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扉の外
46話 エルダーの宝物
しおりを挟む「なるほど。秘宝が目当てか。だが、そのような秘宝は無い」
「そりゃ残念だ」
言葉とは裏腹に、小森はあまり残念そうな顔を見せなかった。
そして、これからが本題というように、こう続けた。
「しかし、ここまで来て手ぶらで帰るのも、なんだな?」
「君がそれを言うのか……」
「どうだろう? お土産を貰いたいのだが」
「まあいい。君のような分かりやすい者はこちらとしても助かる」
ガラティナは呆れたように言うと、リモコンを操作した。
小森たちの立っている地面は再び降下していき、当初の位置を通り過ぎて、更に地下へと降りていく。
「お、今度はどこに行くんだ?」
「私の宝物庫へ移動している。まだ動かないように」
ガラティナの足場も同じ速度で下がり、やがて四方が壁に囲まれた部屋に到達し、停止した。外の風景はもう見えない。
「秘宝は君たちの後ろにある。どれでも一つだけ選ぶがよい」
小森たちが振り返ると、鎧や剣といった武器や、蜘蛛の形をした陶器、用途不明の金属の塊など、非常にバリエーション豊かな品々が、それぞれ重要そうにして台座に安置されていた。
「わあ! 伝説の剣に伝説の鎧! 金ピカですっ」
大はしゃぎで秘宝を触り始めるあかり。
「これ全部アーティファクトなのか? ヌー」
「まあ……。たしかにアーティファクトだけど。ぬう……。」
ヌーはあかりとは対象的に、非常に冷ややかな目でそれらを見ていた。
「ヌーさんヌーさん! この伝説の剣はどうでしょう? きっとすごいやつですよね!? 金ピカですしっ」
「いや……。どこから伝説が出てきたんだ。あかり。それは金ピカで頑丈で錆びなくてよく斬れるだけの普通の剣。魔法の力とかは無い。」
「ええっ! ……残念なような、普通にすごいような……??」
あかりは剣を持ったまま考え込んだ。
「ヌーとやら。君は目が利くようだが、この秘宝を見たことがあるのか?」
ガラティナは今までで一番興味深そうに質問を投げかけた。
「見たというか……よく知ってる。この宝物庫にある大半はボクが作った物だから。」
「なんだって!?」
ヌー以外の全員が驚きの声をあげる。その中でも、小森のリアクションが飛び抜けて大きかった。
「……なんで小森たちまで驚いてるんだ。」
「いやいや初耳だろお前!」
「前に言わなかったっけ。」
「たぶん、作ったというのは初耳ですね……精通しているとは聞いていましたけど」
三人で話していると、ガラティナがつい立て越しに、顔がくっつきそうなほど近づき、ヌーをじっと見つめていた。
「な。なんだよぉ。」
「見れば見るほど不思議な生き物だ……。そんなふわふわな手で秘宝を作ったというのか」
先ほどまで遠くを見ていたような目は、ハヌゼベと同じく青色に輝いている。見られているヌーにとっては不気味なことこの上なかった。
「ハヌゼベ。良い客を連れてきてくれたな」
「そうだろうとも。彼らは不思議なだけではないよ。強くて善良で好奇心旺盛で、元気いっぱいだ。我々の悲願――寄生虫の根絶を叶えてくれること間違いなしだと、私は思う」
「ふむ……。あの現象は私の労働者も減らしてしまうからな。コモリたちは平気なのか?」
住民を狂わせてしまう寄生虫。その存在は、エルダーにとっても脅威であるようだった。
「それについては心配要らないよ、ガラティナ。彼らは特別な装備無しで、我々が潜ったどの記録よりも深いところからやってきた人たちだ。その上で私と初めて出会ってから三日以上が経っている。寄生虫を克服していると言えるだろう。それに肉体的な負荷や変異も見受けられない」
「変異すら起こらないのか。素晴らしい――」
小森はまたハヌゼベらが二人の世界に入ってしまったのを見て、放置することに決めた。
マブダチおじさんの会話に入っても得られるモノは少ない。「昔はよかったのう」から始まり、「最近の若者は」で終わるような愚痴ばかりだろうと勝手に決め付けたのだった。
