突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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番外編

ワルツ フォー マリィ 〜Waltz for Mary 1

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   デヴィッド・エインズワース子爵は真っ白の正装に身を固め、緊張した面持ちでウロウロと室内を歩き回っていた。

「義兄上、こちらへいらしたのですか?そろそろ姉上の準備が整うようですよ」
 そう言いながらデヴィッドを迎えにきたのはアーサー・オディール子爵令息だ。
 デヴィッドは今日これから、アーサーの姉であるマリアンナとの結婚式を控えている。 

「ありがとう、アーサー。どうしよう、緊張してきた……」

 銀の髪に紫の瞳、彫像のように美しいと噂されているデヴィッドは、今はただの緊張している男にすぎなかった。



 一方、花嫁のマリアンナは親友のエルリーヌにダメ出しをされていた。
「マリィったら。貴女、目が腫れてしまって…一体どうしちゃったの?今日は貴女の結婚式なのよ。
 貴女達、マリィの顔をどうにかして差し上げて」

 エルリーヌは侯爵家から優秀なメイドを3人連れて来ていた。なにしろオディール領は田舎なので、結婚式の参加者の衣装や化粧を担当するメイドが足りないのである。

 次期公爵夫人となるエルリーヌの采配は見事なものだった。
 料理人にテキパキと指示し、庭の披露宴会場のセッティングから花の手配などを、生き生きとこなしていた。
 そして目元が腫れたマリアンナに文句を言いながらも、彼女の髪に白い花を飾り散らすことに余念がない。その手際の良さに戸惑いつつも、マリアンナは正直な気持ちを伝えた。

「だってね、エリィ。お父様が泣くのですもの。お母様の残してくれたウェディングドレスを着たわたしが、お母様にそっくりだと言って泣いてしまわれたの」

 つい、もらい泣きしてしまったわ、とマリアンナはため息をついた。

「お母様に見せたかったわ、わたしの花嫁姿」
「そうね、今日のマリィはどこに出しても恥ずかしくない、素晴らしく美しい幸せな花嫁さんなのだもの。きっと天上のお母様もマリィの幸せを見守っていてくださる筈よ」
「もう、エリィったら泣かせないでちょうだい」



 マリアンナ・オディールは、デヴィッドの父であるロックフィールド公爵の好意で、卒業までの日を王都の公爵家別邸で過ごしていたが、通っていた学院を優秀な成績で無事卒業した後、実家であるオディール領へ戻ってきた。

 父、オディール子爵の借金問題から始まり、誤解とすれ違いがあって誘拐事件に巻き込まれたマリアンナを助け出したのは、お互いに想いあっていたデヴィッド・ロックフィールド公爵子息だった。

 後継者で揺れた公爵家であったが、デヴィッドの双子の兄、ジェイムスが公爵家を継くことで解決した。
 デヴィッドは、マリアンナ救出の功績によって、父が持つエインズワース子爵の爵位を賜った。

 身分差からデヴィッドへの思いを諦めたていたマリアンナと、マリアンナの為に平民になる覚悟までしていたデヴィッドであったが、懸念が解決した結果、今日晴れて2人は結ばれることとなった。

 マリアンナの希望でオディール領での結婚式となり、親族が集まってきていた。
 デヴィッドの兄アランは、隣国の王配となったので式には参加者できなかったが、心尽しの祝いの品とメッセージが届けられていた。



 結婚式の前夜。
 マリアンナの父クリフォードは、亡き妻アンジェラの肖像画に向かって語りかけていた。

「アンジー、我々のかわいいマリアンナが嫁に行くんだよ。
 なんと相手はあのサイラス・ロックフィールドの息子なんだ。
 マリアンナは幸せになれるだろうか。いや、何が何でも幸せになってもらわねば困るな」

 娘を嫁がせる男親の悲しみを背負ったクリフォードは、しんみりとグラスに手を伸ばした。

その時「サイラス・ロックフィールドだ」と、デヴィッドの父がクリフォードの部屋を訪れた。

「これは、公爵閣下。この度はわざわざオディール領までお越しいただきありがとうございます」

「これから親戚になるというのに水くさいぞ、クリフォード」
 サイラスとクリフォードは実は学院の同級生である。
 彼らもまた爵位の違いから親しい交流があったわけではないが、お互いの存在は強く意識していた。
 それもこれも、ある意味肖像画のアンジェラのおかげと言えた。

「マリアンナは、アンジェラ夫人によく似ている。美しく賢くしっかり者だな。デヴィッドには勿体ないくらいだ」

「男手ひとつで育て、裕福な暮らしなど何一つさせてやれませんでしたが、いい娘に育ってくれました」

 ふたりの父親は、ソファに腰を下ろした。クリフォードはサイラスにグラスを渡すと、蒸留酒を注いだ。

「今日は無礼講だ、いいな?
 おい、サイラスよ、大事な娘をお前のところの三男坊の嫁にやるんだ。一杯飲まなきゃやってられん。お前も付き合え」
 
 彼らはカチリとグラスを合わせた。

「そうだな。大事なお嬢さんを、アンジェラに良く似た聡明で美人なお嬢さんを貰うんだから、嫌味のひとつやふたつは受け止めるぞ。もちろん泣き言だって」

 ははっ、と楽しそうに笑ったサイラスに釣られてクリフォードも笑う。

「乾杯!われらの子ども達の輝かしい未来に!」

 マリアンナを泣かせたら承知しないからな、クリフォードはボソボソと聞こえぬように呟いたが、その嘆きはしっかりとサイラスの耳に届いていた。



 オディール家は賑やかであった。
 
 王都からはロックフィールド公爵一家がやってきて、オディール子爵家の親戚も集まり、いつもは静かな家には楽しげな笑い声が響いていた。
 披露宴の会場となる庭を飾り付ける様子を眺めながら、デヴィッドはマリアンナの待つ応接室へと向かった。

