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第18話 舞踏会の夜、告白と決意
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崩壊した公爵邸を後にし、リアンたちは王都城下の旧舞踏館へ身を潜めた。
王城の天へ伸びる黒蜥蜴のような光は、いまも空を焦がす。
人の姿はほとんど消えたが、七日前に開かれた王家の舞踏祭の装飾だけが残っている。
シャンデリアは落ちて割れ、紅いカーテンは焦げ、蒼い月光が破れた窓から差し込んでいた。
「ここで一息つきましょう」ルシェリアが壁へ寄りかかる。
「この場所……昔はきらびやかな社交の広間だったのに」
「皮肉なもんだな。戦場になっちまうとは」リアンは割れた床の上に腰掛けた。
ミリアが焚いた小さな灯火が三人の顔を照らす。
「リアン。あなた、もう迷っていないのね」ミリアが静かに言った。
「迷っていた時の顔と、今の顔、違うからわかるの」
「そうかもしれない」
リアンは手袋を外して手の甲を見つめた。
双竜の刻印が淡く脈打ち、正しく呼吸をするように光っていた。
「俺が何者でも構わない。光でも闇でも、どっちでもいい。ただ、守りたいものを守る。それだけだ」
ルシェリアは微笑んだ。
「あなたの言葉は単純で強い。だから私はついていけるの。けれど――」
そう言って、視線を床へ落とす。
「あの夜、竜王さまが言っていた“真なる血筋”、私もその一つ。つまり私は竜族最後の末裔……だから、もし戦いの果てに竜族の血を絶つ運命だったら、その時は――」
「やめろ」リアンが遮った。
「そんな話をするな。誰もお前を失わせたりしない」
その強い声に、ルシェリアの瞳が揺れる。
「……ありがとう」
沈黙の中で、壊れたピアノが風に鳴いた。
かつての舞踏の旋律を思い出したように、木が微かに震える。
ミリアが小さく微笑んだ。
「懐かしいね。昔はこの場所で王の誕生の日に踊ったわ。あなたもここで訓練を受けてたんでしょう?」
「ああ。覚えてる」リアンは窓の外に目をやった。
「この天井の下で、“英雄”なんて言葉を信じてた。でも、英雄なんていない。俺たちはただ、選ばれちまっただけの人間だから」
「いいえ」ミリアはそっとリアンの肩に手を置いた。
「あなたはもう“英雄”よ。私たちが命を懸けたいと思える人。それが何よりの証」
「ミリア……」
「それにね」彼女は笑みを柔らかくした。「昔から、あなたのことが好きだったの」
時間が止まるような感覚。
ルシェリアの肩が僅かに動く。リアンは息を呑み、ミリアを見つめ返した。
「……知ってたよ」
「そう、でしょうね。でも言わずにはいられなかったの。今夜が最後かもしれないから」
「最後なんて言うな」
「この戦い、誰も約束できないでしょう?」
リアンは頭を掻いた。
「それでも――全部終わったら一緒に旅しよう。約束だ」
ミリアの目に涙が浮かぶ。
「そんな約束、果たしてくれる?」
「ああ。絶対に」
隣でルシェリアが立ち上がる。
「……いい夜ね」
微笑みながら、彼女は窓辺に立ち、月を仰いだ。
「今のあなたたちを見ていると、不思議と安らぐの。きっと、これが人間の強さなんでしょうね。感情を交わして、未来を重ね合う力」
「ルシェリアも、仲間だろ?」リアンが言う。
「もちろん。でも、私もずっと見ていたからわかるの。あなたとミリアは互いを光のように照らしている。私はその光を守る側でいい」
「何言ってんだ」リアンは立ち上がり、彼女に歩み寄った。
「光だろうが影だろうが、俺たちは三人でひとつだ。今さら分ける必要なんてない」
