魔拳のデイドリーマー

osho

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最終章 エピソード・オブ・デイドリーマーズ

最終話 これからも、ずっと

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 時は流れ、

 ミナト達が『女楼蜘蛛消失事件』を解決し――しかし、『歴史』そのものが変わったがゆえに、その功績が当事者たち以外に知られることはなく――数か月が過ぎていた。
 『ダモクレス財団』という名の巨悪が消え、その後起こった大事件も人知れず解決した今、アルマンド大陸は、いつもと変わらない平和な日々を取り戻していた。



【ローザンパーク 鍛錬場】

「とぉりゃぁああぁ―――っ!!」

 裂帛の気合と共に地を蹴るシェリー。
 蹴った地面が割れるのではないかという勢いで飛び出し、手にもった魔剣に爆炎を纏わせて、その勢いを載せて振り下ろす。

 地形すら変えかねない威力の乗ったその炎の刃を、しかし訓練相手であるテーガンは、その大矛で涼しい顔で受け止め、そのまま弾き返す。
 そして返す刀で、背後から無音で忍び寄ってきていたサクヤの、首を狙った一撃を軽く防いで払いのけた。

「っ……」

「隠密の技術は大したものじゃ。わしでもほとんど足音を聞き取れんかったぞ。じゃが……殺気を消しきれておらんな。それでは鋭い相手には容易く気付かれてしまうじゃろう」

「ご指摘……痛み入りますっ!」

 弾かれた勢いを利用してその場から飛び退り、同時にマジックアイテムを使って体を透明にし、その視界から消えるサクヤ。

 それと同時に、今しがた弾いたシェリーが再び剣に炎を纏わせた。
 こちらは気配はもちろん、その顔に浮かんだ好戦的な笑みも……強い相手と戦えているその喜びも隠すことはなく、再びミサイルのような勢いでテーガンにとびかかっていく。

 今度は背中から炎の翼を生やし、勢いはもちろん、剣に纏う炎の火力も数段増している。
 周囲の空間が陽炎のように歪み、自然発火のように炎が周囲に湧き出るように現れ始めていた。

 纏う空気すら攻撃に変わるほどの熱と共にぶつかってきたシェリーを、テーガンはまたしても苦も無く大矛で受け止める。しかしその勢いゆえか、先ほどと同じように軽く弾いて飛ばすということまではできずにいた。

「気合が入っておるのう、結構、結構! なんなら、件の『なんとか財団』とやらが健在だった頃より成長著しいのではないか?」

「そーかもしれませんね! だって……戦うにも鍛えるにも、今の方が楽しいし!」

「ほう、それはまた?」

「敵を倒せるようになるために鍛えるのもいいけど……やっぱ自由に、好きなように生きてこその私ですから! 使命とか義務感とかそんなのじゃなくて、戦いたいように戦って、納得できるように鍛えて……それが一番、私らしくいられるからっ!」

 思いのたけを響かせるシェリー。
 鍔迫り合いの間にも、周囲の地面が自然発火して焦げ付くほどの熱がまき散らされているが、テーガンには汗一つ浮かぶことはなく、その格の違いを物語っているようだった。

 しかし、そんな強者と戦えているというのもまた、シェリーにはこの上なく楽しい時間。
 その一分一秒が喜びに、そして力に変わるとでもいうように、シェリーはさらに笑みを深くしてその場から飛び退り……いったん距離を取る。

 そして、そのタイミングを逃さず、真上に現れるサクヤ。
 6本の腕にそれぞれ武器を持つ彼女だが、今回はそれに加え……『土蜘蛛』の種族特性として体から出すことができる『糸』を操って迫る。

 大量の『妖力』に加え、特殊な薬品を混ぜ込むことで耐熱性を持たせた糸を、まだ熱気が残る中にいるテーガンに放って拘束しようとする。
 が、大の大人もわずかに身動きもできなくなるほどに強靭な糸も、テーガンの矛の一振りでバラバラに断たれて散っていった。

 しかしそれも予想していたサクヤが、一切取り乱さず表情も変えず、別な手から糸を出し……それを鎌に結び付けて振り回し、まるで鎖鎌のように操る。
 それに加えて近距離もカバーするように、刀や小太刀も同時に構えて懐に飛び込み、強襲する。

「ふむ、シェリーとは違って、凪いだ水面のように静かな闘志じゃが……お主も随分と気合が入っておるのう……お主も今の方がやる気がでるクチか?」

「否定はしませんが……時世がどうあれ私には、努力や研鑽を怠るなんていう選択肢は存在しませんから。ミナト殿の役に立つために、もっともっと強くなりたい、それだけです! そのためにも……ご教授願います、テーガン殿」

「その意気やよし! いくらでも付き合ってやろう……そら、この年寄りにさっさと汗の一つも流させてみろ、小娘共!」



 シェリーの剣とテーガンの矛がぶつかり合い、衝撃波と爆炎が飛び散る。そこらの魔物なら、余波だけで消し飛んでしまいそうなレベルの熱と衝撃が、鍛錬場の空気を焼いていく。
 その合間を縫うように、透明になっていたサクヤが姿を現し、6本の手にそれぞれ持った武器や、種族特性で出すことができる『蜘蛛の糸』を使って強襲し、しかし防がれては再び消えて隠れて……という繰り返し。

 そんな訓練風景を、鍛錬場の外で眺めている男が2人。

「どんどん強くなるねえ、シェリーちゃんも、サクヤちゃんも」

「うむ。若い者の成長が早いというのは知っているが……ここ最近の上達具合は目を見張るものがあるな」

 この『ローザンパーク』の主であるイオと、その兄弟の1人であるミシェルである。

 彼らもまた、時々遊びにやってくるこの2人……戦闘狂のネガエルフ娘と、向上心豊かな土蜘蛛娘の相手をすることが多くあった。イオはその巨体を生かした純粋なパワーとタフネスで、ミシェルは得意の『死霊術』を使って様々なアンデッドを作り出して。
 そんな2人だからこそ、シェリーとサクヤの2人が、前よりもどんどん強くなっていることを、容易く察することができた。

 もうすでに2人とも、自分達でも決して油断ができないというレベルにまで至りつつある。
 2人そろってああも軽くあしらわれているのは、ひとえに相手をしているのが、超がつく実力者であるテーガンだからこそだ。

 そんな中、ふと空を見上げたミシェルが、大きな影がローザンパークの上空を横切るように飛んでいるのに気づいた。
 魔物の襲撃か、と一瞬思ったものの、すぐにその正体に気づいて警戒をやめ、息をつく。

 上空には、黒いうろこに琥珀色の翼をもって飛翔する龍と、その背中に乗って楽しそうに笑っている小さな少女が見えていた。

「ゼットとエータだな……戻ったか」

「このへんの見回りの仕事任せてるんだっけ? あの様子なら、特に何も悪いことはなかったみたいだね」

 高速で長時間飛行可能な機動力に加え、ゼットはその腕っぷしでもって、この山にナワバリを持つ魔物達や猛獣達の頂点に君臨していた。
 さらにエータも、割と細かい所に気が付く注意力を持っているのに加え、龍族の魔物たちと心を通わせる力を持つため、ローザンパーク周辺の見回りには最適な人材だった。

「もうすっかりローザンパークの一員だねえ。一時は『無法者の根城』なんて呼ばれてたここも、いつのまにか色んな子達が集まってくるようになったもんだ」

「はっはっは……原因はわかりきっておるがな。まあ、騒がしいのは別に嫌いでは……おっと」

 話している途中、流れ弾―――シェリーが放った飛ぶ炎の斬撃を、魔力を込めた手で打ち払って防ぐイオ。

「あっ、すいませーん! そっち飛んでっちゃいましたー?」

「ああ、何、この程度問題ないとも。気にせず続けるがいい」

「はーい、気を付けます!」

 そう元気よく答えて、テーガンとの組手に戻るシェリー。
 気を付け『ま』の時点で足が動いて駆け出していたのを見て、やれやれと苦笑する2人。

 ふとイオは、今攻撃を打ち払った手を見下ろす。
 かき消すことにこそ成功したものの、その手には小さく切り傷と焦げ跡がついていた。

 これが数か月前であれば、無傷で、熱さすらほとんど感じずに防げていた。

 その傷も、特に気になるほどではないが、『傷がついた』という事実を、手のひらのわずかな痛みから感じとり……イオは、人相ゆえに仕方ないことではあるが、獰猛そうな……しかし、心から嬉し気で楽し気な笑みを浮かべていた。
 横からミシェルもその手を覗き込んで笑いながら、

