そしてそれらは当時から、どこかの洞窟とかに無造作に突っ込まれて保存――と言ってもいいものか迷うくらいにはお粗末な状態でだが――されていたらしい。
 たまーに物好きなドラゴンが眺めたりする程度で、ほぼほぼ誰も興味とか示さなかったそうで。

 もちろん、テオとしてもその辺の話は伝聞でしかなく、そういう財宝がどこにあるのかっていうのも知らないそうだから……もしそれを探そうと思ったら、まずはそういうのの手がかりから探すか、この惑星そのものをしらみつぶしに探すことになるだろうけど。

 しかしそれでも、『そういうのがあるかもしれない』という情報は……なかなかどうして、『冒険者』っていう生き物にとっては、その名の通りの冒険心を掻き立てられるものがある。

 宝探し……うんうん、立派にダンジョン探索の目的っぽいじゃないか。
 しかも、もしうまいこと見つかれば、それは『龍神文明』の時代の遺産として、歴史的な価値がプラスして付くかもしれないと来たもんだ。

「なるほど、龍の神様への貢ぎ物……さぞかし豪華だったんでしょうね。どんなのだったのかな?」

「そういうのって、単に豪華な財宝ってこともあれば、わけのわかんない宗教的なアイテムだったりもするよね。何に使うのか全然わからないようなの」

「どっちみち実用性なんて考えられてない、儀礼用のアイテムってのが大半だからねえ、そういうのは……まあ、鑑定してもらって売っぱらう分には問題ないでしょ」

「けど、洞窟とかに無造作に突っ込まれてる可能性高いんだよニャ? 保存状態とか最悪なんじゃニャい?」

「その時はまあしかたねーだろ。最悪、金属類は鋳つぶしてインゴットにでもすればいいし、宝石は磨きなおせば多少は価値も戻るとは思うぞ」

「貴重な素材とか、マジックアイテムとか残っててほしいですよねー……エネルギーがあるものは消費されちゃった的なこと言ってたけど、掘り出し物とか残ってな―――」
 
 と、そこまで言って、言いかけて……僕は言葉を切った。

 言ってる最中に、視界にちょっとした異物が飛び込んできたもんで、そっちに気を取られて。

 それとほぼ同時に、母さん達もそれに気づいたみたいで、一斉に僕と同じ方を向いた。

 空の彼方、まだ小さな黒い点くらいにしか見えないけど……あきらかにこちらに敵意をもって、飛んで何かがやってきている。
 そして、今の場所とか状況その他を鑑みれば……まあ、何がやってきてるかなんてのは、半ば予想するまでもないくらいのもので。

 念のため、目に魔力を込めて視力を超強化してみると……ああ、やっぱり。

「龍ですね。しかも見た感じ……こないだ成層圏で襲ってきたやつと同種族です」

「向こうから出て来てくれたってわけだ。なるほど、どうやら俺達の向かうべき行き先はこっちで間違ってねえらしい」

「こっちに来られるとまずいから追い返しに来たってわけだニャ」

「完全に逆効果だけどね」

 そうですね。あからさまに『こっちに何かある』って教えてるようなもんですからね、このタイミングでの襲撃とか。

 結構な速さで飛んできているので、接敵もすぐだろう。
 こないだと同様、さくっと討伐して先に進むとしようか。


 ☆☆☆


 そしてそのわずか数分後。
 『ダモクレス』によって差し向けられたクローンドラゴン達は、1体残らず消し飛ばされ、ほとんど時間を稼ぐこともできずに文字通り散っていた。

 前回同様『カタパルト』によって射出され、船に先行する形で会敵したミナト達が、ほとんど鎧袖一触といった勢いで一掃し、そのあとすぐに追いついてきた『オルトヘイム号』に再び乗って回収されていった。

 最早勝負にも何にもなっていないその様子を、離れたところから隠れて見ている者が1人いた。

 種族特性によって水の中に潜みつつ、その状態で気配も極限まで殺して、絶対に気づかれないように……サロンダースは、その一方的というのも生ぬるい蹂躙劇の一部始終を見届けた。

(……まあ、わかってはいたけどネ、あの程度ではもはや時間稼ぎすらほとんど無理ということか……1体1体がゆうにAAAランク程度はある強さだと聞いていたのだが、本当にでたらめ極まる戦力だヨ)

 水面越しに見ているサロンダースの眼前で、『オルトヘイム号』は飛び去っていく。
 その行く先は……まっすぐ、直撃コースとまでは言わないものの、確実に、こちらが一番来てほしくない場所へと向かうルートだった。

