思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜

長岡更紗

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65.拓真くんの誕生日

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 蝶々がヒラヒラと花壇の中を舞ってる。
 冷たい空気はいつの間にかどこかへ行ってしまって、陽の光が優しく大地を照らす。暖かくて、でも吹き抜ける風は爽やかで。
 そんな日に、拓真くんは生まれたんだなぁ。

 今日は、四月十四日。拓真くんが生まれて二十回目の記念日。

 拓真くんが、ようやく未成年じゃなくなるんだな。
 まぁだからと言って、私との年齢差が埋まるわけじゃないんだけど。

 今日はゆっくり話したいから、バレーが終わって帰ってから拓真くんの家に行く予定。それを拓真くんにも話して、了解を得てる。
 夕方に行くのはいつもの事だけど、夜に訪問する事ってそうそうないから、ちょっと緊張するなぁ。

 バレーの練習が終わって一度家に帰ると、拓真くんへの誕生日プレゼントを持ってすぐに隣に向かった。
 扉を開けると、ちょうど電話がかかって来てたみたいで誰かとお話ししてる。
 私はもう勝手知ったる何とやらで、家主の許可なく上がらせてもらった。

「おー、すげーな、さっすが三年生!」

 拓真くんが嬉しそうに声を上げてる。
 電話の相手はリナちゃんかな? もう三年生かぁ。月日が経つのは早いなぁ。

「ミジュ? 元気元気。今隣にいるぞ、代わろうか? よし、待ってろ」

 そう言うと、拓真くんは私に携帯電話を渡して来る。

「もしも……」
『ミジュちゃんだー!!』

 いつの間にか池畑さん一家は、私の事をミジュちゃんって呼ぶようになってた。それだけ、拓真くんが私の事を家族に話してくれてるって事かな?

「こんばんは、リナちゃん。まだ起きてるの?」
『だってもう三年生だもーん』
「そっかぁ、大きくなったんだろうなぁ」
『大きいよ、もうちょっとで一二〇センチになるんだからー!』
「わー、すごい。私なんかすぐ抜かされちゃうね」
『ミジュちゃんは何センチなのー?』
「私は一五四センチだよ。リナちゃんが中学生になる頃には、抜かされてるかな」
『ねぇねぇ、今度うちに来るんでしょ? 背比べしようね!』

 うん? リナちゃんのお家へ? 今度?
 ハテナと思っていたら、電話の向こうから『こら、リナ!』と池畑さんの声がした。

『もしもし、ミジュちゃん?』
「あ、池畑さん、こんばんは。ご無沙汰しています」
『リナが、ごめんなさいね。前に拓真が、灯篭祭りにミジュちゃんを連れて来るって言ってたのを真に受けちゃってて』

 あ……あの夏祭りの約束……覚えててくれたのかな。
 チラッと拓真くんを見ると、台所で紅茶を淹れてくれてる。

「あの、私も灯篭を見に行きたいんで、その時には『うさぎ』に寄らせてください。リナちゃん自慢のお店のパンも食べてみたいし」
『あら、本当に来るつもり?』
「あ、すぐ帰るんで大丈夫です!」
『いえ、そうじゃなくてね。日帰りなんて大変でしょう? 次の日仕事じゃなければ、うちに泊まって行けばいいじゃない』
「え、えええ?!」

 私が大声を出すと、拓真くんが「どうした?」とこっちに来てくれる。

「えっと、灯篭祭りの日に、池畑さんがお家に泊まって行って良いって」
「ああ、そうすんだろ? まさか帰るつもりだったのか?」

 な、なんか当然のように言われた!
 そ、そっか……泊まっていいんだ……。
 私は向き直って、拓真くんの携帯電話に話しかける。

「あの、それじゃあ、ご迷惑でなければ、お邪魔させて頂きます!」
『うちの方こそ、拓真とリナが無理言ってごめんなさいね。お店が忙しいから、あんまりお相手出来ないかもしれないけど』
「いえ、大丈夫です。泊めてくださるだけでありがたいので」
『まだ先の話だけど、楽しみにしてるわね!』

