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メインストーリー1
カシジュマの章:ドマシとジュマシ編
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「かしら~、かしら~、朝っすよ~、出発の準備はできてるっすよ~」
ジュマシが身体を揺らしながら声をかけてくる。
カシジュマの章:ドマシとジュマシ編
「いや、行くのはオレだけだ」
表情は様々だがみんなが心配してくれている気持ちは伝わってきた。
「大丈夫だ。無理はしない」
本当にあんな体験はもうこりごりだ。
グインの話を信用するなら、今の僕ならある程度の場所までは進めるみたいだ。
ジュマシだからこそ解ける謎が隠されている?
さすがにそれは楽観的な考えすぎるか。
そういえば、カシジュマになってすぐの時にセキダイコに近寄っても、ガイアさんの時のような空気の変化を感じなかったな。
やっぱりジュマシが関係ある?
セキダイコの入り口に到着した。
ゴクリッ!
あの時の光景がやっぱり頭をよぎる。
考えていても仕方が無い。
頭を左右に振って一旦記憶から消し去ってみる。
消える事はないが、こればっかりは気持ちの問題だ。
最初の部屋。
確かビリビリする床。
そして中央にペンデュラムの罠が発動するスイッチ・・・
恐る恐る部屋に入ると凄惨な光景!
・・・は、なかった。
あれ?ガイアさんの死体は?
ジュマシ達の話では最近セキダイコから逃げて出てきたのは1人だけ。
つまりルーナさんだけで、慌てて逃げてるぐらいだから死体を持ち運ぶ余裕はないはず。
だからといって、自然に風化するほどの時間は流れていない。
他の誰かがガイアさんの死体を回収に来たのか?
そうならジュマシ達から報告があるはずだ。
考えに夢中になりすぎて1歩2歩と部屋の中に入っていってしまっていた。
バチッ!
いっつっ!
身体が吹き飛ぶほどではないが、ビリビリする痛みは感じる。
前回は石を投げてコツコツ進んでいたが、そんなのんきな方法はもう使わない。
というか、グインがこの部屋までしか進んでいない事を聞いて驚くぐらいだから、この部屋には何か謎があるはずだ。
部屋の入り口から部屋の中を見渡す。
ビリビリ床を解除するようなスイッチはなさそうだ。
あったとしても、そこまで移動する手段も考えないといけない。
さて、どうしたものやら。
・・・
ん?
ガイアさんの時に来た時と雰囲気が違う気がする。
いや、同じ場所の床を踏んだらビリビリきた。
でもやっぱり何かが違う。
何が違う?
ガイアさんの死体がないだけか?
そういえば、ペンデュラムも出ていない。
これはスイッチを踏んだときにトラップが発動して、その後は自動的に元に戻るとか?
なんとなくそれで説明つきそうな気もするがそういうレベルの問題なのか?
足りない。
圧倒的に情報と知識が足りない。
ジュマシ達は元のカシジュマが行くなと言うぐらいだから近寄らないし何も知らないだろう。
でも、行くなというぐらいだから元のカシジュマはここに来ている事になるか。
残念ながら元のカシジュマの記憶はない。
結局1歩も先に進めないまま、セキダイコから出た。
謎が解けない以上、ここに居ても時間だけが無駄に過ぎていくだけだ。
洞窟に近づくとジュマシ達が嬉しそうな顔でかけよってきた。
「かしら~、無事だったんすね。良かったっす~」
「ん、問題ない。心配かけたな」
さすがに1歩も進むことなく引き返してきたとは言えない。
「あれ?かしら、今回は何も収穫なしっすか?」
「バッ、おまえ!」
手ぶらの事を言ったジュマシの口を皆が慌てて塞いでいる。
ジュマシ達的には地雷発言っぽいな。
「怒らないから、質問に答えろ。オレが最後にセキダイコに行ったのはいつだ?それと、いつも何を持って帰ってきてる?」
ジュマシ達がぽかーんとした顔をしている。
当然だ、自分でも何を言っているのかわからない。
・・・
沈黙が続く。
・・・
観念を決めたのか、側近のジュマシが口を開いた。
「かしらは何回かセキダイコに行ってたっすが、最後に行ったのは2人の人間が入る少し前っす。それといつもはボロボロの状態で洞窟へ戻ってきて手には何かの書物を持っていたっす」
・・・
「わかった、すまんな」
そう言うとジュマシ達は戸惑いながらもホッとした感じになった。
僕は本のあるところに戻った。
根拠は無いが、何かのヒントが残されているのかもしれない。
まだ読んでいない本を順番に読んでいく。
・・・
文字が読める本を一通り読み終わった。
中級ぐらいの魔法の使い方はわかったが、セキダイコに関する事は何も書いていなかった。
進展なし・・・か?
