聖騎士見習いの少女、ついにブチ切れて冒険者になる

いかぽん

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第6話

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 男たちをおびき出して撃退した後は、素直にクエストをこなすばかりだ。

 ユニスとラヴィニアの二人は、森の探索を再開し、目的の薬草を次々と採取していく。

 森には「ホーンラビット」と呼ばれるモンスターが多数生息していて、ユニスたちはときおりこれと遭遇しては、戦闘を行った。

 ただ、あくまでもFランク冒険者──荒事の初心者がこなすクエストだ。
 モンスターはさほど強くはなく、ユニスの実力ならば軽くあしらえた。

 そうして森をあらかた回り終え、薬草を目標の数の八割ほどまで回収したところで、今度は広場にて三体のホーンラビットと遭遇。

 そこまでは一体ずつの遭遇だったので、これは初めての経験だ。

「ありゃま、三体同時か」

 ユニスが軽く驚きの声を上げると、その横ではラヴィニアが小さく首を傾げる。

「んー、しんどいようならボクが魔法を使うけど、どうする?」

「や、全然大丈夫でしょ。どうとでもなるよ。ニアこそ狙われないように気を付けて」

 ユニスはそう言って、剣を片手にホーンラビットの群れへと斬り込んでいく。

 ホーンラビットは、イノシシほどの大きさを持つ、ウサギに似た姿のモンスターだ。

 目はギラリと赤く、そのおでこからは短剣ダガーほどの長さを持つ鋭い角がまっすぐに伸びている。

 ホーンラビットは好戦的であり、人間を見ればまず間違いなく襲い掛かってくる習性をもつ。

 鋭い角を使った突進攻撃の威力は侮れないが、体が大きいせいか普通のウサギと比べて動きは鈍重で、熟練の戦士にとっては恐れるに足らない相手だ。

 三体の群れの中に突っ込んでいったユニスは、まずは一体を難なく斬り捨てると、別の二体の突進攻撃をひらりひらりとかわし、ついでの反撃でもう一体を沈める。

 あっという間に二体の仲間が倒されたのを見た最後の一体は、キュイッと鳴き声を上げて慌てて逃げ去っていった。

 あっさりと戦闘終了だ。
 ユニスはひゅんと剣を振って血糊を払い、刃を布で拭き取ってから鞘にしまう。

 そして自らが倒したホーンラビットの亡骸を見て、わずかに哀の表情を見せる。

「ちょっと可哀想って気はするのよね。襲ってくるから倒すんだけど、生息地を荒らしているのはこっちだし」

「ま、しょうがないよ。冒険者ってそういうものだし。モンスターが繁殖しすぎて人の生息地を脅かすようになったら、どうせ退治しなきゃいけないしね」

 ラヴィニアはそう返事をしながら、広場に生えていたイヤシソウ一株と、ゲドクグサ二株を、短剣ダガーを使って丁寧に採取していく。

 そして採取用の袋にそれを詰めると、中の株を数えていった。

「んー……これでイヤシソウ九株と、ゲドクグサ十株か。ゲドクグサは必要数に達したけど、イヤシソウが一株足りないね」

「でももう、森の中はほとんど回り切った気がするよ。もう一度回って、くまなく探してみる? でも──」

 空を見上げれば、生い茂る木々の葉の合間から、オレンジ色の夕焼け空が見える。

 もうしばらくすれば、あたりは夜闇に包まれてしまうだろう。

 魔法などで照明を用意すれば、夜間の探索も不可能ではないだろうが、帰るのが夜遅くになれば聖都の市門が閉じられてしまい、野宿を余儀なくされることになる。

 その事態はなるべくなら避けたい、というのが二人の本音だった。

「となると、あとはあれだね、もう一ヶ所」

「あー……そういえばあそこにあったわね、イヤシソウ」

 二人は森を探索する中で、一ヶ所だけスルーした場所があるのを思い出していた。

 それはこの薬草採取のクエストの注意点として、最初に伝えられていたこと。

 この「角ウサギの森」には、非常に危険な「エクスタスフラワー」という植物系モンスターが生息する地帯があるので、初級冒険者はそこに近付いてはならないというのだ。

 幸いなことに、そのエクスタスフラワーというモンスター、一定距離以内に近付かなければ襲ってくることはないという特性を持つ上に、鮮烈な色の巨大な花を咲かせているせいで非常に目立つので見落としの危険もまずない。

