ひきこもり生活を満喫していたら異世界JKと異世界ネコが押しかけてきた件について

汗茄子w8

文字の大きさ
51 / 87
扉の外

48話 安らぎの我が家

しおりを挟む
 
 小森たちは約四日ぶりの帰宅に成功し、慣れ親しんだ我が家の空気に安堵していた。

「ただいまーって感じだなぁ」
「そっ、そうですね!」

 しかし、あかりは帰宅してから急にそわそわとし始め、小森たちから一定の距離を取るようになっていた。

「……なんでそんなに離れているんだ?」
「うぅぅ……。じつは、おふろに入りたく……」
「おお! すまない。もう何日も入っていなかったもんな。別に俺はあかりの匂いならどんな匂いでも――ふごっ」

 ヌーの容赦の無い肉球パンチが小森の顔面に突き刺さる。

「へんたい。ころす。」

 が、ヌーのふわふわハンドは小森の快感ゲージを高めるだけである。

「うへへへへへ」
「まだ落ち込んでるときの方が可愛げがあったな。」
「あのあの、それでおふろのほうは……?」

 あかりはとても深刻な表情をしていた。にもかかわらず半笑いなので、小森とヌーは「器用だなぁ」と心の中で思った。

「うーん……川は前回のことがあるから、三人一緒でないと行きたくないな。かといって、一緒に水浴びなんかするのはハレンチである」

 小森は家長なので、倫理に厳しかった。

「……ぬっふっふ。」
「なんだヌー。気味のわるい笑い方をするじゃないか」
「小森。さっそく出たな。水の問題が。」

 ヌーはにやにやと笑いながら、大切に抱えていた『やかん』をこれ見よがしに撫で上げた。

「おおっ……そうか、それで浴槽を満たせるな!」
「そのとおり。ちょっと水は冷たいかもしれないけど。はい。」

 浴槽を満たすのはお前の仕事だ、といわんばかりに小森へとやかんを渡すヌー。

「水が冷たいだって? いいや、ヌー。俺はあかりをそんな冷たい風呂に入れさせるつもりは無いぞ。そもそも、やかんとは何のためにあると思う?」
「ま。まさか……。」

 小森の行動は早かった。
 外に出て木の枝とクリオネを集めて着火。この間3分。
 そして、やかんを焚き火にかけて中の水を沸騰させるまでが3分。合計6分で小森の実験の準備は完了していた。

「アーティファクトが燃やされてしまった。」
「いや燃えてはいないだろ……」

 底の方が少し焦げた熱々のやかんを持って風呂場へと向かう。
 小森は浴槽へ、煮え立つ湯を注ぎ始めた。

「さーて、この場合どうなるんだろうな? アツアツの熱湯が出てくるのはやかんの体積分なのか、それとも……?」
「たしかに。気になるな。」

 ヌーもなんだかんだで興味津々に尻尾を振っていた。

「おお……おおお……! まだまだお湯が出ていますっ!」

 やかんから出る湯は、最初の温度を保ったまま、どこまでも勢いよく浴槽に注がれ続ける。
 やがてそれが浴槽いっぱいまで満たされる頃には、風呂場中が白い湯気で包み込まれていた。

「実験結果――無限に水が出る魔法のやかんは、温めると、中の水ぜんぶに適用される! 良かったな、ヌー。名誉挽回だぞ」
「ぬぬぬぅ。隠し効果だ……。」
「伝説のやかんですね! ばんざーいっ」

 そのあとあかりは、たっぷり一時間の長湯を済ませ、後の二人も溜まりきった疲労と苦労を温かな湯で洗い流した。

 食事はやはり備蓄品の缶詰が主体となったが、ワイルドな食事ばかりだった小森たちにとって、現代日本で作られた繊細な缶詰食はありがたいものだった。

 下層の夜は上層よりも早く訪れる。食事を済ませたあと、三人は明日の冒険に備えて就寝することになった。
 それぞれが自分の自由な時間を過ごし、使い慣れた自室のベッドで十分な睡眠をとる。四日間に及ぶ大冒険を振り返りながら、深い睡眠へと落ちていった。

 安らぎの時間が通り過ぎる。

 もうこれ以上無いくらいに睡眠欲を満たした小森は、夢見心地でリビングへ出ると、すでにあかりとヌーがいた。

「おはよう。みんな起きてたのか」
「おはようございますこんばんは! まだ夜ですっ」
「まだ夜なのか。しかしテンション高いな……」
「二日間起きっぱなしでいられるくらい寝溜めしました!」
「俺ももう眠れないなぁ。適当に時間潰すか」

 たっぷり何時間も寝たはずが、一向に夜が明けない。夜が明けなければ霧も晴れない。となれば出発する事もかなわず、暇をもてあそぶことになってしまった。
 地上付近と下層とでかなり日照時間のズレがあり、小森たちの時間感覚に大きな狂いが生じ始めていた。

「どうせ全部持ち出せないなら、朝食をもっと豪華にしてみるか。倉庫のストックをすべて解禁するぞ!」
「おおー! わたしも一工夫いたしますね」
「雑用はまかせろ。」

 小森がストックから食材を選び、あかりが玄関先の臨時キッチンで簡易的な調理をし、ヌーが配膳する。長い時間を三人で過ごすうちに、自然と自分の役割を理解するようになっていた。

「今更ですが、勝手にこれだけ使ってしまって良かったのですか? 元の世界に戻ったら社長さんに怒られませんか?」
「まあ、理由を話せば納得するしかないだろ。こっちは命かかってんだ。というか、戻った時には一攫千金のお宝を俺たちは持っている事になるんだからな。いくらでも挽回できるぞ。むしろ無限に水の出る魔法のやかんだけでも温泉とか立ち上げられそうじゃね? どうよ、ヌー」
「厳密には無限に出るわけじゃないけど……。でもそうだな。使い方次第では温泉もできそう。」

 食卓にのぼる料理の数と比例するように、話題も活気のある明るいものになっていく。
 燃費の悪くなった小森とあかりは大食らいになっていたので、作りすぎという心配もあまりなかった。
 そして──

「じゃーん。こんなお宝がうちにもあったぞ」
「おぉぉおぉっ……その容器はっ」
「? なんだそれ。」

 小森が倉庫の奥から引っ張り出してきたのは『くまころし』とラベルの貼られた、透明のビンだった。

「んー……ヌーはオトナか?」
「ぬ? おとなだぞ。」
「俺とあかりは20歳を超えているが、ヌーは20歳を超えているか?」
「ぬぅ。たぶん。超えてる。」
「よしよし、その心意気や良し。 ……ヌーくん、あかりくん。晩酌といこうではないか。我々は大人なのでなんの問題もあるまい」

 小森は酒瓶を傾けて、三人のグラスにその中身を注いでいった。
 ぱっと見は真水のように清んだ色をしているが、注がれる液体の動きがとろとろとして、ほんのわずかに粘り気を感じさせる。

「わたしはあんまり詳しくないですけど、小森さん。これって割って飲むやつでは……」
「実は俺もわからん。缶チューハイしか飲んだことないからな。でもこういうのって初めはストレートでいくもんだろ」
「これが……酒。」
「怖いか? ヌー」
「怖くないぞ。小森はガソリンの味とか知らないだろ。」
「分かった分かった。お前は野生のグルメ王だったな。さあ、ケンカはなしだ。俺たちの大冒険に向けて祝杯をあげるぞーっ!」

 小森はグラスを高らかに掲げる。あかりとヌーもそれにならった。

「お宝いっぱい見つけるぞぉ! かんぱーい!」
「無病息災! かんぱーいっ!」
「かんぱーい。」

 それぞれのグラスが空中で割れそうなほど勢い良くぶつかる。
 そして、そのまま全員が一気にグラスの中身を腹の奥へと流し込んだ。

「フッホォ! 胃が焼けそうだぜ」
「はぁぁぁぁっ……スゴイですこれっのど」
「ぬっ。鼻がっ……。」

 それぞれが目をしばたいて、全身を暴れまわるアルコールに翻弄された。

「この酒すげえ……」
「もう体がぽっぽしてますぅ」
「しんかんかく。」

 珍酒『くまころし』は大好評で、三人の宴会はさらに大きな盛り上がりを見せた。
 飲み方を知らないヌーが一気飲みしようとするのを小森が抑え、あかりがそれを見て爆笑する。というループを何度も繰り返し、結局、小森はヌーの面倒見係となってしまっていた。

「おい、ヌー。そろそろ外の様子を見に行きたいのだが」
「んぬぅ~~。もちっと~~。こもりぃ。まだあるんらろ~。」
「あははは! ヌーさんかわいいかわいいですねぇ」
「くそっ……地獄だ……」

 それから、ヌーが完全に潰れるまで小森は席を離れることが出来なかった。

 宴会が終わり、ヌーを寝室に運んだ後、なかば諦め気味に外を確認する。

「出発、明日でいっか……」

 ちょうど日没となる瞬間を目撃した小森は、二次会を決意した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...