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乃恵の誘惑1
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光が酔い潰れてしまったため、宗介たちは桜荘に戻らず、今晩は佐々村家に泊めてもらうことになった。
宗介たちにあてがわれた客間は広々としていて快適。また、田舎らしく外から聞こえてくるのは虫の声だけ。とても静かで穏やかな夜。ただ一点を除けば……。
(コイツさえいなきゃ田舎の静けさも悪くないって思えただろうに……)
そう思いながら、宗介は布団に横になっている光に視線を向けた。
現在、彼女は頭に手を置き「う~ん、う~ん……」と唸っている。せっかくの静かな夜が、彼女の唸り声のせいで台無し。そして何より、自分より年上の女が酔い潰れている姿を見ると、なんとも侘しい気持ちにさせられた。
(やれやれ……年上の威厳なんて微塵も感じられねえな……)
宗介は深い溜息を吐く。
それと同時に襖の奥から、
「黒宮様、お風呂の準備ができました」
という乃恵の声が聞こえてきた。
「ああ、分かった」
宗介は彼女に案内されて風呂場へと向かう。
「おお!」
浴室に入った宗介は、思わず感嘆の声を漏らした。広々とした空間に、存分に足を伸ばせる檜の浴槽。自宅の狭い風呂とは雲泥の差だ。
宗介は早速身体を洗い、湯船に浸かる。
「くぅ……」
程良い熱さのお湯が身体に染み、自然と声が漏れてしまう。柑橘系の香りも心地良く、長旅で疲れた身には至高の癒しだった。
「黒宮様、お湯加減はいかがでしょうか?」
宗介が至福の時間を満喫していると、脱衣場の方から乃恵の声が聞こえてきた。
「ああ、ちょうどいいぜ」
「左様ですか……では、お背中をお流ししますので失礼させて頂きます」
「えっ!?」
返事をする間もなく、ガラガラと扉が開く。
全く予想していなかった展開に宗介は大いに戸惑う。
だが、浴室に入ってきた乃恵を見て、更に言葉を失ってしまった。
乃恵が身に付けていたのは、バスタオル一枚だけ。胸は隠れていたが、白い肌と華奢な四肢は完全に露わになっていた。
「な、なにやってんだよ!? お前……」
流石にそんな姿の乃恵を直視することができず、宗介は彼女から視線を切る。
「す、すみません……。ご、ご迷惑だったでしょうか?」
「い、いや、別に迷惑ってわけじゃないけど……。でも、その格好はいくら何でもおかしいだろ」
百歩譲って背中を流すのはアリだとしても、着衣のままで十分なはずだ。バスタオル一枚という格好は、いくらなんでも非常識である。
宗介はちらりと乃恵を盗み見る。すると、彼女は顔を真っ赤にしながら俯いていた。自分から浴室に入ってきたのに、乃恵自身も今の状況にかなり動揺してしまっている様子。宗介には彼女が何を考えているのか、さっぱり分からなかった。
「ど、どういうつもりだよ? なんか変だぞ、お前。こういうことするキャラじゃないだろ?」
「あ、あの……、じ、実は……その、涼子様に黒宮様を『丁重におもてなししろ』と言われておりまして……」
宗介が尋ねると、乃恵は言葉を詰まらせながら説明した。
それを聞いて、宗介は「ああ、そういうことか……」と得心する。
つまり、乃恵がこんな格好で風呂に入ってきたのは、涼子の差し金というわけだ。夕食での変貌ぶりといい、よほど宗介のことを逃したくないらしい。
「まったく……。心配すんなって。変な気遣いをしなくても、放っぽりだして途中で帰ったりしねえから。涼子さんには、そう伝えておけよ」
そう言って、宗介は右手で「出ていって構わない」と合図を送る。
しかし、一向に乃恵が浴室を出ていく気配はなかった。
宗介たちにあてがわれた客間は広々としていて快適。また、田舎らしく外から聞こえてくるのは虫の声だけ。とても静かで穏やかな夜。ただ一点を除けば……。
(コイツさえいなきゃ田舎の静けさも悪くないって思えただろうに……)
そう思いながら、宗介は布団に横になっている光に視線を向けた。
現在、彼女は頭に手を置き「う~ん、う~ん……」と唸っている。せっかくの静かな夜が、彼女の唸り声のせいで台無し。そして何より、自分より年上の女が酔い潰れている姿を見ると、なんとも侘しい気持ちにさせられた。
(やれやれ……年上の威厳なんて微塵も感じられねえな……)
宗介は深い溜息を吐く。
それと同時に襖の奥から、
「黒宮様、お風呂の準備ができました」
という乃恵の声が聞こえてきた。
「ああ、分かった」
宗介は彼女に案内されて風呂場へと向かう。
「おお!」
浴室に入った宗介は、思わず感嘆の声を漏らした。広々とした空間に、存分に足を伸ばせる檜の浴槽。自宅の狭い風呂とは雲泥の差だ。
宗介は早速身体を洗い、湯船に浸かる。
「くぅ……」
程良い熱さのお湯が身体に染み、自然と声が漏れてしまう。柑橘系の香りも心地良く、長旅で疲れた身には至高の癒しだった。
「黒宮様、お湯加減はいかがでしょうか?」
宗介が至福の時間を満喫していると、脱衣場の方から乃恵の声が聞こえてきた。
「ああ、ちょうどいいぜ」
「左様ですか……では、お背中をお流ししますので失礼させて頂きます」
「えっ!?」
返事をする間もなく、ガラガラと扉が開く。
全く予想していなかった展開に宗介は大いに戸惑う。
だが、浴室に入ってきた乃恵を見て、更に言葉を失ってしまった。
乃恵が身に付けていたのは、バスタオル一枚だけ。胸は隠れていたが、白い肌と華奢な四肢は完全に露わになっていた。
「な、なにやってんだよ!? お前……」
流石にそんな姿の乃恵を直視することができず、宗介は彼女から視線を切る。
「す、すみません……。ご、ご迷惑だったでしょうか?」
「い、いや、別に迷惑ってわけじゃないけど……。でも、その格好はいくら何でもおかしいだろ」
百歩譲って背中を流すのはアリだとしても、着衣のままで十分なはずだ。バスタオル一枚という格好は、いくらなんでも非常識である。
宗介はちらりと乃恵を盗み見る。すると、彼女は顔を真っ赤にしながら俯いていた。自分から浴室に入ってきたのに、乃恵自身も今の状況にかなり動揺してしまっている様子。宗介には彼女が何を考えているのか、さっぱり分からなかった。
「ど、どういうつもりだよ? なんか変だぞ、お前。こういうことするキャラじゃないだろ?」
「あ、あの……、じ、実は……その、涼子様に黒宮様を『丁重におもてなししろ』と言われておりまして……」
宗介が尋ねると、乃恵は言葉を詰まらせながら説明した。
それを聞いて、宗介は「ああ、そういうことか……」と得心する。
つまり、乃恵がこんな格好で風呂に入ってきたのは、涼子の差し金というわけだ。夕食での変貌ぶりといい、よほど宗介のことを逃したくないらしい。
「まったく……。心配すんなって。変な気遣いをしなくても、放っぽりだして途中で帰ったりしねえから。涼子さんには、そう伝えておけよ」
そう言って、宗介は右手で「出ていって構わない」と合図を送る。
しかし、一向に乃恵が浴室を出ていく気配はなかった。
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