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管理機関プロメテウス・広報室。
その仕事の主な目的は『管理機関プロメテウスのイメージアップ』と『吸血鬼と人間の仲を取り持つ』という事にある。後者に関しては、主に人間から吸血鬼に対する感情の調整という意味合いが強い。
そんな広報室の仕事は、周囲の者達からは仕事は営業と事務の仕事が主だと思われる事が多かった。最初にここに配属になった時はシラハもそう思った。
実際に普通の広報室ならそうだろう。だがここ、プロメテウスの広報室は少し毛色が違っていた。
『狂鬼』の対処を始めとした、荒事が回ってくるのだ。
そしてそれを調査して、問題があったら捕まえたり解決したりして「安全は守りましたよ!」と宣伝する。そういった仕事も行っているのである。
こういう仕事は治安維持を担当する警備部の役割ではないだろうか。シラハもそう思ったが、あちらはあちらで別の役割があるようだ。
まぁ、とにかく。広報室に配属になって二年。シラハは同僚達と共に、ずっとこういう荒事に従事している。
「ぁあぁぁぁぁあ! 何だよ、何だよお前らッ! 薬をくれるのか!? くれないのか!? はっきりしろよォ!」
「あげませんよ。勝手に選択肢を生やさないでください」
シラハはそう言うと、腰のホルスターから『自動拳銃・雷電』を抜き、問答無用で引き金を引く。
白い電流の弾がサザナミに直進し――――着弾寸でのところで、上跳んで避けられた。
さすが吸血鬼だ。いくら『狂鬼』になっても身体能力は衰えていない。
――――しかしそれ以上に。シラハ達は戦い慣れていた。
「やあやあ! キミ、なかなか元気でいいねぇ!」
サザナミの跳んだ先。
それよりもっと上に、スメラギはいた。
いつ跳んだのかとサザナミがぎょっと目を見開くのが見える。
そして対応しようとした時。
スメラギの拳がサザナミの後頭部を殴りつけた!
「ぐっ!?」
あのひょろひょろした身体のどこにそんな力があるのか。
スメラギの一撃を受けたサザナミは、受け身すら取る暇なく一直線に、地面に激突する。
(インドア派の見た目で、ゴリゴリの武闘派なんだよな、あの人)
そんな感想を独り言ちながら、シラハは『自動拳銃・雷電』の銃口を、落下地点に向ける。
すると程なくして、サザナミがいるであろう場所からじわじわと、血の様に赤い根のようなものが無数に生え始めた。
血の芸術という、吸血鬼達の特殊能力だ。
吸血鬼達は一人に一つ、何かしらの特殊能力を持って生まれる。
自身の血を利用して行うそれらを前にすれば、身体能力の時点で化け物じみているのに、あんな能力まであるなんて反則だろうと言う人間もいた。
「邪魔なんだよッ! 追跡者! 」
サザナミはそう吼えると、右手を前に突き出した。
するとその赤い根は四方八方に伸び、その一つがシラハを狙う。
けれどシラハは冷静だ。銃口をサザナミに向けたまま、回避する動作すら見せない。
根の先が、刃物の様に鋭く尖る。
速度を上げてシラハに向かう。
その赤く光る切っ先が、その体に触れた――――瞬間。
触れた先端から燃え上がり、まるで蝶々が飛び立つように根は霧散し、ハラハラと空に舞い上がった。
「!?」
ぎょっとしたのはサザナミだ。
そんなサザナミに向かって、シラハは再度引き金を引く。
電流を凝縮した白い弾丸が今度こそサザナミに直撃する。
けたたましい音と、光。
人間に向けて放った際の倍以上の威力だ。
ほぼ同時に、トン、と軽い音を立てて、スメラギが地面に着地した。
「アハハ、容赦がないねぇシラハ君!」
「容赦する相手でもないでしょう。それにスメラギ様も他人の事を言えますか。数秒前のご自分の行動を思い出してみては?」
「僕はこれでもちょっとは手加減したよ? ちょっとはね。それはそれとして、シラハ君は少し回避を覚えた方が良いかな。服が破れるでしょ」
「この方が効率的なので。経費で落ちなくなったら考えます」
当たった箇所を見れば、服に穴が開いている。スメラギは「そういう問題じゃないよ」と肩をすくめた。
そんなやりとりをしていると、サザナミを苛んでいた光が収まる。その体からはぷすぷすと煙が上がっている。