 前から歩いてくるのは双子の兄のジェイムスだ。

「デヴィッド!これを」といって手渡されたのは、小さな箱だった。

「お前、忘れてただろ。落ち着けよ」

「うわ!大切なものを忘れるところだった。ジェイムス、ありがとう」
 大事そうに受け取った小箱の中身は、母ダイアナの遺した指輪。
 公爵家に代々伝わる大きなアメジストとダイヤの指輪は、公爵夫人となるエルリーヌの指にはまっている。
 デヴィッドが父から譲り受けたのは、母が生前大事にしていたダイヤが三つ並んだ愛らしいデザインの指輪だ。
 ダイアナが双子を出産し子どもたちが3人になった時に、父親サイラスから母ダイアナに贈られた指輪だった。
 今日、2人が愛を誓う日に、この指輪をマリアンナに渡すとデヴィッドは決めていた。




「綺麗だ…」

 マリアンナは、母アンジェラの結婚式のドレスを仕立て直して着ていた。
 落ち着いたシンプルな白いドレスは、マリアンナの黒髪をより一層美しく見せ、そしてその黒髪にはエルリーヌによって白い花が散りばめられている。白い小花のひとつひとつには、紫の宝石が付けられていて、光に当たると柔らかな光が透けて美しい。

 デヴィッドはマリアンナに見惚れていた。本当に綺麗だ、とうわ言のように何度も呟いた。マリアンナは幸せそうに微笑んでいる。

「当然よ!」と何故か得意げで偉そうなエルリーヌ。
 そのエルリーヌを愛しそうに見つめるジェイムス。
 既に泣き顔のマリアンナの父クリフォード。
 嬉しそうなアーサー。
 そっと胸に忍ばせた、亡き妻ダイアナの絵姿を見るサイラス。
 幸せな家族の姿がそこにあった。



 2人はまず教会で婚姻の儀式を済ませた。  

「愛している」
 言葉とともに、小さなキスを交わして、デヴィッドは指輪をマリアンナの指に嵌めた。

「わたしも愛しています」

教会での婚姻式に出席した人々はオディール家まで戻り、その後は庭での披露宴となった。

 テーブルには花籠と料理人たちが腕によりをかけたご馳走や酒が並んだ。
 
 新郎新婦はみんなから祝福され、幸せいっぱいだった。  

「図書館で君を見かけた時からずっと好きだよ。ようやく愛しい人を妻と呼ぶことができる。今日は人生で最良の日だ」

「幸せすぎて夢じゃないかと不安になるわ。でも夢じゃないのね」マリアンナは薬指にはめた指輪をそっと撫でた。
「お義母様の分も幸せにならなくちゃ」

「僕が君を世界一幸せな花嫁にするよ。だから、ずっとよろしくね、僕の奥さん」

 デヴィッドはマリアンナをぎゅっと抱きしめて、優しくキスをした。



 結婚式を無事終えて、翌朝デヴィッドとマリアンナの新婚夫妻は、新しい領地であるエインズワース子爵領へと向かった。
 エインズワースの地は、大きな湖があり、淡水を利用した魚の養殖が盛んな風光明媚なところだ。
 
 領主館はこの土地の代官が管理してくれていた。
 デヴィッド達の到着に合わせ、調度品が整えられ、執事や使用人達が揃って出迎えてくれた。

「シャーリーさん!」
 マリアンナは使用人の中にシャーリーの姿を見つけ、嬉しくて声をかけた。
 シャーリーは領主館を整えるため先に領地入りを済ませていた。執事とともに使用人の面接を行い、あれこれと指示を出して館を居心地よく整えていた。

「旦那様、奥様、お待ちしておりました」

 マリアンナは慣れない王都の暮らしを支えてくれたシャーリーが側にいてくれることに安堵した。

 翌日、領地を任せていた代官が訪れた。
 代官は40歳くらいの真面目な男で、もともと王都でロックフィールド公爵の部下であったところを、優秀さゆえに引き抜かれて、公爵家の代官として派遣された。

 デヴィッドと代官との打ち合わせが始まり、マリアンナは館内を探索することにした。

 まずは夫婦の部屋。
 昨夜はゆっくり室内を観察できなかった。
落ち着いたクリームベージュに小花柄の壁紙、ベッドは天蓋付きでふわふわだ。
「新婚さんですからね、ベッドは丈夫なものをご用意いたしましたよ」とシャーリーに言われて、マリアンナが顔を赤らめた、というベッドである。

 飴色に磨かれた家具類は落ち着きがある。
 先代の領主から引き継がれた歴史あるチェストやクローゼットに、新たに購入されたドレッサーなどはうまく調和している。

 両隣りが各々の部屋になる。
マリアンナは自分に与えられた部屋へ入ると、そこには思いがけない人物がいた。

「あら、貴女は新しいメイドかしら?」

 金髪の美少女が、ソファに腰をかけてマリアンナを睨んでいた。

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