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第7話
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一方、見送られた側のユニス。
少女はかつてないほどの身体能力で、あっという間に狙っていたイヤシソウのもとまでたどり着く。
そこはすでに、エクスタスフラワーの支配領域だ。
だがその本体を見れば、ようやくユニスが自らの領域内に侵入したことに気付いたようで、ゆっくりとその身を動かし始めたところだった。
「よし、いける……!」
ユニスは剣をイヤシソウの横の地面に何度かザクザクと突き刺し、目的の薬草を根っこから掘り起こす。
イヤシソウは根っこに特に強い薬性がある。
しかも普通に引っこ抜こうとしても千切れてしまうので、こうして掘り起こす必要があるのだ。
しかしその作業もすぐに完了する。
イヤシソウの採取に成功して、ユニスは満足げににんまりと笑みを浮かべる。
「ユニス~、早く早く~! 採ったらすぐに戻ってきて~!」
離れた場所からラヴィニアが手を振って、ユニスに呼びかけていた。
「分かってる。でも大丈夫、余裕で間に合うよ」
ユニスはちらと、エクスタスフラワーの姿を見る。
こちらに向かって攻撃を仕掛けようとしている仕草は見えたが、あれなら楽勝で逃げ切れると思った。
だが──
──ゴゴゴゴゴッ!
そのときユニスの足元、大地が地鳴りを起こして揺れ、少女はバランスを崩してしまう。
「な、何……!?」
そして一呼吸の後──
ぼごんっとユニスの足元の地面が割れ、その割れ目の中から、巨大な植物の根っこがうじゃうじゃと地表に姿を現した。
「う、嘘でしょおっ!? ──ちょっ、うわわっ!?」
根っこは長く柔らかくしなり、太さはユニスの手首ほどもある。
それがバランスを崩した少女剣士の足首や手首、太ももや腰、首などに次々と巻きついていく。
やがてユニスは、その全身を巨大植物の根っこに絡め取られ、がっちりと拘束されてしまった。
「くあっ……! あっ……ぐぅぅっ……! うぁあああああっ……!」
太い根っこに全身をぎりぎりと締め上げられ、ユニスは頬を赤く染め、苦しげに悲鳴を上げる。
どうにか逃げ出そうにも、少女剣士の両腕両脚の自由は今や完全に奪われており、剣を一振りすることすら叶わない。
また闘気を振り絞って力づくで振り切ろうとしても、ユニスに絡みついた根っこの力は一本一本が極めて強力で、力を振り絞るほどに、逆により強い力で抑え込まれてしまう。
「あっ、ぐぅっ……! こ、のぉっ……放しなさいよっ……!」
「ゆ、ユニス……! どうしよう……【火球】じゃ、ユニスごと巻き込んじゃうし……そ、そうだ!」
それを離れた場所から見ていたラヴィニアは、慌てて呪文を唱え始める。
だがそうこうしているうちにも、ユニスを責める根っこの動きは変化を遂げていく。
「ふぁっ……!? えっ……ちょっ、な、何を……!? ──んぁあああああっ!」
びくんっ!
拘束されたユニスの体が、大きくのけぞった。
というのも、うねうねと動く巨大植物の根っこが、ユニスのあらぬところをまさぐり始めたのだ。
根っこはさらににゅるにゅると、ユニスの服の内側へと侵入していく。
「ちょっ、ちょっと待って……!? 何これ、嘘でしょ!? なんでそんなところ入って……!? ふやぁあああんっ……! や、やだっ、助けて、ニアぁっ……!」
「分かってる、今助けるから──いくよ、【風刃】!」
──ギュオッ!