その言葉にルシェリアの頬が紅に染まる。
「……あなたは本当にずるいわね」
ミリアも微笑みながら頷いた。
「これじゃ、どちらもあなたを好きになるのは仕方ないわ」
ふと、風が吹き抜け、割れたステンドグラスがかすかに鳴った。
空から差す月光が三人を包み、その光の粒が雪のように降りてきた。
その光景は、まるで別世界の舞踏会のようだった。
ルシェリアがそっと手を差し出す。
「踊りましょう、リアン。今だけは戦いを忘れて」
「……いいのか?」
「私たちの“決意の儀式”よ」
リアンとルシェリアが手を取り合い、ゆっくりと足を運ぶ。
ミリアが微笑んで近寄り、もう一方の手を取った。
三人が回るたび、床に淡い光の円が広がっていく。
音はない。風と心臓の鼓動だけ。
けれどその沈黙が、何よりも美しかった。
「約束よ、リアン」ルシェリアが囁いた。
「ええ、約束です」ミリアも続く。
「この命が終わるその時まで、あなたの隣で戦う」
リアンは二人を見渡し、ゆっくりとうなずいた。
「なら、俺も命を懸けて守る。二人を。……そして、この世界を」
その瞬間、街に響き渡る地鳴り。
夜空が裂け、黒い柱が王城の塔から空へ伸びた。
三人は同時に振り向く。
「アーゼルが……動いた!」
ルシェリアが杖を握りしめる。
「“蛇の牙”の本陣、王宮の最上層……! そこが最終陣!」
リアンは剣を抜き、赤い光を放つ塔を見据える。
「夜明けまでに終わらせる」
その声は静かで、しかし揺るがぬ闘志に満ちていた。
崩れた舞踏館の天井から差す月光が三人を照らす。
風が止まり、時間が再び動き始める。
「行くぞ。最後の戦いだ」
「ええ、白日の下で――闇を終わらせましょう」
ミリアが祈りの杖を掲げた。
そして三つの影が一斉に塔へ向かって走り出す。
足元の瓦礫を踏みしめるたび、彼らの決意が灯火のように輝き、夜空を貫いた。
それは、戦い前の静寂。
そして、永遠に語り継がれる勇者たちの誓いの夜だった。
王城の天へ伸びる黒蜥蜴のような光は、いまも空を焦がす。
人の姿はほとんど消えたが、七日前に開かれた王家の舞踏祭の装飾だけが残っている。
シャンデリアは落ちて割れ、紅いカーテンは焦げ、蒼い月光が破れた窓から差し込んでいた。
「ここで一息つきましょう」ルシェリアが壁へ寄りかかる。
「この場所……昔はきらびやかな社交の広間だったのに」
「皮肉なもんだな。戦場になっちまうとは」リアンは割れた床の上に腰掛けた。
ミリアが焚いた小さな灯火が三人の顔を照らす。
「リアン。あなた、もう迷っていないのね」ミリアが静かに言った。
「迷っていた時の顔と、今の顔、違うからわかるの」
「そうかもしれない」
リアンは手袋を外して手の甲を見つめた。
双竜の刻印が淡く脈打ち、正しく呼吸をするように光っていた。
「俺が何者でも構わない。光でも闇でも、どっちでもいい。ただ、守りたいものを守る。それだけだ」
ルシェリアは微笑んだ。
「あなたの言葉は単純で強い。だから私はついていけるの。けれど――」
そう言って、視線を床へ落とす。
「あの夜、竜王さまが言っていた“真なる血筋”、私もその一つ。つまり私は竜族最後の末裔……だから、もし戦いの果てに竜族の血を絶つ運命だったら、その時は――」
「やめろ」リアンが遮った。
「そんな話をするな。誰もお前を失わせたりしない」
その強い声に、ルシェリアの瞳が揺れる。
「……ありがとう」
沈黙の中で、壊れたピアノが風に鳴いた。
かつての舞踏の旋律を思い出したように、木が微かに震える。
ミリアが小さく微笑んだ。
「懐かしいね。昔はこの場所で王の誕生の日に踊ったわ。あなたもここで訓練を受けてたんでしょう?」