ボルドマシさんほどでは無いが、カシジュマは何故本を集める?
毎回ボロボロになりつつも本を持って帰ってくる?
読めない本を持っていてどうなる?
自問自答を繰り返す。
僕の記憶は残っているが元のカシジュマの記憶は無い。
だから魔法も威力は大きいが初級のものしか使えなかった。
しかし、ドゲルの時に喰らった魔法とはレベルが違いすぎる。
それこそ中級レベル以上の魔法だった。
僕が中級レベルの魔法を覚えたのはさっき読んだ本のおかげだ。
もしかして僕が読めないだけで、元のカシジュマはここの本をすべて読めた?
最初は読めなかった本を読めるようになったのは何故だ?
グインと話せるようになったから?
それとも、僕がこの身体に順応してきたから?
改めて見直してみると、読めないと思って分けていた本の何冊かは読めるようになっている。
ジュマシ達はこっちの本を読めるのか?
「おーい、だれかこっちきてくれ」
声をかけるとすぐに側近のジュマシが駆けつけてきた。
「なんすか、かしら~?」
「この本を読めるか?」
僕が読めない本を手渡した。
「えーっと・・・」
パラパラとめくりながら答えてきた。
「人間がドラゴンってやつを倒す物語っすね。見たことないっすけど、このドラゴンってのはいるんっすかねぇ」
どうやらジュマシには普通に読めるようだ。
「すまんが手分けしてこれらの本をこっちの本の文字に書き直してくれ」
そう言って読めない本を何冊か手渡した。
ジュマシはきょとんとしている。
「いいからはやく!」
強引に押しきった。
「りょ、りょうかいっす~」
慌ててジュマシが出て行った。
しばらくするとジュマシが戻ってきた。
「と、とりあえず書き直したっす。でもこれに何の意味があるんすか?セキダイコと何か関係が?」
「まぁそんなとこだ。今日はゆっくり休んでいいぞ」
本当は関係があるかどうかさっぱりわからない。
見比べながら文字を推測していけば読めなかった文字が読めるようになる・・・はず。
寝る間も惜しんで読み込んだおかげで、書き直しをしていない本も読めるようになっていた。
元々、本を沢山読んでいた経験がこんな形で役に立った。
なるほど。
残念ながらセキダイコ攻略に関する本はなかった。
が、読めなかった物が読めるようになったおかげでわかったこともあった。
セキダイコ攻略のコツを壁に直接書いていたのだ。
盲点というべきか。
ふむふむ。
戦いでは基本無策だった元のカシジュマもさすがにあそこは無策で挑むのは危険と感じたのか。
毎回ボロボロになるぐらいだから力技で謎を解いてる気がしないでもないが。
とはいえ、記録を残していてくれたのはありがたい。
意外?と細かく記載している。
さすがに同じ罠には何度もかかりたくは無いということか。
これだけで完全に攻略はできないが、少なくとも先の部屋に進めるようになるはずだ。
すぐにでも出発して確認してみたいところだが、さすがに疲労は抜けない。
寝そべって本を読みながら体力の回復に努めた。
人間の姿ではなくなってしまったが、好きな本に囲まれて過ごす生活はやっぱりいい。
しかも、自分は何もしなくてもいい。
求めていた理想が今ここにあった。
このままこの生活を続けてもいいが、ほとんどの本を読みつくしてしまった。
ボルドマシさんのところの本も読んでみたいが、あそこに行くには戦いは避けられない。
ナトリの街にも本は沢山あるだろう。
でも、このままの姿で行けばギルドの人たちに追い返されるだけ。
やはり、新たな本を入手するにはセキダイコに向うしかないか。
そう考えながらゴロゴロとしているとジュマシが慌てて駆け込んできた。
「かしら~、ヤバイっす~!」
「どうした?」
「ドマシが攻めて来たっす~!」
僕は耳を疑った。
保守的なドマシ族が攻めてくるなんて。
