暗い恋愛短編集

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トロフィーワイフ

　夫から離婚を切り出された。

　結婚したとき彼はニートだった。
　その後起業。
　皆が『まさか』と思ったが、彼は『当てた』。
　大金持ちになった。

　人前に出ることが多くなった。
　……妻である私も。

　私は普通より出来損ないの女だ。
『アラ』は洗練された場所で、さらに目立つ。

　彼はそんな『妻』を切る決心をした。
　決断してから早かった。
　さすがトップに立つ人間と言うところか。

　慰謝料はいっぱいもらえた。
　それだけでも私のようなつまらない人間には『幸運ラッキー』、そう言うべきところだろう。

　1年後、彼は美人の、頭の良い、若いお嬢さまと再婚した。　
　テレビでチラリと夫婦を見たが、新しい奥さんはとても綺麗だった。


　――

　子どもが笑っている。
『パパ』と遊べて嬉しいのだ。
　私も二人を見守っている。

　彼は忙しい合間にもウチに来てくれる。
『自分の家』よりこっちの方がよく来るくらいだ。
　そんなことを言って私を喜ばせてくれる。

　成功した自分に『ふさわしい女性』と再婚した彼は新しい妻のことを『トロフィーワイフ』と私に表現してみせた。

　ご褒美の妻、と言う意味か。
　落ち込んだものだ。

　しかし今。
　彼が『こちら』に――今や『2号さん』になった私のところに――綺麗な奥さんの待つ自分の家より来てくれるなら。
『トロフィーワイフ』の意味は……

『トロフィーワイフ』――お飾りの妻。
　そんな意味なのかもしれない。

　人目につくところで、ヒトにうらやましがられる完璧な妻……
『外向け』の妻。

　……なんて。
　彼の言葉だけを信じて――彼の『自分の家より、こっちに来る方が多いよ』と言う言葉を信じて――そんな都合の良いことを考える。
　希望的観測。

　そんな思考で自分を慰め、元妻ながらこの位置付けに耐えられる、そんな私は彼の『2号さん』にピッタリなのだろう。




　――終――