5 / 14
第五話
しおりを挟む
一つの魔法少女支部が管轄するのは、支部のある街の周囲、およそ五十キロメートルの圏内というのが標準である。
この五十キロメートルという距離は、旅人が徒歩で一日かけて歩く距離とほぼ等しい。
つまり、救援依頼があったときに徒歩で向かったのでは、それだけの時間がかかってしまうということだ。
ゆえに魔法少女たちは、高速飛行魔法を宿した「ブルーム」を使って現地へ急行するのが一般的だ。
現代のマジックアイテム製作技術の粋を集めて作られたブルーム。
その飛行速度は、製作した技師の腕や使用した素材の質、あるいは使用者の能力などによっても差は出てくるのだが、たいていは拠点の街から管轄内の最遠の村まででも、一時間とたたずに到着できるほどだ。
グラスベルの魔法少女支部にある四本のブルームはいずれも古い型で、中央のエリート魔法少女が使うものなどと比べたら随分と性能は劣る。
それでも、魔法少女学園で使われている訓練用のブルームよりはよほど馬力があるので、新人は扱いに戸惑うことが多い。
だというのに──
(イルマのやつ、ちゃんと使いこなしてるな……。スピードも結構出してるのに、しっかりついてきてる……やるなあいつ)
街道の上空。
ユニスは自分の後方をついて飛ぶ後輩を見て、そう感想を抱く。
自分が新人の頃は、ああも巧くは扱えなかったはずだ。
スピードだって全然。
安定して飛ぶことすら困難だった。
なのにあいつは──
(なるほど、中央の方からスカウトがあったってのは、ダテじゃないみたいだな。──だったら、ちっと意地悪してやるか)
ユニスの心に、少しのいたずら心が湧いた。
あいつがどこまでついてこれるか、試してやろう。
そう思った。
イルマのやつ、一応先輩を敬う気持ちはあるみたいだが、先輩魔法少女のことを舐めているふしも見受けられる。
おそらくは学園での成績が良かったとか、中央からスカウトがあったとかで天狗になっているんだろうが……。
このあたりでひとつ、伸びきった鼻っ柱を折っておいてやった方が本人のためだ。
自分がいかに狭い世界で実力を競っていたか、それを思い知らせてやるべきだろう。
そう思ったユニスは、後ろを飛ぶイルマに向かって叫ぶ。
「──イルマ、ちっと速度上げるぞ! ついて来い!」
「はい、ユニス先輩!」
後輩の返事を確認すると、ユニスはブルームに魔力を全開で注ぎ込んだ。
ついて来いと言ったが、それはユニスの意地悪だ。
むしろ新人がついて来れない速度で飛ぶことで、実力の壁を叩きつけてやろうというのが彼女の目的なのだ。
──キィイイイイイン!