 ゆえに未熟な冒険者でも、この森の探索は可能というのが冒険者ギルドの判断だった。

 そしてユニスたちは、そのエクスタスフラワーの支配領域を横目に見て通り過ぎるときに、そこにナオシソウが何株か生えていたのを目撃している。

 そのときには、冒険者ギルドの忠告どおりそこには近づかずに、別の場所の探索に移ったのだが──

「……ねぇニア、『非常に危険なモンスター』って言ったって、普通のFランク冒険者にとっては、の話よね?」

「うん、ユニスが言いたいことは分かるよ。多分ボクたちは、『普通のFランク冒険者』っていうのとは違うからね。それにこのままだと、クエストの完全達成にならない。必要な薬草を全部揃えれば金貨五枚だけど、一株でも足りなかったらイヤシソウが一株あたり銀貨一枚、ゲドクグサが一株当たり銀貨一枚半での買い取りだから、トータルで金貨二枚半以上の損になっちゃう。……どうする、ユニス? 欲、出しちゃう?」

「出しちゃおうか。何とかなるでしょ。ヤバかったら逃げればいいし」

「よし、じゃあ行っちゃおうか」

 二人はそう軽率に決断して、エクスタスフラワーの生息地へと足を向けた。

 その判断が大変な事態を招くことになろうとは、このときの二人は、まだ知らなかったのだ……。



 二人は来た道を戻り、やがてエクスタスフラワーが見える位置までやってきた。

 少女たちは木々の陰に隠れ、遠方にそびえ立つ巨大な植物型モンスターの姿を覗き見る。
 別に隠れる必要はあまりないのだが、なんとなくそんな気分だった。

「確か、本体から三十メートル以内が支配領域テリトリーって話だったわね」

「うん。その外からだと、ボクの攻撃魔法も届かない。弓でもあればやりようはあるのかもしれないけど」

「ないものねだりをしてもね。ありもので考えるしかないわ」

 二人はそんな話をしながら、うーんと考え込む。

 エクスタスフラワーは、三階建ての建物ほどの背丈を持つ巨大植物だ。

 太く長いツルが何本も複雑に絡み合ってそそり立っており、その頂上にはチューリップのような形状の巨大な赤い花が咲いている。

 それが森の中、そこだけ広大な広場のようになった場所の中央に、我こそがこの森の王者でございという様子で鎮座していた。

 なおその広場のあちこちには、ナオリソウがトータルで五株ほど生えているのが見える。

「一株でいいのよね? 一番近いところにあるのを、スパッと走って取ってくればいいんでしょ」

「一番近いのでも、まあまあ本体から近い場所に生えているのが難点だけどね」

「大丈夫、多分いけるわ。でも一応援護をもらえる?」

「ほいほい、支援魔法ね。この場合だとやっぱり、【加速ヘイスト】あたりかな」

 ラヴィニアは相方の少女剣士に、敏捷性強化の効果を持った魔法をかける。
 放たれた魔力がユニスの体に浸透していくと──

「わっ、すごい、何これ! ニアの魔法ってこんなにすごいの?」

 ユニスはぴょんぴょんと跳ねて、体の具合を確かめる。
 ラヴィニアがかけた魔法の効果は、それを受けた当人の予想を遥かに超えていた。

「【加速ヘイスト】の魔法は、そんなに長くは続かないよ。まあそんな長時間もかけるような状況でもないけど」

「オッケー、ニア。これだけもらえれば、まず大丈夫でしょ。──じゃ、行ってくる!」

 そう言って、ひととおり準備運動を終えると、ユニスはその場から駆け出していった。

 びゅん、と風が音を鳴らすほどの速度。
 それを間近で見ていたラヴィニアは、ぽりぽりと頭を掻く。

「ありゃあ人間のスピードじゃないな。──頑張って~、ユニス~」

 ラヴィニアはそう言って、のんきに相棒を見送った。
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