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『殺してやる』と『死ねば良いのに』
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あるところに、口癖が
『殺してやる』
の男がいました。
ちょっとムカつくと
『殺してやる』
とつぶやいてしまうのです。
もちろん実際に『殺してやる』とは思っていません。
それに『口癖』ではありますが、ちゃんと人前で言わないようにしています。
『独り言』として一人のときにこっそりつぶやくか、脳内で言うだけなのです。
男は今日も、仕事場でムカつくことがあり、こっそり『殺してやる』とつぶやきました。
しかし今日は少しいつもと違いました。
と言うのも、人に聞かれてしまったのです。
丸い目を向けてくる同僚の女に、男は焦りました。
「ちょっと、むかついて……
本気じゃないんだよ」
言い訳をすると、女は頷きました。
「本気じゃないってことは分かるよ。
でも『殺してやる』はちょっと良くないと思うなあ……」
男は素直に頷きました。
男自身もその通りだと思っていたのです。
『殺してやる』なんて、独り言としても酷い言葉です。
必ずしも信じていると言うわけではないけれど『言霊』と言う概念もあるし、そんな言葉は使うべきではないと男もちゃんと分かっていました。
しかしつい、自分の『気持ち』を楽にするために使ってしまうのです。
そして、『自分の気を楽にするため』につぶやく分にはそんなに罪はないと思っていたのですが……
(やっぱり、やめないとな)
そう思っていても、やっぱりつい頭の中とかで言ってしまう。
相変わらず『殺してやる』が『口癖』の男でしたが……
あるとき、女が同僚に嫌みを言われているところに遭遇しました。
女――以前『殺してやる』と言う『口癖』を聞かれてしまった女です。
女は同僚に嫌みを言われて、その同僚がその場を去ると、後ろに男がいることに気付かず、こんなことをつぶやきました。
「死ねば良いのに」
それからくるりと振り返り、男がいることに驚き、恥ずかしそうに言いました。
「……聞こえた?」
「うん」
男は仕方なく頷きました。
『聞こえていない』と言うのも嘘くさいと思ったのです。
「あは……」
女は苦笑いしました。
「あなたに偉そうなことを言ったのに、私、『死ねば良いのに』って結構言っちゃうんだ」
どうやら女は『死ねば良いのに』が『口癖』のようです。
男は聞かれたくないだろう独り言を聞かれて落ち込んでいる女を哀れに思い、励まそうと言いました。
「でもさ。
『死ねば良いのに』って口癖は、俺の『殺してやる』より、大分、良いと思うよ。
穏やか、と言うか……」
変な励まし方をしてしまったな、と男は言ってから思いましたが、女は少しホッとしたような笑みを浮かべました。
『励まし』は効いたようです。
女はちょっと笑顔で言いました。
「でもね、『死ねば良いのに』って、『他力本願』だよね。
『願い事』として神様? みたいなものに頼む形を取っている。
それって、何か『卑怯』だよね。
『殺してやる』は『自分で何とかする』みたいな気概があるけれど」
男は女の言葉にフッと苦笑いを返しました。
「いや、俺、実際『殺してやる』とか、全く思っていないし。
君だって『死ねば良いのに』って別に神様に祈っているわけではないでしょ?」
「うん……」
女は苦笑いしつつ、頷きました。
それから2人は『秘密』を共有する者同士の、ちょっと親しみのある笑顔を交わしました。
――
それから二人は、一緒にストレスを解消するおしゃべりをするようになりました。
『殺してやる』
『死ねば良いのに』
ときどき使ってしまうこともあるけれど、その回数は減って、自然となくなっていきました。
でも二人は、自分たちが仲良くなったきっかけが酷い『独り言』だったことをきっと忘れないでしょう……
戒めとしても、笑い話としても……。
――終――
『殺してやる』
の男がいました。
ちょっとムカつくと
『殺してやる』
とつぶやいてしまうのです。
もちろん実際に『殺してやる』とは思っていません。
それに『口癖』ではありますが、ちゃんと人前で言わないようにしています。
『独り言』として一人のときにこっそりつぶやくか、脳内で言うだけなのです。
男は今日も、仕事場でムカつくことがあり、こっそり『殺してやる』とつぶやきました。
しかし今日は少しいつもと違いました。
と言うのも、人に聞かれてしまったのです。
丸い目を向けてくる同僚の女に、男は焦りました。
「ちょっと、むかついて……
本気じゃないんだよ」
言い訳をすると、女は頷きました。
「本気じゃないってことは分かるよ。
でも『殺してやる』はちょっと良くないと思うなあ……」
男は素直に頷きました。
男自身もその通りだと思っていたのです。
『殺してやる』なんて、独り言としても酷い言葉です。
必ずしも信じていると言うわけではないけれど『言霊』と言う概念もあるし、そんな言葉は使うべきではないと男もちゃんと分かっていました。
しかしつい、自分の『気持ち』を楽にするために使ってしまうのです。
そして、『自分の気を楽にするため』につぶやく分にはそんなに罪はないと思っていたのですが……
(やっぱり、やめないとな)
そう思っていても、やっぱりつい頭の中とかで言ってしまう。
相変わらず『殺してやる』が『口癖』の男でしたが……
あるとき、女が同僚に嫌みを言われているところに遭遇しました。
女――以前『殺してやる』と言う『口癖』を聞かれてしまった女です。
女は同僚に嫌みを言われて、その同僚がその場を去ると、後ろに男がいることに気付かず、こんなことをつぶやきました。
「死ねば良いのに」
それからくるりと振り返り、男がいることに驚き、恥ずかしそうに言いました。
「……聞こえた?」
「うん」
男は仕方なく頷きました。
『聞こえていない』と言うのも嘘くさいと思ったのです。
「あは……」
女は苦笑いしました。
「あなたに偉そうなことを言ったのに、私、『死ねば良いのに』って結構言っちゃうんだ」
どうやら女は『死ねば良いのに』が『口癖』のようです。
男は聞かれたくないだろう独り言を聞かれて落ち込んでいる女を哀れに思い、励まそうと言いました。
「でもさ。
『死ねば良いのに』って口癖は、俺の『殺してやる』より、大分、良いと思うよ。
穏やか、と言うか……」
変な励まし方をしてしまったな、と男は言ってから思いましたが、女は少しホッとしたような笑みを浮かべました。
『励まし』は効いたようです。
女はちょっと笑顔で言いました。
「でもね、『死ねば良いのに』って、『他力本願』だよね。
『願い事』として神様? みたいなものに頼む形を取っている。
それって、何か『卑怯』だよね。
『殺してやる』は『自分で何とかする』みたいな気概があるけれど」
男は女の言葉にフッと苦笑いを返しました。
「いや、俺、実際『殺してやる』とか、全く思っていないし。
君だって『死ねば良いのに』って別に神様に祈っているわけではないでしょ?」
「うん……」
女は苦笑いしつつ、頷きました。
それから2人は『秘密』を共有する者同士の、ちょっと親しみのある笑顔を交わしました。
――
それから二人は、一緒にストレスを解消するおしゃべりをするようになりました。
『殺してやる』
『死ねば良いのに』
ときどき使ってしまうこともあるけれど、その回数は減って、自然となくなっていきました。
でも二人は、自分たちが仲良くなったきっかけが酷い『独り言』だったことをきっと忘れないでしょう……
戒めとしても、笑い話としても……。
――終――
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