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第1章エピローグ
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あの後、他の箇所での戦闘が終わったのか、援軍が駆けつけた。
倒れ伏す大量の術師団員、そして綺麗に分断されたデーモンの姿という、はっきりといって異常な光景に、援軍は驚きを見せる。
しかし、現在もう脅威は去っているという事を確認すると、援軍はすぐに動き出し、負傷者の救護に取り掛かった。
負傷者が回復の魔法を受けたり、街へと運ばれている間、ルティアはと言うと、街へと向かう馬車に揺られていた。
ある程度ダメージが回復したのか、簡易な椅子に腰を下ろし、前方で横たわる1人の少年──ルトの姿をぼーっと眺めている。
何故この2人が同じ馬車になったのかと言うと、近くに居たというのが1つの理由だ。
2つ目の理由としては、ルトが他の人間に比べ圧倒的に傷が少なく、ルティアに関しても意識を保てる程度にはダメージが少なかったというのもあり、後回しにされたというのが挙げられる。
また、ルティアに関しては回復を受けていた時に、事情を聞かれたというのもある。
その際にルティアがルトの名前を出した事もあり、同じ馬車の方が都合が良いのではないかと判断されたのだ。
ルトが目を覚ましていないのに、事細かに状況を伝えるのは如何なものかとルティアは考えた。
しかし、もしも今後ルトに何かあった時に、ルティア1人ではどうにも出来ないのは事実であり、その際には国の力を借りる可能性がある。
ならば、先に情報を伝えていた方が、もしもの時の対処が早急に行えるのではないか。
そう判断をし、やむを得ず、ルトの情報を伝えたのだ。
とは言え、ルティアがわかっていることも少なく、どうにも曖昧にしか説明できなかった為、何かしらルトに実害が加わる事も恐らくない筈である。
と、そんなこんなでルティアを乗せた馬車は街へと到着した。
街の状況は中々に悲惨であった。
魔物の侵攻を受けたのか、所々破壊された家々に、至る所に見られる魔物の死骸。
ある魔物は焼かれ、ある魔物は裂かれ、そしてある魔物はまるで何者かに喰われたように無残な姿で転がっていた。
「酷いでしょ。ただ、これでも奇跡的に死者は0人なんだよ」
同乗していた、というよりも馬車を動かしていた術師団員がルティアに向けて口を開く。
どうやら話を聞くに、あの時アロンの報告を受け、早急に街の中心部への避難を開始したらしい。
また同時に、キングの姿が確認された4箇所へ戦闘能力の高いものを分散して向かわせたようである。
当時、最高戦力である協会の人間のうち、街に居たのは4名で、最も討伐難易度の高い箇所へ2名、次いで高い2箇所へそれぞれ1名ずつ送られた。
最も討伐難易度の低いと思われていたルティア達の元へは、アリアが送られる事となった。
デーモンの登場により、結果として、ルティアの居た場所が最高難易度となってしまったのだが。
因みに術師協会会長については、国王と共に隣国を訪問中で不在であった。
その際に、警護として協会のメンバー4人も同行した事もあり、市全体の戦力は格段に低下していた。
今回の侵略が誰によって起こされたかは未だ判明していない。しかし、戦力が低下している時を狙い、侵攻してきたのは明らかである。
つまり計画的な犯行──
と、そんなこんなで、現在負傷者が集められている街一番の宿へと到着した。
到着してすぐに、ルティアの耳に聞き慣れた声が届く。
「お、ルティアちゃん!」
「アロンさん! 目を覚まされたんですね!」
ルティアは、アロンの方へと駆け寄ると嬉しげに声を上げる。
未だ所々に傷は見られるものの、その快活な様子は健在であったようで、アロンはニッと笑った。
「ついさっきな。ルティアちゃんもとりあえず動けるようで安心したよ。……で、ルトは──」
「ルトさんは……まだ意識を失ったままですわ」
「……そっか。別に重傷とかではないんだよな?」
「……その筈ですわ。見たところ、これといった傷もありませんし。ただ──」
ルティアにとって気になるのは……やはりあの異質な姿。
アロンも、多少は話を聞いていたのだろう。何とも言えない表情を浮かべると、
