伝説の勇者(仮)の道具屋ライフ

蒼井 くじら

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長い夜の終わり

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「茶番は済んだか? 終わったのならさっさと消えろ」
 
 ゴミを見るような目でヴァルを見下ろしながら、ミルザは剣を仕舞う。どうやら完全になめられているようだ。まあ、仕方ないのだが。
 だが、ヴァルに引く気はない。
 再びミルザに相対し、剣を構えた。

「もうやめておけ。お前では俺に勝てん」
 
 ミルザは肩をすくめ、剣を抜く気配はない。

「前にも言っただろ。勝てる、勝てないで戦うか否かを決める勇者はいねえ。それにな、あんたが言ったことは一つ間違ってんだよ」
「なに?」
「確かに、俺には力がない。勇者としての経験もない。だけどな、信念がないわけじゃない」
 
 アメリアは言っていた。「自分一人では何もできない」「自分は何も変わっていない」と。それでも彼女は多くの人に慕われる立派な勇者だ。力のある者だけが、結果を残した者だけが、勇者となれるわけではない。ロイドが言っていたヴァルに足りないもの。今なら、それが分かる。

「思い通りにならないことはたくさんある。不満に思うことも、はらわたが煮えくり返るほど腹立たしいことも、悔しくて涙が零れることもな。でもな、そんな感情を誰かを傷つけることで晴らそうなんて思っちゃいねえ。どんな逆境でも決して俯かずに道を切り開いていく勇気を持った者が勇者だ! 自分のためじゃない。誰かを守るために剣を振るうのが、本物の勇者だ!」

「小僧……」
「剣を抜けよ、ミルザ! 今度こそ、憎しみに染まったお前の剣を折ってやる!」
「そうか……」
 
 ヴァルが声高らかに宣言すると、ミルザはほんの僅かだが頬を緩めた。その目は、どこか懐かしいものを見るようでもある。

「……ふっ、青二才が。ならばやってみろ! お前がいかに甘い戯言をほざいているか、思い知らせてやる」
 
 ミルザは再び剣を抜き、その切っ先をヴァルに向けた。どこか楽しそうに。
 勝負は一撃。
 ヴァルはそう直感した。

「いくぞ! はああああああああああああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 
 ヴァルは振りかぶった剣を振る。
 ヴァルに託してくれた全ての人の想いを乗せて。
 そして「大好きなこの街な人たちを守りたい」という強い意志を乗せて。

(俺は一人で戦っているわけじゃない! 一人で生きているわけじゃない! たとえ他の全てで劣っていたとしても、たくさんの人の想いが俺を強くしてくれる!)
 
 二つの金属が交わり、激しい火花が生じる。
 手に伝わってくる凄まじい衝撃。
 直後、一本の剣が宙を舞った。
 ミルザの唇が僅かに吊り上がる。

「……ふっ、ふふふ、なるほど……見事だ」
 
 カランと音を立てて地面に転がったのは、ミルザの剣だった。

「まさか、俺が負けるとはな……」
 
 ミルザは観念したように一つ大きく息を吐く。
 だが、ヴァルには分かっていた。

「ふ、ふざけんな! なぜ、わざと負けた?」
「わざと? 意味が分からんな。俺は全力でお前を倒しにいった。俺よりもお前の方が強かったというだけの話だ」
「あんたが本気を出せば、俺なんか足元にも及ばないことくらい分かってる! 返答次第じゃ、もう一回剣を握らせるぞ!」
「俺の憎しみよりも、お前が背負っている想いの方が強かった。それだけだ。だが……」
 
 ミルザは、どこかすっきりした顔でヴァルを見据えてきた。

「お前を見ていると、少しだけ昔の自分を思い出した。ただ、世界に夢と希望を抱き、未来しか見ていなかった頃の自分を。俺は……誰かに止めてもらいたかったのかもしれない。この憎悪に塗れた心を」
 
 そう言って、ミルザは背を向ける。

「どこへ行く?」
「俺は自分のやったことが間違っているとは思っていない。故に、ここで捕らえられ、罪を償うつもりもない。だが、負けは負けだ。下の連中とともにこの街を出ていく」
「……それからはどうするつもりだ?」
「さあな。俺はもう勇者にはなれん。だが、今のお前を見ていると、違う道も見つけられそうな気がした。それを探しに行くさ」
 
 正直、これだけのことをしておいて、ただで帰して良いものか悩んだ。ミルザの技量なら命を奪われた者はいないだろうが、彼に傷つけられた者はたくさんいる。
 ヴァルは王様の方を見る。
 すると、王様はいつになく真剣な顔で小さく頷いた。その目には、自分の子供を見るような慈しみが浮かんでいる。ヴァルは、初めて王様の王様らしいところを見た気がした。

「そうか……。剣はいらないのか?」
 
 ミルザの剣は、まだ地面に転がったままだ。

「言ったはずだ。俺はもう勇者にはなれんと。そんな俺にはもう必要ない。だから、お前にくれてやろう。俺を止めてくれたお前に対する感謝だ」
 
 それだけ言い残して、ミルザは玉座を出ていった。
 彼はこれから剣を持たない道を探すのだろう。
 こうして、ヴァルの人生で最も長い夜は終わった。


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