「僕らが訓練相手を務められるのも、そう長いことないかもしれないね、この分だと」

「ふん、何を弱気になっている、ミシェル。確かに若者の成長は見ていていい気分ではあるが、かといってこちらも、若いもんにはまだまだ負けんとも」

「そうだね、年上の威厳とか意地もあるし。あと1世紀くらいは頑張らなきゃ……おっと」

 再び飛んできた流れ弾を、ミシェルは闇を収束させた障壁で防ぎながら、大暴れする若人達を、イオと共に見守っていた。


 ☆☆☆


【ウォルカの町 マルラス商会本店】

「こちら、今回の発注分だそうです。よろしくお願いします」

「はいよ。えーと……7号から15号までの薬用溶液を10リットルずつと、乾燥させたトロカ香木2kg、各種薬草や毒虫系の素材がわんさか……それから論文執筆用の上質紙2万枚に……製錬前のミスリル鉱石? しかも3tて……またえらい注文持ってきよったな」

「なんかミナトさん、研究が色々上手くいっててここ最近素材の消費が特にハイペースみたいで……なるべくでいいから急ぎで納品お願いしたいそうです。特にミスリル鉱石」

「あんなあ、アレ一応レアな魔法金属やねんで……まあ、欲しい言うなら用意したるけど、今そこそこ品薄やから値が張るんは覚悟しいや?」

「それは大丈夫です。いくらでも出していいって言われてますから」

「さよか。そらお大尽様や」

 マルラス商会本店の奥にある応接室にて。
 ミナトに頼まれて、必要な物品の買い付けに来ていたナナを、この館の主であるノエルが直々に相手をしていた。

 従業員に任せず、ノエルが相手をしている理由は、至極単純。弟の代理でいつも発注に来るこの少女は、まいど滅茶苦茶な内容の発注を持ってくるからだ。
 普通の従業員に処理させたら『えっ……えっ?』という感じになってしまいそうなものを、平然と要求してくる。

 それは決して、モンスター的な意味での『滅茶苦茶』ではない。ただ単に、買い物のスケールが大きすぎるのだ。今のように、希少な素材をトン単位で、支払でひと財産もふた財産も動くような量と内容の発注を平然と、毎度行う。
 時には、一般には流通しない『ヤバい』部類の品の扱いすらあるため、一般の事務員に任せられないのだ。

 しかしもちろん、ノエルはそれに呆れることはあっても、迷惑だとか悪感情を抱くことはない。
 客の望むものを仕入れて適正な価格で売るのは、商売人として当然の仕事だ。

 むしろ、このとんでもない内容の買い物を毎度任されるナナに申し訳ないとすら思っていた。

「いつもすまへんなあ、ナナちゃん。うちの弟があっちにもこっちにも振り回してもーて……最近なんか特に多いし……負担大きいやろ? 疲れてへんか?」

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。これが私の仕事ですし……好きでやってることですから」

 言葉通り、疲れた様子も微塵も見せず、にっこり笑って言うナナ。
 本心からミナトの役に立てることが嬉しいと、そう言ってくれているのだと察して、ノエルは安心しつつ、『ええ子に好かれたもんやなあ』などと思ったりした。

「それと……一応私ここの従業員ですし。そりゃ商売関係の窓口にもなりますよ。思い切り仕事の範疇ですもの」

「……うん、そやったな。うちも半分くらい忘れとったけど、ナナちゃんうちの部下なんよね」

 言われて『そんな設定あったな』と思い出すノエル。
 今ではすっかりミナトの秘書として活躍しているナナだが、ナナとミナト達との馴れ初めは、思い返せば、奴隷オークションで売られていたナナをノエルが『マルラス商会』として購入し、自分の部下にしたうえで、ミナトの元に派遣していた……というのが始まりだった。
 誰もかれも割と全員、忘れるか、忘れていなくても特に気にしてなかった事実である。

 そして、思い出しはしたものの、これからも気にされることはないだろう。派遣を取り消してナナを手元に回収するメリットなど1つもないのだから。
 ナナ自身もミナトも猛反発するだろうし、なんだったら既に彼女を『未来の娘(の1人)』に認定している母も反発するだろう。そもそもノエル自身、『邪香猫』の中では常識人の部類に入り、エルク、セレナに次ぐミナトのストッパーを担ってくれている彼女をどうにかするつもりはない。あの弟に多少なりともブレーキを掛けさせることができる、貴重どころではない人材である。

「この量なら、せやな……1週間くらいで用意できるやろから、また来週取りにおいで」

「ありがとうございます。あ、それとミナトさんから1つ伝言預かってまして」

「伝言?」

「はい。近々また拠点にノエルさんとジェリーラさんをご招待したいと。ここ数週間でまた色々なものを作ったみたいで、発表したり売りに出しても大丈夫かどうか……あの、そんな顔しないでください、大丈夫ですよ多分。そこまでぶっ飛んだものは出てきませんから……多分。ミナトさんだってきちんとノエルさん達のこと多分考えてますから!」

 話している途中から既に『うわあ……』な表情になり始めていたノエルを見て、必死に自らの思い人を、途中『多分』を3回も使ってどうにかフォローするナナ。

 しかし、以前同じような用途で『招待』された時に、とんでもないものを次々と目にし、あるいは食べることになった時の疲労感がノエルの脳裏にまざまざと蘇ってくる。
 商人としては有意義な時間だったし、あれ以降取引することになった品々が大きな利益をもたらしたのも事実だ。今回もきっと、同じように大きな利益を生む取引ができるだろう。

 だが、そのために越えなければならない試練の大きさがわかっているだけに、商売人であっても素直にそれを歓迎できなかった。

(けど、きちんと確認せんかったらせんかったで余計に面倒なことになりそうやしな……しゃあない、がんばろ……これもキャドリーユ家に、おかんの子供に生まれた者の宿命や。……多分)

「あの……ホントに大丈夫ですかノエルさん? その、なんか……覚悟を決めたような目になってますけど」

「大丈夫、大丈夫……たぶん。てか、よーわかったなそないなこと……」

「あ、はい。ミナトさんがウキウキでラボから何かを持って外に飛び出していった……って聞いた時のエルクちゃんと似たような顔だったので……」

「……今度エルクちゃんと一緒に飲みにでも行こかな……美味い酒が飲めそうや」

 同じ立場の苦労人、それも、自分よりはるかにあの弟と関わる機会が多い『正妻』の娘のことを思い、理由のわからない涙がこぼれそうになるノエル。

 そしてそれは、目の前にいるナナも同じだということに思い至る。
 本人曰く、エルク、シェリーに続いて『3番目』らしいが、彼女もまた、そんなハチャメチャな日常に巻き込んでくる弟を愛してくれた1人の女なのだ。

 これから先、さらに苦労を掛け続けるのだろうことを思って、ほんの少し申し訳なくなりつつも……不覚にも、それ以上にノエルは嬉しくなってしまった。
 自分が認めるこんなにもいい子が、自分の弟を心から想ってくれていることが。

「ナナちゃん」

「はい?」

「……ミナトのこと、これからもよろしく頼むな」

「……ええ、それはもちろん! 任せてください、愛人も秘書もツッコミも全部きちんとこなしてみせますから! あ、あと子供もちゃんと3人は生みますし!」

「おいおい、生生しいて……そないな聞いとらんことまで……。てか、何で3人?」

「あ、はい。リリンさんから『ミナト、孫30人ね』ってノルマ通知が出てまして……リリンさんの計算だと、ミナトさんの現在および今後の状況を予想するに、1人あたり3人産めば楽に達成できるとかなんとか……」

 自分達兄弟姉妹の人数を超える孫を1人の息子に要求するという母の蛮行に頭を抱えるノエル。

「ええんやで? あのあんぽんたんの言うことなんぞ間に受けんでも……無理せずきちんと、ナナちゃんのペースで」

「あははは……ありがとうございます。まあ、そのへんはミナトさん達皆ときちんと話し合って決めますね。皆、まだまだ冒険者として現役で好きなようにやりたいみたいですし……リリンさん達みたいに、もう何十年か好きなようにやってから、って手もありますし」

「それもそうやけど、その間ずっとおかんからの催促がうるさそうやなあ……いやでも、ナナちゃん一応純粋な人間やねんから、『何十年』は無理やろ。おばあちゃんになってまうで?」

「あ、その点は多分大丈夫です。ミナトさんがもうすぐ不ろ……すいません何でもないです」

「ちょい待ち? ごめんなナナちゃん、お姉さん今ちょ~っと聞き捨てならん話が聞こえてきた気がしたんやけど。え、何、あのバカ今度は何作ったん? ……ほらそんなそっぽ向かんと。こっち見て、お義姉さんの目を見てきちんと言ってみ? ん? ~~~んん?」


 ☆☆☆


【『邪香猫』拠点 キャッツコロニー 厨房】

 ファンタジーの世界とは思えないくらいに近代的な設備が揃っている厨房。
 火力があるガスのコンロ(のようなマジックアイテム)があり、IHクッキングヒーター(のようなマジックアイテム)もあり、その他さまざまな調理器具が揃っていた。