(迎撃はむしろ、連中に『こちらに何かある』という確証を与えてしまうだけでもあるガ……今更だろウ。どこかの龍の集落か何かで情報を入手しているのだろうから、隠す意味はさほどなイ。そもそも、この星に来れるわけがないとタカをくくって、隠蔽もほとんどしていなかったしネ)

 望遠用の器具を用いても最早見えなくなるほどに十分に『オルトヘイム号』が離れていった後、ようやくサロンダースは水面から姿を現した。

 軍服のまま水に潜っていたようで、頭のてっぺんから足元までずぶ濡れであるが、特に気にした様子もなく、すたすたと歩いて湖の外に出る。

 ずぶぬれの服はしかし、どうやら特殊なマジックアイテムの類だったらしく、水中から出てものの数秒で、表面はもちろん内側にまでしみ込んだ水分が抜け、乾燥機にかけた後のように、しみの1つもなくきれいに乾いた状態になった。
 さらに数歩歩けば、足跡に水分が残ることももはやない。全身、同じような効能を持つマジックアイテムで固めていたらしい。

(正面から戦えば、あの中の1人にすら勝ち目は全くない。……改造手術を施された今の私でも、おそらく不可能だろうネ。ならばこそ、機会をうかがうしかない……)

「チャンスは必ず来るはずだ。彼らが、この先にある……ダモクレス財団の研究所の破壊や、総裁の討伐を目的としているのなら……そうだからこそ訪れる、付け入る隙が」

「チャンスって具体的には?」

「………………」

「ねえねえ」

「はあ……小噺や喜劇のように掛け合いからのびっくり仰天な展開を期待しているのなら、残念ながら期待には添えないヨ」

「なんだよ、ノリ悪いな」

 その瞬間、サロンダースは抜刀しつつも大きくその場から飛びのく形で地面を蹴って離れ……間一髪のところで、ミナトの拳が地面に叩きつけられたのに巻き込まれずに済んだ。

 もし後一瞬退避が遅ければ、あるいは自分の力を過信して受け止めるようなことをしていれば……先ほどまで彼が潜んでいた湖よりもやや浅めのクレーターの底で、木っ端微塵に粉砕されて終焉を迎えていたかもしれない。

 指して本気でもないであろう一撃で、十分に自分を葬ってしまえるだけの力をあっさりと見せつけたミナトを前に、サロンダースもさすがにたらりと冷や汗を流す。

「やれやれ……気配は完璧に殺して、隠蔽効果のあるマジックアイテムまで使っていたんだがネ」

「お前、ドレーク兄さん達やテーガンさんとすでに交戦済みだろ? 『指輪』に記録されてたその時のデータを解析して、お前の魔力パターンなんかはこっちの索敵兵装に記録させてあったんだよ。近くまで来たら、見えようが見えまいがすぐ気づけるようにね。それでも、水面から出てくるまではこっちも探知できなかったのはまあ、さすがの性能だったと思うけど」

「おちおち隠密行動もできないということか……本当に何というか、こんなところまで来てしまう技術力といい行動力といい……敵に回した時点で終わり、という評価がピッタリだネ、君は」

「誉められてるような、はたまた単なるバケモノ扱いされてるような……まあどっちでもいいか。一応言ってみるけど、降参とかする気ある?」

「ないヨ」

 その瞬間、突如としてサロンダースの背後の、何もなかったはずの空間に、滲み出すように巨大なサメのような魔物が現れ……サロンダースはそのまま、丸のみにされるような形で口の中に消えた。
 『え゛!?』と、さすがに驚くミナトの目の前で、そのサメは出現した時と同じように一瞬でその場から掻き消えていなくなった。

 が、その直後にはミナトは素早く再起動し、何もない空間を殴りつけるように拳を振るう。

 その拳は、まるでガラスを割るように空間そのものをガシャン!と砕いて割り、その向こうで逃げようとしている巨大なサメの魔物の姿をあらわにする。

 同時にミナトは帯の収納から、先端にて鉄球のついた黒い金属の鎖を取り出して、投げ縄のように投擲。絡みつかせてサメを捕らえ、そのまま引っ張り戻して通常空間に復帰させる。

 半ば一本釣りのような形で回収され、じたばたともがくサメの頭を横から殴りつけて黙らせると、その口の中を大きく開いて中を確認するが……

「……いない。なるほど、異空間への潜航と、同時に体内で転移魔法でも発動させられるようになってるのか? 二段構えの逃走用手段だったわけか……さすがにここから追跡は難しいな。というか何だよこのサメ? 『麒麟』の遺伝子でも混ぜ込んでキメラでも作ったのか? 仕方ない、調べた方がよさそうだし、コレ持って船に戻るか。多分だけど、進む方向は間違っていないっぽいし」



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