辺境勤務の魔法少女 ~怪物すぎる新人と、おいしく食べられそうになる先輩~

いかぽん

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第五話

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 一つの魔法少女支部が管轄するのは、支部のある街の周囲、およそ五十キロメートルの圏内というのが標準である。

 この五十キロメートルという距離は、旅人が徒歩で一日かけて歩く距離とほぼ等しい。
 つまり、救援依頼があったときに徒歩で向かったのでは、それだけの時間がかかってしまうということだ。

 ゆえに魔法少女たちは、高速飛行魔法を宿した「ブルーム」を使って現地へ急行するのが一般的だ。

 現代のマジックアイテム製作技術の粋を集めて作られたブルーム。
 その飛行速度は、製作した技師の腕や使用した素材の質、あるいは使用者の能力などによっても差は出てくるのだが、たいていは拠点の街から管轄内の最遠の村まででも、一時間とたたずに到着できるほどだ。

 グラスベルの魔法少女支部にある四本のブルームはいずれも古い型で、中央のエリート魔法少女が使うものなどと比べたら随分と性能は劣る。

 それでも、魔法少女学園で使われている訓練用のブルームよりはよほど馬力があるので、新人は扱いに戸惑うことが多い。

 だというのに──

(イルマのやつ、ちゃんと使いこなしてるな……。スピードも結構出してるのに、しっかりついてきてる……やるなあいつ)

 街道の上空。
 ユニスは自分の後方をついて飛ぶ後輩を見て、そう感想を抱く。

 自分が新人の頃は、ああも巧くは扱えなかったはずだ。
 スピードだって全然。
 安定して飛ぶことすら困難だった。

 なのにあいつは──

(なるほど、中央の方からスカウトがあったってのは、ダテじゃないみたいだな。──だったら、ちっと意地悪してやるか)

 ユニスの心に、少しのいたずら心が湧いた。

 あいつがどこまでついてこれるか、試してやろう。
 そう思った。

 イルマのやつ、一応先輩を敬う気持ちはあるみたいだが、先輩魔法少女のことを舐めているふしも見受けられる。

 おそらくは学園での成績が良かったとか、中央からスカウトがあったとかで天狗になっているんだろうが……。

 このあたりでひとつ、伸びきった鼻っ柱を折っておいてやった方が本人のためだ。
 自分がいかに狭い世界で実力を競っていたか、それを思い知らせてやるべきだろう。

 そう思ったユニスは、後ろを飛ぶイルマに向かって叫ぶ。

「──イルマ、ちっと速度上げるぞ! ついて来い!」

「はい、ユニス先輩!」

 後輩の返事を確認すると、ユニスはブルームに魔力を全開で注ぎ込んだ。

 ついて来いと言ったが、それはユニスの意地悪だ。
 むしろ新人がついて来れない速度で飛ぶことで、実力の壁を叩きつけてやろうというのが彼女の目的なのだ。

 ──キィイイイイイン!

 輝きを増し、ぐんぐんと速度を上げていくユニスのブルーム。
 高めた魔力が輝きとなって漏れ、ユニス自身の体をも覆う。

(よし……今日は絶好調だな)

 ユニスは自分の魔力の調子の良さを感じてほくそ笑む。

 臨界まで高めた魔力が、自身の最高のパフォーマンスを体感させる。
 ここ数日の中でも、トップクラスにコンディションがいい。

(──っと、いけね。イルマのやつを見失ったらまずい)

 つい悦に浸って、後輩のことを忘れそうになってしまった。

 もうかなり距離を離してしまったことだろう。
 追いつけなくなって泣きべそをかいている後輩のもとに行って、フォローしてやらないといけない。

 そう思い、慌てて後ろを見ると──

 ユニスの目の前に、深紅の悪魔──もとい、赤い髪とコスチュームの魔法少女がいた。

「えっ……」

「こんな感じでいいですか、先輩?」

 ぴったり。
 ユニスのすぐ斜め後ろに、イルマがまったく同じスピードでくっついていたのだ。

 こてん、と首をかしげるユニス。

「あ、あれ……? おかしいな」

 ユニスは目をごしごしとこする。

 だが、見間違えでも幻覚でもなく、そこに後輩魔法少女の姿があった。

「──く、くそっ!」

 ユニスは目的を忘れた。

 何としてでも引き離さねば、先輩としての沽券にかかわる、そう思った。

「──はぁぁあああああああっ!」

 ユニスは再び全力で、ブルームに魔力を注ぎ込む。
 今度は十秒、二十秒、三十秒──

「こ、これでどうだ……!? ──ってきゃああああああっ!」

「ユニス先輩! このブルーム、学園のよりすっごく性能いいですね!」

 赤髪の魔法少女はユニスの真横まで来ていた。
 ちょっとしたホラーだった。

「なっ、あっ……お、おま……!」

「ユニス先輩! これでちょっと全速で飛んでみたいんですけど、いいですか?」

「へっ……? あ、お、おう。……おう?」

「それじゃ──行きます!」

 ──ばひゅんっ。

 全速で飛ぶユニスを置いてけぼりにして、赤髪の魔法少女はあっという間に見えなくなった。

「う……嘘だろ……?」

 あっけにとられるユニス。

 しかし少しするとイルマは、猛烈なスピードでユニスのもとまで戻ってきた。

 そしてユニスに並走すると、たははと困り笑いを浮かべて首筋をぽりぽりとかく。

「すみません先輩。私、リーベット村の場所知りませんでした。迷子になっちゃうので、やっぱり連れていってください」

 てへっと舌を出す後輩魔法少女。

「は、はは……」

 その後輩の姿を見て、乾いた笑いを浮かべるロリっ子魔法少女ユニス。

 そのつぶらな瞳からは、ちょっぴり光彩が失われつつあるのだった。
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