キングスゲーム ~召喚された異世界は想像以上にRPGでした~

いかぽん

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第1章

第1話

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 人は実際、いつ異世界にお呼ばれしないとも限らない。
 そんなことはありえないと思ってしまうのは、自分が異世界に召喚された経験がないからだ。

 俺もまた、異世界に行く直前までは、それをありえないことだと思っていた。

 現代日本でのこの灰色の人生は、これからもずっと続くのだろうと、なんの疑いもなくそう信じていたのだ。



『キミさぁ、さっきから聞いていれば言い訳ばかりだけどさ、バイトリーダーとしての自覚ある?』

 電話越しに俺を罵ってくるのは、本部勤務の社員だ。
 顔も見たことのない相手だが、トラブルの報告ともなればそういう相手と話すこともある。

 俺が勤務しているのは、全国チェーンの接客業の一店舗だ。

 俺はバイトリーダーとして店長のいない時間の店舗運営を預かることも多いのだが、時給ははっきり言ってほかのバイトと大差なく、負担と報酬の天秤は合っていないと思う。

 この「本部への報告」というのも「負担」の一つだ。
 俺は電話に向かって、努めて冷静に言葉を返す。

「でも今回の件は明らかに、お客様の行動と言い分のほうに問題がありますよね? うちの田辺は間違ったことはしていないと思いますが」

『だからさぁ、接客業なんだから、お客様がどんなにおかしなことを言っていようが、そこは、はい、はいって聞いてお客様の気が済むまで謝罪するのが当たり前でしょ? なんでバイトリーダーなのにそんなことも分からないかな。大丈夫キミ? そんなことで下の子たちにちゃんと教育できる?』

「理不尽を押し付けるのが教育だとは思いませんが」

『チッ……! ったく、あーもう、分かった分かった。荒川くんだったね。キミのことはランクダウンするよう店長に言っておくから。何を勘違いしているのか知らないけど、キミの代わりなんていくらでもいるんだからな。はい、お疲れ様。もういいよ、電話切って』

「はい。では、失礼します」

 ピッ。
 携帯電話の電源を切って、所定の位置に戻す。

「はぁーっ……」

 大きくため息をつく。

 まったく、勘違いしているのはどっちだ。
 たまに運が悪いと、こういう社員にぶち当たるからやっていられない。

 ランクが下がると、ちょっと時給が下がる。
 しかもランクが下がったところで、やらなければならない仕事のランクが下がるわけでもない。

 そこに理不尽さはもちろん感じるが、強くこだわってもバカを見るだけだ。

 クソ社員は滅びればいいのにと心底思うが、目くじらを立てたところでどうにもならないのは分かっている。
 これが俺の今の人生なのだとあきらめて、怒りを溜めずにやりすごすしかない。

