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第15話 伝えるべき言葉
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ウェルスの姿が見えなくなった後、またケビンが現れた。男は少し残念そうに息を吐きながら話しかけてくる。
「何も言わなくて良かったんですか? 貴女、ウェルスさんが好きなんでしょう?」
「い、言う訳ないだろ! ウェルスには、彼女がいるってのにっ」
「え? 彼女? いましたっけ」
「新聞読んでないのかよ。ちゃんとここに書いてる」
「ああ、これですか」
ケビンはクスリと笑って、その記事を声に出して読んだ。まるで、ディーナに読み聞かせるかのように。
「ウェルスに恋人が!? ミハエル騎士団の隊長であるウェルス・ラーゼに恋人がいるのではないかという噂が広まった。美人と評判の一般女性と、笑顔で語り合う姿が何度も目撃されている」
「もういいよ。さっき読んだんだ」
「まぁ最後まで聞いてください。互いに恋愛感情を抱いているのか、本人に直撃してみた」
何の嫌がらせかケビンは続けた。分かり切っていることを更に突き付けられて、ディーナは逃げる様に目を瞑る。
「渦中の女性は本紙の取材に対し、『素晴らしい弓矢を持っていたので、それに惹かれただけ』とコメント。同じくウェルスも『弓矢を理解してくれる素晴らしい女性だが、恋愛感情は持っていない』と表明した」
おや、とディーナは顔を上げた。何か様子が違って来ている。
「以上ですよ?」
そう言われてディーナはケビンを見上げた。
「なぁ、あんたさ」
「ケビンです」
「ケビン、嘘読んでないよな?」
「そんなことしませんよ。ウェルスさんが記事の通りと言うなら、何も無いって事でしょう」
「そ、そっか……あたし、ちゃんと読めてなくって……」
恋人というのは嘘だった。ホッとすると同時にこの気持ちをどうしてもウェルスに伝えたくなったが、一人首を横に振る。
「どうしました?」
「何でもないよ」
「会議室はあちらですよ。ウェルスさんを追いかけて行って、気持ちを伝えてみては?」
「出来るかよ。あたし、奴隷だったんだ。ウェルスに迷惑かけちゃう……」
「でも、好きなんですよね。見ていれば分かります」
「……うん」
ディーナが肯定すると、ケビンは目を細めて微笑んだ。
「では行くべきです! 想いを伝えるだけでもいいじゃないですか。さぁ、会議室に急いで。きっと彼は、貴女の言葉を待っているはずですよ!」
キラキラした目で言われると、そんな気になってくる。
ウェルスはもう立派な地位の騎士だ。今更好きだと想いを伝えた所で、その地位を捨てる様な短慮な真似はしないだろう。
ただ、分かって欲しい。自分のこの想いを。もう恋人という関係に戻れないと分かっていても、ウェルスに知っていて欲しかった。
ディーナは、会議室に向かって走り始めた。
伝える、と決めたら早く伝えたくて仕方が無い。ディーナは会議室の扉を開けるのももどかしく、その中へと飛び込んだ。
中には数人の騎士達と、愛しい人、ウェルス。
いきなり扉を開けて入ってしまったディーナは、周りの注目を浴びた。
「ディーナ?」
その中で、ウェルスが驚きの声を上げている。
ディーナは思いの丈をぶつけるため、大きく息を吸い込んだ。
「ウェルス、あたし、あの時、本当は別れたくなんかなかったっ!!」
更に注目を集めるディーナ。急に恥ずかしさが込み上げ、顔から火が出るほど赤面した。それでも一度発した言葉は止まる所を知らない。
「あたしはウェルスに夢を叶えて欲しくて、別れる事にしたんだ! 今更こんな事言われても困らせるだけなのは分かってるけど、あたし、今でもウェルスが好きなんだ!」
言い終えると、より一層顔が熱くなった。
周りは、ウェルスでさえも唖然としている様子が分かる。その中で、二人の騎士だけが至って冷静だった。
「クスクス……ウェルス殿、おもてになりますね。少しくらいなら外しても大丈夫ですよ」
「ウェルス殿、団長が来られる前に、この娘を連れて出て貰おう」
言い方は違えど、言っている内容は同じだ。
ウェルスはロレンツォに背中を押し出される様にディーナの傍に来て、「出よう」と囁いた。
中ではイオスが、今見聞きしたことは忘れる様にと他の騎士達に言いつけていた。
会議室を出て少し奥まった所に来ると、先に歩いていたウェルスは振り返ってディーナを見た。ディーナはばつが悪くて、顔を伏せる。
「ディーナ」
「ごめん、ウェルス……あたし、また迷惑かけちゃったよな……」
シュンと沈むディーナに、ウェルスは首を横に振って応えた。
「ありがとう、ディーナ。嬉しかった。だが……」
最後に紡がれた接続詞に、ディーナはコクリと首を縦に下ろす。
「分かってる。伝えたかっただけなんだ」
「……すまない。今の地位を、私は捨てるわけにいかない」
「……うん」
「すまない、ディーナ……」
ウェルスはそう言うと、ディーナを強く抱き締めてくれた。彼は騎士になった事で、奴隷と一緒になる意味を理解していたのだ。
しかしウェルスもまた、自分を好いていてくれたのだという事が伝わってきて、それだけで幸せを感じた。
彼は一生、騎士という立場から変わる事はないだろう。あの新聞の報道は間違いだったが、いつかウェルスに良い人が出来た時、今度は祝福出来そうな気がした。
「……行かなくては」
「うん、ごめん。ありがとう、ウェルス」
ウェルスの気持ちが分かっただけで……自分の気持ちを伝えられただけで十分だ。
彼には彼の、そして自分には自分の進むべき道がある。
ディーナはそう考え、この先何があっても前向きに生きようと心に決めた。
「何も言わなくて良かったんですか? 貴女、ウェルスさんが好きなんでしょう?」
「い、言う訳ないだろ! ウェルスには、彼女がいるってのにっ」
「え? 彼女? いましたっけ」
「新聞読んでないのかよ。ちゃんとここに書いてる」
「ああ、これですか」
ケビンはクスリと笑って、その記事を声に出して読んだ。まるで、ディーナに読み聞かせるかのように。
「ウェルスに恋人が!? ミハエル騎士団の隊長であるウェルス・ラーゼに恋人がいるのではないかという噂が広まった。美人と評判の一般女性と、笑顔で語り合う姿が何度も目撃されている」
「もういいよ。さっき読んだんだ」
「まぁ最後まで聞いてください。互いに恋愛感情を抱いているのか、本人に直撃してみた」
何の嫌がらせかケビンは続けた。分かり切っていることを更に突き付けられて、ディーナは逃げる様に目を瞑る。
「渦中の女性は本紙の取材に対し、『素晴らしい弓矢を持っていたので、それに惹かれただけ』とコメント。同じくウェルスも『弓矢を理解してくれる素晴らしい女性だが、恋愛感情は持っていない』と表明した」
おや、とディーナは顔を上げた。何か様子が違って来ている。
「以上ですよ?」
そう言われてディーナはケビンを見上げた。
「なぁ、あんたさ」
「ケビンです」
「ケビン、嘘読んでないよな?」
「そんなことしませんよ。ウェルスさんが記事の通りと言うなら、何も無いって事でしょう」
「そ、そっか……あたし、ちゃんと読めてなくって……」
恋人というのは嘘だった。ホッとすると同時にこの気持ちをどうしてもウェルスに伝えたくなったが、一人首を横に振る。
「どうしました?」
「何でもないよ」
「会議室はあちらですよ。ウェルスさんを追いかけて行って、気持ちを伝えてみては?」
「出来るかよ。あたし、奴隷だったんだ。ウェルスに迷惑かけちゃう……」
「でも、好きなんですよね。見ていれば分かります」
「……うん」
ディーナが肯定すると、ケビンは目を細めて微笑んだ。
「では行くべきです! 想いを伝えるだけでもいいじゃないですか。さぁ、会議室に急いで。きっと彼は、貴女の言葉を待っているはずですよ!」
キラキラした目で言われると、そんな気になってくる。
ウェルスはもう立派な地位の騎士だ。今更好きだと想いを伝えた所で、その地位を捨てる様な短慮な真似はしないだろう。
ただ、分かって欲しい。自分のこの想いを。もう恋人という関係に戻れないと分かっていても、ウェルスに知っていて欲しかった。
ディーナは、会議室に向かって走り始めた。
伝える、と決めたら早く伝えたくて仕方が無い。ディーナは会議室の扉を開けるのももどかしく、その中へと飛び込んだ。
中には数人の騎士達と、愛しい人、ウェルス。
いきなり扉を開けて入ってしまったディーナは、周りの注目を浴びた。
「ディーナ?」
その中で、ウェルスが驚きの声を上げている。
ディーナは思いの丈をぶつけるため、大きく息を吸い込んだ。
「ウェルス、あたし、あの時、本当は別れたくなんかなかったっ!!」
更に注目を集めるディーナ。急に恥ずかしさが込み上げ、顔から火が出るほど赤面した。それでも一度発した言葉は止まる所を知らない。
「あたしはウェルスに夢を叶えて欲しくて、別れる事にしたんだ! 今更こんな事言われても困らせるだけなのは分かってるけど、あたし、今でもウェルスが好きなんだ!」
言い終えると、より一層顔が熱くなった。
周りは、ウェルスでさえも唖然としている様子が分かる。その中で、二人の騎士だけが至って冷静だった。
「クスクス……ウェルス殿、おもてになりますね。少しくらいなら外しても大丈夫ですよ」
「ウェルス殿、団長が来られる前に、この娘を連れて出て貰おう」
言い方は違えど、言っている内容は同じだ。
ウェルスはロレンツォに背中を押し出される様にディーナの傍に来て、「出よう」と囁いた。
中ではイオスが、今見聞きしたことは忘れる様にと他の騎士達に言いつけていた。
会議室を出て少し奥まった所に来ると、先に歩いていたウェルスは振り返ってディーナを見た。ディーナはばつが悪くて、顔を伏せる。
「ディーナ」
「ごめん、ウェルス……あたし、また迷惑かけちゃったよな……」
シュンと沈むディーナに、ウェルスは首を横に振って応えた。
「ありがとう、ディーナ。嬉しかった。だが……」
最後に紡がれた接続詞に、ディーナはコクリと首を縦に下ろす。
「分かってる。伝えたかっただけなんだ」
「……すまない。今の地位を、私は捨てるわけにいかない」
「……うん」
「すまない、ディーナ……」
ウェルスはそう言うと、ディーナを強く抱き締めてくれた。彼は騎士になった事で、奴隷と一緒になる意味を理解していたのだ。
しかしウェルスもまた、自分を好いていてくれたのだという事が伝わってきて、それだけで幸せを感じた。
彼は一生、騎士という立場から変わる事はないだろう。あの新聞の報道は間違いだったが、いつかウェルスに良い人が出来た時、今度は祝福出来そうな気がした。
「……行かなくては」
「うん、ごめん。ありがとう、ウェルス」
ウェルスの気持ちが分かっただけで……自分の気持ちを伝えられただけで十分だ。
彼には彼の、そして自分には自分の進むべき道がある。
ディーナはそう考え、この先何があっても前向きに生きようと心に決めた。
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