「これまで、ドマシが攻めて来た事は?」
確認のために聞いてみる。
「セキダイコに向うボルドマシとの小競り合いはあったっすが、ボルドマシがドマシ達を率いて攻めてくるのは初めてっす」
恐らくボルドマシさんがセキダイコに向う理由は本だろう。
監視しているジュマシがちょっかいをかけていたのはなんとなく理解できる。
好戦的なジュマシ側から攻める事も理解できる。
ドゲルの時にカシジュマに攻撃されたのも攻め込むつもりだったのだろう。
でもまさかボルドマシさんが本格的に攻め込んでくるとは。
緊急事態には違いない。
僕も急いで競り合ってる場所へ向った。
残念ながら伝令の内容は本当だった。
ちょうどセキダイコを挟むような形でドマシとジュマシが魔法の撃ちあいが繰り広げられていた。
互いに被害はほとんど無い状態がせめてもの救いだろうか。
・・・
いや、おかしい。
何故ほぼ互角なのだ?
ガイアさんの時に体感したドマシの魔法の威力と、訓練しているジュマシの魔法の威力では同じレベルの魔法でも圧倒的にジュマシの方が強い。
だからドマシから攻め込んでくる事はなかった。
仮に攻め込んできても追い返すのは容易だったはず。
が、今はどうだろう。
追い返すどころか、ほぼ同じぐらいの威力の魔法をドマシが使ってくる。
いったい何が起きているのだ?
考えていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「カシジュマ~ッ!苦渋を味わって来たが、今日で終わりだ~!」
声の主はボルドマシさんだ。
どういう意味だ?と、思ったが言葉の意味は現状を見れば一目瞭然か。
これまではジュマシが優勢だった力関係が今は均衡している。
いや、むしろ回復系の弱いジュマシ側が不利なのかもしれない。
ボルドマシさんとは戦いたくない。
しかし、このままの状況が続くと被害が増えていくだけだ。
避けられない戦いとなるのなら仕方が無い。
こちらも腹をくくるしかないか。
ダメ元で提案してみた。
「ボルドマシッ!ここままでは互いに消耗していくだけだで、らちがあかない!大将同士直接やりあわないか?」
大将同士の一騎打ち、ようするにタイマンだ。
ボルドマシさんも同じ思いを抱いていたのかもしれない。
「ワハハ、面白い。その提案乗ってやろう!」
すなりと受け入れてくれた。
ドマシもジュマシも後ろに引き下がり、ボルドマシとカシジュマが対峙する。
ピリピリした雰囲気が広がる。
「カシジュマ、いや今は久しぶりに兄者と呼ぼう。兄者の魔法の強さの理由が分かった。以前までのワシと思うなよ!」
やはりというか、なんというか。
どっちが上かは分からなかったが、ボルドマシとカシジュマは元は同種、というより双子という表現が正しいか。
「ボルドマシ・・・強さの理由とは?」
あえて聞いてみた。
「最後なので答えてやろう。ワシは兄者の仕草を見て魔法を覚えた。つまり基本を知らないまま魔法を使っていたのだ。それが最近、基本の書を見て覚えたのだ」
「!」
なんてことだ【基本の書】とは僕が持っていた魔法の書の事だろう。
つまり、僕が原因で今の争いが始まってしまったわけだ。
あの書がなければ、ドマシとジュマシの関係は均衡したままだったのかもしれない。
仲良くなる事はなくともここまで悪化する事もなかっただろう。
「ボルドマシ、始める前に1つだけ約束してくれ」
「なんだ?」
「オマエが勝ったとしても、ジュマシを受け入れて共存してくれ」
「ワハハ、負ける事を考えるとは兄者らしくない。ワシは負けないが、その約束誓おう。もちろん逆の立場の場合でも受け入れてくれるんだろうな」
「もちろんだ」
そうと決まればその場に居る全員に聞こえるように言った。
「この戦い、勝った方に従うこと!ジュマシとドマシの戦いはこれで終わりだ!」