「──ああ、ルトが纏術を使ったっていうあれか。……どういう事なんだろうな」
「わかりませんわ。ただ何であれ、目を覚ましたルトさんを温かく迎える。そこに変わりはありません」
「だな。俺たちがついてないと、ルトはダメだからな」
言って、悪戯っぽく笑う。そして一拍開け、再びアロンが口を開いた。
「さて、んじゃ俺はとりあえず避難した親の様子を見に行くわ」
「わかりました。私は、もう少しルトさんの様子を見ておきますわ」
「了解! 」
と簡単な挨拶をした後、アロンは学園のある方へと走って行った。
「さて……」
1人残されたルティアは、うんと頷くと、とある一室へと移動する。
1人用の部屋なのだろう、こじんまりとした内観。しかしその部屋を狭く感じさせる要因は恐らく部屋の半分を占める簡易ベッドであろう。
そんなベッドの上に、1人の少年が眠っていた。灰色の髪を有し、どこか優しげな雰囲気の漂うその少年は、先程まで会話の対象となっていたルトであった。
ルティアは部屋へと入ると、ゆったりとした動作でベッドへと寄る。そして、近くに置かれた簡易な椅子へと腰を下ろすと、
「……早く目を覚ましてくださいね、ルトさん」
言って、どこか優しげな笑みを浮かべる。
ルトが目を覚ましたのは、それから2日後のことであった。
◇
ルトが目を覚ます前日。街の人間にとある新聞が配られた。
緊急時に配られる新聞。その内容の殆どが、当然ではあるが、あの魔物の侵攻の事であった。
そんな中で、魔物の情報をさし置き、一面を飾った人物が居る。──術師協会会長、レイク・マドレンである。
内容は、同じく魔物の侵攻の事でありレイクの見解が、記者の質問とレイクの回答が会話形式で書かれている。
つらつらと書かれていた内容を纏めると、緊急時に自分が居なかった事と、恐怖を味あわせてしまった事へのお詫びから始まり、次いで、力合わせ街を守った者達への感謝。その後今回の不可解な点と、レイクの予想が記されていた。
予想としては、2つ挙げられていた。
まず1つに、何故あれ程大量の魔物の侵入を簡単に許してしまったのか。
……街を囲うように広がる草原をはじめとした低ランクの魔物地帯。その外側には、更に街や村が広がり、そこには多くの術師団が常駐、または放浪している。
その中には序列1位のエンプティをはじめとした上位の術師団も多く存在する。
あれだけの魔物が侵攻してきて、彼らが気づかない筈がない。
となると恐らく、ワープのような力で転送されたのだろう……と。
2つ目として、全ての魔物が操られていたことについて記されていた。
デーモンが操ったにしては、規模が大きく、また不可解な点が多い。
つまり、第三者干渉の可能性があるのではないかと。
どちらも予想の段階である。
しかし、今後警戒は怠らない。新聞はそんなレイクの強い意志で締められていた。
◇
気味が悪い程に暗く、じめりとした場所で、男は怒りを隠す様子もなく、ワナワナと震えていた。
「クソッ! まさかあそこで死神が現れるとはッ!」
作戦は完璧な筈だった。
しかしその全てを、あの死神を纏った少年によって、崩されてしまったのだ。
「これでは! これではいけない!」
焦り、怒りなど様々な負の感情を纏わせながら、男は声を上げる。
そして、グッと拳を握ると、
「次こそは……次こそはアル様の為にッ! アル様の悲願の為にッ!」
そう強く宣言をするのであった。
◇
ルトが目を覚ましてから4日後。
町の復旧と、帰宅の殆どが完了したという事で、学園の講義が再開となった。
というわけで再開初日の早朝。
ある程度体力の回復させたルトは、のんびりと学園に向かって歩いていた。
その道中、ルトはふと思い立った様に、小さく声を上げる。
「ハデス」
『どうした。我に何か用か』
すると、恐らくルトのみに聞こえているのだろう。頭の中で渋い男の声が響いた。
「やっぱり僕の中に居るのか」
『当然だ。契約をした以上、お主が死なぬ限り我はお主の元を離れる事はできない』
「そういうもんか」
『そういうものだ』
軽快なやりとりを交わす。ルトの中に、ハデスに対する畏怖の感情は見られない。
代わりに、ルトは多少の不安の混じった表情で一度口を噤むと、1つの懸念を口にした。