 その内のいくつかに鍋や鉄板がかけられ、今まさに料理が行われている最中。
 その中のさらにいくつかは、もうすでに完成して皿に盛りつけられていた。

 その、食欲をそそる香りを漂わせている皿の上の料理に……足音を殺して、ゆっくりと近づいてくる小さな影が一つ。

「それを食べたら夕食は抜きだぞ、ミュウ」

「……むぅ、見つかってしまいましたか」

 あと数歩で皿の上の料理……からっと上がった美味そうなフィッシュフライに牙が届きそうなところまで来ていた、クリーム色の子猫。
 しかし、ため息交じりににゃあ、と残念そうになくと、次の瞬間その姿を変え……彼女、ミュウは本来の少女の姿に戻った。

 そんな旧友の姿に、鍋の中身をかき混ぜながら、視線をよこさずぴしゃりと言ったシェーンは、呆れたようにはぁ、とため息をついた。

「まだ朝飯を食べたばかりだろうが……言えば何か作るくらいはしてやるんだから、つまみ食いをしようとするな」

「いやあ、こんな出来立てホカホカで美味しそうな、しかも私の好物の魚料理を目の前に出されたら、食べない方が失礼じゃないかなー、と。というか、シェーンちゃんこそ何でこんな半端な時間にこんながっつりした料理作ってるんです?」

「これは練習用に作っていた料理なんだよ。今ちょうど……」


 ―――ガチャ


「お待たせニャー。シェーン、課題の料理はできてるかニャ?」

 そこに現れたのは、『女楼蜘蛛』のメンバーの1人であり……そのチームのメンバーたちの胃袋を預かる料理人でもあった女性。猫の獣人、エレノア・トレパロスキーだった。
 さらにその後ろからは、シェーンと同じくこの『拠点』で活躍するスタッフである、ターニャとコレットもやってくる。その手には、これまた美味しそうなにおいを漂わせる料理が。

 今日は、料理人として大先輩であるエレノアに、シェーン達3人が料理の指導をお願いしていた日だったのである。
 そしてシェーンが作っていた料理は、今エレノアが言っていた通り、彼女がシェーンに出した『課題』だった。今まで教えたことをきちんと実践できているかのテストのようなものだ。

 それは見事なまでに美味しく出来上がっていて、結果、おなかをすかせた子猫が釣れてしまったというわけだ。

「にゃははは……まあつまみ食いしたくなるくらい美味しそうだったってことだニャ。よかったじゃない、シェーンちゃん。味も……うん、文句なし合格だニャ!」

「ありがとうございます。引き続き精進し……おい、ミュウ」

「……シェーンちゃん、さっきも言いましたが……こんな美味しそうな匂いをさせておいてお預けとか拷問なのですよ……大至急私の分を要求するのです、料理長」

 エレノアが味を見るためにフィッシュフライを切り分け、その際に衣の中からさらに溢れだした香りは、ミュウの空腹をさらに加速させてしまっていた。視線が食べかけの料理に釘付けである。

「ミュウちゃん、そんな腹ペコキャラだっけ? お腹ペコペコな時のミナトさんみたいな感じになっちゃってるよ?」

「ああ、うん、わかるわかる。子供向けの味の濃い料理とか、甘いお菓子出したりすると特にそういう顔になるよね」

「リリンもそんな感じなんだよニャー……やっぱ親子って似るんだニャ」

 ターニャ、コレット、エレノアが思い思いに言う中、シェーンはやれやれといった様子で、

「わかったから少し待て。というかさっきも言ったが、朝飯からまだそんなに時間経ってないだろう……お前は確かに元々、体格の割には食う方だったが……食えるのか?」

「なんか最近、食べてもすーぐお腹すいちゃうんですよね。自分で言うのもなんですけど……育ち盛りだからでしょうか」

「随分遅い育ち盛りだな」

 幼い見た目に反して自分と同い年に近い年齢であるはず――孤児のため正確な年齢はわからないが、そのくらい付き合いは長い――ミュウにシェーンがそう言うが、ミュウはと言えばしれっと、

「亜人ですから成長期が遅く来たっておかしくはないのですよ。そもそも『ケルビム族』の特徴とかろくに知りませんしね。まあでもマジな話、ここ最近の空腹のひどさは、最近より『霊力』とかそのへんの修行に力を入れ始めたからかもしれませんけど」

「あー、それクローナが言ってたニャ。『霊力』ってたしか、普通に魔力使うより肉体に負担かかるから、疲れるんだって?」

「へー……じゃあミュウちゃん、その『霊力』っていうのの修行頑張ってるんだね」

「せっかく『ヤマト』で勉強できた技能ですし、『式神』とかも作れますから、私の使う『召喚術』とか、魔物を操る系の技能と相性いいんですよね。おバカな悪の秘密結社もなくなりましたし、できることをいろいろ増やすために研究も兼ねて練習するにはいいかな、と」

「なるほどな。そういうことなら、言えばおやつやブランチくらいくれてやるから、つまみ食いはやめろ。こっちだって色々献立とか考えて作ってるんだから、色々狂う。ミナトだってよく感触やら何やら注文しには来るが、基本つまみ食いはしないぞ?」

「あーそれは……ほら、ミナトさんつまみ食い程度じゃ満足しないからじゃない? めっちゃよく食べるし」

「それはあるね……おやつと称してドーナツ10個とか食べるし。しかもデコレーションマシマシで。胸焼けしないのかとか、おやつであんなに食べたら夕ご飯入んないんじゃないかって思ったよ最初は……でも平然と夕飯も間食した上にデザートまで要求してきてびっくりしたっけなー……」

「まず間違いなくそれはあるだろうな……ほら、できたぞ。熱いから気を付けて食え」

「「早ッ」」

「はいなのですよ~♪」

 驚きの早業でフィッシュフライをもう1つ、瞬く間に完成させたばかりか、付け合わせのフライドポテトと、口休め用のパンも用意して1つのプレートにまとめたシェーン。
 見事なフィッシュアンドチップスセットがそこに出来上がっていた。あとは適当にジュースでも合わせれば完璧だろう。

 ほかほかの料理の乗った皿をシェーンから受け取り、すぐそこにある試食スペースに持って行って、『いただきま~す』と、手を合わせて食べ始めるミュウ。

 もきゅもきゅと口いっぱいにほおばって美味しそうに食べる様子を、小さい頃から変わらず、幸せそうに食べるな、とシェーンは思って見ていた。


 ☆☆☆


【ネスティア王国 王城】

「ギーナ・シュガーク、スウラ・コーウェン。チラノース帝国との戦争、およびその後に起こった『神域の龍』の騒乱からこちら、魔物を打倒し、民を守り、祖国に平和をもたらしたその働き、誠に大儀であった」

「「はっ!」」

 謁見の間にて、今しがた名前を呼ばれた2人……ギーナとスウラは、第一王女・メルディアナからの称賛を、軍人らしく直立不動からの見事な敬礼で受け取っていた。
 その表情は、少しの緊張を孕みつつも、称賛されるに値する偉業を成し遂げた1人の軍人、ないし戦士としての自負が確かにある、精悍なものになっていた。

 それを満足そうに眺めるメルディアナは、玉座に座って……ではなく、その前で仁王立ちになっていた。
 玉座とは単なる椅子にあらず。れっきとした国家の権威の象徴であり、玉座に座ることが許されるのは国王のみ。そのくらいのことは、破天荒で知られるメルディアナでも知っていたし、わきまえていた。

 なおそのことに、その斜め後ろに控えて、姉が何かやらかさないかハラハラしながら見ていた妹……第三王女レナリアがひそかにほっとしていたりする。
 また、逆側の後方には、こちらは何も気負ったり心配する様子もなく、にこにこと柔らかな微笑みを浮かべている第二王女・リンスレットがいた。

 しかし、その部分においてはきちんと常識に則ったふるまいをし、また2人の軍人に対して、王族らしい威厳ある詔を述べたメルディアナだったが……どうやら『王族らしい』ふるまいはここまでだったようである。
 そこからはいつも通りに、メルディアナらしい、あるいは、『ある意味』王族らしい、ばっさりした物言いへとシフトしていった。

「さて、まあ前置きはこのくらいにしてだ。はた迷惑な戦争もめんどくさい後始末もようやく終わったわけだが……それならそれでお前達にはやってもらうことがある。戦争なんぞよりよっぽど大事な仕事がな。言わずともなんとなく察しておろう?」

 メルディアナの、数秒前までの王族然とした雰囲気は、口調ごとどこかに消滅していった。
 それを見て頭を抱えるレナリアだったが、一切気にせずメルディアナは話を進める。

 相対している2人の軍人ももう慣れたもの。やや『うわあ』というような雰囲気を纏ってはいるものの、自然体で続きを聞く姿勢に入っていた。

「ギーナ・シュガーク。お前は引継ぎを済ませたら、『キャッツコロニー』への駐在任務に復帰し、そこに滞在する生活に戻ってもらう。まあぶっちゃけて言えば、以前と同じようにミナト・キャドリーユのところで橋渡し役として仲良く過ごす生活に戻ってくれ、ということだ」

