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始めようか、戦争を ー敵地侵攻編ー

第24話:戦線膠着 v1.0

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_ダーダネルス帝国、帝都ディオニス


 絶対に安全が保障されている街、ディオニスに住む市民たちはいま混乱の淵に立っていた。

 「おい!さっきの音はなんなんだ!?」

 西野はるか向こうから聞こえた爆音に、市民たちは皆怯えている。

 「いや、わからねぇよ!とにかく何かが起きてるんだ!」

 「いったい私達は・・・どうなるのかしら・・・」

 家々の立ち並ぶ表街道へと出て来た市民たちは皆口々さっきの爆音について話し合っている。

 「・・・まぁ、俺たちの住むダーダネルス帝国は最強さ!きっと負けることはないさ!」

 ある一人の帝国びいきが言う。

 「そ・・・それもそうだな!きっとさっきの音は味方の音さ!」

 『はっはっは!』


_一方その頃、帝都ディオニ酢の中心にそびえる皇城では


 「な、なんなんだあの音はッ!?」

 はるか遠方から響いた爆音でせっかくの眠りを妨害された皇帝は、今回も怒りに満ちている。

 コンコン

 「入れッ!」

 皇帝は苛立ちを隠せない中、寝室の扉をノックした人物の入室を許可する。

 「こ、皇帝・・・」

 東部方面帝国軍司令官ゲラウスが入室したそこには、汗でびっしょりと服を濡らした皇帝の姿があった。

 「あぁ・・・君か。それで?要件はなんだね?」

 ゲラウスは何を言いに来たのか思い出す。

 「は、はいっ!緊急の用件でして・・・その・・・」

 ゲラウスの言葉が詰まる。

 「なんだね?教えてくれないかね?」

 「東部のロング・ビーチ防衛隊との魔導電信・・・応答が消えました」

 皇帝はその言葉を聞いた瞬間、目を見開く。少し間を開き、深呼吸を一回すると言う。

 「・・・冗談はいい加減にしてくれたまえ」

 「は?今なんと・・・」

 ゲラウスはその言葉を信じられないようで、聞き返す。

 「聞こえなかったのかね?・・・冗談は、やめたまえといったんだ」

 「いやいや・・・冗談ではないですよ・・・」

 ゲラウスは呆れた声で言う。

 「黙れ!東部ロング・ビーチの防衛隊は無事だ!そう、無事なんだ!」

 皇帝は半ばパニックになった状態で言う。

 「いえ、ですが・・・」

 「ですがもこうもない!防衛隊は無事なんだ!」

 すると皇帝は、何かに気づいたような顔をする。

 「・・・さては貴様、デルタニウス王国のスパイだな?」

 皇帝がこわばった顔で言う。

 「そんなこと・・・あるわけないじゃないですか!」

 ゲラウスはそのわけもわからない言い分に反論する。

 「そんなわけない!貴様は・・・貴様は・・・!」

 皇帝がすぐそばにある剣を取る。

 「こ、皇帝!?何をされるつもりですかッ!?」

 「見てわからんか・・・?」

 皇帝はのっしり、のっしり、と剣を構えて迫ってくる。

 「え、衛兵ッ!衛兵ッ!皇帝はご乱心ぞ!」

 ゲラウスは身の危機を察し、大声で衛兵を呼びながらドアへと向かう。

 「待て・・・!待てェッ!」

 皇帝も負けじと追ってくる。

 「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 その日から東部方面帝国軍司令官ゲラウスは登城することをやめたと言う。