「……ねぇ、ハデス。今の僕はまだ僕のままなの?」
『そうだな。今のお主の精神のうち半分は侵食されている。しかしもう半分は元のままだ』
「つまり、まだ大丈夫なんだね」
『ふっ。現状ではな』
「…………」
今後次第というわけだ。
「となると、力についてはどうなるの?」
『現状のお主では、我を纏うことすらできぬ。せいぜい大鎌を顕現させ振るうことができるくらいか』
「それだけ僕とハデスの間に戦闘力の差があるってことか」
『戦闘力の差……それもある。しかし最大の理由は、我とお主が未だ馴染んでいない事にある』
「どういうこと?」
『……直にわかる。纏術というものを完全に理解できればな』
「教えてはくれないんだね」
『未だ人間の誰も理解はしていないんだ。自分で考える事だな』
「そっか」
ポツリと呟き、歩を進める。
すると、ハデスが言葉を続けた。
『……別に纏わずとも大鎌を顕現させれば、通常の5倍程度の身体能力の向上は見受けられる。それだけでも能力の持たなかった以前と比べれば大幅に戦闘力は上がる』
確かにそれだけでも大助かりだ。しかし、もしまた今後今回のような出来事があったら。
ルトはそれを考えると、質問を投げかける。
「纏とか能力を無理に使おうとはできないの?」
『出来なくはない……が、そんな事をすれば次こそ完全に精神が侵されるだろうな』
「……それは怖いや」
『──本当にそう思っておるか?』
「……そのつもりなんだけど、なんだろう。実際にはあまり恐怖を感じてないや」
『恐らく侵食により、我の思想の一部を本能が理解し、ものにしたのだろう。──死や恐怖についての我の思想をな』
「なるほど」
頷くルト。対しハデスはどこか独り言を呟くように声を上げる。
『全く、本当に運の良い男だ。まさかここまで自我を保ったまま居られるとは──いや』
一拍開け、
『それよりもあの女神の力を有する少女と知り合えている事が、最も幸運であると言えるだろうな』
言って、表情は見えないが、どこか笑みを浮かべているような様相で、
『──アテナめ。余計な事をしてくれる』
と口にする。しかし、その内容がよく理解できなかったルトは、小さく首を傾げた。
「…………? っと、ついたついた」
と、そうこうしているうちに、目的地であるアルデバード学園へと到着した。
ルトは時計へと目をやり、まだ講義開始まで余裕があることを確認すると、ゆったりとした動作で教室へと向かう。
……のだが、この日はいつもと周囲の様相が違っていた。
というのも、先程から道行く学生が、ルトが近くを通ろうとする度に、大きく避け道を開けてくれるのである。
何だか王にでもなった気分だ。
なんて、冗談混じりでそう思いながら原因を探る。
以前から話しかけてくる人間はまず居ないのだが、それでも避けらるような事はなかった。
つまり、ここ最近でルトに起きた何かにより、周囲の態度が変化した事になる。
と、そこまで考えてルトは理解した。
「……あぁ、僕が死神と契約した事、広まっちゃったのね」
言って、苦笑いを浮かべる。
出どころはわからない。もしかしたら単なる噂からこの様な反応を示しているのかもしれない。
だが、どちらにせよルトが死神と契約したという事実は周知のものとなってしまったようだ。
死神と言う名を聞いて、喜んで近寄ってくる人間は居ない。
それ程までに、死神という存在は、お伽話などで悪しき者として扱われてきたのだ。
しかし、そんな事はルトも承知済みであった。
いずれバレるし、バレれば同じような反応をされる。
ならば、早い方が、知り合いの殆ど居ない今の方がダメージは比較的少ないというものだ。
それに──
「ルト!」
「ルトさんー!」
ルトの元に2人の声が届く。それは聞き慣れた声で。
こんな力を持つ僕にも前と変わらず、いや前以上に親しく話してくれる友人がいるのだ。
それだけで十分ではないだろうか。
ルトはこちらへと駆け寄り、我先にと話題を振る特異な2人を目に収めながら、そう思いあいも変わらずアハハと小さく笑うのであった。
============================
これにて1章死を纏う霊者編完結です。
もし少しでも面白いと思って頂けたのであれば、お気に入り登録や感想等で応援して頂けると嬉しいです。
