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ウッドゴーレム
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しおりを挟むその日、ウッドゴーレムはいつも通り白雲の遺跡の見回りをしていた。
ゴーレムの仲間達の様子を見るのもその一環だ。遺跡にいるゴーレムは、そのほとんどがもすでに動かなくなってしまっているが、ウッドゴーレムは毎日彼らの様子を見まわっていた。
そしてウッドゴーレムは遺跡の奥の白雲の花の群生地へと向かった。
そこで先程と同じように白雲の花を一輪ずつ器用に詰んでいく。両手がいっぱいになったところで、ウッドゴーレムは大切そうにその花を持って歩き出した。
ドシーン、ドシーンと、重そうな音を立てて歩いていると、頭に小鳥がチチチと飛んできて止まる。怖がっている様子はなさそうだ。
小鳥を乗せたまま、ウッドゴーレムは遺跡の大きな木の所までやって来た。
木の下で一度立ち止まり見上げると、木の横を通り抜けてさらに奥へと向かう。
丈の低い木が生い茂る中を傷つけないようにゆっくりと通り抜けると、その先に開けた場所があった。
墓だ。
誰かの墓がそこにはあった。
ウッドゴーレムはその墓に摘んできた花を供えると、墓の前で座り、膝を抱えた。
まるで祈るように、その墓に眠る誰かに語りかけるように。穏やかで、どこか神聖さすら感じる光景だった。
しばらくそうした後、ウッドゴーレムは立ち上がり来た道を戻る。そして再び遺跡の見回りを開始した。
――――その時だ。
ふいに、どこからか若い冒険者の声が聞こえてきた。
「まったく! この僕がどうしてこんな雑用みたいな事をしなければならないんだ!」
「ですが、ここだけはちゃんとやっておかないと、冒険者証貰えませんし……」
「そんな事は分かっている!」
見ると、そこにはセイルくらいの年の少年が4人、遺跡を歩いていた。
その顔にセイルには見覚えがあった。冒険者ギルドの受付で揉めていた新人だ。名前は確かアルギラ・オルパスだったと記憶している。
「父上といい、ギルド職員といい、何故僕を認めようとしない。僕は……」
アルギラが顔を上げた時、ウッドゴーレムと目が合った。
その顔には最初驚きが浮かんでいたが、直ぐにニヤァと嫌な笑顔へと変わる。
「何だウッドゴーレムじゃないか。……そうだ、あいつを倒して見せれば、こんな雑用は僕には必要ないと証明できるだろう」
「ええ!? そ、それはちょっと……」
他の三人はアルギラを止めるような素振りを見せたが、アルギラは「いいから行け!」と仲間達に命令した。
仲間達はしぶしぶと言った様子で、鞄の中からマジックアイテムを取り出す。
ハイネルが持っていた『火トカゲ』という名前のマジックアイテムとよく似ていた。
「行け!」
掛け声と同時に、ウッドゴーレムにマジックアイテムが投げつけられる。
同時に三個。それらはウッドゴーレムにぶつかると同時に、ぶわりと火柱を上げた。
「……な!?」
だがこのウッドゴーレムに火は効かない。
次々と鞄の中のマジックアイテムを投げるが、焦げ目すらつかない。
何のダメージも与えられた気配のないウッドゴーレムに、パニックになった仲間達はアルギラを置いて逃げ出した。
「ま、待て! 僕を置いて行くな!」
一瞬遅れたアルギラも彼らを追いかけて逃げようと、もつれる足で走り出す。そこはちょうどゴーレム達の制御盤の近くだった。
ウッドゴーレムはふらつくアルギラを見て、彼が制御盤の方へ転ぶかもしれないと思ったのだろう。
制御盤を守る為に、アルギラをそれから遠ざける為にウッドゴーレムは手を伸ばした。
恐らく、ひょいと掴んで遠ざけるだけのつもりだったのではないかとセイルは思う。
だが残念ながらそれが伝わる相手ではない。アルギラは悲鳴を上げ、身をよじってその手をから逃げようとした。
その時、足元に落ちていた瓦礫に躓き、そのまま勢い良く制御盤のある壁にぶつかる。
アルギラがぶつかった衝撃でぱらぱらと制御盤のフタは崩れ、中に入っていたスイッチの内の一つがカチリと音を立てて下がった。
するとウッドゴーレムの目が安全色の緑から警戒色の赤へとすうと変わる。
アルギラは両手をばたつかせて体を起こすと、悲鳴を上げて何とかその場を逃げ出した。
残ったのは目を赤く爛々と輝かせたウッドゴーレムだけだった。
◇
セイルはすうと目を開けた。少しばかり不機嫌そうで、どこか怒ったような顔をしている。
ハイネルはそれを見て「おや」と少しだけ首を傾げた。
「身なりの良い、冒険者になるための実技試験を受けにきた新人ですね。パーティは4人」
「はっきり言うと?」
「アルギラ・オルパス」
「あー……」
思いついたようにストレイが手を顔にあてて空を仰いだ。
「そういや、ギルドで白雲の花がどうのって揉めてたなぁあいつ」
ハイネルはすうと目を細めると、カチャリとクロスボウを手に持ち撫でる。
「ちょうどクロスボウの練習がしたい所でした」
「待てこら」
「大丈夫、当てません」
「駄目だっての。ひとまずアイザックさんに報告して、対応を考えて貰う。絶対に何もすんなよ?」
ハイネルは不満そうに口を尖らせたが、しぶしぶと手を降ろした。
ただの冒険者相手なら――止めはするだろうが――ストレイもここまで釘は刺さない。
セイルとハイネルは被害を被った側であり、ストレイもまたウッドゴーレムに対しては情が移りかけている。
今回の件に関して言えば、アルギラが無抵抗なウッドゴーレムに勝手に攻撃を仕掛けて、勝手にパニックになったのが原因だ。同情の余地はない。
だが、相手は金持ちの子供だ。
下手に手を出せば金に物を言わせて報復される恐れがある。
ストレイ一人ならどうとでもなるが、セイルもハイネルは駆け出しの新人冒険者だ。万が一という恐れがある。
出会ってまだ二日ほどではあるが、ストレイはセイルとハイネルの事を気に入っていた。
だからこそ余計に、心配なのだ。
「ままなりませんねぇ……」
「だからギルドマスターも頭を悩ませてんだよなぁ……」
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