ラヴィニアの掛け声とともに、彼女が掲げた杖の先から、三陣の風の刃が放たれた。
風の刃は高速で飛んでいくと、ユニスを拘束していた巨大植物の根っこをズババッと切断した。
「ありがとう、ニア! ──よくもやってくれたわね、このエロ植物!」
ユニスは自由になった腕で剣を振るい、自身を縛っていた残りの根っこを切り払って、それでどうにか拘束状態から逃れることに成功した。
「はぁっ、はぁっ……ざまぁ見ろ……! って、うわわわわっ、ま、まだ来るの!?」
「ユニス! 早く逃げてきて!」
「わ、分かってるわよ!」
ユニスはそこから全力ダッシュをして、エクスタスフラワーの支配領域から慌てて脱出を試みる。
ラヴィニアの魔法によって敏捷性が向上し、さらに自身の闘気の力もあって、今のユニスの敏捷力は半端なものではない。
エクスタスフラワーの根も相当な速さと手数で攻撃してきたが、それでも不意さえ打たれなければ、どうにかギリギリ振り切ることはできた。
そうしてユニスは、ほうほうの態ながらもラヴィニアのいる安全圏まで逃げてくることに成功した。
そこまで来ればもう攻撃は襲ってこなかったのだが、それでも不安なので、二人はさらにしばらく遠くまで逃げ、いくら何でももう大丈夫だろうというところでようやく足を止めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! な、何なのよ、あれ……反則でしょ……! ──ていうか、あのエロ植物は何!? あんなのアリ!?」
「はぁっ、はぁっ……いやぁ、ボクも驚いたよ。何なんだろうねあれ。人間を使って生殖する性質でも持ってるのかな?」
「平然とおぞましいこと言わないでよ!? 私それの被害者になりかけたんだけど!?」
「あははっ、ごめんごめん。つい賢者としての癖が」
ユニスが相棒の胸倉をつかんでがくがく揺さぶるが、ラヴィニアは朗らかに笑っていた。
それを見たユニスはバカらしくなって、相方から手を離すと、その場で草むらの上にバタッと大の字に寝転がる。
「あーっ、冒険者って大変だね。正直甘く見てたわ」
ラヴィニアもまた、その隣にごろんと転がる。
「本当だね。でも今回みたいなのは、さすがにイレギュラーなんじゃない?」
「だといいけど」
「だといいね」
「そうであってほしい。でも──」
ユニスはがばっと上半身を起こし、あれだけされても手放さず左手に握ったままだった戦利品をラヴィニアに見せつける。
「取ってきてやったわ。十株目のイヤシソウ」
「お疲れ様。金貨二枚半以上の価値があるイヤシソウだね。ちなみにボクの宮廷魔術師のときの日当が金貨四枚だから、それと比べると──」
「やめて、それは今、聞きたくない。あーあー聞こえなーい」
「あははははっ」
「あはははははっ」
森の中で、二人の少女は仲良く愉快に笑い合う。
そんな二人の頭上、空を見上げれば──
オレンジ色の夕焼け空に、ゆっくりと紺色が混ざりはじめ、今日という日の終わりを告げようとしていた。
***
「「いっただっきまーす!」」
大衆向けの、酒場と食堂を兼ねたお店。
そのカウンター席に並んで、二人の少女はナイフとフォークを手にしていた。
彼女らの前に並ぶのは、二人で食べきれるのかという量の、色とりどりの豪勢な料理の数々だ。
もっとも豪勢といっても大衆食堂なので、言うほど値が張るものでもないのだが。
普段は自宅で自炊をしている二人だが、今日はもう冒険で疲れたし、外食をして怠けようということになった。
そしてせっかくだからとお祭り気分であれもこれもと頼んでしまい、高級ワインも注文してやりたい放題の二人である。
今日の冒険で稼いだ金貨五枚のうちの二割以上が消し飛ぶほどの大盤振る舞いだが、少女たちはそんなことは気にしていない。
「はぐっ、んぐっ……ん~っ! ねぇニア、これおいしいよ。食べてみ?」
「どれどれ? むぐむぐ……お、ホントだ。これいいね。お酒にも合うし」
「でしょでしょ? いやぁ、注文した私の目利きだね」
「それを言うならユニス、こっちも食べてみなよ。いけるから」
「ほほう。もぐもぐ……んんっ! うんっ、これもおいしい!」
「にひーっ。そうでしょ」
互いに注文した料理を突き合い、合間にワインを飲み、他愛もない話をしてはケラケラと笑う。
そんな二人の微笑ましい姿を見て、カウンターの向こうで別の客の酒を注いでいた店主が声をかける。
「ははっ、いい食べっぷりだな、嬢ちゃんたち。見ていて気持ちいいってぐらいだ。今日は何かいいことでもあったかい?」
そう聞かれると、少女たちは互いに顔を見合わせる。
「いいことがあったっていうか……」
「どっちかっていうと、悪いこと?」
「まあでも、結果オーライでいいかな」
「そうだね。ユニスの貞操のピンチもちょっとの被害だけで切り抜けられたし、万事問題なし♪」