倒れ伏す大量の術師団員、そして綺麗に分断されたデーモンの姿という、はっきりといって異常な光景に、援軍は驚きを見せる。
しかし、現在もう脅威は去っているという事を確認すると、援軍はすぐに動き出し、負傷者の救護に取り掛かった。
負傷者が回復の魔法を受けたり、街へと運ばれている間、ルティアはと言うと、街へと向かう馬車に揺られていた。
ある程度ダメージが回復したのか、簡易な椅子に腰を下ろし、前方で横たわる1人の少年──ルトの姿をぼーっと眺めている。
何故この2人が同じ馬車になったのかと言うと、近くに居たというのが1つの理由だ。
2つ目の理由としては、ルトが他の人間に比べ圧倒的に傷が少なく、ルティアに関しても意識を保てる程度にはダメージが少なかったというのもあり、後回しにされたというのが挙げられる。
また、ルティアに関しては回復を受けていた時に、事情を聞かれたというのもある。
その際にルティアがルトの名前を出した事もあり、同じ馬車の方が都合が良いのではないかと判断されたのだ。
ルトが目を覚ましていないのに、事細かに状況を伝えるのは如何なものかとルティアは考えた。
しかし、もしも今後ルトに何かあった時に、ルティア1人ではどうにも出来ないのは事実であり、その際には国の力を借りる可能性がある。
ならば、先に情報を伝えていた方が、もしもの時の対処が早急に行えるのではないか。
そう判断をし、やむを得ず、ルトの情報を伝えたのだ。
とは言え、ルティアがわかっていることも少なく、どうにも曖昧にしか説明できなかった為、何かしらルトに実害が加わる事も恐らくない筈である。
と、そんなこんなでルティアを乗せた馬車は街へと到着した。
街の状況は中々に悲惨であった。
魔物の侵攻を受けたのか、所々破壊された家々に、至る所に見られる魔物の死骸。
ある魔物は焼かれ、ある魔物は裂かれ、そしてある魔物はまるで何者かに喰われたように無残な姿で転がっていた。
「酷いでしょ。ただ、これでも奇跡的に死者は0人なんだよ」
同乗していた、というよりも馬車を動かしていた術師団員がルティアに向けて口を開く。
どうやら話を聞くに、あの時アロンの報告を受け、早急に街の中心部への避難を開始したらしい。
また同時に、キングの姿が確認された4箇所へ戦闘能力の高いものを分散して向かわせたようである。
当時、最高戦力である協会の人間のうち、街に居たのは4名で、最も討伐難易度の高い箇所へ2名、次いで高い2箇所へそれぞれ1名ずつ送られた。
最も討伐難易度の低いと思われていたルティア達の元へは、アリアが送られる事となった。
デーモンの登場により、結果として、ルティアの居た場所が最高難易度となってしまったのだが。
因みに術師協会会長については、国王と共に隣国を訪問中で不在であった。
その際に、警護として協会のメンバー4人も同行した事もあり、市全体の戦力は格段に低下していた。
今回の侵略が誰によって起こされたかは未だ判明していない。しかし、戦力が低下している時を狙い、侵攻してきたのは明らかである。
つまり計画的な犯行──
と、そんなこんなで、現在負傷者が集められている街一番の宿へと到着した。
到着してすぐに、ルティアの耳に聞き慣れた声が届く。
「お、ルティアちゃん!」
「アロンさん! 目を覚まされたんですね!」
ルティアは、アロンの方へと駆け寄ると嬉しげに声を上げる。
未だ所々に傷は見られるものの、その快活な様子は健在であったようで、アロンはニッと笑った。
「ついさっきな。ルティアちゃんもとりあえず動けるようで安心したよ。……で、ルトは──」
「ルトさんは……まだ意識を失ったままですわ」
「……そっか。別に重傷とかではないんだよな?」
「……その筈ですわ。見たところ、これといった傷もありませんし。ただ──」
ルティアにとって気になるのは……やはりあの異質な姿。
アロンも、多少は話を聞いていたのだろう。何とも言えない表情を浮かべると、
「──ああ、ルトが纏術を使ったっていうあれか。……どういう事なんだろうな」
「わかりませんわ。ただ何であれ、目を覚ましたルトさんを温かく迎える。そこに変わりはありません」
「だな。俺たちがついてないと、ルトはダメだからな」