ややあって、サザナミがガクンと地面に膝をついた。
「何で、俺の血の芸術が……」
「生憎と私には効かないんですよ。ああいうの」
サザナミの問いかけにシラハはそう返す。
これがシラハの『聖人体質』だ。この体質は触れた吸血鬼を悉く焼く。
それは吸血鬼の血で行使される血の芸術に対しても発揮される。
そしてこれこそが絶対強者の吸血鬼から天敵と呼ばれる所以である。
サザナミがギッ、と目を見開く。
「ああ、ああ、そうか、聖人体質……! 何で、プロメテウスがそんなものを生かしている……!?」
「何故と言われても。プロメテウスが掲げているのは人間と吸血鬼の共存だ。聖人体質だろうが何だろうが、そこに違いはないだろう?」
「違いがないだと? 笑わせる。聖人体質を片っ端から捕まえて、処分してきたお前らがどの口で」
吐き捨てるようなサザナミの言葉に、スメラギは「ふむふむ」と腕を組んだ。
「ドラッグが抜けてきたみたいだねぇ。頭が回るようになってきている。気分はどうだい?」
「最悪だ。ああ、最悪な気分だよ。殴られて、電流喰らわされて、吐きそうで動けやしねぇ」
「そうか、それは何よりだ」
スメラギはニッと笑うと、上着の内ポケットから書類を取り出した。丁寧にたたまれたそれを開くと、サザナミの目の前に突き出す。
「サザナミ・クルス。傷害及び器物損壊、その他諸々の容疑でキミを拘束する。とりあえず極刑ではないから安心しなさい。更生プログラムもきっちり組まれるはずだからね」
「…………ハッ、更生?」
サザナミは鼻で笑って、スメラギを見上げる。
「気が狂いそうなくらい長く生きる吸血鬼が、更生なんてするとでも思ってんのか」
「そこは、ホラ、個々の自由って言うでしょ。更生するかしないかはキミ次第さ。僕達はそのスタート地点に送るだけ」
遠まわしだが、要約すると「好きにすれば」とスメラギは笑顔で言い放つ。
実際に、サザナミが言った通り、吸血鬼が更生するかと言われれば微妙な話だ。
長く生きるという事は、その分、固定観念に凝り固まる。長ければ長い分だけ、変化に対して抵抗感を持つものだ。
だから変わらない。変わろうとしない。プロメテウスの上層部が、その良い例だ。
「私は別に、変わらなくても良いとは思いますが」
「おや、真面目なシラハ君にしては珍しい発言だね」
「外に出て騒ぎを起こされるより、厳重に拘束されていた方が、こちらの仕事が幾分楽です」
「拘束し続けるのだって費用がかかるんだよ?」
「金なら腐るほどあるでしょう。プロメテウスには」
そう言って、シラハは肩をすくめてみせる。
それからサザナミを見下ろして、
「更生プログラムの最中は、僅かですか、携わった作業ごとに報奨金が支給されます。それに大忙しですから、嫌だ嫌だと嘆く暇などありませんよ。外でドラッグに浸るより、よほど有益でしょう」
「…………」
シラハの言葉にサザナミはポカンとした表情になった。
「いや……あの……何……?」
「まだドラッグが抜けきっていないようですよ、スメラギ様」
「そうかい、じゃあもう一発行こうか!」
「何で聞き返しただけで、ぶっ飛ばされる事になるんだよっ!」
顔を顰めてサザナミは怒鳴る。そこに先ほどまでのドラッグに縋っていた情けない姿はなかった。
やはり、あれも『イカロス』の効果の一つなのだろう。心を弱らせる、何かが入っている。
シラハがそう考えていると、
「あーもう、分かんねぇ気持ち悪ぃ……。つーかよ、吸血鬼の天敵が、何でプロメテウスにいるんだよ」
とサザナミにぶっきらぼうに聞かれた。
「都合が良いからですよ、お互いに」
「都合?」
怪訝そうなサザナミ。そんな会話をしていると、スメラギが「さて」と間に入った。
「そろそろ彼を警備部に引き渡して、メノウ君達の手伝いに行こうか」
「そうですね」
スメラギの言葉にシラハは頷く。
スメラギが手を挙げ警備部を呼ぶと、直ぐに彼らはやって来て、サザナミを拘束して連れて行った。
ずるずると引き摺られるように連れて行かれる後ろ姿を見ながら、シラハはふと、サザナミの言葉を頭の中で繰り返す。
何でプロメテウスに。
そう問われた事は一度や二度じゃない。
理由はシンプルだ。先ほどもいった通り、ここにいるのは都合が良いからである。
――――過去の後悔を、繰り返さないために。
