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編入生なんてシナリオイベントなかったわ。
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しおりを挟む妹は順調に、メインイベントをクリアしていっている。
ジュキアの魔力暴走事件と、クリスティアンの人類皆滅んでしまえ事件は、プレイヤーとしての記憶に色濃く残っている。
だからこそ、それらに匹敵するだろうこの吸血鬼事件はゲームシナリオにあっても可笑しくない濃さなのだ。
制服の上から胸もとを押さえる。下にはネックレスをつけていた。
夜の帳に包まれた学園は、昼の喧騒とはかけ離れた静寂を保っている。
「やっぱり、あなただったのね」
明かりの魔法で光らせた杖先が、暗い廊下の先を照らす。
黒く蠢いていたモノは、緑の瞳をきゅるりと煌かせ、口元から鮮血を滴らせた。
「なぁんだ、もうバレちゃった」
聞き慣れた声のはずなのに、背筋を這い上る寒気がした。
夜の闇に溶け込む黒い髪。闇に包まれてなお光る翡翠の瞳。――スヴェンが、同寮の少女を抱いて嗤っていた。
「気づくにはもう少しかかると思ってたのに。やっぱり君は賢い子だね、ヴィオレティーナ」
うっそりと、笑みを深めた口元から真っ赤な血が滴り落ちる。
新鮮な血液は、空気に触れてすぐに黒ずんでいく。
首筋から直接頂くのが一番新鮮で美味しいのだと、スヴェンは聞いてもいないのに答えた。
噂の吸血鬼は――スヴェンだった。
「どうして、とは聞かないわ。吸血鬼にとって吸血は、食事なのでしょう。でも、意識不明にさせるまで血を吸うのは、いけないことよ」
「……びっくりした。そんなことを言うのは、君が初めてだよ。たいていがやめろとか、なんでどうしてとしか言わないから」
「やめろと言うのは、息をするなと同じだと私は思うわ」
小さく、腕に抱かれたクラスメイトが呻いた。光に照らされた顔は、魔法薬学が苦手なクラスメイトだった。
「どこで気づいた?」
「あのニンニク、人間にはなんの効力も発揮しないのよ」
「えっ!? あんなにくっさかったのに!?」
「……そんなに臭かった?」
「アダムもぐしゅぐしゅ鳴いてたじゃないか! ……はぁ、つまり、あのニンニクに反応したやつにアタリをつけてたってわけか。それに僕がまんまと引っかかったと」
大仰に溜め息を吐き、立ち上がる。ごと、と床にクラスメイトが転がった。
ハッとして、駆け出そうとする足を我慢する。ここで焦ってはスヴェンの思う壺だ。
「何が目的?」
「何が目的だと思う?」
「……質問に質問で返さないで」
眉根を寄せ合わせたヴィオラに、苦笑いを零す。
手で拭った口元には赤色が伸びて滲んだ。
「お嫁さんを探しに来た、って言ったら信じる?」
お嫁さん?
ひっくり返った声でオウム返しにする。
お嫁さん、って言ったって、お婿さんならわかるが、お嫁さんって?
目に見えて混乱しているヴィオラにクスクスと笑みを零す。
ゆっくりと近づいてくる。懐いてくれていた少女とは思えない雰囲気に、気後れしてしまう。
「嗚呼、そうだね。こっちの姿だとしっくりくるかな?」
ぎゅ、と目線の変わらない彼女が胸もとに飛び込んでくる。
「――こちらの姿はどうだろう。君のお気に召すかな?」
低く、艶のある声が響く。
「男の、人……?」
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