・・・
一瞬シーンとした空気になったが、互いに大将を鼓舞する声が飛び交う。
「かしら~!絶対勝つっすよ~!」
「ボルさん!負けないで!」
「かしら」コールと「ボルさん」コールで盛り上がる。
「時間も惜しい、始めるか」
こちらの問いかけにボルドマシさんは頷く。
ボルドマシさんの実力は未知数だが、双子というぐらいだからカシジュマと同じレベルの魔法は使えるのだろう。
僕もあの場所にあった本を読みこんでいるので、使える魔法のレベルもあがっている。
一点を中心として互いにジリジリと間合いを取っている。
ちょうど互いの位置が反対側に来た時だろうか、ボルドマシさんから攻撃を仕掛けてきた。
ブオーン!
切り裂くような鋭い風が飛んでくるのを感じる。
僕は同じ魔法を放った。
パーン!
魔法がぶつかり合った衝撃音が鳴り響く。
威力は同じ。
「ワハハ、驚いたか兄者よ」
驚いた顔をしている僕に向ってボルドマシさんが嬉しそうに叫んだ。
正直、ボルドマシさんの実力を知らないので驚いたのはそっちではなくて、僕の魔法の力があがっていることに驚いたのである。
「互いに力をつけたわけか」
その言葉にボルドマシさんがニヤリとする。
僕もニヤリと返す。
その後も魔法を撃ちあうが相殺されるだけでこう着状態になった。
最初は「かしら」「ボルさん」コールで湧いていた部下達も壮絶な魔法の撃ちあいに声も出なくなっていた。
「仕方ない、やはりアレを使うしかないか」
ボルドマシさんがボソッとそう言うと、突進してきた。
アレとはなんだ?というより何故ここで突進?
撃退しようと魔法を撃とうとしたが、この思考で反応が一瞬遅れた。
ガシッ!
ボルドマシさんが僕を抱きかかえてきた。
振りほどこうにもボルドマシさんの手は外れない。
「な、なにをするつもりだ」
思わず心の声が漏れた。
「兄者、これで終わりだ」
そういうと、ボルドマシさんの身体が光りだした。
「後はまかせたぞー!」
ボルドマシさんがそう叫ぶと、その場が光に包まれて何も見えなくなった。
ドーーーーーンッ!
遅れて爆音が鳴り響く。
衝撃波でドマシとジュマシ達が後方へ転がりながら飛ばされているのが見え・・・てはないが、たぶんそういう状況だろう。
そう、ボルドマシさんは自爆してきたのである。
なんということだ、勝敗をつけたくない気持ちはあったので最善でもあり最悪の展開だ。
勝ちも負けもない。
残されたドマシとジュマシは仲良くなるだろうか。
と、そんな心配している状況でもないのだが。
・・・
「・・・ゃーん、もしもーし」
コンコン!
誰かが声をかけながら頭を叩いてくるのを感じる。
ゆっくり目を開けると、見覚えのある顔が。
「サーカさん?」
やれやれといった感じでサーカさんが声をかけてくる。
「サーカさん?やないで。こんなおっとこ前なん、ほかにおらんやろ」
このノリはやっぱりサーカさんだ。
状況が理解できていないので困惑した顔をしていると
「しっかし、よくもまぁこないなところで、よぉ寝てられるなぁ」
周りを見渡すと、壊れた看板が見える。
洞窟と街への分岐点だ。
「とりあえず依頼は完了っと。ほな、メムロちゃん帰るで~。歩けるか~?」
そういうと、サーカさんはタスト村の方へ向って歩き出した。
言われるがまま、僕はサーカさんの後についていった。
続々・メムロの章へつづく
ジュマシが身体を揺らしながら声をかけてくる。
カシジュマの章:ドマシとジュマシ編
「いや、行くのはオレだけだ」
表情は様々だがみんなが心配してくれている気持ちは伝わってきた。
「大丈夫だ。無理はしない」
本当にあんな体験はもうこりごりだ。
グインの話を信用するなら、今の僕ならある程度の場所までは進めるみたいだ。
ジュマシだからこそ解ける謎が隠されている?
