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新米冒険者とそれなり冒険者
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しおりを挟む食事を終えたセイル達は、遺跡の中を再度確認しながら、来た道を戻り出した。
途中、制御盤のある回廊に足を止め、人目につかないようにストレイは制御盤の上から布をかぶせる。遺跡の壁と合わせるように白色の布だ。
なるべく壁の色に合わせたものらしく、かぶせるとぱっと見たら分からない。
ストレイは鞄から絵の具を取り出すと、布と壁の境目や、布の上にぺたぺたと塗った。
「器用ですね」
「まぁな」
あっという間に境目は見えなくなる。
じっと見なければ分からない程度になるとストレイは満足したように頷くと、今度は奥の部屋へと続く穴を塞ぐ事に取りかかった。
持ち出されるとマズイ資料はすでに回収してはあるのだが、念のため中に入れないようにしようという事になったのだ。
ウッドゴーレムに手伝って貰いつつ瓦礫を積み上げると、パンパンと手を払う。
「よし」
そうして、三人はその場を離れた。そうして白雲の遺跡の入口まで戻って来ると、ウッドゴーレムはそこで足を止めた。
どうやらここでお別れのようだ。
「……ちょっと寂しそうに見えますね」
ハイネルがそう言うと、セイルはウッドゴーレムに近づいて、にこっと笑った。
「また遊びに来ますね、ゴーちゃん」
セイルがそう言うとゴーちゃんは、白雲の花を持っていない方の手を、ゆっくりと差し出した。
手を置くとゆっくりと上下に振る。
「あっ僕も!」
ハイネルも飛んできてウッドゴーレムの手に自分の手を添える。
ストレイはちらっと自分の手を見たが、それだけだった。
そうした後で、ウッドゴーレムは向きを変えてドシーン、ドシーンと音を立てながら、遺跡の奥へと戻って行った。
「そういえば、あの花はどうするのでしょうね?」
ゴーちゃんの手の白雲の花を見てハイネルが不思議そうに首を傾げる。
セイルはウッドゴーレムの後ろ姿を見送りながら、
「川の近くに大きな木があったじゃないですか。あの奥に誰かのお墓がありまして、そこに供えているみたいです」
「墓、か」
ストレイは呟いた。
ゴーレムに感情はないと言われている。
だが、今のウッドゴーレムは、どうだとストレイは思った。
そういう風に作られているだけなのかもしれない。だがストレイには、ウッドゴーレムにも本当に心があるように思えた。
「……そう言えばストレイ、隠れられなくなりましたね」
「ん? そういや、そうだな」
「フッですが、僕のように仲良くなるにはまだまだ程遠いですがね!」
胸を張るハイネルを半目になって睨んだあとで、ふっと表情を緩めてストレイは「そうだな」と笑った。
◇
三人が冒険者ギルドに戻る頃には空は橙色に染まっていた。
ギルドの扉を開けて中に入るとギルドから揉めている声が聞こえる。
聞き覚えのある声だなと思って見ると、やはりそこにはアルギラとその仲間達がいた。
昨日対応をしていたギルド職員の女性のいるカウンターではない場所を選んでいる辺り、トラウマだったのだなとセイルは思った。
何を言われたのかは分からないが。
「いつまで待たせる気だ! 早くしろ!」
どうやら実技テストに合格したようだ。
白雲の遺跡は調査中であるため、恐らく別の実技テスト用の依頼が出されたのだろう。
カウンターには胡桃のような実が幾つか置かれていた。
アルギラの言葉にギルド職員が眉間にしわを寄せながらギルドの奥へと向かうと、冒険者証である銀色の懐中時計を持ってきて、カウンターに置いた。
セイル達はそれを半眼になって見ながら、アイザックのいるカウンターへと近づく。
「おう、戻ったか。遺跡の方はどうだった?」
アイザックがセイル達に気付いて声を掛けた。
「今活動をしているゴーレムは何とか落ち着きましたけれど、他のゴーレム達が目覚めた時が怖いですね」
不意にセイルが少し大きめの声で答えた。
ゴーレム、という言葉が聞こえてきて、アルギラ達がぎょっとしてこちらを見る。
アイザックが片方の眉を上げ、ストレイが横目でじろりと見るが、セイルは素知らぬ顔である。
「ええ、そうなんですよ。本当に一体誰があのような事をしたのでしょうね?」
ハイネルが便乗した。両手を広げて芝居がかった調子で言うハイネルに、ストレイは手でこめかみを押さえた後、フッと笑ってアルギラ達を見た。
「お前さん達、運が良かったな。違う実技テストを受けたんだろう? こいつら従来通りのテストで遺跡に向かったら、ゴーレムに襲われたんだよ。まぁ、もう大丈夫だがな」
だんだんとアルギラ達の顔色が悪くなっていく。
どうやら気が付いたらしいアイザックは「ふむ」と立派な白ひげを撫でた。
「白雲の花は幾つかの薬の材料になるからな。採取が出来なくなると薬の流通量が減って厄介だったが、良かった、良かった」
「そ、そうか」
アルギラ達は目を逸らすと、カウンターの上に置かれた銀時計をひったくって出て行った。
その後ろを青ざめながら、仲間達もばたばたと追いかける。
「あ、おーい、アルギラさん! 報酬が……」
ギルド職員はカウンターから身を乗り出して声を掛けたが、その頃にはすでに扉は閉まっていた。
それを見届けると、アイザックが呆れた顔になる。
「なるほど、あいつらか」
「セイルの話を聞くともっと頭が痛くなるぜ」
ストレイの言葉にアイザックが眉間にシワを寄せて大きくため息を吐いた。
促されたセイルがざっと説明をすると、アイザックのシワはより深くなる。
「分かった、あいつらにはこちらから灸を据えておく」
ハイネルの言葉にアイザックは頷いた。
「お願いします」
そう言って、ひとまず報告は完了した。
調査の礼だと報酬を渡されて、セイルとハイネルは嬉しそうに笑った。
「あ、そうだ、アイザックさん」
「何だ?」
「ゴーレムはゴーちゃんって名前になりまして」
「うん?」
突然投げかけられた謎の言葉にアイザックは首を傾げる。
何を言っているのか良く分からない、と言った顔だ。
だがセイルとハイネルはお構いなしに続ける。
「初めは人見知りでよく物陰に隠れてしまうんですが、慣れてくると寄って来ますよ」
「ちょうかわいい」
ゴーレムの話をしているんだよな?
アイザックはストレイに顔を向けて視線だけでそう問いかけた。
ストレイはアイザックの視線に頷くと、
「ちょうかわいい」
と、真顔になってサムズアップ。
何言ってんだこいつらとアイザックは思った。
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