「ああ。覚えてる」リアンは窓の外に目をやった。
「この天井の下で、“英雄”なんて言葉を信じてた。でも、英雄なんていない。俺たちはただ、選ばれちまっただけの人間だから」
「いいえ」ミリアはそっとリアンの肩に手を置いた。
「あなたはもう“英雄”よ。私たちが命を懸けたいと思える人。それが何よりの証」
「ミリア……」
「それにね」彼女は笑みを柔らかくした。「昔から、あなたのことが好きだったの」
時間が止まるような感覚。
ルシェリアの肩が僅かに動く。リアンは息を呑み、ミリアを見つめ返した。
「……知ってたよ」
「そう、でしょうね。でも言わずにはいられなかったの。今夜が最後かもしれないから」
「最後なんて言うな」
「この戦い、誰も約束できないでしょう?」
リアンは頭を掻いた。
「それでも――全部終わったら一緒に旅しよう。約束だ」
ミリアの目に涙が浮かぶ。
「そんな約束、果たしてくれる?」
「ああ。絶対に」
隣でルシェリアが立ち上がる。
「……いい夜ね」
微笑みながら、彼女は窓辺に立ち、月を仰いだ。
「今のあなたたちを見ていると、不思議と安らぐの。きっと、これが人間の強さなんでしょうね。感情を交わして、未来を重ね合う力」
「ルシェリアも、仲間だろ?」リアンが言う。
「もちろん。でも、私もずっと見ていたからわかるの。あなたとミリアは互いを光のように照らしている。私はその光を守る側でいい」
「何言ってんだ」リアンは立ち上がり、彼女に歩み寄った。
「光だろうが影だろうが、俺たちは三人でひとつだ。今さら分ける必要なんてない」
その言葉にルシェリアの頬が紅に染まる。
「……あなたは本当にずるいわね」
ミリアも微笑みながら頷いた。
「これじゃ、どちらもあなたを好きになるのは仕方ないわ」
ふと、風が吹き抜け、割れたステンドグラスがかすかに鳴った。
空から差す月光が三人を包み、その光の粒が雪のように降りてきた。
その光景は、まるで別世界の舞踏会のようだった。
ルシェリアがそっと手を差し出す。
「踊りましょう、リアン。今だけは戦いを忘れて」
「……いいのか?」
「私たちの“決意の儀式”よ」
リアンとルシェリアが手を取り合い、ゆっくりと足を運ぶ。
ミリアが微笑んで近寄り、もう一方の手を取った。
三人が回るたび、床に淡い光の円が広がっていく。
音はない。風と心臓の鼓動だけ。
けれどその沈黙が、何よりも美しかった。
「約束よ、リアン」ルシェリアが囁いた。
「ええ、約束です」ミリアも続く。
「この命が終わるその時まで、あなたの隣で戦う」
リアンは二人を見渡し、ゆっくりとうなずいた。
「なら、俺も命を懸けて守る。二人を。……そして、この世界を」
その瞬間、街に響き渡る地鳴り。
夜空が裂け、黒い柱が王城の塔から空へ伸びた。
三人は同時に振り向く。
「アーゼルが……動いた!」
ルシェリアが杖を握りしめる。
「“蛇の牙”の本陣、王宮の最上層……! そこが最終陣!」
リアンは剣を抜き、赤い光を放つ塔を見据える。
「夜明けまでに終わらせる」
その声は静かで、しかし揺るがぬ闘志に満ちていた。
崩れた舞踏館の天井から差す月光が三人を照らす。
風が止まり、時間が再び動き始める。
「行くぞ。最後の戦いだ」
「ええ、白日の下で――闇を終わらせましょう」
ミリアが祈りの杖を掲げた。
そして三つの影が一斉に塔へ向かって走り出す。
足元の瓦礫を踏みしめるたび、彼らの決意が灯火のように輝き、夜空を貫いた。
それは、戦い前の静寂。
そして、永遠に語り継がれる勇者たちの誓いの夜だった。
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