「……ちょっと、ニア。それはどうなのよ、うん? 自分が被害に遭ってないから問題なしと、そうおっしゃる?」
「あはははは。怒らない、怒らない。どう、どう」
「むきーっ! ニアも同じ目に遭ってみればいいのよ! ほら、こうやって、こうしてやる!」
「あはははっ、やっ、あんっ、ちょっと待って、だめっ、ユニス、そこは……!」
ほろ酔い気分になって、周りがあまり見えていない二人。
美貌の少女たちがイチャコラと揉み合いへし合いしていれば、周りの客がそちらを見てごくりと唾を飲むのだが、そんなことは気にもしていない。
そんな楽しげなやり取りをする二人を見て、店主は苦笑をしつつ、別の席にお酒を運んでいく──
そのようにして、二人の賑やかな食事時も過ぎ去っていき。
やがて酒場を出た二人は、酔っぱらった上にお腹がパンパンの状態で、ふらふらと夜道を歩いていた。
「た、食べ過ぎたわ……」
「ははは……お互い悪ノリし過ぎたね……でもボクの家、遠い……しんどい……」
「したらさニア、もう今日はうちに泊まっていけば?」
「そ、そうする……うぷっ」
そうして二人でユニスの家に帰還すると、二人して、一も二もなく同じベッドに倒れ込んだ。
ユニスの部屋のベッドは一台だが、ダブルサイズなので二人が横たわれないこともない。
ごろんと二人で横になり、もう一歩も動けないという様子でごろごろする。
「うにゅう、ボクもう、このまま寝ちゃう……でもユニスは、さすがに鎧ぐらいは脱いだほうがいいと思う……」
「そ、そうね……いいなぁ魔法使いは、そのまま寝れて」
「それは斬新な視点だね……」
ユニスは鉄製の胸当てや小手、脛当てなどを、心底めんどくさそうに無造作に脱ぎ捨てていく。
そして金属製の部分鎧を全部外したら、再びベッドにばたり。
「今日はもう、疲れた……」
「ボクも……お休み、ユニス……」
「お休み、ニア……」
そうして二人の少女は、互いの手を握ったまま、すぅすぅと寝息を立てていく──
こうして、二人の少女の初めての冒険が幕を閉じた。
この二人、次の冒険は次の冒険で、やはり大変な目に遭うかもしれないが──
それはまた、別のお話である。
少女はかつてないほどの身体能力で、あっという間に狙っていたイヤシソウのもとまでたどり着く。
そこはすでに、エクスタスフラワーの支配領域だ。
だがその本体を見れば、ようやくユニスが自らの領域内に侵入したことに気付いたようで、ゆっくりとその身を動かし始めたところだった。
「よし、いける……!」
ユニスは剣をイヤシソウの横の地面に何度かザクザクと突き刺し、目的の薬草を根っこから掘り起こす。
イヤシソウは根っこに特に強い薬性がある。
しかも普通に引っこ抜こうとしても千切れてしまうので、こうして掘り起こす必要があるのだ。
しかしその作業もすぐに完了する。
イヤシソウの採取に成功して、ユニスは満足げににんまりと笑みを浮かべる。
「ユニス~、早く早く~! 採ったらすぐに戻ってきて~!」
離れた場所からラヴィニアが手を振って、ユニスに呼びかけていた。
「分かってる。でも大丈夫、余裕で間に合うよ」
ユニスはちらと、エクスタスフラワーの姿を見る。
こちらに向かって攻撃を仕掛けようとしている仕草は見えたが、あれなら楽勝で逃げ切れると思った。
だが──
──ゴゴゴゴゴッ!
そのときユニスの足元、大地が地鳴りを起こして揺れ、少女はバランスを崩してしまう。
「な、何……!?」
そして一呼吸の後──
ぼごんっとユニスの足元の地面が割れ、その割れ目の中から、巨大な植物の根っこがうじゃうじゃと地表に姿を現した。
「う、嘘でしょおっ!? ──ちょっ、うわわっ!?」
根っこは長く柔らかくしなり、太さはユニスの手首ほどもある。
それがバランスを崩した少女剣士の足首や手首、太ももや腰、首などに次々と巻きついていく。
やがてユニスは、その全身を巨大植物の根っこに絡め取られ、がっちりと拘束されてしまった。
「くあっ……! あっ……ぐぅぅっ……! うぁあああああっ……!」
太い根っこに全身をぎりぎりと締め上げられ、ユニスは頬を赤く染め、苦しげに悲鳴を上げる。
どうにか逃げ出そうにも、少女剣士の両腕両脚の自由は今や完全に奪われており、剣を一振りすることすら叶わない。
また闘気を振り絞って力づくで振り切ろうとしても、ユニスに絡みついた根っこの力は一本一本が極めて強力で、力を振り絞るほどに、逆により強い力で抑え込まれてしまう。
「あっ、ぐぅっ……! こ、のぉっ……放しなさいよっ……!」
「ゆ、ユニス……! どうしよう……【火球】じゃ、ユニスごと巻き込んじゃうし……そ、そうだ!」
それを離れた場所から見ていたラヴィニアは、慌てて呪文を唱え始める。
だがそうこうしているうちにも、ユニスを責める根っこの動きは変化を遂げていく。
「ふぁっ……!? えっ……ちょっ、な、何を……!? ──んぁあああああっ!」
びくんっ!
