思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜

長岡更紗

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14.職業

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 晴臣くんの家は、体育館から少し離れた場所にあった。
 中に入らせて貰うと、一人暮らしをしているとは思えない広さでびっくりしちゃう。

「ったく晴臣は良いトコ住んでんだなー」
「社会人の僕より、よっぽど良い部屋だよ」

 緑川さんと平さんの言葉に完全同意。
 私の住んでるアパートの、五倍の広さはありそう。しかも最近出来た新しいマンションだから、とっても綺麗。

「こいつ、金持ちのボンボンだから」
「ボンボン言うな! そこまで金持ちちげーわ!」

 拓真くんの言葉に晴臣くんは否定してたけど、この部屋は……どう見ても、結構なお金持ちだと思うんだけど。
 リビングのテーブルだけじゃ足りないからと、和室の方のテーブルを出してくっ付ける。
 座布団をポンポンと放り投げるように置いていて、そこの一つに座らせて貰った。

「園田さん、ソファーに座っていっすよ。地べたにはヤロウに座らせるんで」
「ええ、そんな。私はここで大丈夫だよ?」

 私が遠慮すると、「女の子を床に座らせて、俺らがソファーに座るわけに行かない」と、今いる全員が床の方に座ってしまった……。
 私、ちょっと悪いことしちゃった? 勧められた時、素直にソファーに座っておけば良かったのかも……今更だけど。
 でも、拓真くんが私の隣に座ってくれたのは、ちょっと嬉しい。

「タクマ、園田さんの隣ズリィ!!」
「へっへー、こんなもんは早いもん勝ちだって!」

 多分流れで隣に座っただけなんだろうけど……そんな風に言って貰えると、顔がニヤケちゃう。ダメダメ、年上の女らしく、余裕を持たなくちゃ!
 目の前には平さん、斜め前に緑川さん、末席にこの家の主の晴臣くんになっちゃった。
 うわぁ、何だか緊張しちゃう。こんなに男の人に取り囲まれる事なんてないもんね。
 けど……思えば、もしかして私って不用心だった?
 まだ夕方だけど、男しかいない家にノコノコと女が一人で入って来ちゃって……。
 ニュースでたまにあったりするよね……男の子が大勢いる家に、女の子が一人入っちゃって、強姦されちゃうとか……。
 そんな話を聞くと、女の子の危機管理が甘すぎ、自業自得って思ってたけど。まさか、私って今、そういう状況だったりする!?
 チラッと拓真くんを見上げると、晴臣くんや皆と楽しそうに話していて。
 だ、大丈夫だよね? 拓真くんは、そんな事しないよね。もしそんな事になりそうだったら、助けてくれるよね?

「園田さんも、高校ん時なんか部活してたんすか?」

 急に話を振られて、晴臣くんの方に視線を移す。

「私は高校の時は書道部だったよ」
「へぇ~、書道! 字ぃ上手いんすね!」
「どうかな~、書道部では下手な方だったから。スポーツ系が苦手ってだけで選んだ部活だったし。晴臣くんは小学生の頃からバレーやってたって聞いたけど」
「そっすよ。小学二年からスポ少でバレーやってたし、中学も高校もバレー漬け!」
「しかもこいつ、あの藤咲大付属高校出身で、全国経験者なんだってさ」

 ええー! 拓真くんの説明に、思わず仰け反っちゃった。
 私立藤咲台大付属高校……! 中高一貫教育の、偏差値の高いお坊っちゃま学校じゃないのー!
 見た目は結構子供っぽくて、いたずらニャンコみたいな感じの晴臣くんだったけど、一気にイメージが変わっちゃったよ。

「まぁ一回しか全国に行ってねーし、その一回も初戦で負けちまったけどなー」

 こういう喋り方といい、頭は良いはずなのに大学に行かずに製菓専門学校を選んだ事といい、藤高生としてはもしかしたらちょっと浮いてたのかもしれないな。晴臣くんは。

 そんな話をしてたら、買い物に行った四人組が帰って来た。
 結衣ちゃん、三島さん、ヒロヤくん、一ノ瀬くんだ。

「お帰り、何買ってきた?」
「何作るんだ?」
「よし、手ェ洗ってサクッとやるか」
「この台所、広くて使いやすそう~」

 トキ製菓専門学校に通う面々は台所に行ってしまって、社会人チームがそれぞれソファーや床に腰を下ろしてる。

「鉄平、大和、ビール買ってきた。飲むだろ?」
「飲む飲む!! 一汗掻いた後のビールは格別だよなー!!」

 鉄平と呼ばれた緑川さんがビールを受け取ると、すぐにプルトップに指を掛けた。プシュッと良い音がして、ゴキュゴキュと美味しそうな音を立てて飲んでる。

「ぷはーー、ウメーーーーッ」

 本当に美味しそうに飲むなぁ。私も……ちょっと飲みたいかも。

「園田さんは未成年?」
「いえ、二十歳はもうとっくに過ぎてます。皆さんと同じ社会人ですよ」
「へぇ、そうなんだ。見えないなぁ。ビールは飲める? 一応、女の子が好きそうなカクテルやチューハイも買ってきたけど」

 三島さんが袋から色々とお酒を出してくれる。
 私、実は……日本酒が一番好きなんだけどね。

「じゃぁ、カクテル頂きます」

 本当はこの中ではビールが飲みたかったけど。わざわざ女の子用にって買ってくれたんなら、選ばないわけにはいかないよね。
 三島さんが瓶に入った色鮮やかなカクテルを数本、私の前に差し出してくれる。

「あの、おいくらですか? お金払います」
「あー、良いよ。あの食材も俺の奢りだし。まぁ今日だけ特別」
「え、でも……」

 食材だって、九人分も買ったら、かなり使ったんじゃ?
 そう悩んでたら、緑川さんが明るい声で話しかけてくる。

「いーのいーの、奢られとこうぜ園田さん! 雄大さんはあのすめらぎ商事で働く超エリートだから、ガッポリ稼いでんだよ!」
「おい、鉄平っ」

 緑川さんの発言に、三島さんはちょっと怒ったように口をへの字に曲げてる。

「適当言うなよ、そんな稼いでないから」
「俺のバイトの何倍も貰ってるじゃないですか。園田さんも女の子だし、どうせそんな稼げてないんだろ? 雄大さんに奢られときなって!」

 その言葉に、私は少しカチンと来た。女の子イコール稼げてないって図式、やめてもらえないかな!?
 そりゃあ皇商事はこの辺で一番大手の会社だし、三島さんの稼ぎには勝てないかもしれない。それでも私は自分の仕事に誇りを持っているし、それでお給料を頂いてる。そして仕事がハードな分、それなりのお給料を貰ってるんだから。それを、「どうせ」なんて言葉で終わらせて欲しくない。

「私は形岡県立医科大学付属病院で、看護師やってますからご心配なく。自分の酒代くらいは、ちゃんと払えますよ」

 ニッコリ笑って、とりあえず五千円を取り出し、押し付けるように三島さんに渡した。

「おお、医大の看護師さんか。そりゃ、鉄平なんかより数段稼いでるな」
「ちゃんと就職活動しろよ、鉄平」
「うおおおお、藪蛇だった!!」

 平さんと三島さんに言われた緑川さんが、大袈裟に頭を抱えてる。そんな姿を見ると、ちょっと笑っちゃった。

「園田さん、とりあえずこれは預かっとくよ」

 ん? 〝預かっとく〟?
 よく分からないけど、三島さんがその五千円札を財布に仕舞ってくれたから、ホッとした。
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