_その頃、エルディアン共和国首都、エルディアンの大統領府では


各府の名だたる重鎮たちが座る中、軍務担当大臣は淡々と作戦報告をおこなっている。

 「結果的にオペレーション アイアン・ストームは微小の被害もありましたが無事完結しました」

 歓声が湧き上がる。

 「___ですが、上陸部隊と交戦した防衛部隊は現在ゲリラ戦を行なっており、現在は完全に戦線が膠着しました」

 一瞬で歓声が止む。

 「・・・それで?軍務担当大臣的にはどうなのだね?」

 大統領が言う。

 「はい・・・現在戦線膠着を打破するためにすでに準備を開始しています」

 軍務担当大臣はそう告げる。

 「いったいどんな内容なのか教えてくれたまえ」

 軍務担当大臣にそう言うと、彼は部下にプロジェクターを持って来させる。

 「それでは、今回の作戦・・・我々は『シュガール』と呼称している作戦の内容を伝えさせていただきます」

 「神の名を使う作戦・・・か」

 誰かがそう呟く。

 「それで、まず作戦には数段階を踏む必要があります」

 すると、プロジェクターに大統領も見たことがある航空写真が映し出される。

 「まず第一段階として、空砲用の迫撃砲弾薬を大量に持たせた特殊部隊員十数名に川を登ってもらいます」

 帝都らしきものまで一直線に行ける川がズームされる。

 「いやいや、ちょっと待て。空砲用弾薬だって?馬鹿げてるんじゃないか?」

 大臣の一人が異を唱える。

 「確かに、今の説明だけだと一見バカが考えたような作戦ですが・・・問題はここからです」

 大臣たちが唾を飲み、耳をすまして聞く体制を整える。

 「帝都付近に到着したら速やかに帝都付近にある森へと展開、第二段階に移行次第した日から夜間に空砲射撃を帝都に向けて行なってもらいます」

 『・・・は?』

 大臣たちの口が開いたままになる。

 「・・・君はいったい何を言っているんだね?実弾を使わずに敵帝都を攻撃するなど・・・阿呆じゃないか?」

 大統領が言う。

 「・・・これには理由がありましてね・・・」

 「ほう?面白い。どんな理由だ?」

 大統領は、至って真面目に問いかける。

 「夜間に空砲射撃をして敵を睡眠できないようにし、敵上層部の判断を鈍らせる・・・。運が良ければそれで敵国を降伏させれるかもしれません」

 『はっはっはっは!』

 大臣たちが一斉に笑い出す。

 「き、君はこんなことをと真面目に話して・・・あっはっは!いったいどうしたんだ・・・あっはっは!」

 大統領は腹を抱えて笑いながら言う。

 「ですが・・・」

 「ですが・・・?一体なんだね!」

 「すでに特殊部隊は出撃しています」

 『は?』

 一瞬の沈黙が辺りを包む。

 「・・・そ、そうか・・・。なんと言うか・・・すまなかったな。・・・続けてくれ」

 大統領が小さな声で言う。

 「・・・はい。それで、第二段階として周辺基地の大規模な爆撃を行います」

 「爆撃機は?爆撃機はどうするんだね?」

 現状、敵の海岸を奪取したが飛行場建設には至っていない。爆撃機を飛ばすなら本国から飛ばすしかないだろう。

 「それに関してはご心配ありません。どうぞこれをご覧ください。」

 その声とともにプロジェクターの画面が変わる。

 「・・・おい。君はまだこれを開発していたのか?」

 大統領が呆れた声で言う。プロジェクターには6発の水冷エンジンが特徴的な数年前に開発中止となったはずの超巨大飛行艇、UBV-20が映されていた。

 「・・・まぁ、この際それはどうでもいい。問題は基地の居場所だ。いったいどうやって見つけるんだ?」

 またも大統領が聞いてくる。

 「それは普通に情報収集衛星を使います。・・・まぁ、衛星の打ち上げには時間がかかるのでそれまで待たなければなりませんがね」

 軍務担当大臣が呟く。

 「そして、第三段階です。現状敵ゲリラのはびこる森林部を陸上戦力で渡るのは不可能に近いのでティルトローター部隊を乱用して敵帝都付近まで直接殴り込みます」

 大臣たちがざわつく。

 「いやいや・・・幾ら何でも無謀すぎじゃないか?制空権すら確保できていないぞ?」

 大統領が疑問を投げかける。

 「はい。ですので、爆撃隊を使います」

 軍務担当大臣は安直に言う。

 「あ・・・うん、そうだったな!はっはっは!」

 大統領はとぼけた顔で言う。

 「そして第四段階。敵市街地へ突入、おそらく皇帝の存在するここ、でっかい城を強襲します」

 敵帝都らしきもののど真ん中にそびえ立つ巨大な城がズームされた。

 「・・・でも、これで終わる保証はあるのか?亡命なんてされたらひとたまりもないぞ」

 「はい、その懸念はあります。ですがこれ以外方法はありません」

 「ふーん・・・」

 「最後は皇帝を人質にとってこの国の降伏を促します。・・・皇帝を殺さない、と言う条件付きで」

 すると財務担当大臣が手をあげる。

 「それを行うにあたる費用ですが・・・」

 「・・・まぁ、運が良ければこれで戦争は終結しますし、大丈夫では?」

 軍務担当大臣が呟く。

 「以上が今回の作戦内容です」

 「・・・財政難にならないように管理しなきゃ・・・」

 財務担当大臣がなんども同じことをリピートする中、作戦報告会議は終了したのだった。
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