「はっ! 謹んで拝命いたします!」

 元気いっぱいといった感じの声で返事をするギーナ。
 その顔には、隠しきれない喜色が浮かんでいる。

「ふむ。やる気がいいのは結構として……あからさまに嬉しそうだな」

「はい、公私混同気味なのを承知で申し上げますが……ミナト殿とまた一緒に暮らせて、修行やら何やらを一緒にできるということを考えると今から待ち遠しいです!」

「うむ、いい感じに緊張や堅苦しさが取れてはっちゃけられるようになったな。結構なことだ」

「結構……ですか?」

「ああ。不必要な場面で変に力んだりして失敗するよりは、常に自然体でいる分、過不足なく力を発揮し、人付き合いも円滑に進められる方がいいだろう? 人間、多少雑にふるまうくらいが本人も周囲も肩の力を抜いて楽に過ごせるものだ」

「お姉さまは少しじゃなく普段から力を抜きすぎだと思いますけどね……」

「お前ももうちょっとはっちゃけることを覚えられれば色々楽なんだろうになあ。ま、それは追々として……期待しているぞギーナ・シュガーク。叶うならそのままミナトにもらわれでも何でもして、ネスティア王国とあ奴との強固なパイプラインを形作ってくれ。寿退社もおめでた報告も歓迎……ああいや、退社はしてほしくないな。やっぱなしで」

「はい、がんばります!」

 かなり無茶苦茶な内容を真正面から言って聞かせているにもかかわらず、ギーナに困惑や羞恥の感情は見られない。
 これには、『ほぅ』とメルディアナも驚いたような感心したような声を漏らした。

 以前のギーナなら、自他ともに認める堅物だった頃の彼女なら、今のような突拍子もない『期待』を向けられて言葉にされたりした日には、顔を真っ赤にしてあたふたと狼狽し始めていただろうことは確実である。
 それが、狼狽えず当たり前のことのように受け止めて、しかもやる気を見せている。これにはメルディアナのみならず、以前の彼女を知っているレナリアやリンスレットも驚いた。

 しかし、ギーナ自身もそれには自覚がきちんとあったようで、

「『ヤマト』に行った時に、きちんと自覚しましたから。私は……ミナト殿を人として、そして異性として慕っています。ですから、彼と今以上に仲良くなることはもちろん、深い関係になることも……むしろ嬉しいというか、望むところというか……。盛大に公私混同している自覚はあるのですが、もしそれで許されるのでしたら……張り切って邁進させていただく所存です!」

「許す! 思いっきりやれ!」

「はい!」

 もうここまでくると勢いだけで会話してるんじゃないかな、とすら思ってしまう主従。
 横で見ているレナリアの溜息が増えるが、実際に国益につながる内容ではあるので咎めることはしなかった。言い方とかやり取りはもうちょっと考えてほしかったが。

 しかもこの話題になると、この2人だけでなく……

「あら、じゃあギーナさんは……将来、私と家族になるのかもしれないんですね」

 この第二王女も乗ってくるのである。
 自らもミナトのことを好いていると公言して――さすがに公の場で言ったりはしないが、親しいものは皆知っている――はばからず、将来、政略結婚などが必要になれば喜んで降嫁する、とまで言っているリンスレットは、さらりとそんなことを言った。

 確かに、もし将来リンスレットとギーナがどちらもミナトに嫁げば、それすなわち家族である。
 そんなことをさらりと言う妹に向けて、メルディアナは振り向いて、

「情勢がアレだから今々すぐには動けんぞ? まあでも、今回のことでミナトという存在の重要性は各国上層部で羞恥となったから……ふむ、冗談でもなんでもなく、そろそろリンスの出番かもしれんな。ただまあ、ミナトが権力に直結するアレコレを嫌うタチだから、普通の『政略結婚』としてくっつけてそれ以降の付き合いを持つのは難しいんだが……」

「それならそれで構いません。私はミナト様と一緒にいる未来を手にできるというだけで幸せですし……政治云々を絡めることはできなくとも、少なくともミナト様は、家族となったものに対しては優しくしてくれる方です。こちらが礼と愛をもって接すれば、同じように返してくださいます」

「それもそうだな。それだと『政略結婚』とは言えない気も多少はするが……あの一族は、無理に政治に引き込んでもいいことはないし、普通に家族ないし友達として付き合っていた方が。普通というか無難に利益になるからな。問題あるまいよ。きっと気まぐれのプレゼントでエリクサーとか差し入れてくるぞあやつ」

「ははは、ホントにありそうですね……ミナト殿なら」

「そのためにも、ギーナ・シュガークと……将来的にはリンスにも期待するとして、だ。スウラ・コーウェン。お前にも期待しているぞ。もっともお前の場合は、そこまで直接的ではなく……どちらかと言えば友達付き合いの延長上と、数で勝負といった感じになるかもしれんがな」

「そうですね。私の部下には、数年前……ウォルカの警備隊時代からミナト殿と面識のある者が何人かいますので、そういった、一部とはいえ『組織ぐるみ』の付き合いができるでしょう。友人が多いというのはそれだけ強いつながりになりますし、その大本と言えるネスティア王国に対しても……帰属意識とまでは言わずとも、友好的に構えてくれることは確かかと」

「もちろんお前自身も、望むなら、あるいは行けそうならギーナと同じように深い仲になってくれても一向にかまわんが……ぶっちゃけお前自身としてはどうなのだ? 付き合いも長いしかなり仲もいいと聞いているが……そういう関係になりたいという願望的なものはあるのか?」

「そう、ですね……」

 顎に手を当ててしばし思案するスウラ。
 その頭の中では、彼と初めて出会った『真紅の森』での出来事や、それ以降、様々な形でかかわりを持った記憶が思い出されていた。

 大変だったこともあれば、ただただ楽しかった、肩の力を抜いて付き合うことができた思い出もあり……自然と笑みが浮かぶ。
 それを見て『ふむ』『おっ』『あら』と興味深そうに周囲の面々が表情を変えていた。

「好きかどうかで言えば……間違いなく好意的に見てはいるでしょうし……もし求められたら応じてしまうかもしれない、というくらいには思っているかもしれません。ただ、どちらかというと今の立ち位置……部下達共々友達付き合いをして、軽い感じで話して笑い合える……という立場が、少なくとも今は居心地がいい気もします」

「そういうものか。まあ、無理強いをする気はないし、してもいいこともないから……別にそれはそれで構わんさ。あやつが相手なら特にな。愛人だろうが友人だろうが、ミナトなら……方向性は多少違うだろうが、どちらも大事にしてくれるだろう」

「はっ。では、ギーナ殿とは多少違う形ではありますが、これからも友誼を深めて参ります」

「うむ。よろしく頼むぞ。ギーナもスウラも……まあここまで言っておいて何だが、別段任務だの何だの意識する必要もない。やりたいようにやってミナトと仲良くなれば、極論それだけで問題はあるまい。お前達も、我が国も、私もそれで幸せだ。各自、欲望に正直に頑張れ。以上」

「「はっ!」」

 最後まで微妙に王族らしくない、適当で砕けた物言い。
 しかし、それを受けた2人は、これから先の未来を見据え……今までにないくらいに、やる気に満ち溢れていた。

 もっとも、そのやる気を持ってやることと言えば、ただ単に……ミナトと仲良くなることだけ。自分達がやりたいようにやって、今既にある有効な関係を保ち、あるいは発展させていくだけ。
 つまるところ、今までの付き合い方と特段変わらないわけだ。

 それだけ続けていれば、後は勝手に国益はメルディアナが拾うし、なんなら待っているだけで、余計なことを考えたりしなくても、勝手にいいことが転がり込んでくるのだから。
 ミナトという、特級の重要人物であると同時に、『どこにでもいる普通の青年』である男との付き合い方を、付き合いの長い面々はきちんと理解していた。


 ☆☆☆


【フロギュリア連邦 王都シィルセウス】

「やれやれ……やはり冬の連邦は寒さが厳しいですわね。故郷のはずなのに全然慣れませんわ」

「普段はそれこそ僕ら、天候ごと自由自在に変えられるぶっとんだ土地に住んでるからねえ……余計にそんな風に思っちゃうのかもね」

 実家ないし貴族関連の用事があり、一時的に連邦に戻ってきていたオリビアと、その付き添いで一緒に帰省していたザリーの2人は、王都の大通りを馬車に乗って走っている。

 といっても、もうすでにその用事自体は終わっている。
 王城にて女王・ファルビューナに謁見し、諸々の報告を済ませ、『これからも引き続きミナト殿達との間の橋渡しをお願いしますね』とお言葉をもらった。それ以上の詳しい報告などは、既に文書で提出してある。

