突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

文字の大きさ
28 / 49
番外編

ワルツ フォー マリィ 〜Waltz for Mary 3

しおりを挟む
 「ごめんなさい。」

 ロレッタは泣きながらシャーリーに謝った。
「謝るのはわたしにではありません。謝罪は奥様になさいませ」

「ひっく…、エ、エインズワース子爵夫人様、勝手に部屋に入って、失礼な事を言って、ひっく……申し訳ありませんでした。
うう……あたし、デヴィッド様が好きなんです。一目惚れなんです。
 だから、デヴィッド様を取らないでください。返してください。ひっく……」

「まあ、貴女は、代官様のお嬢さんだったのね。
 申し遅れましたわ。わたくし、エインズワース子爵デヴィッドの妻、マリアンナでございます。
 ロレッタ・オルコック様、以後お見知りおき願いますね」

 マリアンナは優雅に一礼した。

「ロレッタ様はデヴィッドの事が好きなのね。彼を好きになってくれてありがとう。
 でもわたしもデヴィッドが大好きなの。だからロレッタ様にはあげられないの」

 目を赤くしたロレッタの前にしゃがみ込んで、そっとハンカチで涙をぬぐった。

「ねぇ、ロレッタ様。どうしてこんな事をしたのか、後で教えてね。その前にせっかく用意してもらったランチをいただきましょう?」

 ロレッタは泣きながらも小さく頷いた。目の前の料理の誘惑には勝てなかった。奥様にも勝てそうにないと思った。



 ロレッタは14歳。オルコック代官の一人娘だ。優しい母と、ちょっぴり厳しい父との間に生まれ、エインズワースの自然の中で伸び伸びと育った。
 
 ロレッタが12歳の時に、王都に住む公爵とその双子の子息達が視察に訪れた。
 双子の兄の方は、ある侯爵家へ婿入りすることが決まっていたので、弟であるデヴィッドがこの地の領主となるのでは?と、領民たちは噂をしていた。

「ロックフィールド公爵のご子息たちは、大層美しくて、銀髪の王子様と呼ばれているらしいわ」
「お目に留まれば、次期子爵の夫人になれるかもしれないわね」

 ロレッタの周りでも、年頃の娘たちの話題は公爵家の双子達で、彼らがどれほど美しいか、そしてその彼らの目に留まるにはどうしたら良いか、そんな話で持ちきりだった。

 当地の代官を父に持つロレッタは、立場的に彼女らより一歩抜きんでていた。
 田舎にあって、ロレッタの美貌は子どものころから際立っていたので、
「ロレッタ様がきっとご子息に選ばれるのよ。」
「ロレッタ様こそ相応しいわ。」
などと、少女たちは勝手に妄想して勝手に応援していた。
 その事がロレッタの勘違いを暴走させたとも言える。

 視察にやってきたロックフィールド公爵一家を出迎えてもてなしたのは、オルコック代官一家だった。
 田舎ゆえ大したことは出来ませんがと言って恐縮していたが、地元の農作物や、湖で採れる魚、山で採った動物などを使った料理は、素朴で美味しいものだった。
 歓迎の晩餐会は楽しく進み、余興にと代官が手配していた楽団による演奏が始まると、オルコックの声掛けで、公爵と代官の妻がダンスを披露した。

 公爵は早くに妻を亡くして以来、公の場で踊ることはなかったが、子爵領での身内による気軽なパーティだったので、快く踊りに興じた。

 16歳のデビュタント前のロレッタは、本来なら晩餐会への出席は出来ないのだが、特例で参加させてもらえる事になった。

 張り切ったのは、ロレッタの母だった。
 美少女と評判のロレッタが、公爵様たちに見染められる可能性があるのだ。目一杯可愛らしく着飾って、晩餐会へと連れていった。
 ロレッタは得意満面だった。友達の令嬢たちを差し置いて、ひとりだけ公爵家の人々と会えることになり、母も張り切っているし、ご子息様のお目に留まるように振る舞わなければと、気合いが入っていた。

 しかし、晩餐会の目的は元々が大人たちの交流の場でもあり、仕事の話がメインになる。
 しかも自分より年上の、お年頃の令嬢たちも呼ばれていたようで、彼女たちの視線の先には麗しい双子の姿があった。
(従姉妹たちもいるし、学校の先輩もいるわ。わたしだけが呼ばれたわけじゃなかったのね)
 ロレッタは現実を知った。