さすがにそれは楽観的な考えすぎるか。
そういえば、カシジュマになってすぐの時にセキダイコに近寄っても、ガイアさんの時のような空気の変化を感じなかったな。
やっぱりジュマシが関係ある?
セキダイコの入り口に到着した。
ゴクリッ!
あの時の光景がやっぱり頭をよぎる。
考えていても仕方が無い。
頭を左右に振って一旦記憶から消し去ってみる。
消える事はないが、こればっかりは気持ちの問題だ。
最初の部屋。
確かビリビリする床。
そして中央にペンデュラムの罠が発動するスイッチ・・・
恐る恐る部屋に入ると凄惨な光景!
・・・は、なかった。
あれ?ガイアさんの死体は?
ジュマシ達の話では最近セキダイコから逃げて出てきたのは1人だけ。
つまりルーナさんだけで、慌てて逃げてるぐらいだから死体を持ち運ぶ余裕はないはず。
だからといって、自然に風化するほどの時間は流れていない。
他の誰かがガイアさんの死体を回収に来たのか?
そうならジュマシ達から報告があるはずだ。
考えに夢中になりすぎて1歩2歩と部屋の中に入っていってしまっていた。
バチッ!
いっつっ!
身体が吹き飛ぶほどではないが、ビリビリする痛みは感じる。
前回は石を投げてコツコツ進んでいたが、そんなのんきな方法はもう使わない。
というか、グインがこの部屋までしか進んでいない事を聞いて驚くぐらいだから、この部屋には何か謎があるはずだ。
部屋の入り口から部屋の中を見渡す。
ビリビリ床を解除するようなスイッチはなさそうだ。
あったとしても、そこまで移動する手段も考えないといけない。
さて、どうしたものやら。
・・・
ん?
ガイアさんの時に来た時と雰囲気が違う気がする。
いや、同じ場所の床を踏んだらビリビリきた。
でもやっぱり何かが違う。
何が違う?
ガイアさんの死体がないだけか?
そういえば、ペンデュラムも出ていない。
これはスイッチを踏んだときにトラップが発動して、その後は自動的に元に戻るとか?
なんとなくそれで説明つきそうな気もするがそういうレベルの問題なのか?
足りない。
圧倒的に情報と知識が足りない。
ジュマシ達は元のカシジュマが行くなと言うぐらいだから近寄らないし何も知らないだろう。
でも、行くなというぐらいだから元のカシジュマはここに来ている事になるか。
残念ながら元のカシジュマの記憶はない。
結局1歩も先に進めないまま、セキダイコから出た。
謎が解けない以上、ここに居ても時間だけが無駄に過ぎていくだけだ。
洞窟に近づくとジュマシ達が嬉しそうな顔でかけよってきた。
「かしら~、無事だったんすね。良かったっす~」
「ん、問題ない。心配かけたな」
さすがに1歩も進むことなく引き返してきたとは言えない。
「あれ?かしら、今回は何も収穫なしっすか?」
「バッ、おまえ!」
手ぶらの事を言ったジュマシの口を皆が慌てて塞いでいる。
ジュマシ達的には地雷発言っぽいな。
「怒らないから、質問に答えろ。オレが最後にセキダイコに行ったのはいつだ?それと、いつも何を持って帰ってきてる?」
ジュマシ達がぽかーんとした顔をしている。
当然だ、自分でも何を言っているのかわからない。
・・・
沈黙が続く。
・・・
観念を決めたのか、側近のジュマシが口を開いた。
「かしらは何回かセキダイコに行ってたっすが、最後に行ったのは2人の人間が入る少し前っす。それといつもはボロボロの状態で洞窟へ戻ってきて手には何かの書物を持っていたっす」
・・・
「わかった、すまんな」
そう言うとジュマシ達は戸惑いながらもホッとした感じになった。
僕は本のあるところに戻った。
根拠は無いが、何かのヒントが残されているのかもしれない。
まだ読んでいない本を順番に読んでいく。
・・・
文字が読める本を一通り読み終わった。
中級ぐらいの魔法の使い方はわかったが、セキダイコに関する事は何も書いていなかった。
進展なし・・・か?
ボルドマシさんほどでは無いが、カシジュマは何故本を集める?
毎回ボロボロになりつつも本を持って帰ってくる?
読めない本を持っていてどうなる?
自問自答を繰り返す。
僕の記憶は残っているが元のカシジュマの記憶は無い。
だから魔法も威力は大きいが初級のものしか使えなかった。
しかし、ドゲルの時に喰らった魔法とはレベルが違いすぎる。
それこそ中級レベル以上の魔法だった。
僕が中級レベルの魔法を覚えたのはさっき読んだ本のおかげだ。
もしかして僕が読めないだけで、元のカシジュマはここの本をすべて読めた?
最初は読めなかった本を読めるようになったのは何故だ?
グインと話せるようになったから?
それとも、僕がこの身体に順応してきたから?
改めて見直してみると、読めないと思って分けていた本の何冊かは読めるようになっている。
ジュマシ達はこっちの本を読めるのか?
「おーい、だれかこっちきてくれ」
声をかけるとすぐに側近のジュマシが駆けつけてきた。
「なんすか、かしら~?」
「この本を読めるか?」
僕が読めない本を手渡した。
「えーっと・・・」
パラパラとめくりながら答えてきた。
「人間がドラゴンってやつを倒す物語っすね。見たことないっすけど、このドラゴンってのはいるんっすかねぇ」
どうやらジュマシには普通に読めるようだ。
「すまんが手分けしてこれらの本をこっちの本の文字に書き直してくれ」
そう言って読めない本を何冊か手渡した。
ジュマシはきょとんとしている。
「いいからはやく!」
強引に押しきった。
「りょ、りょうかいっす~」
慌ててジュマシが出て行った。
しばらくするとジュマシが戻ってきた。
「と、とりあえず書き直したっす。でもこれに何の意味があるんすか?セキダイコと何か関係が?」
「まぁそんなとこだ。今日はゆっくり休んでいいぞ」
本当は関係があるかどうかさっぱりわからない。
見比べながら文字を推測していけば読めなかった文字が読めるようになる・・・はず。
寝る間も惜しんで読み込んだおかげで、書き直しをしていない本も読めるようになっていた。
元々、本を沢山読んでいた経験がこんな形で役に立った。
なるほど。
残念ながらセキダイコ攻略に関する本はなかった。
が、読めなかった物が読めるようになったおかげでわかったこともあった。
セキダイコ攻略のコツを壁に直接書いていたのだ。
盲点というべきか。
ふむふむ。
戦いでは基本無策だった元のカシジュマもさすがにあそこは無策で挑むのは危険と感じたのか。
毎回ボロボロになるぐらいだから力技で謎を解いてる気がしないでもないが。
とはいえ、記録を残していてくれたのはありがたい。
意外?と細かく記載している。
さすがに同じ罠には何度もかかりたくは無いということか。
これだけで完全に攻略はできないが、少なくとも先の部屋に進めるようになるはずだ。
すぐにでも出発して確認してみたいところだが、さすがに疲労は抜けない。
寝そべって本を読みながら体力の回復に努めた。
人間の姿ではなくなってしまったが、好きな本に囲まれて過ごす生活はやっぱりいい。
しかも、自分は何もしなくてもいい。
求めていた理想が今ここにあった。
このままこの生活を続けてもいいが、ほとんどの本を読みつくしてしまった。
ボルドマシさんのところの本も読んでみたいが、あそこに行くには戦いは避けられない。
ナトリの街にも本は沢山あるだろう。
でも、このままの姿で行けばギルドの人たちに追い返されるだけ。
やはり、新たな本を入手するにはセキダイコに向うしかないか。
そう考えながらゴロゴロとしているとジュマシが慌てて駆け込んできた。
「かしら~、ヤバイっす~!」
「どうした?」
「ドマシが攻めて来たっす~!」
僕は耳を疑った。
保守的なドマシ族が攻めてくるなんて。
「これまで、ドマシが攻めて来た事は?」
確認のために聞いてみる。
「セキダイコに向うボルドマシとの小競り合いはあったっすが、ボルドマシがドマシ達を率いて攻めてくるのは初めてっす」
恐らくボルドマシさんがセキダイコに向う理由は本だろう。
監視しているジュマシがちょっかいをかけていたのはなんとなく理解できる。
