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エレンは5年前に父親を事故で亡くした。
ちょうど手を広げかけていた事業の負債が重なって、住んでいた家を手放すことになり、エレンと母は父との思い出の地であるこの町へやってきた。
両親は聖パトリック祭で出会い恋に落ち、身分違いを反対されて駆け落ちの末結婚した。母は貴族の娘だったが実家から絶縁されていた。
思い出の地へやってきたが2人が行くあてもなく入った青空亭で、訳ありらしい母娘にこの店のおかみが手を差し伸べてくれた。エレン達の事情を聞いたおかみは、
ちょうど良かった、手伝いを探していたのだと言って、店の2階に住む代わりに店の手伝いと雑用をしてくれないかと言ってくれた。
それから4年、もともと身体が弱く寝付く事が多かった母は流行り風邪で去年の冬にあっさりと亡くなってしまった。
母親は亡くなる前に絶縁された実家に手紙を書いていた。そしてエレンに、自分が死んだら実家を頼りなさいと言った。
「エレンのお祖父様とお祖母様はまだ健在で、貴女を引き取っても良いと言ってくれてるの。エレンは若い、貴女には未来があるわ。そしてきっと良いご縁を見つけてくれる。幸せになるのよ、エレン」
母の兄、すなわち叔父という人が訪ねて来たのは半年程前の事だった。
叔父はエレンを一目見て妹とそっくりだと感慨深そうだった。祖父母は絶縁した母のことをずっと気にかけていて、自分達を頼ってきたことを喜んでいると言う。
そうやって、聖パトリック祭が終わったら、エレンは祖父母の屋敷に引き取られることが決まったのだった。
……………
いよいよ明日は聖パトリック祭だ。祭の日は軍隊も休みになる。普段から訓練に明け暮れている俺たちへのご褒美だ。
エレンに渡そうと、エレンの瞳と同じ色の翡翠の小さな石に穴を開けて紐を通したものを作った。本当は交換しあえたらいいけど、俺の片思いだから手渡せるだけでいい。胸に掛けてくれたらそれだけで嬉しい。
そしてその時に俺はこの想いを告げようと思っている。受け入れてくれるかどうかわからないが、嫌われてないことはわかる。
エレンには何か秘密があって、そしてそれは秘密のままで俺には伝えることはないんだろうな。エレンが笑ってくれるなら何だってするのに。頼ってくれたらいいのに。
…………………
青空亭へやってきたアレックスは、店の前で水を撒いているエレンを見つけた。エレンもまた、背の高い赤髪の青年に気がついた。
「やあ、エレン」
「アレックスさん、いらっしゃいませ。」
店内に案内しようとするエレンを制して、アレックスは言葉を続けた。
「明日の聖パトリック祭、良かったら一緒に廻らないか?」
「お祭りですか。わたしは用事があるので、、、」
「エレン、せっかくだからアレックスさんと一緒に見てまわればいいじゃないか。明日はこっちにいられる最後の祭なんだかしさ」
おかみさんの言葉にアレックスは衝撃を受けた。
…………………
「最後って?」胸騒ぎがする。
「聖パトリック祭が終わったら、わたしは祖父母の家に引き取られるのです。疎遠になっていたのが最近連絡をとるようになって」
「そうなのか、それは良かったな。……それは遠いところなの?」
エレンは黙って頷いた。
エレンが居なくなってしまうと思うと、俺の心臓の動悸は早くなり、苦しくて切なくて堪えきれなくてなんとか声を絞り出した。
「エレン嬢、この地での最後の聖パトリックのお祭りをわたくしアレックス・ベイリーがエスコートする許可を得てもよろしいでしょうか。」
俺は膝をついてエレンの手を取った。
「あなたの手をとる栄誉を、お与えください。」
もうずっと忘れてきた貴族らしい振る舞い。なぜこんな誘い方をしたのか、自分でもわからない。
わからないけどいい加減な気持ちではないって伝えたかったんだ。明日が最後?そんなの信じたくない。
………………
エレンは戸惑いながらもおかみさんの後押しでアレックスの手を取った。
「明日、午後から迎えに来るよ」
「はい」エレンは小さく返事をした。その顔が真っ赤になっていたのを俺は知らなかった。
翌朝はよく晴れて、この日が気持ちの良い一日になりそうだと人々が喜ぶ中、アレックスは緊張からなのか、なんだか様子がおかしかった。
「どうしたんだよ。愛しのエレンちゃんとデートだろ?そんな難しい顔して。」
ジョージに揶揄われてもうまく返せない。
「色々事情があるんだよ!」
いつもよりちょっとだけお洒落をしたアレックスは、上着のポケットに翡翠の首飾りを入れた。
なあ、エレン。君が抱えているものが何かわからないけど、俺は君を守るよ。全力で守るよ。
