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第12話 癒し手姫の祈りと涙
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激戦の翌日、聖都リュミエルには静かな朝が訪れていた。
街の傷跡は深く、建物の多くが損壊していたが、神官や人々は互いに助け合って復興を始めていた。
リアンは神殿前の石段に座り、剣の手入れをしていた。光を受けた刃が鈍く輝く。
「昨日の戦い……お前がいなかったら、聖都は焼けていたわね」
ルシェリアが隣に腰を下ろし、呟いた。
「そうかもしれない。でも、俺ひとりじゃどうにもならなかった。あんたたちや神官のみんながいたから勝てた」
「謙遜のつもり? あなたが放った光、あれは誰の力でもない。あなた自身の意志の力よ」
リアンは苦笑して肩をすくめる。
「そう言われても、今は体の芯が限界だ。まるで燃え尽きたみたいだ」
そのとき、神殿の扉が開き、一人の女性が現れた。
金の髪に白い法衣。そして胸元には女神の紋章を描いた聖石。
聖都の巫女――癒しの姫とも称されるサフィナだった。
彼女は微笑みを浮かべ、リアンに歩み寄った。
「勇者リアン=グレイハート。あなたにお話ししたいことがあります」
「俺に?」
「ええ。女神アリアより、新たな“神託”が下りました」
サフィナは両手を組み、祈るように瞳を閉じる。
「“勇者の力を癒す光をもたらしなさい。世界の調和は、癒しによって始まる”」
「癒す光……?」
ルシェリアが問うと、サフィナはリアンに視線を戻した。
「あなたの中には、光と闇、二つの流れが存在する。それは相反する力ですが、調和を取る鍵が“癒し”です。女神はあなたの魂を安定させるため、私を遣わされたと」
リアンは軽く息を吐く。
「癒すって……俺、もう手遅れな気がするんだが」
「そんなことはありません」
サフィナは穏やかな笑みを浮かべると、リアンの手を取った。
「この力は、あなたの痛みを吸収し、再び道を開くためにあるのです」
温かさが広がった瞬間、リアンの視界が真っ白に染まった。
光の粒が踊り、時間すら止まったかのようだった。
聞こえてくるのは水の流れる音、風のそよぎ、そして懐かしい声。
――あなたは、なぜ剣を取るのですか。
「答えるまでもないさ。守りたいものがあるから」
――その心が折れぬ限り、あなたは何度でも立ち上がれる。
――たとえ傷ついても、光はあなたの中から消えない。
ゆっくりと意識が戻る。サフィナの両手が淡く光り輝き、リアンの体を包んでいた。
彼女の額には玉のような汗が滲み、表情には苦痛すら浮かんでいる。
「無理するな!」リアンが言うと、サフィナは小さく微笑んだ。
「大丈夫……私の使命ですから」
最後の光が収まると、リアンは深く息をついた。
不思議なほど体が軽く、痛みが消えていた。
「これは……すごいな」
「あなたの中の力が整いました。これでしばらくは暴走の心配もないはずです」
彼女は言葉を紡ぐように続けた。
「でも、あなたの中には、まだ“闇”が囁いています。その声が完全に沈黙する日は、あなた自身が答えを見出す日」
「闇の声か……アーゼルのやつは、まだ俺の中で息をしてる」
「彼はあなたですから」
リアンは一瞬言葉を失った。
サフィナはどこか哀しげに微笑んだ。
「光があれば、必ず影ができます。あなたが完全な存在ではいられないのは、それだけ人として真っ当だから」
「皮肉かと思った」
「いいえ。私には、それが羨ましいのです」
静かな時間が流れる。
その沈黙を破るように、神殿の鐘が鳴った。
ルシェリアが外の方を見て眉を寄せる。
「……おかしい。聖都の鐘がこの時間に鳴るのは異常事態の合図よ」
リアンが立ち上がる。
「また襲撃か?」
「違う。これは……神の託宣。何かが降りてくる」
空が突如として暗くなり、雷鳴のような轟きが響いた。
祭壇の上空に光の渦が生まれ、そこから女神アリアの幻像がゆっくりと降り立つ。
周囲の神官たちが一斉に跪いた。
「光と影の勇者よ」
声が響いた瞬間、リアンの胸に熱が走る。
「アリア……女神、何を伝えたいんだ」
「世界の中心に、古の“門”が再び開かれつつあります。その門を護るのは竜王。しかし彼もまた、闇に囚われつつある」
「竜王……?」リアンがつぶやく。
ルシェリアが肩を震わせた。
「まさか、竜族の王……我が一族の始祖が……!」
女神の声が続く。
「向かいなさい。北の浮遊山脈、竜の眠る聖地へ。彼が闇に堕ちる前に、最後の選択を下すのです」
光が収まると、広間には張り詰めた沈黙が残った。
サフィナは両手を胸の前で組み、涙を浮かべていた。
「女神の命が……再び試練を与えるというのですね」
リアンは小さくうなずいた。
「行くしかないな。放っておけば世界が終わる」
「待ってください」
サフィナが一歩進み出て、リアンの手を取った。
「これは、あなたの旅の安寧を願う祈りです」
彼女はリアンの額に手をかざし、優しく言葉を紡いだ。
「どうか、迷わぬ心で進めますように。光と影、あなたの選ぶ道が未来を照らしますように」
温かい光がふたりを包む。その瞬間、リアンの胸の奥から何かが静かに溶けていくような感覚があった。
「ありがとう、サフィナ」
「いいえ。私はただ祈るだけ。それが私の戦いです」
ルシェリアが微笑みながら言った。
「素敵な人ね、サフィナ。彼女のような人がいるなら、世界はまだ救える」
リアンは空を見上げた。
「救えるかどうかは、俺たち次第だ。でも――」
彼の瞳には確かな光が宿っていた。
「必ず竜王を助ける。闇に飲まれる前に」
その夜、聖都の空に流星が流れた。
それはまるで、癒し手姫の祈りが天に届いた証のように、長く眩しく、静かな軌跡を残して消えていった。
街の傷跡は深く、建物の多くが損壊していたが、神官や人々は互いに助け合って復興を始めていた。
リアンは神殿前の石段に座り、剣の手入れをしていた。光を受けた刃が鈍く輝く。
「昨日の戦い……お前がいなかったら、聖都は焼けていたわね」
ルシェリアが隣に腰を下ろし、呟いた。
「そうかもしれない。でも、俺ひとりじゃどうにもならなかった。あんたたちや神官のみんながいたから勝てた」
「謙遜のつもり? あなたが放った光、あれは誰の力でもない。あなた自身の意志の力よ」
リアンは苦笑して肩をすくめる。
「そう言われても、今は体の芯が限界だ。まるで燃え尽きたみたいだ」
そのとき、神殿の扉が開き、一人の女性が現れた。
金の髪に白い法衣。そして胸元には女神の紋章を描いた聖石。
聖都の巫女――癒しの姫とも称されるサフィナだった。
彼女は微笑みを浮かべ、リアンに歩み寄った。
「勇者リアン=グレイハート。あなたにお話ししたいことがあります」
「俺に?」
「ええ。女神アリアより、新たな“神託”が下りました」
サフィナは両手を組み、祈るように瞳を閉じる。
「“勇者の力を癒す光をもたらしなさい。世界の調和は、癒しによって始まる”」
「癒す光……?」
ルシェリアが問うと、サフィナはリアンに視線を戻した。
「あなたの中には、光と闇、二つの流れが存在する。それは相反する力ですが、調和を取る鍵が“癒し”です。女神はあなたの魂を安定させるため、私を遣わされたと」
リアンは軽く息を吐く。
「癒すって……俺、もう手遅れな気がするんだが」
「そんなことはありません」
サフィナは穏やかな笑みを浮かべると、リアンの手を取った。
「この力は、あなたの痛みを吸収し、再び道を開くためにあるのです」
温かさが広がった瞬間、リアンの視界が真っ白に染まった。
光の粒が踊り、時間すら止まったかのようだった。
聞こえてくるのは水の流れる音、風のそよぎ、そして懐かしい声。
――あなたは、なぜ剣を取るのですか。
「答えるまでもないさ。守りたいものがあるから」
――その心が折れぬ限り、あなたは何度でも立ち上がれる。
――たとえ傷ついても、光はあなたの中から消えない。
ゆっくりと意識が戻る。サフィナの両手が淡く光り輝き、リアンの体を包んでいた。
彼女の額には玉のような汗が滲み、表情には苦痛すら浮かんでいる。
「無理するな!」リアンが言うと、サフィナは小さく微笑んだ。
「大丈夫……私の使命ですから」
最後の光が収まると、リアンは深く息をついた。
不思議なほど体が軽く、痛みが消えていた。
「これは……すごいな」
「あなたの中の力が整いました。これでしばらくは暴走の心配もないはずです」
彼女は言葉を紡ぐように続けた。
「でも、あなたの中には、まだ“闇”が囁いています。その声が完全に沈黙する日は、あなた自身が答えを見出す日」
「闇の声か……アーゼルのやつは、まだ俺の中で息をしてる」
「彼はあなたですから」
リアンは一瞬言葉を失った。
サフィナはどこか哀しげに微笑んだ。
「光があれば、必ず影ができます。あなたが完全な存在ではいられないのは、それだけ人として真っ当だから」
「皮肉かと思った」
「いいえ。私には、それが羨ましいのです」
静かな時間が流れる。
その沈黙を破るように、神殿の鐘が鳴った。
ルシェリアが外の方を見て眉を寄せる。
「……おかしい。聖都の鐘がこの時間に鳴るのは異常事態の合図よ」
リアンが立ち上がる。
「また襲撃か?」
「違う。これは……神の託宣。何かが降りてくる」
空が突如として暗くなり、雷鳴のような轟きが響いた。
祭壇の上空に光の渦が生まれ、そこから女神アリアの幻像がゆっくりと降り立つ。
周囲の神官たちが一斉に跪いた。
「光と影の勇者よ」
声が響いた瞬間、リアンの胸に熱が走る。
「アリア……女神、何を伝えたいんだ」
「世界の中心に、古の“門”が再び開かれつつあります。その門を護るのは竜王。しかし彼もまた、闇に囚われつつある」
「竜王……?」リアンがつぶやく。
ルシェリアが肩を震わせた。
「まさか、竜族の王……我が一族の始祖が……!」
女神の声が続く。
「向かいなさい。北の浮遊山脈、竜の眠る聖地へ。彼が闇に堕ちる前に、最後の選択を下すのです」
光が収まると、広間には張り詰めた沈黙が残った。
サフィナは両手を胸の前で組み、涙を浮かべていた。
「女神の命が……再び試練を与えるというのですね」
リアンは小さくうなずいた。
「行くしかないな。放っておけば世界が終わる」
「待ってください」
サフィナが一歩進み出て、リアンの手を取った。
「これは、あなたの旅の安寧を願う祈りです」
彼女はリアンの額に手をかざし、優しく言葉を紡いだ。
「どうか、迷わぬ心で進めますように。光と影、あなたの選ぶ道が未来を照らしますように」
温かい光がふたりを包む。その瞬間、リアンの胸の奥から何かが静かに溶けていくような感覚があった。
「ありがとう、サフィナ」
「いいえ。私はただ祈るだけ。それが私の戦いです」
ルシェリアが微笑みながら言った。
「素敵な人ね、サフィナ。彼女のような人がいるなら、世界はまだ救える」
リアンは空を見上げた。
「救えるかどうかは、俺たち次第だ。でも――」
彼の瞳には確かな光が宿っていた。
「必ず竜王を助ける。闇に飲まれる前に」
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