 後は特に必須の用事というものはない。

 正確に言えば、用事がないわけではない。オリビアの家が絡んで開催される『社交界』に、彼女達が招待されているからだ。
 しかし、全て断っているため、結果的に彼女達には『用事はない』のである。そういった場への参加は、オリビアではなく他の『ウィレンスタット家』の者が出席している。

 そういった場にいる者達は、一様にオリビアの実家に加え、オリビアやザリーつながりでミナト達『邪香猫』へのパイプを作りたがっているのだが、ミナト達がほぼ全員共通して、そういった権力絡みのつながりに興味がないか、あるいはむしろ忌避しているので、必然的にザリーもオリビアも、その窓口になるようなことはやりたくない。ゆえに全て断るか、そもそも話を聞くような場に行こうとしない、というわけである。

 唯一例外があるとすれば、一応彼らにとっても知り合いであり、自称・ミナトの『姉弟子』であるメラディール・アスクレピオス博士くらいである。
 姉弟子という部分についてはクローナが頑なに否定してはいるものの、クローナ自身も別に嫌っているというわけではないのに加え、医者としての知識や技術についてはミナトも含めて認めていて、なんならミナトは(姉弟子かどうかはともかく)尊敬してもいる。

 ゆえに、求められたら会うくらいはやぶさかではないし、ミナト側からOKが出れば面会の場をセッティングしたり、『キャッツコロニー』に招いたりすることもあるくらいだ。

 そもそもオリビア自身が、フロギュリア連邦の所属ではありつつも、心情的にも立場的にも今の自分の居場所は『邪香猫』だと思っている。チーム自体のメンバーではないにせよ、ザリーと復縁し、ミナトからも受け入れられて拠点に部屋を持っている。

 もちろん『ウィレンスタット家』の令嬢としての立場はあるし、今後も祖国と『邪香猫』の橋渡しを行うつもりもあるとはいえ、あくまで『邪香猫』の、そしてミナトやザリーの迷惑にならないように、彼らの立場を中心に考えてのこと。
 そしてそれは、万に一つもミナト達との関係悪化を起こしたくない、ファルビューナ女王からも認められていることだった。

「社交界は勘弁ですけれど、後しばらく実家に滞在して、お父様たちに顔見せくらいはしたいですわ。最近、この国も忙しくてあちこち飛び回っているそうですし、労いくらいはしませんと」

「『チラノース帝国』の一件もようやく落ち着いてきたとはいえ、隣国として一番戦後処理に大きくかかわって大変だったの、この国だからねえ……そりゃ軍部重鎮のウィレンスタット公爵は、出番も多くて大変だっただろうね」

「まだまだやることは山積みのようですわ。先日遠征任務が終わったようでちょうどよく明日、家に帰って来れるようなのです。申し訳ないけれどザリー、しばしお時間おかけしてもいいかしら?」

「もちろんだよ。そう言うと思って、ミナト君にももう話してあるから。全然かまわないから、ゆっくり家族団らん楽しんで来てね、だってさ」

 ミナトならそう言ってくれるだろうし、その顔が目に浮かぶようだ、とオリビアは思った。
 彼自身、家族というものを大切にする気質であるし……オリビア自身は覚えていないものの、その『家族』絡みでの大事件を数か月前に解決したばかりなのだ。
 それこそ、隣に座るザリーも一緒になって、なんと時間を超えて過去の世界まで行って。

 吹聴するような内容でもないため、その事実を知るものは、信頼できる一握りだけだが。

 そんなミナトであるからこそ、自分ではもちろんのこと、仲間や友達がその家族を大切にするのも応援してくれないはずがなかった。

「そういえば、ミナト君がこの前ちらっと言ってたんだけどさ……『フロギュリア連邦行きの交通手段とか、汎用性高いの何か用意しようか?』って。もっと便利に、頻繁に行き来できた方がオリビアにもいいだろうからって」

「相変わらずさらっとそういう提案してきますわね……。『キャッツコロニー』と『シィルセウス』は、数百キロじゃ効かないくらいに離れているんですけど……いやでも、ミナト様なら何とかしてしまえるんでしょうね、本当に」

「ここ来る時に使った『ナイトライナー』あるじゃん? あれもっと簡易的なタイプにデチューンして、僕らはもちろん、他の人達も使用可能な常設の交通手段としてレール込みで作っちゃう計画もあるみたいでさ……許可さえ出ればマジでやる気だよ多分」

「そこまで行くともう公共事業の領域なんですけれども……それ、私の一存というか、返事1つで決める気なんですの……?」

「それか、流氷の海でも航行可能な砕氷揚陸艦みたいなのプレゼントするのもいいかも、とか言ってたっけ。時間はかかるけど、あちこち行く足になるから汎用性ならこっちのが上だって」

「いやどっちもどっち……というか『揚陸艦』? え、水陸両用の軍艦ってこと……ですの? そんなの……ええ、まあ、作れるんでしょうけども」

「ミナト君にとっては、仲がいい人にちょっと豪華なプレゼント送るくらいの感覚なんだと思うよ……こないだもほら、『貴金属が取れる『鉱脈』をプレゼントしようか』とか言ってたしさ」

「あれは今でもまだ謎というか、脳が理解を拒んでいるのですわ……『鉱脈』のプレゼントって何なんでしょう。まさか、金鉱石とかを人工的に作り出すことができるとでも……」

「金じゃなくて、ダイヤモンドとかの宝石らしいよ。高温高圧とかの、宝石が出来上がる条件を人工的に再現できるとかで……まあどっちみち、経済とかその他諸々が大パニックになる予感しかしないから、断るしかないけどね」

「ええ……」

 そろってため息。
 そして続けて、どちらからともなく、おかしくなって吹き出してしまう。

「本当、一緒にいると頼もしい上に退屈しないお友達ですわ」

「だよねえ……多分、この先数十年ずっとそうなんだろうね。それに、色々突拍子もないことやって毎度びっくりさせてきてさ。ここ最近平和だからか、割と趣味の研究に熱中できてるみたいで……そろそろやばい発明の1つや2つお目見えしそうだなあ」

「あらあら、怖いですこと」

 などと軽口を言いつつも、オリビアもザリーも、ミナトとこの先ずっと付き合い続けるつもりだという点に揺らぎは微塵もない。
 退屈はしない(精一杯のオブラート表現)日々が待っているだろうし、さっきのようにため息をつく機会も多いのだろうが……それでも、だ。

 ザリーにとっては、楽しく冒険者生活をともに送ることができたチームメイトであり悪友。
 オリビアにとっては、ザリーと再会し、恋仲になる後押しをしてくれた恩人であるし、彼と共に命を救ってくれたという意味でも恩人。
 そしてこれは公私の公だが、『フロギュリア連邦』の貴族としての外交相手という面もある。

「とりあえず、プレゼントくれるつもりなら、もっと無難な何かにしてもらうようにそれとなーく言っておかないとね。でないとホントにとんでもないもの作っちゃうそうだし」

「ですわね。移動手段そのものではなく、移動する際の道中とかを快適に、安全に過ごせるようなアイテムとかが打倒かもですわね。帰ったら相談しましょう」

「だね」

 頼もしい、油断ができない悪友と、後でどう話そうか。苦笑しながらも2人は楽しそうに話しながら、冬空の下を馬車でいくのだった。


 ☆☆☆


【冒険者の町ウォルカ ギルド総本部】

「はい、これとこれとこれ……『邪香猫』関係の報告書」

「はい……はい、確かに、承りました」

 ウォルカにある、冒険者ギルド総本部……その窓口の1つにて。
 ギルド職員であり『邪香猫』の担当であるセレナが、同じく担当者であるリィンに、今回の冒険にかかる報告書を渡している場面。

 問題なく報告書は受理され、これで終わりかと思いきや……

「よろしく。……そんでこっちが、『女楼蜘蛛』関係の方ね」

「……はい、確かにこちらも承りました」

「…………あのさ」

「…………はい」

「私、一応『邪香猫』専属の担当のはずなんだけど、何でお義母様達の……『女楼蜘蛛』の担当も兼任してんの? しかもいつのまにか」

「……いえ、私も同じ立場なので何が何だか……」

 どこか疲れたような様子で言葉を交わす2人。

「いやまあ、予想はつくんだけどさ。多分だけど……あのチームについていけるような『現地業務担当職員』が、私くらいしかいないってことでしょ。ミナト達に輪をかけてハチャメチャな冒険も頻繁にこなす人達だし……」

 内心リィンも『でしょうね』とは思っている、予想できる理由だった。

 『邪香猫』と『女楼蜘蛛』。どちらもランクSSの冒険者チームであり、その活動内容は、普通の冒険者の常識の範疇に収まる――難易度はともかくとして――ものもあれば、全く理解できないレベルで明後日の方向に突拍子もない内容のものもある。
 宇宙に出て違う星に行ったり、とてつもないレベルの魔物の大軍を相手に戦ったり……公式には報告されてはいないが、時間を超えて過去に行きすらしているのだ。