アレックスは気合いを入れるために、頬をバチンと叩いて青空亭へ向かった。
ちょうど手を広げかけていた事業の負債が重なって、住んでいた家を手放すことになり、エレンと母は父との思い出の地であるこの町へやってきた。
両親は聖パトリック祭で出会い恋に落ち、身分違いを反対されて駆け落ちの末結婚した。母は貴族の娘だったが実家から絶縁されていた。
思い出の地へやってきたが2人が行くあてもなく入った青空亭で、訳ありらしい母娘にこの店のおかみが手を差し伸べてくれた。エレン達の事情を聞いたおかみは、
ちょうど良かった、手伝いを探していたのだと言って、店の2階に住む代わりに店の手伝いと雑用をしてくれないかと言ってくれた。
それから4年、もともと身体が弱く寝付く事が多かった母は流行り風邪で去年の冬にあっさりと亡くなってしまった。
母親は亡くなる前に絶縁された実家に手紙を書いていた。そしてエレンに、自分が死んだら実家を頼りなさいと言った。
「エレンのお祖父様とお祖母様はまだ健在で、貴女を引き取っても良いと言ってくれてるの。エレンは若い、貴女には未来があるわ。そしてきっと良いご縁を見つけてくれる。幸せになるのよ、エレン」
母の兄、すなわち叔父という人が訪ねて来たのは半年程前の事だった。
叔父はエレンを一目見て妹とそっくりだと感慨深そうだった。祖父母は絶縁した母のことをずっと気にかけていて、自分達を頼ってきたことを喜んでいると言う。
そうやって、聖パトリック祭が終わったら、エレンは祖父母の屋敷に引き取られることが決まったのだった。
……………
いよいよ明日は聖パトリック祭だ。祭の日は軍隊も休みになる。普段から訓練に明け暮れている俺たちへのご褒美だ。
エレンに渡そうと、エレンの瞳と同じ色の翡翠の小さな石に穴を開けて紐を通したものを作った。本当は交換しあえたらいいけど、俺の片思いだから手渡せるだけでいい。胸に掛けてくれたらそれだけで嬉しい。
そしてその時に俺はこの想いを告げようと思っている。受け入れてくれるかどうかわからないが、嫌われてないことはわかる。
エレンには何か秘密があって、そしてそれは秘密のままで俺には伝えることはないんだろうな。エレンが笑ってくれるなら何だってするのに。頼ってくれたらいいのに。
…………………
青空亭へやってきたアレックスは、店の前で水を撒いているエレンを見つけた。エレンもまた、背の高い赤髪の青年に気がついた。
「やあ、エレン」
「アレックスさん、いらっしゃいませ。」
店内に案内しようとするエレンを制して、アレックスは言葉を続けた。
「明日の聖パトリック祭、良かったら一緒に廻らないか?」
「お祭りですか。わたしは用事があるので、、、」
「エレン、せっかくだからアレックスさんと一緒に見てまわればいいじゃないか。明日はこっちにいられる最後の祭なんだかしさ」
おかみさんの言葉にアレックスは衝撃を受けた。
…………………
「最後って?」胸騒ぎがする。
「聖パトリック祭が終わったら、わたしは祖父母の家に引き取られるのです。疎遠になっていたのが最近連絡をとるようになって」
「そうなのか、それは良かったな。……それは遠いところなの?」
エレンは黙って頷いた。
エレンが居なくなってしまうと思うと、俺の心臓の動悸は早くなり、苦しくて切なくて堪えきれなくてなんとか声を絞り出した。
「エレン嬢、この地での最後の聖パトリックのお祭りをわたくしアレックス・ベイリーがエスコートする許可を得てもよろしいでしょうか。」
俺は膝をついてエレンの手を取った。
「あなたの手をとる栄誉を、お与えください。」
もうずっと忘れてきた貴族らしい振る舞い。なぜこんな誘い方をしたのか、自分でもわからない。
わからないけどいい加減な気持ちではないって伝えたかったんだ。明日が最後?そんなの信じたくない。
………………
エレンは戸惑いながらもおかみさんの後押しでアレックスの手を取った。
「明日、午後から迎えに来るよ」
「はい」エレンは小さく返事をした。その顔が真っ赤になっていたのを俺は知らなかった。
翌朝はよく晴れて、この日が気持ちの良い一日になりそうだと人々が喜ぶ中、アレックスは緊張からなのか、なんだか様子がおかしかった。
「どうしたんだよ。愛しのエレンちゃんとデートだろ?そんな難しい顔して。」
ジョージに揶揄われてもうまく返せない。
「色々事情があるんだよ!」
いつもよりちょっとだけお洒落をしたアレックスは、上着のポケットに翡翠の首飾りを入れた。
なあ、エレン。君が抱えているものが何かわからないけど、俺は君を守るよ。全力で守るよ。
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