言って、悪戯っぽく笑う。そして一拍開け、再びアロンが口を開いた。
「さて、んじゃ俺はとりあえず避難した親の様子を見に行くわ」
「わかりました。私は、もう少しルトさんの様子を見ておきますわ」
「了解! 」
と簡単な挨拶をした後、アロンは学園のある方へと走って行った。
「さて……」
1人残されたルティアは、うんと頷くと、とある一室へと移動する。
1人用の部屋なのだろう、こじんまりとした内観。しかしその部屋を狭く感じさせる要因は恐らく部屋の半分を占める簡易ベッドであろう。
そんなベッドの上に、1人の少年が眠っていた。灰色の髪を有し、どこか優しげな雰囲気の漂うその少年は、先程まで会話の対象となっていたルトであった。
ルティアは部屋へと入ると、ゆったりとした動作でベッドへと寄る。そして、近くに置かれた簡易な椅子へと腰を下ろすと、
「……早く目を覚ましてくださいね、ルトさん」
言って、どこか優しげな笑みを浮かべる。
ルトが目を覚ましたのは、それから2日後のことであった。
◇
ルトが目を覚ます前日。街の人間にとある新聞が配られた。
緊急時に配られる新聞。その内容の殆どが、当然ではあるが、あの魔物の侵攻の事であった。
そんな中で、魔物の情報をさし置き、一面を飾った人物が居る。──術師協会会長、レイク・マドレンである。
内容は、同じく魔物の侵攻の事でありレイクの見解が、記者の質問とレイクの回答が会話形式で書かれている。
つらつらと書かれていた内容を纏めると、緊急時に自分が居なかった事と、恐怖を味あわせてしまった事へのお詫びから始まり、次いで、力合わせ街を守った者達への感謝。その後今回の不可解な点と、レイクの予想が記されていた。
予想としては、2つ挙げられていた。
まず1つに、何故あれ程大量の魔物の侵入を簡単に許してしまったのか。
……街を囲うように広がる草原をはじめとした低ランクの魔物地帯。その外側には、更に街や村が広がり、そこには多くの術師団が常駐、または放浪している。
その中には序列1位のエンプティをはじめとした上位の術師団も多く存在する。
あれだけの魔物が侵攻してきて、彼らが気づかない筈がない。
となると恐らく、ワープのような力で転送されたのだろう……と。
2つ目として、全ての魔物が操られていたことについて記されていた。
デーモンが操ったにしては、規模が大きく、また不可解な点が多い。
つまり、第三者干渉の可能性があるのではないかと。
どちらも予想の段階である。
しかし、今後警戒は怠らない。新聞はそんなレイクの強い意志で締められていた。
◇
気味が悪い程に暗く、じめりとした場所で、男は怒りを隠す様子もなく、ワナワナと震えていた。
「クソッ! まさかあそこで死神が現れるとはッ!」
作戦は完璧な筈だった。
しかしその全てを、あの死神を纏った少年によって、崩されてしまったのだ。
「これでは! これではいけない!」
焦り、怒りなど様々な負の感情を纏わせながら、男は声を上げる。
そして、グッと拳を握ると、
「次こそは……次こそはアル様の為にッ! アル様の悲願の為にッ!」
そう強く宣言をするのであった。
◇
ルトが目を覚ましてから4日後。
町の復旧と、帰宅の殆どが完了したという事で、学園の講義が再開となった。
というわけで再開初日の早朝。
ある程度体力の回復させたルトは、のんびりと学園に向かって歩いていた。
その道中、ルトはふと思い立った様に、小さく声を上げる。
「ハデス」
『どうした。我に何か用か』
すると、恐らくルトのみに聞こえているのだろう。頭の中で渋い男の声が響いた。
「やっぱり僕の中に居るのか」
『当然だ。契約をした以上、お主が死なぬ限り我はお主の元を離れる事はできない』
「そういうもんか」
『そういうものだ』
軽快なやりとりを交わす。ルトの中に、ハデスに対する畏怖の感情は見られない。
代わりに、ルトは多少の不安の混じった表情で一度口を噤むと、1つの懸念を口にした。
「……ねぇ、ハデス。今の僕はまだ僕のままなの?」
『そうだな。今のお主の精神のうち半分は侵食されている。しかしもう半分は元のままだ』
「つまり、まだ大丈夫なんだね」
『ふっ。現状ではな』
「…………」
今後次第というわけだ。
「となると、力についてはどうなるの?」