好戦的なジュマシ側から攻める事も理解できる。
ドゲルの時にカシジュマに攻撃されたのも攻め込むつもりだったのだろう。
でもまさかボルドマシさんが本格的に攻め込んでくるとは。
緊急事態には違いない。
僕も急いで競り合ってる場所へ向った。
残念ながら伝令の内容は本当だった。
ちょうどセキダイコを挟むような形でドマシとジュマシが魔法の撃ちあいが繰り広げられていた。
互いに被害はほとんど無い状態がせめてもの救いだろうか。
・・・
いや、おかしい。
何故ほぼ互角なのだ?
ガイアさんの時に体感したドマシの魔法の威力と、訓練しているジュマシの魔法の威力では同じレベルの魔法でも圧倒的にジュマシの方が強い。
だからドマシから攻め込んでくる事はなかった。
仮に攻め込んできても追い返すのは容易だったはず。
が、今はどうだろう。
追い返すどころか、ほぼ同じぐらいの威力の魔法をドマシが使ってくる。
いったい何が起きているのだ?
考えていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「カシジュマ~ッ!苦渋を味わって来たが、今日で終わりだ~!」
声の主はボルドマシさんだ。
どういう意味だ?と、思ったが言葉の意味は現状を見れば一目瞭然か。
これまではジュマシが優勢だった力関係が今は均衡している。
いや、むしろ回復系の弱いジュマシ側が不利なのかもしれない。
ボルドマシさんとは戦いたくない。
しかし、このままの状況が続くと被害が増えていくだけだ。
避けられない戦いとなるのなら仕方が無い。
こちらも腹をくくるしかないか。
ダメ元で提案してみた。
「ボルドマシッ!ここままでは互いに消耗していくだけだで、らちがあかない!大将同士直接やりあわないか?」
大将同士の一騎打ち、ようするにタイマンだ。
ボルドマシさんも同じ思いを抱いていたのかもしれない。
「ワハハ、面白い。その提案乗ってやろう!」
すなりと受け入れてくれた。
ドマシもジュマシも後ろに引き下がり、ボルドマシとカシジュマが対峙する。
ピリピリした雰囲気が広がる。
「カシジュマ、いや今は久しぶりに兄者と呼ぼう。兄者の魔法の強さの理由が分かった。以前までのワシと思うなよ!」
やはりというか、なんというか。
どっちが上かは分からなかったが、ボルドマシとカシジュマは元は同種、というより双子という表現が正しいか。
「ボルドマシ・・・強さの理由とは?」
あえて聞いてみた。
「最後なので答えてやろう。ワシは兄者の仕草を見て魔法を覚えた。つまり基本を知らないまま魔法を使っていたのだ。それが最近、基本の書を見て覚えたのだ」
「!」
なんてことだ【基本の書】とは僕が持っていた魔法の書の事だろう。
つまり、僕が原因で今の争いが始まってしまったわけだ。
あの書がなければ、ドマシとジュマシの関係は均衡したままだったのかもしれない。
仲良くなる事はなくともここまで悪化する事もなかっただろう。
「ボルドマシ、始める前に1つだけ約束してくれ」
「なんだ?」
「オマエが勝ったとしても、ジュマシを受け入れて共存してくれ」
「ワハハ、負ける事を考えるとは兄者らしくない。ワシは負けないが、その約束誓おう。もちろん逆の立場の場合でも受け入れてくれるんだろうな」
「もちろんだ」
そうと決まればその場に居る全員に聞こえるように言った。
「この戦い、勝った方に従うこと!ジュマシとドマシの戦いはこれで終わりだ!」
・・・
一瞬シーンとした空気になったが、互いに大将を鼓舞する声が飛び交う。
「かしら~!絶対勝つっすよ~!」
「ボルさん!負けないで!」
「かしら」コールと「ボルさん」コールで盛り上がる。
「時間も惜しい、始めるか」
こちらの問いかけにボルドマシさんは頷く。
ボルドマシさんの実力は未知数だが、双子というぐらいだからカシジュマと同じレベルの魔法は使えるのだろう。
僕もあの場所にあった本を読みこんでいるので、使える魔法のレベルもあがっている。
一点を中心として互いにジリジリと間合いを取っている。
ちょうど互いの位置が反対側に来た時だろうか、ボルドマシさんから攻撃を仕掛けてきた。
ブオーン!