拘束されたユニスの体が、大きくのけぞった。
というのも、うねうねと動く巨大植物の根っこが、ユニスのあらぬところをまさぐり始めたのだ。
根っこはさらににゅるにゅると、ユニスの服の内側へと侵入していく。
「ちょっ、ちょっと待って……!? 何これ、嘘でしょ!? なんでそんなところ入って……!? ふやぁあああんっ……! や、やだっ、助けて、ニアぁっ……!」
「分かってる、今助けるから──いくよ、【風刃】!」
──ギュオッ!
ラヴィニアの掛け声とともに、彼女が掲げた杖の先から、三陣の風の刃が放たれた。
風の刃は高速で飛んでいくと、ユニスを拘束していた巨大植物の根っこをズババッと切断した。
「ありがとう、ニア! ──よくもやってくれたわね、このエロ植物!」
ユニスは自由になった腕で剣を振るい、自身を縛っていた残りの根っこを切り払って、それでどうにか拘束状態から逃れることに成功した。
「はぁっ、はぁっ……ざまぁ見ろ……! って、うわわわわっ、ま、まだ来るの!?」
「ユニス! 早く逃げてきて!」
「わ、分かってるわよ!」
ユニスはそこから全力ダッシュをして、エクスタスフラワーの支配領域から慌てて脱出を試みる。
ラヴィニアの魔法によって敏捷性が向上し、さらに自身の闘気の力もあって、今のユニスの敏捷力は半端なものではない。
エクスタスフラワーの根も相当な速さと手数で攻撃してきたが、それでも不意さえ打たれなければ、どうにかギリギリ振り切ることはできた。
そうしてユニスは、ほうほうの態ながらもラヴィニアのいる安全圏まで逃げてくることに成功した。
そこまで来ればもう攻撃は襲ってこなかったのだが、それでも不安なので、二人はさらにしばらく遠くまで逃げ、いくら何でももう大丈夫だろうというところでようやく足を止めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! な、何なのよ、あれ……反則でしょ……! ──ていうか、あのエロ植物は何!? あんなのアリ!?」
「はぁっ、はぁっ……いやぁ、ボクも驚いたよ。何なんだろうねあれ。人間を使って生殖する性質でも持ってるのかな?」
「平然とおぞましいこと言わないでよ!? 私それの被害者になりかけたんだけど!?」
「あははっ、ごめんごめん。つい賢者としての癖が」
ユニスが相棒の胸倉をつかんでがくがく揺さぶるが、ラヴィニアは朗らかに笑っていた。
それを見たユニスはバカらしくなって、相方から手を離すと、その場で草むらの上にバタッと大の字に寝転がる。
「あーっ、冒険者って大変だね。正直甘く見てたわ」
ラヴィニアもまた、その隣にごろんと転がる。
「本当だね。でも今回みたいなのは、さすがにイレギュラーなんじゃない?」
「だといいけど」
「だといいね」
「そうであってほしい。でも──」
ユニスはがばっと上半身を起こし、あれだけされても手放さず左手に握ったままだった戦利品をラヴィニアに見せつける。
「取ってきてやったわ。十株目のイヤシソウ」
「お疲れ様。金貨二枚半以上の価値があるイヤシソウだね。ちなみにボクの宮廷魔術師のときの日当が金貨四枚だから、それと比べると──」
「やめて、それは今、聞きたくない。あーあー聞こえなーい」
「あははははっ」
「あはははははっ」
森の中で、二人の少女は仲良く愉快に笑い合う。
そんな二人の頭上、空を見上げれば──
オレンジ色の夕焼け空に、ゆっくりと紺色が混ざりはじめ、今日という日の終わりを告げようとしていた。
***
「「いっただっきまーす!」」
大衆向けの、酒場と食堂を兼ねたお店。
そのカウンター席に並んで、二人の少女はナイフとフォークを手にしていた。
彼女らの前に並ぶのは、二人で食べきれるのかという量の、色とりどりの豪勢な料理の数々だ。