その仕事の主な目的は『管理機関プロメテウスのイメージアップ』と『吸血鬼と人間の仲を取り持つ』という事にある。後者に関しては、主に人間から吸血鬼に対する感情の調整という意味合いが強い。
そんな広報室の仕事は、周囲の者達からは仕事は営業と事務の仕事が主だと思われる事が多かった。最初にここに配属になった時はシラハもそう思った。
実際に普通の広報室ならそうだろう。だがここ、プロメテウスの広報室は少し毛色が違っていた。
『狂鬼』の対処を始めとした、荒事が回ってくるのだ。
そしてそれを調査して、問題があったら捕まえたり解決したりして「安全は守りましたよ!」と宣伝する。そういった仕事も行っているのである。
こういう仕事は治安維持を担当する警備部の役割ではないだろうか。シラハもそう思ったが、あちらはあちらで別の役割があるようだ。
まぁ、とにかく。広報室に配属になって二年。シラハは同僚達と共に、ずっとこういう荒事に従事している。
「ぁあぁぁぁぁあ! 何だよ、何だよお前らッ! 薬をくれるのか!? くれないのか!? はっきりしろよォ!」
「あげませんよ。勝手に選択肢を生やさないでください」
シラハはそう言うと、腰のホルスターから『自動拳銃・雷電』を抜き、問答無用で引き金を引く。
白い電流の弾がサザナミに直進し――――着弾寸でのところで、上跳んで避けられた。
さすが吸血鬼だ。いくら『狂鬼』になっても身体能力は衰えていない。
――――しかしそれ以上に。シラハ達は戦い慣れていた。
「やあやあ! キミ、なかなか元気でいいねぇ!」
サザナミの跳んだ先。
それよりもっと上に、スメラギはいた。
いつ跳んだのかとサザナミがぎょっと目を見開くのが見える。
そして対応しようとした時。
スメラギの拳がサザナミの後頭部を殴りつけた!
「ぐっ!?」
あのひょろひょろした身体のどこにそんな力があるのか。
スメラギの一撃を受けたサザナミは、受け身すら取る暇なく一直線に、地面に激突する。
(インドア派の見た目で、ゴリゴリの武闘派なんだよな、あの人)
そんな感想を独り言ちながら、シラハは『自動拳銃・雷電』の銃口を、落下地点に向ける。
すると程なくして、サザナミがいるであろう場所からじわじわと、血の様に赤い根のようなものが無数に生え始めた。
血の芸術という、吸血鬼達の特殊能力だ。
吸血鬼達は一人に一つ、何かしらの特殊能力を持って生まれる。
自身の血を利用して行うそれらを前にすれば、身体能力の時点で化け物じみているのに、あんな能力まであるなんて反則だろうと言う人間もいた。
「邪魔なんだよッ! 追跡者! 」
サザナミはそう吼えると、右手を前に突き出した。
するとその赤い根は四方八方に伸び、その一つがシラハを狙う。
けれどシラハは冷静だ。銃口をサザナミに向けたまま、回避する動作すら見せない。
根の先が、刃物の様に鋭く尖る。
速度を上げてシラハに向かう。
その赤く光る切っ先が、その体に触れた――――瞬間。
触れた先端から燃え上がり、まるで蝶々が飛び立つように根は霧散し、ハラハラと空に舞い上がった。
「!?」
ぎょっとしたのはサザナミだ。
そんなサザナミに向かって、シラハは再度引き金を引く。
電流を凝縮した白い弾丸が今度こそサザナミに直撃する。
けたたましい音と、光。
人間に向けて放った際の倍以上の威力だ。
ほぼ同時に、トン、と軽い音を立てて、スメラギが地面に着地した。
「アハハ、容赦がないねぇシラハ君!」
「容赦する相手でもないでしょう。それにスメラギ様も他人の事を言えますか。数秒前のご自分の行動を思い出してみては?」
「僕はこれでもちょっとは手加減したよ? ちょっとはね。それはそれとして、シラハ君は少し回避を覚えた方が良いかな。服が破れるでしょ」
「この方が効率的なので。経費で落ちなくなったら考えます」
当たった箇所を見れば、服に穴が開いている。スメラギは「そういう問題じゃないよ」と肩をすくめた。
そんなやりとりをしていると、サザナミを苛んでいた光が収まる。その体からはぷすぷすと煙が上がっている。
ややあって、サザナミがガクンと地面に膝をついた。
「何で、俺の血の芸術が……」
「生憎と私には効かないんですよ。ああいうの」