 そもそも暮らしている『拠点』からして否常識のオンパレードでできている場所である。そんなところに普通の職員が放り込まれでもしたら、普通に死ねる。
 単純に実力不足で冒険についていけなくて死ぬし、否常識すぎる環境に驚きすぎて死ぬかもしれないし、その他色々死にそうな要因がそこらに転がっている。

 セレナが『邪香猫』の担当を請け負うことができているのは、ひとえに彼女が正規軍の元・中将という実力者であり、無茶苦茶な冒険についていけるだけのポテンシャルを持っているため。
 また、かの『キャドリーユ家』に属するがゆえに、ある程度『否常識』に耐性を持つためだ。

 そして幸いと言っていいのか、『邪香猫』と『女楼蜘蛛』は事実上の同盟関係にあり、同じ拠点に住み、活動も一緒に行うことが多い。
 故に、数多くいるギルド職員の中でも稀有な能力を持つセレナが『兼任』することになったというのも、ある意味では妥当な判断だと言えてしまった。

 少なくとも、『女楼蜘蛛』の冒険についていける職員のあてができるまでは、この体制は続く……続けざるを得ないのだろうと察し、セレナはため息をついた。

「まーでもしょうがないか。実際私以外にできそうなのいないし……私個人的にも、あの人達を野放しにしておくのは……うん、不安しかないしね。全くしょーがないなもー、義弟のついでに義母の面倒も見てやろうじゃないの! うん、1人も2人も同じよ、あっはっはっは!」

 かつて、自分がミナトの担当になり……その『否常識』っぷりを目の当たりにし、『ダメだこいつ放っとけない』という思いから、自分が義弟の担当を務めていく決意をした時と同じように、愛情とやけくそと使命感がブレンドされた微妙な笑みを浮かべてそう言い切った。

「……セレナさんはそれで納得いくんでしょうけど……でも何で私まで?」

 と、かなり疲れた様子のリィンのつぶやき。
 こちらはそれ相応の経歴を持つセレナと違って、正真正銘の一般人を自負している。

「……単純に私とセットで考えられただけだと思うわ。事務方だけ別に用意するのも手間だし、情報秘匿さえきちんとしとけば事務作業なら何も危険もないし……あとミナト達を相手してた実績があるからそれで重宝されてるんじゃない? 普通の職員なら、一応はSSランクのあいつらの相手とか緊張しちゃうでしょ」

「それだと私が普通じゃないみたいな言い方で甚だ不本意なんですが……いやまあ確かに、私ならミナトさん達ならさして緊張せずに相手できますけどね……もう割と長い付き合いですし」

「なんだい、そんな寂しいこと言わないでおくれよリィンちゃん。知らない仲じゃないっていうのに他人行儀じゃないか」

 などといって会話に割り込んでくる声。
 ため息交じりにセレナが振り返れば、そこにいるのは……今話題になっていた『女楼蜘蛛』のメンバーの1人にして、このギルドの前・ギルドマスターであもる女性。
 “魔王”アイリーン・ジェミーナその人だった。

 付き添い兼セレナの移動の際の転移魔法要員として一緒にギルドに来ていたのだが、手続き全般はセレナに任せていて、今の会話にも加わってこなかった。
 しかし、ずっと斜め後ろにいたはいたのである。

 なお、必然ギルド中の視線が、元ギルドマスター・現SSランク冒険社である彼女に向けられていたのだが、一切気にせずだった。

「リィンちゃんなんかボクとの付き合いはミナト君より長いのにさ。いつまでもそんな感じだとお姉さん哀しいぜ?」

「そうですけど、それはそれできちんと上司と部下っていう関係性ありきだったじゃないですか……それに、新人の頃からずっと『伝説の冒険者』っていう認識で付き合って来ましたから、その……アイリーン様がそういう扱いが好きじゃないことは承知しつつも、簡単には無理ですよ、そんな風にフランクに接することなんて」

「ちぇー、つまんないの」

「大丈夫ですよアイリーンさん。そのうちリィンちゃんも普通に接してくれるようになりますって。そんなかしこまって相手するのもめんどくさくなりますから、たぶん」

「あ、そうかな? なら早くそうなるといいなー♪」

「いやそれはいいんですか……」

 SSランクにツッコミを入れるリィン。フランクに接することができるようになる時は、意外と近くにまで迫ってきているのかもしれない。

「いいっていいって、この年になるといちいちそんなんで怒ったりイラついたりなんかしやしないんだよ。むしろ若い子達と楽しくおしゃべりしてた方が全然楽しいしOK」

「そーいう人達ですもんね、お義母さん達といえば。というかアイリーンさん、あなたならギルド職員の仕事くらい自分でできるでしょ……いっそ冒険者兼任でアイリーンさんが『現地業務』やっちゃえばいいんじゃないんです?」

「だーめ、それだとギルド職員としての客観性と独立性、そこからくる情報の正確性がなくなっちゃって本末転倒でしょ。きちんと責任もって自分のお仕事しなさい、セレナちゃん」

「くっ、こんな時だけ正論を……わかったよ、わかりましたよ。はー全く……これからこんなのが下手したら何年、何十年もかかるのかなあ……お互い頑張ろうねリィンちゃん」

「は、はあ……いやでも私は人間なので、さすがに数十年は厳しいかと……」

 これから長い付き合いになるのを諦めて受け入れたセレナが苦笑する前で、こちらも苦笑しつつ、どこからどうツッコミをいれたものかと結構真剣に悩むリィンだった。


 ☆☆☆


【『邪香猫』拠点 D2ラボ】

 ファンタジーの世界とは思えない、メカメカしい景色がそこにあった。
 部屋のつくりからして、特殊な合成樹脂による滑らかで頑強な近代建築になっているのに始まり……そこかしこにある機械類にしか見えない数々のマジックアイテム。
 それらはすべて実験器具であり、しかも、相当な専門家であっても、何にどのように使うのかも見当もつかないであろうものばかりが並んでいる。
 その全てミナトが手ずから作ったオリジナルの機材であるため、当然と言えば当然なのだが。

 そんないくつもの機材から、無数のコードが伸び、その中心で全てのコードが接続している……何か物々しさすら感じるマジックアイテムがあった。
 それは、まるで扉のような形をしていたが……次の瞬間、その蓋が『プシュウゥゥ……』と、気の抜けるような音と共に開く。

 そして、部屋にいる面々が見守る中で……扉の中、あるいは向こうから、1人の美女が現れた。

「……驚いたわね。この魔力の感じ……ヤマトじゃない。本当にここ、アルマンド大陸じゃない。まさか、こんな簡単に来ることができるようになるなんて……」

「最初からそう言って呼び出しただろーが。何だよ、信じてなかったのか?」

「無理もないんじゃないかしら……だって、船旅で数週間単位の時間を要する距離だもの。でも、成功してよかったわ……これで、またちょくちょくタマモにも会えるようになるのかしら」

「今使ってる扉は試作品なので、もうちょっと色々調整して正式にロールアウトしてからなら……もっと色々安定して運用できると思います」

 扉の向こうから出てきたのは、『ヤマト皇国』でミナト達が知り合った、『女楼蜘蛛の7番目のメンバー』とまで言われた狐の大妖怪……タマモ。
 今もまだ『ヤマト皇国』にいるはずの彼女が、なぜいきなりこんな場所に姿を見せたのかと言えば……それはもちろん、この『扉』によるものである。

 前々からミナト達が研究を続けていた、超長距離の転移装置。これはその、現時点における最新型……の、試作品である。
 その、何度目かの試運転に、今ここにいるメンバーで挑んでいたのだ。

 技術者として、ネリドラ、リュドネラ、クローナ。
 そして、実際に使用して転移する役目の者として、『ヤマト皇国』にいたタマモと……『シャラムスカ』にいたテレサの2人が。
 テレサの方の実験は、タマモより先に終わらせていた。

 結果は問題なく成功。テレサは大陸の端にある聖都から、タマモは海の向こうの島国から、この『拠点』に一瞬にして現れた。

「んで、どーだった使用感は? 何か気分悪くなったとかはねーか?」

「特段そういったものはないけれど……タマモは?」

「……すこしだけ気分が悪い、かもしれないわね。気にはならない程度だけど」

「? 具体的には……どんな感じで?」

「乗り物酔いみたいな感覚ね。でも、大したことは……ああ、もう収まったわ」

 もともと、超長距離の転移装置自体は、ミナト達は開発に成功していたのだが、起動するのに膨大な魔力を要する上、転移する本人の負担が大きいという欠点があった。
 そのため、初期型の装置では、『女楼蜘蛛』クラスの実力者が、さらに身体強化魔法などを使ってようやく使用可能になる、という程度の出来だった。

 それでも破格の性能であることに変わりはないのだが、それ以降もミナト達はその装置の研究・改良を続けており……先の騒乱の際に解析した、惑星間をも繋ぐ『ライン』の原理を応用して作成したのが、今回試した最新型である。