 池畑さんは最後に、『拓真に誕生日おめでとうって言っておいて』と言って切っていった。
 私も通話終了をタップして、スマホを拓真くんに返す。

「池畑さんが、誕生日おめでとうって」
「息子の二十歳の誕生日に、伝言かよ」

 怒るというより呆れたように言って、紅茶を出してくれる。
 さらには冷蔵庫から、ホールのケーキを取り出して来た。と言っても、四号サイズくらいの小さなケーキだったけど。
   これ、手作りだよね?  小さくても苺がふんだんに飾られていて、すごく綺麗。

「自分の誕生日に作るのってどうかとも思ったんだけどな。ミジュが来るって言うから、作っといた」
「ふふ、拓真くんのケーキ、すごく嬉しい!」
「そういや、ミジュの誕生日っていつなんだ?」

 わ、初めて聞いてくれた! 嬉しい!! 去年よりは、ちょっとくらい私に興味出てきたと思って良いのかな?

「私はね、八月十二日だよ」
「マジ? 灯篭祭りの日じゃんか」
「うん。あ、でも気を遣わないでね! 灯篭祭りを見に行けるだけで、充分嬉しいから!」
「うーーん、まぁ何か考えとくよ」
「忙しいだろうから、本当に気にしないでね。あ、そうだ、これ誕生日プレゼントなんだけど」
「酒?」
「ち、違うよ!」

 あ、そうか、二十歳はもう酒飲めるんだよね。今度一緒に飲んでみたいなぁ。
 そんな事を考えながら、私はプレゼントを取り出した。何が良いのか分からなくて、結局スポーツ用品だけど。

「うわ、何? 開けて良い?」
「どうぞ、気に入ると良いんだけど」

 拓真くんはガサガサと不織布のギフトバッグを開けて、中を覗いてる。

「わ、靴?!」
「バレーのシューズ、結構くたびれちゃってたでしょ? 新学期だし、進級祝いも兼ねて、ね?」
「うわぁ……嬉しいけど、これ高かっただろ」
「そんなでもないよ、気にしないで」
「ありがとう……でも、ミジュの誕生日のハードル上がっちまったなぁ」
「私が勝手にしたかっただけだし、拓真くんは何もしなくて良いんだからね?!」
「そーいうわけにもいかねーだろ」

 拓真くんは「うーん」と難しい顔をして、考え込んでしまった。
 うわぁ、どうしよう。お返しが目当てでプレゼントしたわけじゃないのに……。かえって気を遣わせちゃったよー。
 申し訳なく思っていたら、はたと私に気付いた拓真くん。苦笑いしながら私の前髪を掻き上げてグシャグシャにする。

「俺も勝手にしたいからするんだって。でももし何かリクエストあったら遠慮なく言ってくれな」
「リクエスト……何でも良いの?」
「車はムリ」
「そんな事言わないってば!」

 拓真くんはハハハと笑うと、ナイフを手に取って、ケーキを切り分け始めた。

「まぁ、食べようぜ」
「うん。二十歳のお誕生日、おめでとう拓真くん」

 こうやって、記念の日を一緒に過ごさせてもらえたのは嬉しいな。
 去年はどうなるのか分からなかった灯篭祭りにも、行けそうだし。
 もしかして拓真くんの好きな年上の人って、私なのかも……なんてね。
 けど相手が誰でも、きっとその人より私の方が身近にいるはず。私の事を好きになってもらえる可能性だって、去年よりは増えてるはずなんだから。
 自信、持とう。
 そして告白する勇気を、今から貯めておこう。

「どう?」

 無言で食べてる私に、少し不安げな表情で聞いてくる拓真くん。

「すっごく美味しい~! おかわり!」

 そう言った私に、拓真くんは嬉しそうに笑って二つ目をお皿に乗せてくれた。
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