71 / 79
71.母は強し
しおりを挟む
リナちゃんと一緒にアルバムを見ながらきゃあきゃあ言ってると、奥から「何やってんだ?」って声がした。
「あ、お兄ちゃん!」
うわ、拓真くん、白いコックコート着てる!!
きゃー、やだ、すごく似合うー!! 写真撮りたいー!!
「っげ!! 昔の写真じゃねーか! こんなもん見せんなよリナ!!」
「えー、なんでー。お兄ちゃんカッコいいのにー」
「リナ、それ他所で言うなって、いつも言ってるだろ……アルバムは終わり!」
残念、アルバムは拓真くんに取り上げられて片付けられちゃった。
「えー、お兄ちゃんのおーぼー!」
「お、横暴なんて難しいよく言葉知ってんなぁ」
「お父さんがお母さんにたまに言ってるよ」
「ああ、そういや言ってる時あんなぁ」
そんな事を言いながら、冷蔵庫の中をまた確認してる。
今度は晩御飯の準備かな?
「リナ、夜は何食いたい?」
「リナは晩御飯いらないよー」
「え? なんでだ? 」
「屋台のたこ焼き食べるんだもーん。約束したんだ、桜助くんと」
「誰だよオースケ」
「三年になってから仲良くなった男の子! 今日デートなんだー」
わあ、デート? グループデートみたいなやつかな?
あ、拓真くんが固まっちゃってる。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「人の妹を掻っ攫おうなんざ、百年早え! 行くんじゃねーぞ、リナ。どこのどいつだ、兄ちゃんが拳で話をつけてやる!」
「えー、お兄ちゃん、おーぼー!!」
う、うん、今のは横暴だ……
でもなんて言うか、心配性の拓真くんらしい。
「うっさい、デートなんて十年早いんだよ!! 俺だってデートなんかした事ねーってのに!!」
「おーぼーおーぼー!!」
「なんだとー、このっ!」
「きゃーーッ!!」
拓真くんは笑顔でリナちゃんを抱きしめて、リナちゃんは楽しそうな悲鳴を上げてる。うーん、微笑ましい。
「拓真、リナ!! 何してるの、店まで丸聞こえよ!!」
池畑さんが現れて、二人に雷を落としてる。二人は声を揃えて「はーい」と言うと肩を落とした。
似てない兄妹だと思ってたけど、こういう所はソックリなんだね。
「拓真は二十歳にもなってデートした事ないとか、叫ぶんじゃないわよ情けない」
「えー、お兄ちゃんはミジュちゃんとデートした事ないのー?」
リナちゃんの無邪気な問いに、拓真くんは私の方をチラ見してきた。
「あー……ねぇし」
「はあ、我が息子ながら、ヘタレだわ……」
「ヘタレー! ヘタレー!」
「ちっげーし!! 俺とミジュは、そんな関係じゃねーの!!」
「なーに言ってんの、うっれしそうにこんな写真送って来たの、誰だっけ?」
池畑さんはスマホの写真を表示して突き出してくる。
そこに映し出されてたのは、よしちゃんの披露宴で顔を寄せ合って自撮りした写真。
「べ、べっつに嬉しそうになんか送ってねーだろ?」
「ふーん? でも浮かれてない人が、わざわざこーんなものを郵送してくるかしら?」
そう言いながらタンスの上に手を伸ばして取り出して来たのは、やっぱり披露宴の時に撮った写真。
二人で並んで、花嫁のよしちゃんが撮ってくれたやつだ。あの写真、ここに送ってたんだね。部屋で見かけないから、おかしいなとは思ってたけど。
「いや、スーツ着るの、入学式以来だったから、リナが喜ぶかと思って」
「バカタレ。そういう時は、ミジュちゃんと撮った写真を見せびらかしたかったって素直に言うのよ!」
え……ほ、ホントかな?
拓真くんは母親に言われたからか、ちょっと不貞腐れてるように見えるんだけど……そうする事で照れを隠してるようにも見える。
「それよりリナ、早く着替えないと、そろそろ桜助くん来るわよ。浴衣で行きたいんでしょ」
「うん!」
わ、浴衣! 良いなぁ~。
そんな思いが顔に出てたのか、池畑さんが私に笑みを向けてくる。
「ミジュちゃんも着る? 私の若い頃の浴衣で良ければあるわよ」
「え、良いんですか?!」
「良いの良いの。浴衣を着て、人生で一度もデートをした事のない男の相手をしてあげて! お願い!」
わ、お、お願いされちゃった!
