陛下、おかわり頂いても良いでしょうか?

石動なつめ

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エピローグ

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 目が覚めてからは、シャルトルーズの体調はゆっくりと回復していき、三日も経てば歩き回っても大丈夫なくらいになった。

「美味しい! このスープ、甘くて美味しいですね!」

 安堵する一同の目の前で、彼女は元気に食事をしている。
 ただ、まだ万全ではないようで最初に見た時よりも食事量は控えめだ。
 その事を知っているマルベリーを始めとした料理人達も、香辛料はなるべく少なくし、消化に良いものばかりを出している。
 
(それにしても、シャルの料理人達から本当に好かれているな)

 こそこそと、ドアの隙間からシャルの様子を伺っている料理人達を見て、バーガンディーは苦笑する。
 今がこうなら、あと数日後に彼女達が帰る時はどんな事になるのやら。
 そう思った時に、バーガンディーもふと、それは自分も寂しいな、と思った。
  
 短い時間ではあったが、ここ数年の何よりも濃い時間だった。
 本当に、色々あった。一番はマダーらの事だが。

 騒動が終わった今、マダー達は牢にいる。
 諸々の事情聴取が終わった後に、それぞれの罪に合わせて刑を科す事になっている。
 捕えた一部は暴れたものの、主犯であるマダーらは大人しく――――穏やか、と言ったらおかしいかもしれないが、そんな様子だった。
 マダーは自分の仲間については話したが、その他はについてはほとんど語ろうとはしない。
 ただ、シャルトルーズに対してだけは「人殺しと罵って、申し訳なかったと伝えて欲しい」と言っていた。
 それをシャルトルーズに伝えた時、彼女は笑って「私は気にしていませんよ。でも、あまり気にされているようでしたら、フリュイで手を打ちましょう」なんて冗談めかして言っていたが。

「ああっシャル! その表情、素晴らしい! そうだ、マルベリーちゃん! マルベリーちゃんもこちらに来てくれ!」
「ひえ!? ななな何でありますか!? 何でありますか!?」
「ああっ怯えないでおくれ! 私はただ、可愛いを可愛いで並べて愛でたいだけなんだ!」
「愛でる!?」

 そんな事を思い出していたら、急に賑やかになった。
 目の前では鼻のあたりを手で押さえたピアニーが、空いた手でマルベリーを呼んでいた。
 普通に怖い。こんな様子で怯えないでも何もないものだ。
 マダーと対峙していた場に登場した時は騎士らしい雰囲気だったのだが、オンオフの違いか落差が激しい女性である。
 バーガンディーがそう思っていると、サックスの拳骨がピアニーの頭に落ちた。

「痛い! 痛いじゃないか、サックス!」
「や・め・ん・か! シャルトルーズだけならまだしも、他所のお嬢さんに失礼な真似をするんじゃねぇ!」
「失礼だなんてそんな! 私はただ可愛いを伝えたいだけなのに! なぁ、そう思わないか、サフラン!?」
「ハハハ。思うけど、食事中は控えるべきだよ、ピアニー」

 同意を求めたピアニーに、サフランは笑顔でそう返す。
 サックスが嫌そうに顔を顰めた。

「おいコラ、サフラン。お前の婚約者なんだから、もっとちゃんと抑えろ」
「うん? 二人は婚約しているのか?」

 今になって初めて聞いた話に、バーガンディーは目を丸くした。
 問われたサフランは頷く。

「はい。ピアニーは私の婚約者ですよ。そう言えば、言っていませんでしたね」
「ああ。だからシャルは姉と呼んでいたのか」
「フフ。そうですよ、バーガンディーさん。来年あたりには結婚するんです」
「ほう、それはめでたいな。ではその時は、祝いの品を贈ろう」

 シャルトルーズが楽しそうに笑うので、バーガンディーもつられて微笑む。
 するとサフランが「ふむ」と何かを考えた様子になる。ちらり、とシャルトルーズを見た後で、

「……お祝いを頂けるのも有難いですか、もしお時間が会えば、陛下もご出席頂けたら嬉しいですね」

 なんて言った。シャルトルーズは「兄さん?」と首を傾げる。

「私がか? 良いのか?」
「はい。ほら、和平的な意味もね、ありますし。良いアピールになりそうでしょう?」

 笑顔でそう話すサフランに、言われてみれば確かにと、バーガンディーは納得する。
 その意味では確かに良いアイデアかもしれない。

「良さそうだな。どう思う、オーカー?」

 軽く頷きながら、バーガンディーは近くに控えていたオーカーを見上げる。
 大怪我を負った彼だったが、医術と魔法による治療の結果、無理をしなければ働けるくらいに回復していた。
 バーガンディーとしてはゆっくり休んで欲しかったのだが「今が頑張り時ですので。終わったらゆっくり休ませて頂きます」と、せめて使節団が滞在している間はとオーカーは望んで働いている。
 彼はバーガンディーの言葉ににこりと微笑んで、

「そうですね、良い事だと思いますよ」

 と頷いた。するとシャルトルーズが目を輝かせる。

「バーガンディーさん、兄さん達の結婚式に来てくれるんですか?」
「ああ。予定を調整して、出来る限り参加したいと思う。行く時は他に、マルベリーやオーカー達も同行する事になるだろうが」
「わあ! でしたら皆さんに喜んで頂けるよう、森の国のおすすめも、たくさん準備しておきますね!」
「フフ。楽しみにしているよ」

 にこにこ笑い合いながら、そんなやり取りをしていると。
 サックスが何とも言えない顔をサフランに向ける。

「おいコラ、誰がこっちの調整すると思ってんだ」
「いやぁ、だってね。シャルが喜んでくれそうな事を、私だってしたいんだよ」
「国同士の行事に私情を交えるんじゃねぇ……。……つーかよ、アレか。アレなのか」
「さあ。見た感じ、お互いに今はまだそこまでは行っていないけど、お節介くらいはしたいじゃない?」

 サフランがとても良い笑顔でそんな事を言っていた。
 何が、そこまで行っていないのだろうか。何のお節介だと言うのだろうか。
 バーガンディーはシャルトルーズと顔を見合わせる。二人揃って首を傾げた。
 そんな二人にピアニーとオーカーは小さく笑い、マルベリーも「なるほどであります」と訳知り顔をしている。

――――よくは分からないが。

 未来の約束が出来た。
 そのために、和平を成功させて、国同士の交流を繋げていかなくては。
 目標がバーガンディーの中にまた一つ生まれ、別れの寂しさが、少し和らいでいく。

「バーガンディーさん、バーガンディーさん」
「何だい、シャル」
「このスープ、おかわりしても良いですか?」

 初めて出会った時のように、シャルトルーズが手を挙げて聞いて来る。
 バーガンディーは笑って「ああ、ほどほどにな」と答えたのだった。

END
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