思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜

長岡更紗

文字の大きさ
24 / 79

24.心配

しおりを挟む
 自分の部屋の前まで来て、アパートの鍵を取り出そうとしていると、唐突に隣の部屋の扉が開いた。

「ミキ!」
「た、拓真くん?」

 その形相にビックリしてしまう。
 だって、なんていうか……必死。それだけを絵に描いたような顔だったから。

「どうしたの?」
「どうしたのって……途中からパッタリ連絡来ねーし、電話しても電源切られてっし」
「あっ」

 私は急いでスマホの電源を入れた。
 拓真くんからの着信とメッセージが、いくつも入ってる。

『とにかくホテル出ろ』
『大丈夫か?』
『迎え行った方が良いなら言って』
『ミキが良いなら問題はないけど』
『マジで泊まり?』
『帰ったら連絡くれ』

 そのメッセージを見ただけで分かる。
 なんか、すごく……心配させちゃったみたい。

「ご、ごめんね! 連絡出来なくて……」
「大丈夫だったのか? 三島さんに電話しても、サイレントにしてたのか出ねぇし……何もされてねぇ? あ、いや、別に合意の上なら、俺が口出せる問題じゃねんだけど」

 ちょ、合意の上って!

「な、何にもなかったよ!? 今回はそんなに飲まないようにしたし、普通にお話してただけだから!」
「本当に?」
「本当!」
「何か嫌なこともされてねぇ?」
「されてない!」

 そう伝えると、拓真くんは大袈裟にハーッと息を吐き出して、しゃがみ込んでしまった。

「拓真くん? あの……」
「心配した!!!!」

 しゃがみ込んだまま、キッと顔だけを上げて怒られる。
 ビックリしたけど。申し訳なくも思ったけど。
 その一言が、何より嬉しかった。

「マジで、ミキになんかあったらどうしようかと思った。グランドホテルに乗り込もうかとも思ったけど、ミキが三島さんとそういう関係になりたいなら、俺は邪魔だろうし。でももし、ミキが困ってたらと思うと、居ても立っても居られなくて、本気で悩んだ!」

 うわ……ずっと、私が帰ってくるまでこんな思いをさせちゃってたんだ……。
 ごめんね、拓真くん……。
 拓真くんは言い終えると、スッと立ち上がった。私の視線はいつものように高くなる。

「心配掛けて、本当にごめんなさい! でも三島さんには婚約者もいるし、そういう事にはならないから大丈夫だよ。私の看護師仲間が三島さんの婚約者で……披露宴の打ち合わせをしてただけだから!」

 理由を告げると、今度はホッと息を吐いていた。

「なんだ、俺の取り越し苦労か……でも、良かった」
「そんなに……心配してくれたの?」
「あったり前だろ!! もしミキに何かあったら、俺は──」

 ドキンと胸が高鳴る。
 嬉しさが、ピークを超えてしまいそう。
 もしかして、拓真くんは私の事を……

「母さんとリナに、めちゃくちゃ怒られるからな!!」

 ……え。
 そ、そっちーー!?
 拓真くんはプンプンと頬を膨らませるように怒ってる。
 うん、これは嘘ついてる顔じゃないね……うう。それにしても。

「拓真くんは、三島さんが結婚するって事、知らなかったの?」

 その質問に、拓真くんはコクンと頷いている。

「ああ、彼女がいるっぽい事はうっすら聞いてたけど。でも男女の関係なんて、彼女がいようがいるまいが、関係なくなっちまう事もあるだろ?」

 ……何、その発言。
 実は拓真くん……色々経験者?

「た、拓真くんにもそんな事があったの……?」
「え? まさか。俺、彼女が出来たことすらねーし。今のはただの一般論っつーか、男の本能っつーか……」

 なんかモゴモゴいってたけど、彼女が出来たことすらないって言葉に安堵してしまう私がいる。

「と、とにかく、もう心配させんなって事!」

 ちょっと照れ臭そうに口を尖らせる拓真くん。
 なんかこう言ってもらえる事が嬉しいな。

「ふふ、はーい」
「こら。俺は真剣に言ってんだぞ!」
「はい、ごめんなさい! でも本当にありがとう拓真くん。心配してくれて、すごく嬉しかった!」

 最後にニッコリ微笑んで見せると、ようやく拓真くんも笑顔を見せてくれた。

「まぁ、年下の俺じゃあ頼りないかもしれねーけど、なんかあったら頼ってくれよ」
「ううん、すっごく頼りにしてるよ」
「あんまり頼りにされても困るから、ちゃんと自重してくれな」

 うぐっ。
 拓真くんって、引き寄せた後で突き放すんだよねー。
 まぁ、らしいと言えばらしいんだけど。

「っま、ミキが無事で良かったわ!」

 そう言ったかと思うと、拓真くんの大きな手で私の頭はガシガシと撫でられる。やっぱりちょっと子ども扱いされてる?
 拓真くんの背は高くて、私は低いから、ちょうど手が置きやすいんだろうな。
 でも、その手があったかくて優しくて嬉しくて。

「ありがと、拓真くん……」

 ますます、拓真くんへの気持ちが膨らんでしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

処理中です...