 そんなことを思っていると、そこにおずおずと、今回の接客トラブルの張本人──後輩の田辺たなべが声をかけてきた。

「あの、荒川先輩……本部の人、なんて言ってました……?」 

 田辺は確か今年で二十一歳になる女性アルバイトだが、どこか小動物のような雰囲気があり、童顔もあって年齢よりも子供っぽく見える。

 そのわりに癇が強く、客とトラブルを起こすことがチラホラある。
 今回もそのパターンだ。

 でも筋違いのことはあまりしないので、俺はこいつのことがそんなに嫌いではない。

「いや、田辺が気にすることじゃない。ちょっと俺が怒られただけだ」

「でも……! すみません、先輩! うちのせいで、先輩が代わりに怒られるなんて。さっきのあのお客さんにも、先輩が代わりに頭を下げさせられて──」

「だからいいって。今日もお疲れ様。変な客に当たって災難だったな」

 俺は田辺とそんなやり取りをしつつ、今日の仕事を終えて、帰宅の途につく。

 田辺は別れ際、「先輩、今日もありがとうございました!」と深々と頭を下げていた。
 あいつもなかなか律儀なやつだ。



 俺の自宅の安アパートは、勤務先から自転車で十五分ほどの場所にある。

 自転車置き場に愛車を駐輪すると、アパート二階の自室へと帰還する。
 そして六畳一間に敷きっぱなしの布団へと突っ伏した。

「あー、今日も疲れたー……」

 荒川あらかわ良太りょうた、二十八歳、男。
 独身でフリーター。
 恥ずかしながら、彼女いない歴イコール年齢の立派な童貞である。

 だがもう、そんなことすらどうでもいい。
 かわいい彼女やお嫁さんがほしいなんて夢は、とうの昔にあきらめた。

 十年ほど前、高卒で就職した会社を、理不尽な上司に耐えられずに退職。
 以後いくつかの職を転々とした俺は、最終的に今のフリーターの位置に着地する。

 これを人生の落伍者と評価するべきなのかどうなのか。
 世間的には「負け組」と呼ばれることは間違いなさそうだが。

 ちなみに、両親とも早くに事故で亡くし、今は完全な独り身だ。

 そんな俺の趣味は、ゲームにアニメに漫画にライトノベルという、いわゆるオタク趣味というもの。
 だがそれらも、俺の日々の満たされない何かを埋めてくれるほどには、役に立ってはくれない。

 俺は冷蔵庫から安物のビール系飲料とつまみを持ってくると、布団に寝転がってスマホを弄る。

「ちょっと新作ゲームでも漁ってみるかね」

 俺は気の向くままにスマホを操作していく。
 すると──

「『キングスゲーム』? なになに……『あなたは異世界で、王となる資格を与えられる。忠実な美少女騎士とともに異世界を駆け抜け、最強の王となれ』か。まあとりあえず触ってみるか」

 ちょっと気になったゲームアプリをダウンロード。
 ゲームを開始してみる。

「ん? いきなりキャラ作成か。『あなたの属性と得意武器を選んでください』──とりあえず何でもいいか。気に入らなかったらあとで変えるべ」

 俺は八つの属性──火、水、風、土、氷、雷、光、闇──と、八つの得意武器──片手剣、両手剣、細身剣、短剣、斧、槍、弓、格闘──の中から、その辺に転がっていた八面体のサイコロを適当に振って「水」と「弓」を選ぶ。

 こんなものは、ゲーム開始前に最適解を選ぼうとしたって、そのための情報がないんだから意味がない。
 まずは触ってみて、どんなゲームかを確認するところからだ。

 と、思っていたのだが──

『それでは、キングスゲームを開始します。あなたを異世界へと召喚します』

「なっ……!?」

 スマホの画面から突如、まばゆい光があふれ出し、俺の全身を包み込んでしまった。



 光がやむと、俺は見知らぬ部屋にいた。

 木造の部屋のようだ。
 広さは俺のアパートの自室と同じぐらいで、つまりは普通に狭い。

 手に持っていたはずのスマホがない。

 それどころか、俺の服装すら変わっている。
 いわゆる中世ヨーロッパ風ファンタジー世界の、街の人が着ているような衣服だ。

 だがそれより驚いたのは──

 腰を抜かした俺の目の前に、とんでもない美少女が立っていた。

 ファンタジー系の物語に出てくる美少女騎士といった風貌だ。

 剣と盾を携えているのに加え、金属製の胸当てや小手、脚甲などの鎧を身につけているが、同時にミニスカートなど可憐さを強調するような衣装もまとっている。

 歳は十六か、十七か、そのぐらいだろう。

 髪は輝くような銀髪のポニーテール。
 瞳はアメジストの宝石のような紫色だ。

 少女は、尻餅をついた俺に向かって、笑顔で手を差し伸べてくる。

「あなたがボクの王になる人だね。──ボクの名はジゼル。王たるあなたの従者となるべく生まれた、あなたのための騎士だ」

 突然目の前に現れたボクっ娘美少女にそう言われれば、さすがに呆然とするしかなかった。
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