 成果は上々といってよかった。全く飲む反動というわけにはいかず、魔力の消費も相変わらず大きいままだが……かなり実用的と言えるレベルにまでなってきている。
 機材のモニターに表示されるデータの数々を見ながら、ネリドラやクローナは確かな手ごたえを感じていた。

「もしもっと完成度が高まって、一般人でも簡単に使えるような転移装置が出来上がれば……こことヤマトを日帰りで往復することすら可能になるわね」

「それどころか、ちょっと近所の家に行く感覚で大陸を越えた移動すらできるようになるんじゃないかしら? 普段会えない遠くの友達とも、簡単に会えるようになるわね」

 実際にその、奇跡に等しい超長距離移動を体験した2人……タマモとクローナがそんな風に、夢のある未来を想像して言葉を交わす。
 それに続く形でリュドネラも、

『そしたら、レジーナとか、ネフィやソニアともちょくちょく会えるかもしれないね。オリビアも里帰りが楽になるだろうし……あーでもそれだと、今ミナトが計画してる、フロギュリアに『ナイトライナー』通す計画は不要になっちゃうか』

「それ以上に便利なもん使えるようになるならそれでいいだろ」

「というか、そんなこと計画していたの……? その、ナイト……ライナー? ってたしかあの、天井のあるトロッコみたいな……連なって高速で空を動く鉄の箱よね?」

「精一杯言葉を選んでどうにか表現した感」

「日常的にあれらに触れてる俺らとは違うんだ、しゃーねーだろ。まあ、年取ると新しいもん苦手になるってのはよく……」


 ―――バシィッ!!


「……グーかよ、いつもよりガチだなおい」

「そういうあなたは何百年経っても学ばないわねえ……うふふ」

 いつもの光景。
 一瞬の早業。

 光を握りこんだかのように輝くテレサの拳を、闇を纏ったクローナの手が受け止めていた。

 激突の瞬間、小さいながら衝撃波が発生するほどのインパクトに、周囲はぎょっとしたが、テレサが物騒な笑みを浮かべているのを見て『ああ、いつものか』とすぐに納得した。

 しかし、いつもと違って、折檻されているクローナがたじたじになることはなく……むしろ、クローナの手の闇は、テレサの光を押し返す勢いで強くなる。
 ニヤリと笑うクローナに、テレサは機嫌悪そうにむっとした表情になるが……何か言うより先に、クローナはため息交じりに言った。

「いいかげんお前、年齢の話になったくらいでキレんのやめろっての……へそまげたところで事実が変わるわけでもなし、『それが何か?』って堂々としてりゃいいだろが」

「……悪かったわね、心の狭い年増で……クローナはそういうの、全然気にならないの?」

「そもそも俺からするとよ……何でわざわざ年食った年数何ぞいちいち気にすんのかそもそも理解できねえんだけどな。そんなもんただの数字だろ。俺らみたいな、何百年も生きる種族からしたら特に気にしてもしかたねえもんだし」

 それに、と続ける。

「仮にお前がそれを気にしてる理由が、人の目とか男受けとかだったとして……ますます別に俺には気にしなくていいもんだ。あいつはそういうの気にしないからな」

 さらりとそんな風に言ってのけるクローナ。
 それを聞いて、テレサやタマモ、それにリュドネラは『わーお……』と感心と呆れが入り混じったような表情になり、ネリドラは『むむっ』と、いつもより少し感情をわかりやすく表に出した。おそらくは、同じ立場にいる者として。

 そこにいる全員がはっきりと感じ取れていた。どこか上機嫌にも見えるクローナは……彼女は、本心から全く、年齢のことなど気にしていないのだと。
 彼女がただ1人、そういう印象を……自分のことをどう思ってくれているのか、そういうことを気にするのであろう男が……年齢のことなど微塵も気にしないと。
 それ以外の部分で自分の、クローナという女の魅力を見てくれるとわかっているからだ。

 最近、それを隠さなくなった旧友の姿に、テレサやタマモは苦笑し、うらやましいような微笑ましいような、なんとも言い難い不思議な気分になって、生き生きと機材の調整を始めるその横顔を見ていた。

「……ところで、その彼はどこに? マジックアイテムの実験だっていうから、てっきり一緒にいると思っていたのだけど」

「あら……そういえばいないわね。留守にでもしているの?」

「? ああ、あいつなら今……」


 ☆☆☆


【拠点・キャッツコロニー  ―――の、はるか上空】


 前後左右と頭上には星空が広がり、下には先ほどまでいた大地……惑星の、丸い形が見える。
 そこは、大気圏を超えてはるか上空。宇宙空間。

 空気がないががゆえに呼吸もできず、温度を保つ待機がないがゆえに、極寒。
 そもそも無重力に気圧もゼロゆえに……仮に人間が生身でそこに放り出されでもすれば、たちまち命を落とすことになる……美しさとは裏腹に、絶対的な死に包み込まれるような領域。

 そんな場所で……

「ねえミナト、あんたホントに大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。いやー……人間鍛えればなんとかなるもんだね」

「ミナトくーん、それリリンさんとミナト君以外の全人類にとって風評被害でしかないからやめてね。生身の人間は、その……宇宙空間とやらに放り出されて生きていられるはずがないからね」

 ふわふわと心地よさそうに、無重力の中をリラックスして漂っている……ミナト。
 宇宙服など身に着けてはおらず、いつもの服装のまま。完全に『生身』の状態で、彼は宇宙遊泳をのんきに楽しんでいた。

 そしてそのすぐ横で……近未来的な『空飛ぶ車』的な見た目の小型宇宙船が、こちらもふわふわと浮いている。
 中に乗っているのは、エルクと、運転手ないしパイロットであるクロエ。それと、助手席の背もたれを止まり木代わりにしてとまっているアルバの、2人と1羽である。

 フロントガラスの向こうで、至極当然のように人間には不可能な芸当をやってのけるミナトの姿をみて、呆れつつも『まあいつものことか』と納得した(諦めたとも言う)エルク。

 彼女の想い人は、ついに生身で宇宙空間を平然と動けるまでになっていた。
 マジックアイテムの1つも使わずに、正真正銘、その身1つでだ。

 『エレメンタルブラッド』による肉体の変異により、超人的な力を手にしたがゆえか、それとも夢魔の究極能力『ザ・デイドリーマー』の恩寵か……あるいはその両方か。
 考えても答えは出ないし、仮に答えが出たとしても別にあんまり意味はないので、エルクはさっさと諦め、目の前の光景をとりあえず受け入れた。

(ま、ミナトだしね)

 だいたいの不思議現象はこの一言で解決する。
 解決しなくても諦めはつく。

 ため息1つ。それで気分を切り替えたエルクだったが……その直後、

「あー、こんなところにいたんだミナトってば。せっかく拠点に来たのに、留守にしてるっていうからびっくりしちゃったわよ」

「あれ、母さん?」

 宇宙空間に、もう1人生身の人間が。
 厳密には『人間』ではないのだが、そんな細かい差は重要ではない。生身のヒト型生物が2人、宇宙空間で平然と会話しているというこの状況においては。

 さも当たり前のようにそこに現れ、ミナトの隣にふわりと降り立った(という表現でいいのかは微妙だが)リリンは、近くにエルクとクロエもいることに気づく。

「あれ、エルクちゃん達もいるんだ……何、もしかして宇宙でデートとか?」

「え? 母さん……キャッツコロニーの誰かに聞いて、僕がここにいるって知って来たんじゃないの? だったら、僕がここにいる理由も聞いたんじゃ……」

「いや、誰にも何も聞いてないけど……ミナトに会いに来たらどこにもいないから、お母さんセンサーでミナトの居場所を探知したら、宇宙なんかにいるってわかったから『何してんだろ』って思って飛んできたのよ」

「またなんか突拍子もない面白スキル身に着けてこの人は……さすが僕の母親」

「やだもー、そんな褒めないでよ、照れるじゃない」

「……エルクちゃん、今の話に褒める要素……あった?」

「いつものことでしょ、気にしても仕方ないわよ」

 この旦那と姑といつも一緒に過ごしているエルク。この程度ではもう動じない。

 最近、その姑や、その旧友が女としてミナトを狙いだしたことについては、最初はさすがに戸惑ったものの、それすら受け入れて今度は自分がミナトを守って見せると決意すらしたのだ。
 自他ともに認める『正妻』は伊達ではない。隣の運転手・クロエも、その剛毅さには感心するばかりだった。 

「で、話戻すけど……何でミナトこんなところにいんの? デートじゃないっぽいけど」

「それは……あ、来た。ごめん母さんちょっと下がってて。エルク達も」

「はいよ。お義母さん、こっちに」

「え?」

 言われてきょとんとしつつも、そのとおりにするリリン。
 すると、ミナトが支持してから数十秒後……宇宙の彼方から、何かがこちらに近づいてきているのが見えた。

 それは、隕石だった。

 遮るもののない宇宙を、すさまじいスピードで飛び……一直線に地球に向けて飛んできている。
 大きさはかなりのもので、もしあれが大気圏で燃え尽きずに地上に落下すれば……落下地点がどこかにもよるが、相応に大きな被害が出てしまうだろう。