輝きを増し、ぐんぐんと速度を上げていくユニスのブルーム。
高めた魔力が輝きとなって漏れ、ユニス自身の体をも覆う。
(よし……今日は絶好調だな)
ユニスは自分の魔力の調子の良さを感じてほくそ笑む。
臨界まで高めた魔力が、自身の最高のパフォーマンスを体感させる。
ここ数日の中でも、トップクラスにコンディションがいい。
(──っと、いけね。イルマのやつを見失ったらまずい)
つい悦に浸って、後輩のことを忘れそうになってしまった。
もうかなり距離を離してしまったことだろう。
追いつけなくなって泣きべそをかいている後輩のもとに行って、フォローしてやらないといけない。
そう思い、慌てて後ろを見ると──
ユニスの目の前に、深紅の悪魔──もとい、赤い髪とコスチュームの魔法少女がいた。
「えっ……」
「こんな感じでいいですか、先輩?」
ぴったり。
ユニスのすぐ斜め後ろに、イルマがまったく同じスピードでくっついていたのだ。
こてん、と首をかしげるユニス。
「あ、あれ……? おかしいな」
ユニスは目をごしごしとこする。
だが、見間違えでも幻覚でもなく、そこに後輩魔法少女の姿があった。
「──く、くそっ!」
ユニスは目的を忘れた。
何としてでも引き離さねば、先輩としての沽券にかかわる、そう思った。
「──はぁぁあああああああっ!」
ユニスは再び全力で、ブルームに魔力を注ぎ込む。
今度は十秒、二十秒、三十秒──
「こ、これでどうだ……!? ──ってきゃああああああっ!」
「ユニス先輩! このブルーム、学園のよりすっごく性能いいですね!」
赤髪の魔法少女はユニスの真横まで来ていた。
ちょっとしたホラーだった。
「なっ、あっ……お、おま……!」
「ユニス先輩! これでちょっと全速で飛んでみたいんですけど、いいですか?」
「へっ……? あ、お、おう。……おう?」
「それじゃ──行きます!」
──ばひゅんっ。
全速で飛ぶユニスを置いてけぼりにして、赤髪の魔法少女はあっという間に見えなくなった。
「う……嘘だろ……?」
あっけにとられるユニス。
しかし少しするとイルマは、猛烈なスピードでユニスのもとまで戻ってきた。
そしてユニスに並走すると、たははと困り笑いを浮かべて首筋をぽりぽりとかく。
「すみません先輩。私、リーベット村の場所知りませんでした。迷子になっちゃうので、やっぱり連れていってください」
てへっと舌を出す後輩魔法少女。
「は、はは……」
その後輩の姿を見て、乾いた笑いを浮かべるロリっ子魔法少女ユニス。
そのつぶらな瞳からは、ちょっぴり光彩が失われつつあるのだった。
この五十キロメートルという距離は、旅人が徒歩で一日かけて歩く距離とほぼ等しい。
つまり、救援依頼があったときに徒歩で向かったのでは、それだけの時間がかかってしまうということだ。
ゆえに魔法少女たちは、高速飛行魔法を宿した「ブルーム」を使って現地へ急行するのが一般的だ。
現代のマジックアイテム製作技術の粋を集めて作られたブルーム。
その飛行速度は、製作した技師の腕や使用した素材の質、あるいは使用者の能力などによっても差は出てくるのだが、たいていは拠点の街から管轄内の最遠の村まででも、一時間とたたずに到着できるほどだ。
グラスベルの魔法少女支部にある四本のブルームはいずれも古い型で、中央のエリート魔法少女が使うものなどと比べたら随分と性能は劣る。
それでも、魔法少女学園で使われている訓練用のブルームよりはよほど馬力があるので、新人は扱いに戸惑うことが多い。
だというのに──
(イルマのやつ、ちゃんと使いこなしてるな……。スピードも結構出してるのに、しっかりついてきてる……やるなあいつ)
街道の上空。
ユニスは自分の後方をついて飛ぶ後輩を見て、そう感想を抱く。
自分が新人の頃は、ああも巧くは扱えなかったはずだ。
スピードだって全然。
安定して飛ぶことすら困難だった。
なのにあいつは──
(なるほど、中央の方からスカウトがあったってのは、ダテじゃないみたいだな。──だったら、ちっと意地悪してやるか)
ユニスの心に、少しのいたずら心が湧いた。
あいつがどこまでついてこれるか、試してやろう。
そう思った。
イルマのやつ、一応先輩を敬う気持ちはあるみたいだが、先輩魔法少女のことを舐めているふしも見受けられる。
おそらくは学園での成績が良かったとか、中央からスカウトがあったとかで天狗になっているんだろうが……。
このあたりでひとつ、伸びきった鼻っ柱を折っておいてやった方が本人のためだ。
自分がいかに狭い世界で実力を競っていたか、それを思い知らせてやるべきだろう。
そう思ったユニスは、後ろを飛ぶイルマに向かって叫ぶ。
「──イルマ、ちっと速度上げるぞ! ついて来い!」
「はい、ユニス先輩!」
後輩の返事を確認すると、ユニスはブルームに魔力を全開で注ぎ込んだ。
ついて来いと言ったが、それはユニスの意地悪だ。
むしろ新人がついて来れない速度で飛ぶことで、実力の壁を叩きつけてやろうというのが彼女の目的なのだ。
──キィイイイイイン!
