16 / 32
第一幕 二節
駆け落ちした主様2/2
しおりを挟む
ここの神様たちはロリコンなのだろうか。ふと、冷静になったときに思うのだ。少女趣味の神様、しかも複数、それなんてパワーワード。
桐壺に膝枕をされ、頭を撫でられながらそんなことを思う。七歳までは神様の子、と言われているが今の自分は一体どのくらいの年頃なのだろうか。幼い頃は虚弱、病弱、栄養失調の三拍子。同じ年頃の子たちよりも小柄で、自分で言うのもなんだが貧弱であったので、自分でも今の体が何歳の自分なのかいまいち判断がつかないのだ。
「おねむですか?」
「……ううん」とは言いつつも、、依弦のおめめはとろんと眠たげに下がっていく。頭を撫でる手のひらが心地よい。
目を閉じて、顔の前で手を握った。ぎゅ、ぎゅ、と何度か握って、ゆっくり手を開くと体の力がだんだん抜けていく。無意識な癖だった。
髪を梳く指先がまろい頬を撫でていく。寝かしつけるゆっくりとした穏やかな動作に、眠気が誘われる。
「――昔々、けれどそれほど昔ではないあるところに、可愛くて愛らしい少女がおりました」
「……きりつぼさま?」
ゆぅるり、と頭を撫でられた。
「可愛らしくて愛らしい少女は神様に愛されて、愛でられて、大切に大切に、宝物のように育てられました」
とても、静かな声だった。寝物語を語るように、囁く声音に耳を傾ける。
「溢れるほどの愛情を注がれて稚い少女から美しく麗しい女性へと成長した愛し子は恋を知らずに育ちました」
「愛し子にとって、何者からも守って、愛で愛してくれる神様たちの優しい腕の中は優しい夢のようでした」
「優しい夢に微睡む愛し子の前に、ある時変化が訪れます」
「…へんか?」
オウム返しに繰り返した蒼の小さい耳にそっと、囁いた。
「愛し子が恋をしてしまったのです」
ゾッと、血の気が引いた。穏やかで、優しいのに、冷たくて仕方ない。
「どこからともなく現れた妖怪に、恋をしてしまったのです。それからというもの、愛し子は熱に浮かされたようにその妖怪のことしか考えられなくなってしまいました」
「私たちの愛し子が取られてしまう! 焦った神々は考えました」
――そうだ。妖怪を殺してしまおう。
「殺して、滅して、輪廻の環から外してしまおう」
「名案だ! そうしよう! 愛し子を奪うから悪いのだ!」
「妖怪は闇夜に包まれる一刻の間だけ、愛し子と逢瀬をしにやってきます。神々はその時を狙って、妖怪を殺してしまおうと企てたのです」
しかし、ひとつ誤算がありました。愛し子が、聞いてしまったのです。初恋は実らない、と。けれど、愛し子は諦めが悪かったのです。とても優しい子だったのです。
――愛し子は、どうなったのでしょうね。
「……そ、れは、」
前の主様のおはなし? 口に出すことは叶わなかった。音は喉の奥に呑み込まれ、口を柔く冷たいそれに塞がれる。
「ん、ァ」
「主様は、どこへも行ってはいけませんよ」
花のような神気が唇を通じて注がれる。眠気に加えて頭の奥が熱を持ち、ぼんやりと酩酊状態に陥った依弦はこくり、こくりと小さく頷いた。約束しちゃ、ダメなのに。そうは思っても、神気に侵された体は言うことを聞いてくれない。
「ずっと、愛しい主様でいてくださいね」
縋るような声音に、こくんと頷くしかできなかった。
桐壺に膝枕をされ、頭を撫でられながらそんなことを思う。七歳までは神様の子、と言われているが今の自分は一体どのくらいの年頃なのだろうか。幼い頃は虚弱、病弱、栄養失調の三拍子。同じ年頃の子たちよりも小柄で、自分で言うのもなんだが貧弱であったので、自分でも今の体が何歳の自分なのかいまいち判断がつかないのだ。
「おねむですか?」
「……ううん」とは言いつつも、、依弦のおめめはとろんと眠たげに下がっていく。頭を撫でる手のひらが心地よい。
目を閉じて、顔の前で手を握った。ぎゅ、ぎゅ、と何度か握って、ゆっくり手を開くと体の力がだんだん抜けていく。無意識な癖だった。
髪を梳く指先がまろい頬を撫でていく。寝かしつけるゆっくりとした穏やかな動作に、眠気が誘われる。
「――昔々、けれどそれほど昔ではないあるところに、可愛くて愛らしい少女がおりました」
「……きりつぼさま?」
ゆぅるり、と頭を撫でられた。
「可愛らしくて愛らしい少女は神様に愛されて、愛でられて、大切に大切に、宝物のように育てられました」
とても、静かな声だった。寝物語を語るように、囁く声音に耳を傾ける。
「溢れるほどの愛情を注がれて稚い少女から美しく麗しい女性へと成長した愛し子は恋を知らずに育ちました」
「愛し子にとって、何者からも守って、愛で愛してくれる神様たちの優しい腕の中は優しい夢のようでした」
「優しい夢に微睡む愛し子の前に、ある時変化が訪れます」
「…へんか?」
オウム返しに繰り返した蒼の小さい耳にそっと、囁いた。
「愛し子が恋をしてしまったのです」
ゾッと、血の気が引いた。穏やかで、優しいのに、冷たくて仕方ない。
「どこからともなく現れた妖怪に、恋をしてしまったのです。それからというもの、愛し子は熱に浮かされたようにその妖怪のことしか考えられなくなってしまいました」
「私たちの愛し子が取られてしまう! 焦った神々は考えました」
――そうだ。妖怪を殺してしまおう。
「殺して、滅して、輪廻の環から外してしまおう」
「名案だ! そうしよう! 愛し子を奪うから悪いのだ!」
「妖怪は闇夜に包まれる一刻の間だけ、愛し子と逢瀬をしにやってきます。神々はその時を狙って、妖怪を殺してしまおうと企てたのです」
しかし、ひとつ誤算がありました。愛し子が、聞いてしまったのです。初恋は実らない、と。けれど、愛し子は諦めが悪かったのです。とても優しい子だったのです。
――愛し子は、どうなったのでしょうね。
「……そ、れは、」
前の主様のおはなし? 口に出すことは叶わなかった。音は喉の奥に呑み込まれ、口を柔く冷たいそれに塞がれる。
「ん、ァ」
「主様は、どこへも行ってはいけませんよ」
花のような神気が唇を通じて注がれる。眠気に加えて頭の奥が熱を持ち、ぼんやりと酩酊状態に陥った依弦はこくり、こくりと小さく頷いた。約束しちゃ、ダメなのに。そうは思っても、神気に侵された体は言うことを聞いてくれない。
「ずっと、愛しい主様でいてくださいね」
縋るような声音に、こくんと頷くしかできなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
502
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる