11 / 12
11.そうこなくっちゃ!
しおりを挟む
今日もディノークス騎士隊の訓練所では、キアリカの大きな声が響き渡る。
「セルクッ!! 何度言わせるの!? そんな真っ直ぐな剣じゃ読まれるだけよ! もっと工夫しなさい!!」
キアリカは己が打ちのめしたセルクにそんな言葉を浴びせる。彼は痛みと疲れでよたよたしながらも、「もう一度お願いしますっ!」と模擬剣を向けて来る。そんな彼を、キアリカは再度容赦なく打ちのめした。
「き、キアリカ隊長~、半分は終わったよ~……帰っていい~?」
ヨロヨロと戻って来たのは、もう一人の班長サイラスだ。
「まだ半分? どれだけ時間掛けてるの! もっと真剣に取り組みなさいっ」
「えーん。僕、執務は苦手なんだよーっ」
「さっさと行くっ!」
「キアリカ隊長の鬼ぃぃいいっ」
「何ですって!?」
模擬剣をギュッと握ると、サイラスは転がるように逃げて行った。
後ろからは呆れたような低音ボイスが響いてくる。
「キアリカ、最近のお前は厳し過ぎる。成長の為とは言え、潰しては元も子もない」
「じゃあリカルドが隊長職を担ってくれれば良い話でしょう? どう、交代してくれるかしら」
「……藪蛇だった」
リカルドはそう呟いて逃げてしまった。あの男にその気がない以上、やはり若者を鍛え上げるしかない。
「セルク、立ちなさい。次は全体訓練の指揮を取ってもらうわっ」
「は、はい……っ」
そう指示を出すキアリカの胸元に、キラリと光る物がある。
もうディノークスの騎士の誰もが知っていた。
それは恋人である帝都騎士団長、エルドレッドから貰ったものである、と──
三年後。
ディノークス騎士隊に新しい隊長が就任し、キアリカは隊長職を退いた。
それだけでなく、ディノークス騎士隊を辞めた。
誰もそれを引き留める事はしなかった。
何故なら全員、キアリカの望む事を知っていたからだ。
「総員、騎士団長に敬礼っ!」
キアリカは声を張り上げる。
今の地位は……何と、騎士団長補佐だ。
またも屈強な男達を従えて、キアリカは壇上に立っている。
夫であるエルドレッドの話が終わると、団員達に指示を与えてその場を解散させた。
「キアが居てくれると助かるな」
「ほら、のんびりしてないで、さっさと書類を片付けちゃいましょ!」
「ま、ちょっと厳しいけどな」
「早く終わらせて、今日は食事に行きましょうよ。ね?」
キアリカがにっこりと音が出そうなほど笑いかけると、この夫は俄然やる気を出してくれるのだ。
「よし。じゃあデートの時間を作るぞ!」
「そうこなくっちゃ!」
キアリカは結婚後、家庭に入る事はしなかった。
いや、厳密に言うと少しだけ専業主婦をやっていたのだが、帰りの遅いエルドレッドをただ待つだけというのは性に合わず、帝都騎士団に入団したのだ。
それまでの功績や実力を買われて、あっという間に団長補佐へとのし上がった。
愛するエルドレッドの傍にいられるし、彼を手伝って早く仕事を終わらせられるし、一石二鳥である。
帝都でも有名になったキアリカを、誰も悪くは言わなくなった。
その実力は折り紙つきで、誰もが認めるところとなったのだから。
強勇の美麗姫は強く優しく、世の為人の為に尽くす女性の鑑だと、更にその二つ名は広がっていった。
さて、強勇の美麗姫は幸せになれたのか?
答えは、イエスである。
イラスト/星影様
ーーーーーーーーーーーーーーー
お読みくださり、ありがとうございました!
アンゼルード帝国の騎士シリーズ、随時公開していきます。
よろしくお願いします!
『たとえ貴方が地に落ちようと』公開中
『令嬢ルティアは眼鏡騎士に恋をする』公開中
『素朴騎士は騎士隊長に恋をする』公開中
『隻腕騎士は騎士隊長に恋をする』公開中
『隻腕騎士は長髪騎士に惚れられる』公開中
『主役は貴女です!』公開中
『強勇の美麗姫は幸せになれるのか』公開中
『長髪騎士と隻腕騎士の、ほっとミソスープ』
『団長と美麗姫のハッピーバレンマイン』
「セルクッ!! 何度言わせるの!? そんな真っ直ぐな剣じゃ読まれるだけよ! もっと工夫しなさい!!」
キアリカは己が打ちのめしたセルクにそんな言葉を浴びせる。彼は痛みと疲れでよたよたしながらも、「もう一度お願いしますっ!」と模擬剣を向けて来る。そんな彼を、キアリカは再度容赦なく打ちのめした。
「き、キアリカ隊長~、半分は終わったよ~……帰っていい~?」
ヨロヨロと戻って来たのは、もう一人の班長サイラスだ。
「まだ半分? どれだけ時間掛けてるの! もっと真剣に取り組みなさいっ」
「えーん。僕、執務は苦手なんだよーっ」
「さっさと行くっ!」
「キアリカ隊長の鬼ぃぃいいっ」
「何ですって!?」
模擬剣をギュッと握ると、サイラスは転がるように逃げて行った。
後ろからは呆れたような低音ボイスが響いてくる。
「キアリカ、最近のお前は厳し過ぎる。成長の為とは言え、潰しては元も子もない」
「じゃあリカルドが隊長職を担ってくれれば良い話でしょう? どう、交代してくれるかしら」
「……藪蛇だった」
リカルドはそう呟いて逃げてしまった。あの男にその気がない以上、やはり若者を鍛え上げるしかない。
「セルク、立ちなさい。次は全体訓練の指揮を取ってもらうわっ」
「は、はい……っ」
そう指示を出すキアリカの胸元に、キラリと光る物がある。
もうディノークスの騎士の誰もが知っていた。
それは恋人である帝都騎士団長、エルドレッドから貰ったものである、と──
三年後。
ディノークス騎士隊に新しい隊長が就任し、キアリカは隊長職を退いた。
それだけでなく、ディノークス騎士隊を辞めた。
誰もそれを引き留める事はしなかった。
何故なら全員、キアリカの望む事を知っていたからだ。
「総員、騎士団長に敬礼っ!」
キアリカは声を張り上げる。
今の地位は……何と、騎士団長補佐だ。
またも屈強な男達を従えて、キアリカは壇上に立っている。
夫であるエルドレッドの話が終わると、団員達に指示を与えてその場を解散させた。
「キアが居てくれると助かるな」
「ほら、のんびりしてないで、さっさと書類を片付けちゃいましょ!」
「ま、ちょっと厳しいけどな」
「早く終わらせて、今日は食事に行きましょうよ。ね?」
キアリカがにっこりと音が出そうなほど笑いかけると、この夫は俄然やる気を出してくれるのだ。
「よし。じゃあデートの時間を作るぞ!」
「そうこなくっちゃ!」
キアリカは結婚後、家庭に入る事はしなかった。
いや、厳密に言うと少しだけ専業主婦をやっていたのだが、帰りの遅いエルドレッドをただ待つだけというのは性に合わず、帝都騎士団に入団したのだ。
それまでの功績や実力を買われて、あっという間に団長補佐へとのし上がった。
愛するエルドレッドの傍にいられるし、彼を手伝って早く仕事を終わらせられるし、一石二鳥である。
帝都でも有名になったキアリカを、誰も悪くは言わなくなった。
その実力は折り紙つきで、誰もが認めるところとなったのだから。
強勇の美麗姫は強く優しく、世の為人の為に尽くす女性の鑑だと、更にその二つ名は広がっていった。
さて、強勇の美麗姫は幸せになれたのか?
答えは、イエスである。
イラスト/星影様
ーーーーーーーーーーーーーーー
お読みくださり、ありがとうございました!
アンゼルード帝国の騎士シリーズ、随時公開していきます。
よろしくお願いします!
『たとえ貴方が地に落ちようと』公開中
『令嬢ルティアは眼鏡騎士に恋をする』公開中
『素朴騎士は騎士隊長に恋をする』公開中
『隻腕騎士は騎士隊長に恋をする』公開中
『隻腕騎士は長髪騎士に惚れられる』公開中
『主役は貴女です!』公開中
『強勇の美麗姫は幸せになれるのか』公開中
『長髪騎士と隻腕騎士の、ほっとミソスープ』
『団長と美麗姫のハッピーバレンマイン』
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