 もっとも、それは今言った通り……落下すれば、の話だ。


「―――せいやァッ!」


 一直線に飛ぶ隕石の新路上に、自分の位置を微調整して割り込んだミナト。
 彼が、膨大な魔力を込めて握った拳が、飛来する隕石にドンピシャのタイミングで振るわれ、激突すると……競り負けたのは、隕石の方だった。

 激突の瞬間、ほんの一瞬だけ、隕石は動きを止め……次の瞬間には、ミナトの拳が直撃したその部分から全体にひびが入り、木っ端微塵になる。
 勢い自体も完全に殺されたのか、破片の1つも地球に向かって降り注ぐ様子は見せない。そうなるようにミナトが殴ったからだ。

「あー……降って来そうな隕石があったから壊そうと思ってここにいたのね」

「うん。アレほっとくとアルマンド大陸のどこかに落ちそうだったし。それに……」

 言いながらミナトは、粉砕した隕石の破片を拾い集めていく。
 それらの破片のうちの1つを手に取り、ふと何かに気づいたような様子を見せると……顔の近くにまで持っていってまじまじと見つめるミナト。

 ほとんどが岩にしか見えない隕石の破片の中から、キラキラと輝くものが、多くはないが出て来ていた。
 これが、今回のかれのお目当ての素材……宇宙から降ってくる隕石の中にしか存在しない特殊な鉱物『コズミウム』。地球上には限られた量しか存在しておらず、ミナトもわずかしか持っていない激レア素材だった。

 たまたま巨大隕石の接近を感知できたため、地球防衛のついでに調べてみたところ、大量のレア素材を入手でき、ミナトもご機嫌である。

「これだけあれば、また色んなものを作れそうだなー。在庫不足で研究ストップしてたのがいくつかあるんだよね。あー、楽しみ」

「それ聞いてこっちは不安になってくるわよ……思い返してみると、あんたがその……『コズミウム』を使って何か作る時って、たいていやばいの出来上がってるわよね。『縮退炉』とか」

「そのくらい色々できるすごい素材だからね。とはいえ……今日回収できた量でも、そんなに長いことは持たないだろうなあ」

「あんなデカい隕石ぶっ壊して採取したのに足りないの?」

「うん。あくまで手に入ったのは原石だから、製錬して純度を高めると体積結構減るし……そもそもコレ使ってやりたい実験だって、作りたいアイテムだってわんさかあるし。……あーもー、他の鉱石みたいに鉱脈とか見つかってまとまった量採取できればありがたいんだけどな」

「鉱脈かあ……確かに、あれば助かりそうね。でも……そんなのあるのかしらね」

「どうなんだろね……そもそも、この『コズミウム』を含んだ隕石ってどこから来てるんだろうね? もしそのルーツみたいなものが明らかになれば……そこに飛んで行って大量採取! みたいなこともできるかもしれないけど」

「今の隕石……先が見えないくらいべらぼうに遠くから飛んで来てたわよね? どのくらい離れたどこから飛んできてるんだろ?」

「さあね……でもまあ、さすがに無から生まれてるってことはないだろうし……どこかから飛んできてるなら、そのルーツだっていつか暴いて、そこに行ってみせるよ。今はまだ無理でも……何十年、何百年だって時間をかけて、その間にマジックアイテムの性能も、何もかも更新しながらね」

「そんで、私はそれをずっと横で付き合って見てなきゃいけないわけね」

 やれやれ、と呆れたように言うエルク。
 そんな様子を見て、少しだけ心配になったミナトは、

「……えーと……嫌?」

「全然? いいわよ別に、何百年だって何千年だって、なんなら何万年だってね」

「おう、さすがねエルクちゃん。うちの子のためにありがと」

「いえいえ、こいつの隣で、妻もツッコミも両方きちんと最大効率でこなせるのは私だって、自負みたいなの持ってますから。一生一緒にいますよ……これからも、ずっとね」

「……~~~♪」

(わー……いつものことながらわかりやすい……幸せそうに笑うなあ、ミナト君ってば)

 いつか、今はまだ見えない星空の果てだって冒険して、踏破してみせる。
 それにどれだけ時間がかかろうとも、彼女は自分の隣にいてくれる。

 クロエが声に出さずに思った通り、ミナトの脳内は、大好きな『嫁』がそんな嬉しくて情熱的?なことを言ってくれた幸福感でいっぱいだった。

 いや、彼女だけじゃない。
 きっと彼女と同じように、これからも一緒にいてくれるであろう、素敵で大切な仲間が、自分にはたくさんいる。種族も立場も何もかも違うけれど、疑うことなくその絆を信じることができる、かけがえのない仲間が。

 その全員が、ずっと一緒に入れるわけではないだろう。種族が違えば寿命も違うし、立場が違えばずっと同じ立ち位置で関われるわけでもない。
 それでも……ありきたりな言い方をするならば、気持ちは、心はずっと一緒だ。

 そんな風に、ちょっと格好つけたといってもいいくらいのことを言っても、恥ずかしくない……胸を張って自慢できる仲間が、自分にはいる。
 このところ、頻繁にそれを思い出して、頼もしく感じ、嬉しくなってしまうミナトだった。

(僕たちの冒険はこれからだ! ……なんて、言うまでもない、か)

「ほらミナト、へんちくりんなニヤけ面してないで……さっさと帰るわよ。時間的に……そろそろお昼ご飯の時間だしね。今日はエレノアさんが来るって言ってたし、きっと豪華だと思うわよ?」

「あっはっは、そりゃ遅れらんないね! 母さんも食べてくでしょ?」

「もち! いやあ、タイミングがいい時に来れたみたいね、よーしそれじゃミナト! エルクちゃん! 家までお母さんと競争よ!」


 ―――ぎゅんっ!


「あぁっ! ちょ……ずるい! もう、当然のように不意打ちでスタートするんだか……らっ!」


 ―――どぎゅんっ!


「「………………」」

 火の玉のような勢いで地上めがけて飛んで行った2人を、遠い目で見送るエルクとクロエ。

「……えーと……競争、する? 一応、音速越えるくらいなら出せるけど、この乗り物」

「いーわよ、そんな律儀に付き合わなくて。普通に危ないし……せっかく隕石ぶっ壊したのに、私達が隕石になっちゃったんじゃ意味ないし……もう2人ほど行っちゃったけど」

 はたして落下地点の地面は大丈夫なのだろうかと少々不安になりつつも……『まああの2人なら何とかするでしょ』とすぐ思い直して、ゆっくり降りるようにクロエに頼むエルク。
 クロエはそれを聞いて、きちんと安全運転で降下を開始した。

「全くもう……いくつになっても、いつまで経っても……ちっとも変わりゃしないんだから。あと向こう100年くらい、精神年齢子供のままなんじゃないかしらね、あの様子だと」

 苦笑して呆れたように言いつつも、決して悪く思っているわけではないとわかる。
 むしろ、声音だけでも、嬉しさや愛しさがにじみ出て感じられるようだった。

 すっかり見えなくなって、今頃もしかしたら既に地上に着弾?しているかもしれない『旦那様』のことを考えて、苦笑しつつため息をつくエルクは、この先数百年、大いに苦労させられることを予感しつつも、しあわせそうににっこりと笑うのだった。

「ホントにもう……どうしようもない、かわいい旦那様だこと」



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感想 803

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みんなの感想(803件)

素浪人
2024.05.13 素浪人

完結おめでとうございます。
最後まで走りきった感じでお疲れ様です。
私もなろう時代から、長い間楽しませていただきました。
最後までめちゃくちゃ(真空状態の中で、なんで普通に親子で会話してるんだ?)でしたが、一応…大団円…なのかな?
しかし活動範囲が広がりすぎて、ローザンパークが自分ちの庭くらいになってしまいましたね(笑)
一応これで本編は終了しましたが、エピソードとしてミナトの子供達の話しとか出来れば読んでみたいですね。
なんにしろ、お疲れ様&ありがとうございました。

解除
地球人
2024.05.06 地球人

ついに完結ですか...
長期連載お疲れ様でした!ここまで長く続いてきっちり完結する小説も珍しかったので楽しめました!
唯一気になる点があるとすれば530話の最後で捕まっていたダモクレス財団のドロシーに似ていた最高幹部についてその後、全く言及がなかったことですかね。私の見落としがあったかもしれませんが...
おそらく今となっては財団の最後の生き残りの可能性が高いので、できればその子についての後日談みたいな話があれば欲しいです。
何はともあれ改めて本当にお疲れ様でした!

解除
白蛇
2024.04.27 白蛇

誤字報告です、各国上層部で羞恥、周知

解除

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