そんな事よりも、目の前にお宝があるのだから、優先すべきはそちらである。
「――ヌー。この板金鎧はどうなんだ? 金ピカですごい値打ち物に見えるが」
「それも剣と同じ。ただの錆びない真鍮製の鎧だ。重さに見合う価値は無い。」
精巧なつくりの鎧さえも一蹴してしまうヌー。その顔は頑固な職人のようで、口を一文字に結び薄目で自作を振り返っているようだった。
「この変な陶器もダメ?」
「ダメ。爆発する。」
「ヌーさん、やっぱりわたし、このサンライトソードが――」
「ダメ。ここは修学旅行の土産屋じゃない。」
評価はとても厳しく、何を見てもダメの一点張りである。
「ダメなのばっかりじゃねーか。もうヌーが選んでくれよ。マブダチおじさん達がシビれを切らす前にさっさと決めちまおうぜ」
あかりが爆笑する横を通り抜けて、ヌーは職人顔をしたまま、ずんずんと宝物庫の奥へと進んでいく。
ちょうど銀縁の流麗な装飾が施された手鏡の前で、ヌーは足を止めた。
「おお、鏡か。絶妙なところを突いてきたな、ヌー。もちろん、普通の鏡じゃないんだろ?」
どんな効果があるんだ? と小森が続けようとしたところで、隣の、かなり地味めな小汚い『やかん』に手を伸ばすヌー。
「これだ。」
「えー……」
それは光沢さを完全に失い、薄汚れて、苔むした『やかん』である。
「やかんじゃん……汚いし……」
「見てくれよりも性能が大事だろ。」
ヌーが『やかん』を傾けると、その鼻先から無色透明な水が流れ出した。
それは宝物庫の床を濡らし、水たまりを大きくしていく。
「お?――おお――おおおぉ……まだ出るのか! 明らかにやかんの体積超えてるだろ」
「ぬう。これはかなり溜め込んでるな。まだまだ出るぞ。」
水たまりはどんどん大きくなり、やがて――
「あっ! 君! ヌー! こんなところで……こらっ! やめたまえ!」
異変に気付いたガラティナによって制止された。
「すまない。我々の長話に暇をしていたのだな。――彼らを許してやってくれ、ガラティナ」
「だからといって水浸しにすることはないだろう……。それで、その小汚いやかんに決めたのか? 水なら楽園では困らないと思うが」
小森は返答をヌーに任せた。
アーティファクトを作れるほど精通しているなら、ヌーなりに考えがあるに違いないのだ。
「これが一番良かった。これでいい。」
「そうか。では早速だが、こちらも交換条件を出したい」
「まあ、そう来るわな」
小森はこの展開を予想していた。ハヌゼベにごうつくばりだと言わしめる男なのだ。
最初からタダで宝をくれて、タダで帰してくれるとは思っていない。
「その条件は?」
「ハヌゼベと同じだ。寄生虫問題の解決をお願いする。それと秘宝を回収したら私にも見せて欲しい。どちらにせよ楽園の底を目指すのだろう?」
「まあな。ここに目的の物が無いんなら下に行くしかないわけで――良いぜ。引き受けた」
二つ返事で承諾する。小森たちにデメリットは何も無かった。すべてついでで済むような内容なのだから。
「では、私の施設を利用するといい。リフトを使えば、一気に下ることが可能だ」
床は再浮上し、今度は入ってきた方とは逆の扉が開かれた。
「コモリ殿。すまないが、私はここでお別れだ。向こう側に私が行くと、少し厄介な事になるのでな」
「どうしてだ?」
「住人の気質が違うのだよ」
ハヌゼベ派とエルダー派で分かれている、という事を遠回しに言っているようだった。
「不思議だな。どう見てもマブダチおじさんにしか見えないのに」
「その、マブダチおじさんというのはどういう意味なのだ? 我々の知らない言葉だ」
ふたたび、あかりは背を向けて爆笑した。マブダチおじさんという言葉がツボに入っているようだった。
「すごく仲良し、という意味だな」
「もういいだろう。さっさと行きたまえ!」
小森たちはガラティナの反応をたっぷり楽しんだあと、扉の先へと向かった。
最後に扉を振り返ってみると、ハヌゼベは椅子に腰掛け、ガラティナと昔話の続きをやっているようだった。
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