もっとも豪勢といっても大衆食堂なので、言うほど値が張るものでもないのだが。
普段は自宅で自炊をしている二人だが、今日はもう冒険で疲れたし、外食をして怠けようということになった。
そしてせっかくだからとお祭り気分であれもこれもと頼んでしまい、高級ワインも注文してやりたい放題の二人である。
今日の冒険で稼いだ金貨五枚のうちの二割以上が消し飛ぶほどの大盤振る舞いだが、少女たちはそんなことは気にしていない。
「はぐっ、んぐっ……ん~っ! ねぇニア、これおいしいよ。食べてみ?」
「どれどれ? むぐむぐ……お、ホントだ。これいいね。お酒にも合うし」
「でしょでしょ? いやぁ、注文した私の目利きだね」
「それを言うならユニス、こっちも食べてみなよ。いけるから」
「ほほう。もぐもぐ……んんっ! うんっ、これもおいしい!」
「にひーっ。そうでしょ」
互いに注文した料理を突き合い、合間にワインを飲み、他愛もない話をしてはケラケラと笑う。
そんな二人の微笑ましい姿を見て、カウンターの向こうで別の客の酒を注いでいた店主が声をかける。
「ははっ、いい食べっぷりだな、嬢ちゃんたち。見ていて気持ちいいってぐらいだ。今日は何かいいことでもあったかい?」
そう聞かれると、少女たちは互いに顔を見合わせる。
「いいことがあったっていうか……」
「どっちかっていうと、悪いこと?」
「まあでも、結果オーライでいいかな」
「そうだね。ユニスの貞操のピンチもちょっとの被害だけで切り抜けられたし、万事問題なし♪」
「……ちょっと、ニア。それはどうなのよ、うん? 自分が被害に遭ってないから問題なしと、そうおっしゃる?」
「あはははは。怒らない、怒らない。どう、どう」
「むきーっ! ニアも同じ目に遭ってみればいいのよ! ほら、こうやって、こうしてやる!」
「あはははっ、やっ、あんっ、ちょっと待って、だめっ、ユニス、そこは……!」
ほろ酔い気分になって、周りがあまり見えていない二人。
美貌の少女たちがイチャコラと揉み合いへし合いしていれば、周りの客がそちらを見てごくりと唾を飲むのだが、そんなことは気にもしていない。
そんな楽しげなやり取りをする二人を見て、店主は苦笑をしつつ、別の席にお酒を運んでいく──
そのようにして、二人の賑やかな食事時も過ぎ去っていき。
やがて酒場を出た二人は、酔っぱらった上にお腹がパンパンの状態で、ふらふらと夜道を歩いていた。
「た、食べ過ぎたわ……」
「ははは……お互い悪ノリし過ぎたね……でもボクの家、遠い……しんどい……」
「したらさニア、もう今日はうちに泊まっていけば?」
「そ、そうする……うぷっ」
そうして二人でユニスの家に帰還すると、二人して、一も二もなく同じベッドに倒れ込んだ。
ユニスの部屋のベッドは一台だが、ダブルサイズなので二人が横たわれないこともない。
ごろんと二人で横になり、もう一歩も動けないという様子でごろごろする。
「うにゅう、ボクもう、このまま寝ちゃう……でもユニスは、さすがに鎧ぐらいは脱いだほうがいいと思う……」
「そ、そうね……いいなぁ魔法使いは、そのまま寝れて」
「それは斬新な視点だね……」
ユニスは鉄製の胸当てや小手、脛当てなどを、心底めんどくさそうに無造作に脱ぎ捨てていく。
そして金属製の部分鎧を全部外したら、再びベッドにばたり。
「今日はもう、疲れた……」
「ボクも……お休み、ユニス……」
「お休み、ニア……」
そうして二人の少女は、互いの手を握ったまま、すぅすぅと寝息を立てていく──
こうして、二人の少女の初めての冒険が幕を閉じた。
この二人、次の冒険は次の冒険で、やはり大変な目に遭うかもしれないが──
それはまた、別のお話である。
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