サザナミの問いかけにシラハはそう返す。
これがシラハの『聖人体質』だ。この体質は触れた吸血鬼を悉く焼く。
それは吸血鬼の血で行使される血の芸術に対しても発揮される。
そしてこれこそが絶対強者の吸血鬼から天敵と呼ばれる所以である。
サザナミがギッ、と目を見開く。
「ああ、ああ、そうか、聖人体質……! 何で、プロメテウスがそんなものを生かしている……!?」
「何故と言われても。プロメテウスが掲げているのは人間と吸血鬼の共存だ。聖人体質だろうが何だろうが、そこに違いはないだろう?」
「違いがないだと? 笑わせる。聖人体質を片っ端から捕まえて、処分してきたお前らがどの口で」
吐き捨てるようなサザナミの言葉に、スメラギは「ふむふむ」と腕を組んだ。
「ドラッグが抜けてきたみたいだねぇ。頭が回るようになってきている。気分はどうだい?」
「最悪だ。ああ、最悪な気分だよ。殴られて、電流喰らわされて、吐きそうで動けやしねぇ」
「そうか、それは何よりだ」
スメラギはニッと笑うと、上着の内ポケットから書類を取り出した。丁寧にたたまれたそれを開くと、サザナミの目の前に突き出す。
「サザナミ・クルス。傷害及び器物損壊、その他諸々の容疑でキミを拘束する。とりあえず極刑ではないから安心しなさい。更生プログラムもきっちり組まれるはずだからね」
「…………ハッ、更生?」
サザナミは鼻で笑って、スメラギを見上げる。
「気が狂いそうなくらい長く生きる吸血鬼が、更生なんてするとでも思ってんのか」
「そこは、ホラ、個々の自由って言うでしょ。更生するかしないかはキミ次第さ。僕達はそのスタート地点に送るだけ」
遠まわしだが、要約すると「好きにすれば」とスメラギは笑顔で言い放つ。
実際に、サザナミが言った通り、吸血鬼が更生するかと言われれば微妙な話だ。
長く生きるという事は、その分、固定観念に凝り固まる。長ければ長い分だけ、変化に対して抵抗感を持つものだ。
だから変わらない。変わろうとしない。プロメテウスの上層部が、その良い例だ。
「私は別に、変わらなくても良いとは思いますが」
「おや、真面目なシラハ君にしては珍しい発言だね」
「外に出て騒ぎを起こされるより、厳重に拘束されていた方が、こちらの仕事が幾分楽です」
「拘束し続けるのだって費用がかかるんだよ?」
「金なら腐るほどあるでしょう。プロメテウスには」
そう言って、シラハは肩をすくめてみせる。
それからサザナミを見下ろして、
「更生プログラムの最中は、僅かですか、携わった作業ごとに報奨金が支給されます。それに大忙しですから、嫌だ嫌だと嘆く暇などありませんよ。外でドラッグに浸るより、よほど有益でしょう」
「…………」
シラハの言葉にサザナミはポカンとした表情になった。
「いや……あの……何……?」
「まだドラッグが抜けきっていないようですよ、スメラギ様」
「そうかい、じゃあもう一発行こうか!」
「何で聞き返しただけで、ぶっ飛ばされる事になるんだよっ!」
顔を顰めてサザナミは怒鳴る。そこに先ほどまでのドラッグに縋っていた情けない姿はなかった。
やはり、あれも『イカロス』の効果の一つなのだろう。心を弱らせる、何かが入っている。
シラハがそう考えていると、
「あーもう、分かんねぇ気持ち悪ぃ……。つーかよ、吸血鬼の天敵が、何でプロメテウスにいるんだよ」
とサザナミにぶっきらぼうに聞かれた。
「都合が良いからですよ、お互いに」
「都合?」
怪訝そうなサザナミ。そんな会話をしていると、スメラギが「さて」と間に入った。
「そろそろ彼を警備部に引き渡して、メノウ君達の手伝いに行こうか」
「そうですね」
スメラギの言葉にシラハは頷く。
スメラギが手を挙げ警備部を呼ぶと、直ぐに彼らはやって来て、サザナミを拘束して連れて行った。
ずるずると引き摺られるように連れて行かれる後ろ姿を見ながら、シラハはふと、サザナミの言葉を頭の中で繰り返す。
何でプロメテウスに。
そう問われた事は一度や二度じゃない。
理由はシンプルだ。先ほどもいった通り、ここにいるのは都合が良いからである。
――――過去の後悔を、繰り返さないために。
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