切り裂くような鋭い風が飛んでくるのを感じる。
僕は同じ魔法を放った。
パーン!
魔法がぶつかり合った衝撃音が鳴り響く。
威力は同じ。
「ワハハ、驚いたか兄者よ」
驚いた顔をしている僕に向ってボルドマシさんが嬉しそうに叫んだ。
正直、ボルドマシさんの実力を知らないので驚いたのはそっちではなくて、僕の魔法の力があがっていることに驚いたのである。
「互いに力をつけたわけか」
その言葉にボルドマシさんがニヤリとする。
僕もニヤリと返す。
その後も魔法を撃ちあうが相殺されるだけでこう着状態になった。
最初は「かしら」「ボルさん」コールで湧いていた部下達も壮絶な魔法の撃ちあいに声も出なくなっていた。
「仕方ない、やはりアレを使うしかないか」
ボルドマシさんがボソッとそう言うと、突進してきた。
アレとはなんだ?というより何故ここで突進?
撃退しようと魔法を撃とうとしたが、この思考で反応が一瞬遅れた。
ガシッ!
ボルドマシさんが僕を抱きかかえてきた。
振りほどこうにもボルドマシさんの手は外れない。
「な、なにをするつもりだ」
思わず心の声が漏れた。
「兄者、これで終わりだ」
そういうと、ボルドマシさんの身体が光りだした。
「後はまかせたぞー!」
ボルドマシさんがそう叫ぶと、その場が光に包まれて何も見えなくなった。
ドーーーーーンッ!
遅れて爆音が鳴り響く。
衝撃波でドマシとジュマシ達が後方へ転がりながら飛ばされているのが見え・・・てはないが、たぶんそういう状況だろう。
そう、ボルドマシさんは自爆してきたのである。
なんということだ、勝敗をつけたくない気持ちはあったので最善でもあり最悪の展開だ。
勝ちも負けもない。
残されたドマシとジュマシは仲良くなるだろうか。
と、そんな心配している状況でもないのだが。
・・・
「・・・ゃーん、もしもーし」
コンコン!
誰かが声をかけながら頭を叩いてくるのを感じる。
ゆっくり目を開けると、見覚えのある顔が。
「サーカさん?」
やれやれといった感じでサーカさんが声をかけてくる。
「サーカさん?やないで。こんなおっとこ前なん、ほかにおらんやろ」
このノリはやっぱりサーカさんだ。
状況が理解できていないので困惑した顔をしていると
「しっかし、よくもまぁこないなところで、よぉ寝てられるなぁ」
周りを見渡すと、壊れた看板が見える。
洞窟と街への分岐点だ。
「とりあえず依頼は完了っと。ほな、メムロちゃん帰るで~。歩けるか~?」
そういうと、サーカさんはタスト村の方へ向って歩き出した。
言われるがまま、僕はサーカさんの後についていった。
続々・メムロの章へつづく
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