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真紅の食事会1
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レストランに向かう途中、すれ違う人々はみなアメリアの方を振り返った。それだけ、彼女が魅力的に映るのだろう。隣を歩いているヴァルも、彼女を盗み見てドギマギしてしまうほどなのだ。
レストランに着いたヴァルたちは、ウェイターに案内されテーブルにつく。店内はとてもくつろげる環境で、運ばれてきた料理はどれも美味しかった。
けれど、ヴァルはどこか気まずい雰囲気を感じてしまう。
そんな空気を感じ取ったのか、正面に座っていたアメリアが、
「どうかしたのか、ヴァル? ずっと落ち着かない様子だが?」
と、少し心配そうに尋ねてきた。
「あ、いや、そんなことはねえよ」
「私に至らないところがあるなら遠慮なく言ってくれ。正直、ずっとラビリンスで魔物たちと戦ってばかりだったから、こういう場面での女性らしい振る舞い方が分からないんだ。それに、ここへ来る前から、たくさんの人が私のことをジロジロ見てきたし、もし私のせいでヴァルが不快な思いをしているなら申し訳ない」
「そんなんじゃねえよ。それに、お前が注目を集めるのは、単純に綺麗だからだろ。むしろ、そんなお前の隣が俺なんかで、こっちの方が申し訳なくなるくらいだ」
「なっ……」
カランと音を立てて、アメリアの手からナイフが零れ落ちた。
ウェイターがすぐさま替えのナイフを持ってくる。
「へ、変なことを言わないでくれ、ヴァル。お前は、そんな見え透いたお世辞を言う奴じゃなかっただろ?」
「お世辞じゃねえよ。つか、俺が落ち着かないのもそのせいだ。ほんと、お前はどんどん変わっていくよな」
ヴァルが言うと、アメリアは悲しそうな顔を見せた。
「変わらない……変わらないさ。背が伸びても、肩書や成果を得ても、私の心は何も変わらない。ずっとヴァルとこの街を駆け回っていた頃のままなんだ。だから、私に壁を作らないでくれ……」
それはアメリアの心からの願いのように感じられた。
彼女の言う通り、勝手に壁を作っていたのはヴァルだ。ずっと先――彼女はもう霞んで見えない存在なのだと。それが、どれだけ彼女を傷つけるかも分からずに。
そして、ヴァルは、その壁を取り払おうと近づいてきてくれた彼女を払いのけた。今なら、自分がどれだけ酷いことをしたのか理解できる。
だから、素直に自分の気持ちを伝えて謝ろうと思った。それがどれだけ恰好の悪いことでも。
「あのさ、アメリア……この間は本当にごめん!」
ヴァルは深々と頭を下げる。
「な、なぜヴァルが謝る……?」
「恥ずかしいけど、俺ずっとお前に嫉妬してた。俺がなりたかったものに、お前がなっちまってたから。いつかは俺もって思ってたけど、その道も閉ざされて、お前のことが妬ましくて仕方なかったんだ。そのストレスを俺はお前にぶつけちまった。ほんとに、ごめん」
「ヴァル……」
自分の醜い部分を晒すのは恐い。自分の弱さを認めるには、勇気が要る。それでも、そうしなければ前に進めない場合もある。
人を救うということは、そうした自分の弱さを乗り越えていく過程の一つなのだろう。今のヴァルにはそう思える。
「だからさ、これでもう、この間のことはチャラにしようぜ。俺もお前といつまでもギクシャクした関係でいたくないしさ」
「そうだな。私もヴァルとは仲良くしていたい」
「だろ。じゃあ、この話はこれで終わりな。せっかく美味しい料理も目の前にあるんだし、何か楽しい話でもしようぜ」
ヴァルはフォークとナイフを動かしながら、アメリアに提案する。
「楽しい話か……。そういうことなら、その……楽しいかどうかは分からないが、ヴァルに一つ訊きたいことがあるのだが」
「訊きたいこと?」
「ああ、その……ちょっと訊きづらいのだが、ヴァルはリズと付き合っているのか?」
口に運んでいたフォークがぴたりと止まる。質問の意味が分からず……否、分かってはいたが、思考が一瞬フリーズしてしまう。
「す、すまない! いきなりこんなことを訊いてもヴァルが困るなよな。でも、ロイドさんからそういうことを聞かされて……」
「ロイドから?」
「ああ。それで『うかうかしていたらダメだ』と発破をかけられてこの服を……って、い、今の話は忘れてくれ! べ、別にヴァルの気を引きたくてこういう恰好をしているわけでは……」
髪と同じく顔を真っ赤にしてアメリアは俯く。
頭のてっぺんから湯気が出そうになっていた。
それにしても、ロイドは一体どういうつもりなのだろうか。まあ、奴の性格を考えれば煽って楽しんでいるだけという気もするのだが。
「あ~、別にリズと付き合っているわけじゃねえよ。まあ、同じ街に住んでいるし、なんだかんだで毎日顔を合わせちゃいるんだけどさ」
「毎日……」
「毎日っつっても、リズが買い出しでウチの道具屋に寄ってくだけだぜ。その度に、高確率で殴られてんだけどさ。この前なんて――」
ヴァルは、最近あった出来事をアメリアに話す。面白おかしく話したはずだったが、なぜかアメリアに笑顔が浮かぶことはなかった。
「そうか、ヴァルはリズと仲良くやってるんだな……」
「まあ、あれを仲良くって言っていいのかちょっと疑問だけどな」
「……でも、ヴァルはいつか勇者としてこの街を旅立つのだろう?」
「えっ?」
