伝説の勇者(仮)の道具屋ライフ

蒼井 くじら

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真紅の食事会2

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アメリアはそんなヴァルは怪訝そうな顔で見つめてくる。

「なぜすぐに答えない? 勇者として旅立つことは、ヴァルにとって小さい頃からの夢だったじゃないか。もうそんな夢はどうでもいいと言うのか?」
「ち、違う! そんなこと思ってない! 今だって、冒険に出たいって気持ちはちゃんと持ってる。でも……」
「でも?」
「……よく分からないんだ。お前にキツく当たった時は、もう冒険に出たくて出たくて仕方なかったよ。この街でくすぶっている自分が嫌いでどうしようもなかった。だけど、そんな俺でも、この街で必要としてくれる人がいて、誰かのためにできることがあって……そういうのが道具屋やってるうちに少しずつ見えてきたんだ。だから――」
「だから、夢を諦める!? ヴァルは本当にそれでいいのか!!」
 
 ヴァルの言葉を遮るように、アメリアが大きな声で叫んだ。
 そのせいで、周りの客たちの視線がヴァルたちに注がれる。
 はっとなったアメリアは、申し訳なさそうに身を縮めた。

「す、すまない。大声を出してしまって……」
「あ、いや。それはいいんだけど、どうしてお前がそんなにムキになるんだ? 別に俺が冒険に出ても出なくても、お前はもう十分に勇者としての地位を確立しているじゃないか」
 
 ヴァルが尋ねると、アメリアはひどく気まずい顔で視線を外した。
 露わになった彼女の肩が、少しだけ震えている。

「なあ、ヴァル」
 
 アメリアは小さく息を吐くと、真っ直ぐヴァルを見つめてきた。

「お前は覚えているかな? 私に紋章が現れた時のことを」
「紋章が現れた時のこと?」
 
 アメリアに紋章が現れたのは、ヴァルとほぼ同時期だったはずだ。

「私は自分に紋章が現れたことが嫌で仕方なかった。弱虫の私が、勇者としてラビリンスに潜り魔物と戦えるなんて思っていなかったからな。魔物に殺される自分を想像すると、恐怖で身体の震えが止まらなかったよ」
 
 アメリアはどこか自嘲するように語る。

「だから、私は自分に紋章が現れたことをしばらく誰にも言えなかった。ふふ、情けない話だろ? 実は、ヴァルよりも結構前に私は紋章を授かっていたんだ。ヴァルはきっともう覚えていないだろうけど、私が初めて自分の紋章を見せた相手はお前なんだよ」
「えっ、俺!?」
 
 ヴァルは驚く。アメリアが紋章を見せてくれた時のことは覚えている。確かに、あの頃のアメリアは、いつにも増して元気がなかった。元より大人しくてヴァルやリズの後ろに隠れているような奴だったので、そこまで気にしてはいなかったのだが、そんな悩みを抱えていたなんて全然知らなかった。

「あの頃、ヴァルは紋章が現れたことで大はしゃぎしていたな。私は不思議だった。その紋章のせいで辛い冒険の旅に出なくてはならないのに、どうしてそんなに楽しそうなのか、と」
「ま、まあ、俺はそんな難しく考えてなかったからな。単純にワクワクしてただけっつうか、大きな夢を持てて嬉しかっただけっつうかさ。こういうところ、リズに言わせたらバカってことになるんだろうけど」
「ふふ、あの頃のお前も今と似たようなことを言っていたよ。子供だったから、もっと下手くそな言葉だったけどな。でも、未来のことを語るヴァルの目は、キラキラ輝いていた。その目を見た時に初めて、冒険に出ることは恐いことじゃないのかもって思えたんだ」
 
 アメリアは微笑みながら、少し照れくさそうに話しを続ける。

「そう思えたから、私はヴァルに自分に現れた紋章を見せた。その時、お前が言ってくれたことは今でも覚えているし、私の礎になっている。ヴァルは私の紋章を見て『それじゃあ、いつかアメリアと二人でこの世界を飛び回れるな』って嬉しそうに言ってくれた。私はその光景を思い浮かべて心弾んだよ。ヴァルと二人で、この世界を隅々まで見て回る。ヴァルが私に見せてくれたんだ、夢を」
 
 アメリアの言葉を聞いて、ヴァルの中で最近息を潜めていた気持ちが肥大化していく。
 冒険に出たい……いや、夢を叶えたいという思い。

「私に夢を与えてくれたのは、ヴァルだ。そして、私は今でもお前と二人でその夢を叶える日が来ることを信じている。いや、正直に言うと、私はその夢が叶わなくてもいいんだ。ヴァルと二人で夢を追う。その果てでこの命が尽きるなら、それは私の本望だ。私は……ヴァルと二人で夢を追いかけたい」
「アメリア……」
 
 ヴァルの心が大きく揺れる。
 アメリアに夢を見せたのはヴァルだ。
 それなのに、彼女だけに夢を追わせ、自分は安寧とした生活を送る。
 それは、とても無責任なことに思えた。
 ヴァルが幼い頃から見続けてきた夢。その夢を叶えたいという思い。いや、たとえ叶わなかったとしても、今アメリアが語ったように、その途中で力尽きるならそれはそれで恰好良い生き方だと思う。アメリアのような子と死ねるなら、男としては最高の死に方だろう。
 けれど、どうしてもそこでリズの悲しそうな顔が浮かぶ。ヴァルが「勇者として冒険に出ることは使命だ」と語った時に見せた、ひどく寂しそうな顔だ。今のヴァルは、勇者として旅立つ生き方しか知らなかったヴァルではない。この生まれ育った街で、街の人々とふれあいながら生きる道も知っている。今までは、そんな生き方は自分の生き方ではないと思っていた。でも、人の温もりを知った今、そんな生き方も悪くないと思う。
 二つの思いが、二人の顔が、ヴァルの頭を幾度となくよぎる。
 心の天秤がどちらにも傾かず、答えが決まらない。
 言葉が出てこず、アメリアとの間に重苦しい沈黙が鎮座する。
 その時、だった――。


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