 公爵のダンスが終わると、令嬢たちは我先にと双子にダンスをお願いしていたが、ロレッタは気後れしてその列に加わることが出来なかった。壁の花となり踊る人たちを眺めているだけだった。
 強気の美少女といってもまだ14歳なのである。
 双子たちは大層美しく、どちらがデヴィッド様かわからないけど、ロレッタは夢見心地だった。
 誘ってもらえるのならどちらでもいいわ、本当に素敵な人たち。王都の人はやはり洗練されているわ……

「あら、ワルツだわ。わたし、ワルツだけはちゃんと踊れるのに」

 独り言を呟いて、お父様は踊ってくれないかしらと父を探せば視界に入ってくる男性がいた。

「ロレッタ嬢?」

 目の前に銀髪の王子様がいた。
 周りの令嬢たちから小さな悲鳴があがった。

「デヴィッド・ロックフィールドです。
 お嬢さん、僕とワルツを踊っていただけますか?」

 ロレッタは「はい」と頷くと、デヴィッドに手を取られフロアの真ん中へ向かった。

「娘の我儘を叶えていただき申し訳ありません。ご子息にお会いできるのを、あれは心待ちにしておりました。良い記念になります」

「オルコック殿にこんなに美しいお嬢さんがおられるとは知らなかったな。これは縁談が山ほど来るだろう」

 オルコック代官はロレッタが王都の貴公子に憧れていることを知っていたので、それこそ代官の特権を使って公爵に願い出た。公爵には娘がいなかったので微笑ましく思いながら、息子に指示してダンスの申し込みをさせたのだが。

 麗しの貴公子、次期エインズワース領主となるデヴィッド自らがダンスの誘いをしてくれた事で、ロレッタは有頂天だった。

「あのデヴィッド様?」
「なんだい?ロレッタ嬢」
「わたくし、ずっとお待ちしております。デヴィッド様がエインズワースにお越しになる日まで」
「それはありがとう。良き領主になれるよう励むとしよう」

 デヴィッドからしてみれば、女の子から言い寄られることはよくある事だったので、差し障りなく返事をして、一曲のみで手を離したが、その業務用の笑顔はロレッタを勘違いさせるには充分だった。
 
 それから2年。ロレッタはデヴィッドが領主としてやってくる日を待ち続けた。
 デヴィッドから結婚を申し込まれると信じて疑わなかった。
 友人たちは、それならまず婚約を打診されるでしょう?と言って嗜めたが、いきなりプロポーズするおつもりなのよ、なんてロマンティックなの、とロレッタは夢見てうっとりした。
 お手紙が届いたりするの?と問われれば、デヴィッド様は悪女に騙されて手紙も書けない状況に違いないわ、と泣いてみたりもした。

 夢見る少女ロレッタは、王都から取り寄せた恋愛小説を読み耽っては、自分に当てはめて一喜一憂していた。
 それは思春期の情緒不安定と言っても差し支えなかった。
 恋に恋する純真乙女は、そうやって勘違いと思い込みのまま、エインズワース子爵夫妻の到着の日までを過ごしたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾
恋愛
「魔法の無駄遣いだ」 そう言われて婚約を破棄され、南方の辺境へ追放された元・聖女エオリア。 けれど本人は、まったく気にしていなかった。 暑いならエアコン魔法を使えばいい。 甘いものが食べたいなら、全自動チョコレート製造魔法を組めばいい。 一つをゆっくり味わっている間に、なぜか大量にできてしまうけれど―― 余った分は、捨てずに売ればいいだけの話。 働く気はない。 評価されても困る。 世界を変えるつもりもない。 彼女が望むのは、ただひとつ。 自分が快適に、美味しいものを食べて暮らすこと。 その結果―― 勝手に広まるスイーツブーム。 静かに進む元婚約者の没落。 評価だけが上がっていく謎の現象。 それでもエオリアは今日も通常運転。 「魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ」 頑張らない。 反省しない。 成長もしない。 それでも最後まで勝ち続ける、 アルファポリス女子読者向け“怠惰ざまぁ”スイーツファンタジー。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで

有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。 辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。 公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。 元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。

冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます

藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。 彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。 直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。 だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。 責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。 「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」 これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。

処理中です...