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第三話

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 魔法少女の素質を持って生まれる者は、だいたい数千人に一人と言われている。

 全国の魔法少女の素質を持った者は、初等学校を卒業すると全寮制の魔法少女学園と呼ばれる学校に集められ、そこで魔法少女になるための教育を受ける。

 そして学園の課程を修了したら、全国各地に配属されて現地勤務の魔法少女として働くことになる。

 魔法少女の仕事を一言で表すなら、「モンスター退治」あるいは「モンスターの脅威からの人里防衛」である。

 モンスターと一言に言っても、ゴブリンからドラゴンまでピンキリであるが、村や街を襲って人々に危害を加えるものは総じて魔法少女による排除対象だ。

 ゴブリンぐらいなら普通の人でも対抗できなくはないのだが、強力なモンスターとなってくればいよいよ無理があるため、超常的な力を持った魔法少女の出番というわけだ。

 一人の平均的な魔法少女は、一般兵士と比較するとその十人から二十人分の戦力に匹敵すると言われている。

 魔法少女それぞれで能力に個人差はあるが、総じて人間離れした圧倒的な運動能力とパワー、それに魔力障壁による高い防御力や、炎や冷気や雷撃などを操る力なども持ち、普通の人間とは一線を画した戦闘能力を誇るのが魔法少女だ。

 魔法少女駐在所は全国に百二十ほどの支部が存在しており、そこに所属する魔法少女たちが各地域の防衛を一手に担っている。

 支部周辺の村や街がモンスターに襲われたときには、魔法少女は「ブルーム」と呼ばれる魔法のホウキにまたがり、空を飛んで現地へと急行、モンスターを撃退するのだ。

 そういった防衛活動を行う代価として、魔法少女たちは人々から徴収した税金の中から給料を受け取っている。

 言わば、ある種の「お役人さん」というのが、職業としての魔法少女の立ち位置だ。



「──とまあ、このあたりがオレたち魔法少女の基本的な仕事内容と立場だな。学園でも習ったろうから、あんまり詳しくは説明しないが」

「はい! その辺はしっかり勉強してます!」

「ん、よし」

 新人魔法少女イルマがグラスベルに到着し、支部長のレティシアに挨拶をした、その翌日のこと。

 イルマは先輩魔法少女ユニスについて、駐在所の控え室で仕事内容について教わっていた。

 なお、二人が着席したテーブルには紅茶と、ユニスのおごりでケーキが用意されていて、なかなかに優雅な様子だ。

 魔法少女たちは出動がないときにはのんびりしていていいので、このあたりはわりと自由なのだ。

「ん~っ! ユニス先輩! このケーキおいしいです!」

「そっか、そりゃ良かった。街外れにあるケーキ屋のなんだけどな、オレのお気に入りなんだ」

「ユニス先輩って、いい先輩ですね!」

「ケーキおごった途端それかよ。現金なやつだな」

「えへへ~。でもそれだけじゃないですよ。ユニス先輩、優しいですし」

「んなことねぇよ。普通だ普通」

「普通に優しいってすごいと思いますよ。私、もっと嫌な先輩に当たったらどうしようかって思ってましたもん。ユニス先輩が私の先輩で良かったです!」

「ん……そっか」

 ユニスは頬を染めてイルマから視線を外し、まんざらでもないといった様子。

 ぶっきらぼうなユニスは、普段あまり褒められなれていなくて、こういうときどうしたらいいのかが分からないのだった。

 一方イルマは、ケーキをもぐもぐとほおばりながら、ユニスにもう一つ質問をする。

「あと、先輩。失礼かもしれないんですけど、一ついいですか?」

「ん、なんだ。言ってみろ」

「先輩のこと、ぎゅーって抱きしめてもいいですか?」

「……はぁ?」

 後輩から突然飛んできた意味の分からない発言に、ユニスは何言ってんだこいつ、という目でイルマを見る。

 だがイルマは、瞳をキラキラとさせてユニスを見つめ返す。

「だってユニス先輩、さっきからすっごく可愛くて、もう我慢できないっていうか!」

「お前はいったい何を言っているんだ」

「だから、抱いていいですか、先輩!?」

「いいわけねぇだろ」

「そこをなんとか! お願いします、このとおり!」

「お願いされても許可できるかそんなもん! 却下だ却下!」

「しょぼーん(´・ω・`)」

「しょぼーん、じゃねぇ! オレはお前の愛玩動物じゃねぇんだぞ!」

「ちぇっ」

「……よし、お前がオレのことを舐めてるのはよぉく分かった」

「そんなぁ。舐めたいとまでは言ってませんよ」

「おぞましいこと言ってんなよ!?」

「でもユニス先輩! 自分はいつか、先輩のことを抱いてみせます! 今決めました!」

「なっ……!?」

 口をぱくぱくとさせて、あっけにとられるユニス。
 それと同時に──

 ──ゾクッ。
 ユニスは何か、怖気のようなものを感じた。

 まるで自分はチワワで、その自分の前にはとても強大な力をもった猛獣がよだれをたらし牙をむいているような錯覚。

 ユニスは過去に一度だけ、こんな感覚を味わった記憶がある。
 あれは王都から来た、魔法少女本部のエリート魔法少女たちを前にしたときだった。

 ユニスはごくりと唾をのむ。

(……き、気のせいだよな。学園での成績が多少良くたって、こいつまだ新人だし……そもそもあのときは、何人ものエリートどもが目の前にいたからあのプレッシャーだったんだ。新人一人相手にこんな……ははっ、考えすぎだな……)

 ユニスは、自分の本能が感じる恐怖を、そうやって自分の中に押し込めるのだった。

 と、そのときだ。

 ──ジリリリリリリッ!
 控え室に設置された魔法遠話装置、そこに仕掛けられたベルが音を鳴らした、

「っと、仕事か、ちょうどいい。──はい、こちらグラスベル魔法少女支部のユニスだ」

 ユニスが遠話装置の受話器を取ると、その向こう側から聞こえてくる声と通話を始める。

「……ふん……ふん……リーベット村にゴブリン出現な……数は? ……ん、確認されただけで十数体か……オッケー分かった、すぐ行く」

 ユニスはそう言って、受話器をガチャンと戻す。
 そしてイルマに向かって言った。

「仕事だ新入り。実地研修だ、すぐ出るぞ」

「はい、先輩!」

 さっそく控え室を出ていくユニスのあとを、イルマが追いかける。
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