輝きを増し、ぐんぐんと速度を上げていくユニスのブルーム。
高めた魔力が輝きとなって漏れ、ユニス自身の体をも覆う。
(よし……今日は絶好調だな)
ユニスは自分の魔力の調子の良さを感じてほくそ笑む。
臨界まで高めた魔力が、自身の最高のパフォーマンスを体感させる。
ここ数日の中でも、トップクラスにコンディションがいい。
(──っと、いけね。イルマのやつを見失ったらまずい)
つい悦に浸って、後輩のことを忘れそうになってしまった。
もうかなり距離を離してしまったことだろう。
追いつけなくなって泣きべそをかいている後輩のもとに行って、フォローしてやらないといけない。
そう思い、慌てて後ろを見ると──
ユニスの目の前に、深紅の悪魔──もとい、赤い髪とコスチュームの魔法少女がいた。
「えっ……」
「こんな感じでいいですか、先輩?」
ぴったり。
ユニスのすぐ斜め後ろに、イルマがまったく同じスピードでくっついていたのだ。
こてん、と首をかしげるユニス。
「あ、あれ……? おかしいな」
ユニスは目をごしごしとこする。
だが、見間違えでも幻覚でもなく、そこに後輩魔法少女の姿があった。
「──く、くそっ!」
ユニスは目的を忘れた。
何としてでも引き離さねば、先輩としての沽券にかかわる、そう思った。
「──はぁぁあああああああっ!」
ユニスは再び全力で、ブルームに魔力を注ぎ込む。
今度は十秒、二十秒、三十秒──
「こ、これでどうだ……!? ──ってきゃああああああっ!」
「ユニス先輩! このブルーム、学園のよりすっごく性能いいですね!」
赤髪の魔法少女はユニスの真横まで来ていた。
ちょっとしたホラーだった。
「なっ、あっ……お、おま……!」
「ユニス先輩! これでちょっと全速で飛んでみたいんですけど、いいですか?」
「へっ……? あ、お、おう。……おう?」
「それじゃ──行きます!」
──ばひゅんっ。
全速で飛ぶユニスを置いてけぼりにして、赤髪の魔法少女はあっという間に見えなくなった。
「う……嘘だろ……?」
あっけにとられるユニス。
しかし少しするとイルマは、猛烈なスピードでユニスのもとまで戻ってきた。
そしてユニスに並走すると、たははと困り笑いを浮かべて首筋をぽりぽりとかく。
「すみません先輩。私、リーベット村の場所知りませんでした。迷子になっちゃうので、やっぱり連れていってください」
てへっと舌を出す後輩魔法少女。
「は、はは……」
その後輩の姿を見て、乾いた笑いを浮かべるロリっ子魔法少女ユニス。
そのつぶらな瞳からは、ちょっぴり光彩が失われつつあるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された検品係、最弱の蛇に正しく聞いたら鉱脈を掘り当てた ~この世界は精霊の使い方を間違えている~
Lihito
ファンタジー
精霊に「やれ」と言えば動く。この世界の全員がそう信じている。
レイドだけが違った。範囲を絞り、条件を決め、段階的に聞く。それだけで最弱の蛇は誰より正確に答える。——誰にも理解されず、追放された。
たどり着いた鉱山町で、国が雇った上位精霊が鉱脈探査に失敗し続けていた。高性能の鷹が毎回違う答えを返す。
原因は鷹じゃない。聞き方だ。
レイドは蛇一体で名乗り出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる