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2.Amorous
しおりを挟むチャイムがなり講義を受けていた生徒達はぞろぞろと教室を出ていく。隣にいる瀬田は眠りこけていて起きそうもないので放っておこう。教科書を鞄に仕舞い席を立ち教室を出ようと扉に手が触れると瀬田が起きる。
「おい、置いていくな。」
「誰も置いていきやしないよ、教室を出ようとしただけ。」
「それは置いていくって言うんだよ、永井。」
僕は瀬田に笑いかけ扉を押し開く。おいおい待て、と言いながら瀬田が追いかけてくる。廊下に出ると冷たい空気で充ちている。躰を震わせ手をポケットに突っ込む。自動ドアを通り外に出ると冷たい風が顔に当たる。マフラーを巻いているので首は寒くないが顔が冷たい。顔が変形しそうだ。顔を顰めていると、なんちゅう顔してんだよ急に変顔するな、笑わせるな、と瀬田が言う。失礼な寒いだけだ、と答えておく。風に吹かれながら校庭を横切り売店に向かう。売店の前には長机が並べられており、生徒が十数人座っている。色んな声が混ざり合って雑音と化しており耳が嫌悪する。永井、瀬田と声がしたので其方に眼をやると銀髪の男が手を振っているのが見える。手を振り返してやると笑顔に返してくる。僕と瀬田も笑顔をやる。
「もう食った?昼飯。」
近くに来た杷木が声を発する。
「今授業終わったんだよ。」
爆睡していただけの瀬田が恰も真剣に授業を受けていたかの様に答える。
「じゃあご一緒よろしいか?」
「いいよ。」「いいよ。」
僕と瀬田の返答が被る。売店で昼飯を購入し終え学食へ向かう。一階が満席だったので二階への階段を登ると、二階はがら空きだったので一番端の席に腰掛ける。レジ袋からカップ焼きそばを取り出しかやくを入れお湯を注ぐ。瀬田は鮭おにぎりを、杷木はハンバーグ弁当を頬張っている。席に座りスマホを構うが、誰からもメッセージは来ておらず特にすることもないので、カメラロールを開いて高校生の時の写真を見返す。僕のカメラロールには渡邉が多く写っている。大体は渡邉のピン写真だが、一枚だけ二人で撮った写真がある。それをじっと見つめて過去を思い出していると、三分経ってるぞ、と杷木が教えてくれたのでスマホをスリープ状態にしてカップ焼きそばにソースとマヨネーズをかけて頬張る。
いい匂いが漂う。甘いピーナッツの様な香り。何の香りなのかすぐに分かる、彼女だと。幼い顔をした彼女が僕の横を通り過ぎる。おお柊、と杷木が声を掛けると彼女は振り向いて微笑みながら、おお杷木、と応える。それに瀬田と永井もいるじゃん、と追加する。こっち来いよと瀬田が呼ぶと、うん分かったと柊は此方へ向かってくる。杷木と瀬田が隣に座っていて僕の横の席が空いていたので彼女はそこに座る。
「次何の授業?」
柊は弁当を開きながら尋ねる。俺は天文学と杷木が答え、俺もと瀬田が追う。そうなんだあと彼女は尋ねておきながら興味なさげに答える。
「永井は?永井は何?」
「心理学だよ。」
「ええ同じじゃん、全然気付かなかった。」
「そうなんだ。」
僕は気付いていたが彼女は違ったことを知り少し落胆したが、まあそんなもんだろうと自分を励ます。
「今日さ、あのね、友達が休んでるから一人で受けなきゃなんだあ。」
「そうなんだ。僕はいつも一人だよ、心理学に友達いないし。」
「おっ、じゃあさ一緒に受けるっていうのはどうかなあ。」
向かいの席で杷木がニヤニヤしている。瀬田はおにぎりを頬張る。
「あ、うん別にいいけど。」
「決まりね。」
杷木が口を抑えて笑いを堪える。鬱陶しいと思ったが口にはしないでおく。瀬田は次のおにぎりに手を伸ばしていた。
隣には彼女が座っていて、いい匂いが僕の鼻を被っている。こんなに心地良いことは初めてだと思う。教授の話を真剣な眼差しで聴いている柊の横顔を見つめていると、視線を感じたのか此方をちらっと見て、どうしたの、と言った。僕は目を逸らして、何でもないよ見てないし、と言う。そっか見てないのね、と言い返してきた。彼女の横顔はとても美しいんだよ、なんかこうずっと見ていたくなるような耀きがあるんだ。僕にしか理解できなくていい耀きを放っているんだ。肩に付くか付かないかくらいの髪の毛がまた僕を唆る。綺麗だ、と心の中で思う。え、何、と彼女が言うもんだから驚いて其方を見る。声に出ていたことを知り羞恥心が生まれる。
「いや何でもない。ごめん何も言ってない。」
「ふーん、綺麗だとか何とか聞こえたけどなぁ。」
聞こえてんじゃねーか、顔が熱くなっていくのが分かった。顔が赤くならないように努める。彼女はふふっと笑ってまた正面を向いて教授の話を聴き始める。僕はもう彼女の方を向くことは不可能だった。
―恋―
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