『現状のお主では、我を纏うことすらできぬ。せいぜい大鎌を顕現させ振るうことができるくらいか』
「それだけ僕とハデスの間に戦闘力の差があるってことか」
『戦闘力の差……それもある。しかし最大の理由は、我とお主が未だ馴染んでいない事にある』
「どういうこと?」
『……直にわかる。纏術というものを完全に理解できればな』
「教えてはくれないんだね」
『未だ人間の誰も理解はしていないんだ。自分で考える事だな』
「そっか」
ポツリと呟き、歩を進める。
すると、ハデスが言葉を続けた。
『……別に纏わずとも大鎌を顕現させれば、通常の5倍程度の身体能力の向上は見受けられる。それだけでも能力の持たなかった以前と比べれば大幅に戦闘力は上がる』
確かにそれだけでも大助かりだ。しかし、もしまた今後今回のような出来事があったら。
ルトはそれを考えると、質問を投げかける。
「纏とか能力を無理に使おうとはできないの?」
『出来なくはない……が、そんな事をすれば次こそ完全に精神が侵されるだろうな』
「……それは怖いや」
『──本当にそう思っておるか?』
「……そのつもりなんだけど、なんだろう。実際にはあまり恐怖を感じてないや」
『恐らく侵食により、我の思想の一部を本能が理解し、ものにしたのだろう。──死や恐怖についての我の思想をな』
「なるほど」
頷くルト。対しハデスはどこか独り言を呟くように声を上げる。
『全く、本当に運の良い男だ。まさかここまで自我を保ったまま居られるとは──いや』
一拍開け、
『それよりもあの女神の力を有する少女と知り合えている事が、最も幸運であると言えるだろうな』
言って、表情は見えないが、どこか笑みを浮かべているような様相で、
『──アテナめ。余計な事をしてくれる』
と口にする。しかし、その内容がよく理解できなかったルトは、小さく首を傾げた。
「…………? っと、ついたついた」
と、そうこうしているうちに、目的地であるアルデバード学園へと到着した。
ルトは時計へと目をやり、まだ講義開始まで余裕があることを確認すると、ゆったりとした動作で教室へと向かう。
……のだが、この日はいつもと周囲の様相が違っていた。
というのも、先程から道行く学生が、ルトが近くを通ろうとする度に、大きく避け道を開けてくれるのである。
何だか王にでもなった気分だ。
なんて、冗談混じりでそう思いながら原因を探る。
以前から話しかけてくる人間はまず居ないのだが、それでも避けらるような事はなかった。
つまり、ここ最近でルトに起きた何かにより、周囲の態度が変化した事になる。
と、そこまで考えてルトは理解した。
「……あぁ、僕が死神と契約した事、広まっちゃったのね」
言って、苦笑いを浮かべる。
出どころはわからない。もしかしたら単なる噂からこの様な反応を示しているのかもしれない。
だが、どちらにせよルトが死神と契約したという事実は周知のものとなってしまったようだ。
死神と言う名を聞いて、喜んで近寄ってくる人間は居ない。
それ程までに、死神という存在は、お伽話などで悪しき者として扱われてきたのだ。
しかし、そんな事はルトも承知済みであった。
いずれバレるし、バレれば同じような反応をされる。
ならば、早い方が、知り合いの殆ど居ない今の方がダメージは比較的少ないというものだ。
それに──
「ルト!」
「ルトさんー!」
ルトの元に2人の声が届く。それは聞き慣れた声で。
こんな力を持つ僕にも前と変わらず、いや前以上に親しく話してくれる友人がいるのだ。
それだけで十分ではないだろうか。
ルトはこちらへと駆け寄り、我先にと話題を振る特異な2人を目に収めながら、そう思いあいも変わらずアハハと小さく笑うのであった。
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これにて1章死を纏う霊者編完結です。
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サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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