突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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サイラスの決断

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 ロックフィールド公爵家は盤石、もはや何の憂いもないはずであったのに、当主サイラスの心は晴れない。

 嫡男アランがこの国の王太子と共に隣国に留学したのは16歳の時。本来なら3年で帰国の予定が王太子の都合で4年間をあちらで過ごすことになった。
 王太子には婚約者がいたが、隣国で事件に巻き込まれた結果、隣国の公爵令嬢と恋に落ちた。
 王太子一行が帰国後最初にした事が、ノイマン公爵令嬢との婚約解消だった。

 隣国のご令嬢はこちらの国で王妃教育を受け、周囲に根回しをして(それにはサイラスも協力を惜しまなかった)、帰国から3年後のこの春にめでたく婚姻の儀を執り行った。

 そのこと自体は目出度いのだ。キャサリン王太子妃はその美貌、才覚、人格ともに大層優れており、将来の王妃として申し分のない女性である。国民のほとんどが熱狂を持って妃を受け入れた。

 一方、14歳で婚約解消となってしまったアリッサ・ノイマン嬢は失意を怒りに変えて、年齢の釣り合う高位貴族子息に片っ端から婚約を申し込んだが、彼らには既に婚約者がいた。
 当然ロックフィールド家の嫡男アランにも申し込みをしたが、丁重に断わられた。
 全ての申込みを断られた事がより一層アリッサのプライドを傷つけた。



 隣国のエリザベス王女の王配にアランが望まれたのは、留学から帰国して直ぐのことだった。
 自国の有力貴族子息を差し置いてアランに白羽の矢がたったのは、王太子と王太子妃も関わったある事件のせいなのだが、その際に交流を得た王女とアランは、お互いを憎からず思うようになっていたのだ。
 2人の恋は概ね好意的に受け取られていたが、双方の王室と宰相を交えての話し合いで、我が国の王太子が結婚するまでは猶予期間を設ける事を決めた。

 アランは王族に近い血筋の上、優秀且つ美貌の持ち主であることから、隣国では王女との婚姻を待ち望む声が多かった。しかし宰相である父親サイラスは素直に喜べなかった。

 あまりにも両国が近くなりすぎる、というのが大きな理由だった。 

 外交的には近隣諸国と折り合いを取らねばならないのに、王太子妃と王配を二国間で済ませてしまうことで、周辺国間のパワーバランスが崩れることをサイラスは恐れた。しかし、そんなサイラスの思いとは関係なく、隣国との婚姻の話がどんどん進んでいた。

 そうなると次にサイラスが頭を抱えたのは、公爵家の後継問題である。

 次男ジェイムスはすでにソーンダイク侯爵家と婚約中で、婿養子として迎えられ次期侯爵となることが決まっている。
 三男デヴィッドは引き籠りの上女装を続けているのが悩みだったが、アランが公爵家を継いだらデヴィッドには持っている爵位の子爵位を与えようと考えていた。
 どうやら好きな女性も出来たようだ。お互い子爵位なら問題ないだろうと、サイラスは安心していたのだが。

 デヴィッドが公爵家を継ぐ可能性が出てきた今、マリアンナとの仲を認めるのは難しくなった。
 子爵令嬢とはいえ、借金生活の余波で庶民的な暮らしをしてきたマリアンナに、公爵夫人としての振る舞いができるのか?
 一緒に暮らしてきてマリアンナの為人を知り、彼女自身には好感を持ってはいても、貴族としての立場から考えるとマリアンナは否、であった。

 一方でエルリーヌを妻にするジェイムスならば、公爵家夫妻として申し分はないのだが、その場合ソーンダイク侯爵家の後継者がいなくなることになる。

「デヴィッドはマリアンナと別れ、公爵家を継ぐ事を受け入れられるだろうか」
 サイラスは非情になりきれぬ男であった。それゆえ悩むのであった。



「ノイマン公爵家からデヴィッドに婚約の申込みが来ている」
 父から思わぬ言葉を告げられたデヴィッドは驚いた。

「父上、僕はマリアンナ嬢を妻にしたいと考えています。オディール子爵に婚約の打診をしようと考えていたところなのです。お断りしてください」

「デヴィッド、今度の週末にアリッサ嬢を招待した。二人で会って話してみなさい。
 ああそれから、マリアンナ嬢には王都のタウンハウスへ移動して貰う。侍女としてシャーリーを付ける。未婚の男女が共に暮らすのは良くないからね」

「父上!」

「これは決定事項だ」

「わたしはロックフィールド公爵を継ぐ気はありません。
 母上の望みで女になり、今度は父上の望みで政略結婚ですか!
 たったひとつの自分自身の望みさえ叶えられないのなら、何もかもが無意味でしかない」

 吐き捨てるように言って部屋を出たデヴィッドを、サイラスは引き留めることは出来なかった。
 母親に女装を強要されても従った心根の優しい息子が初めて見せた苛立ちに、頭ごなしに一喝するような無体はしたくない。

 したくはないのだが、ロックフィールド公爵は大きな岐路に立たされていた。


 
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