おそらく以前までのヴァルなら「勿論!」と即答していたはずだ。
けれど、この街で道具屋をやって、たくさんの人とふれあい、そして想いに触れた今、すぐに答えを出すことはできなかった。
レストランに着いたヴァルたちは、ウェイターに案内されテーブルにつく。店内はとてもくつろげる環境で、運ばれてきた料理はどれも美味しかった。
けれど、ヴァルはどこか気まずい雰囲気を感じてしまう。
そんな空気を感じ取ったのか、正面に座っていたアメリアが、
「どうかしたのか、ヴァル? ずっと落ち着かない様子だが?」
と、少し心配そうに尋ねてきた。
「あ、いや、そんなことはねえよ」
「私に至らないところがあるなら遠慮なく言ってくれ。正直、ずっとラビリンスで魔物たちと戦ってばかりだったから、こういう場面での女性らしい振る舞い方が分からないんだ。それに、ここへ来る前から、たくさんの人が私のことをジロジロ見てきたし、もし私のせいでヴァルが不快な思いをしているなら申し訳ない」
「そんなんじゃねえよ。それに、お前が注目を集めるのは、単純に綺麗だからだろ。むしろ、そんなお前の隣が俺なんかで、こっちの方が申し訳なくなるくらいだ」
「なっ……」
カランと音を立てて、アメリアの手からナイフが零れ落ちた。
ウェイターがすぐさま替えのナイフを持ってくる。
「へ、変なことを言わないでくれ、ヴァル。お前は、そんな見え透いたお世辞を言う奴じゃなかっただろ?」
「お世辞じゃねえよ。つか、俺が落ち着かないのもそのせいだ。ほんと、お前はどんどん変わっていくよな」
ヴァルが言うと、アメリアは悲しそうな顔を見せた。
「変わらない……変わらないさ。背が伸びても、肩書や成果を得ても、私の心は何も変わらない。ずっとヴァルとこの街を駆け回っていた頃のままなんだ。だから、私に壁を作らないでくれ……」
それはアメリアの心からの願いのように感じられた。
彼女の言う通り、勝手に壁を作っていたのはヴァルだ。ずっと先――彼女はもう霞んで見えない存在なのだと。それが、どれだけ彼女を傷つけるかも分からずに。
そして、ヴァルは、その壁を取り払おうと近づいてきてくれた彼女を払いのけた。今なら、自分がどれだけ酷いことをしたのか理解できる。
だから、素直に自分の気持ちを伝えて謝ろうと思った。それがどれだけ恰好の悪いことでも。
「あのさ、アメリア……この間は本当にごめん!」
ヴァルは深々と頭を下げる。
「な、なぜヴァルが謝る……?」
「恥ずかしいけど、俺ずっとお前に嫉妬してた。俺がなりたかったものに、お前がなっちまってたから。いつかは俺もって思ってたけど、その道も閉ざされて、お前のことが妬ましくて仕方なかったんだ。そのストレスを俺はお前にぶつけちまった。ほんとに、ごめん」
「ヴァル……」
自分の醜い部分を晒すのは恐い。自分の弱さを認めるには、勇気が要る。それでも、そうしなければ前に進めない場合もある。
人を救うということは、そうした自分の弱さを乗り越えていく過程の一つなのだろう。今のヴァルにはそう思える。
「だからさ、これでもう、この間のことはチャラにしようぜ。俺もお前といつまでもギクシャクした関係でいたくないしさ」
「そうだな。私もヴァルとは仲良くしていたい」
「だろ。じゃあ、この話はこれで終わりな。せっかく美味しい料理も目の前にあるんだし、何か楽しい話でもしようぜ」
ヴァルはフォークとナイフを動かしながら、アメリアに提案する。
「楽しい話か……。そういうことなら、その……楽しいかどうかは分からないが、ヴァルに一つ訊きたいことがあるのだが」
「訊きたいこと?」
「ああ、その……ちょっと訊きづらいのだが、ヴァルはリズと付き合っているのか?」
口に運んでいたフォークがぴたりと止まる。質問の意味が分からず……否、分かってはいたが、思考が一瞬フリーズしてしまう。
「す、すまない! いきなりこんなことを訊いてもヴァルが困るなよな。でも、ロイドさんからそういうことを聞かされて……」
「ロイドから?」
「ああ。それで『うかうかしていたらダメだ』と発破をかけられてこの服を……って、い、今の話は忘れてくれ! べ、別にヴァルの気を引きたくてこういう恰好をしているわけでは……」
髪と同じく顔を真っ赤にしてアメリアは俯く。
頭のてっぺんから湯気が出そうになっていた。
それにしても、ロイドは一体どういうつもりなのだろうか。まあ、奴の性格を考えれば煽って楽しんでいるだけという気もするのだが。
「あ~、別にリズと付き合っているわけじゃねえよ。まあ、同じ街に住んでいるし、なんだかんだで毎日顔を合わせちゃいるんだけどさ」
「毎日……」
「毎日っつっても、リズが買い出しでウチの道具屋に寄ってくだけだぜ。その度に、高確率で殴られてんだけどさ。この前なんて――」
ヴァルは、最近あった出来事をアメリアに話す。面白おかしく話したはずだったが、なぜかアメリアに笑顔が浮かぶことはなかった。
「そうか、ヴァルはリズと仲良くやってるんだな……」
「まあ、あれを仲良くって言っていいのかちょっと疑問だけどな」
「……でも、ヴァルはいつか勇者としてこの街を旅立つのだろう?」
「えっ?」
おそらく以前までのヴァルなら「勿論!」と即答していたはずだ。
けれど、この街で道具屋をやって、たくさんの人とふれあい、そして想いに触れた今、すぐに答えを出すことはできなかった。
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