勿論、私は嬉しいんだけど……
チラリと拓真くんに視線を投げると、私達とは違う、どこか宙を見ながら何でもない顔をしてる。
「何カッコつけてんのよ、あんたは!」
バシッと池畑さんの張り手が炸裂。
「別にカッコつけてねーって」
「拓真のそういう態度が、女の子を傷付けてるのよ! 胸に手を当ててよく考えてみなさい!!」
「ええ? んな事ないと思うけどなぁ」
さすが母親、よく見てるなぁ。私も拓真くんの、その何にも気にしてないっていうような態度に、何度か判断を誤った事があるよ。
「あのねぇ拓真。デートして欲しかったら、自分でちゃんと言いなさい! 何で母親に言わせてるの!」
「母さんが勝手に言ったんだろ! それに俺、店も手伝わなきゃいけねーし」
「もうあとは売るだけだから、拓真が居なくても大丈夫よ」
「でも飯は……」
「拓真! そんな事は良いから、ちゃんとエスコートしなさい! あんたが灯篭祭りを見せたいからって連れて来たんでしょ! お客様を放ったらかしにしてどうするの!」
「お、おー……」
池畑さんの勢いに圧倒されて、引き気味に頷いてる拓真くん。すごいなぁ、男の子の母親って。
「じゃあミジュちゃん、リナも、着付けしてあげるわ。拓真も浴衣出すから、着なさい」
「えー、俺は良いよ」
「じゃあせめて、甚平でも着なさいよ。お父さんのやつ貸してあげるから」
「えー……」
「えーじゃない、着る!!」
「……横暴」
「なんか言った?!」
「いや、着るよ!」
拓真くんはスタコラと逃げるように着替えに行って、私とリナちゃんも着付けしてもらう事になった。
「あ、お兄ちゃん!」
うわ、拓真くん、白いコックコート着てる!!
きゃー、やだ、すごく似合うー!! 写真撮りたいー!!
「っげ!! 昔の写真じゃねーか! こんなもん見せんなよリナ!!」
「えー、なんでー。お兄ちゃんカッコいいのにー」
「リナ、それ他所で言うなって、いつも言ってるだろ……アルバムは終わり!」
残念、アルバムは拓真くんに取り上げられて片付けられちゃった。
「えー、お兄ちゃんのおーぼー!」
「お、横暴なんて難しいよく言葉知ってんなぁ」
「お父さんがお母さんにたまに言ってるよ」
「ああ、そういや言ってる時あんなぁ」
そんな事を言いながら、冷蔵庫の中をまた確認してる。
今度は晩御飯の準備かな?
「リナ、夜は何食いたい?」
「リナは晩御飯いらないよー」
「え? なんでだ? 」
「屋台のたこ焼き食べるんだもーん。約束したんだ、桜助くんと」
「誰だよオースケ」
「三年になってから仲良くなった男の子! 今日デートなんだー」
わあ、デート? グループデートみたいなやつかな?
あ、拓真くんが固まっちゃってる。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「人の妹を掻っ攫おうなんざ、百年早え! 行くんじゃねーぞ、リナ。どこのどいつだ、兄ちゃんが拳で話をつけてやる!」
「えー、お兄ちゃん、おーぼー!!」
う、うん、今のは横暴だ……
でもなんて言うか、心配性の拓真くんらしい。
「うっさい、デートなんて十年早いんだよ!! 俺だってデートなんかした事ねーってのに!!」
「おーぼーおーぼー!!」
「なんだとー、このっ!」
「きゃーーッ!!」
拓真くんは笑顔でリナちゃんを抱きしめて、リナちゃんは楽しそうな悲鳴を上げてる。うーん、微笑ましい。
「拓真、リナ!! 何してるの、店まで丸聞こえよ!!」
池畑さんが現れて、二人に雷を落としてる。二人は声を揃えて「はーい」と言うと肩を落とした。
似てない兄妹だと思ってたけど、こういう所はソックリなんだね。
「拓真は二十歳にもなってデートした事ないとか、叫ぶんじゃないわよ情けない」
「えー、お兄ちゃんはミジュちゃんとデートした事ないのー?」
リナちゃんの無邪気な問いに、拓真くんは私の方をチラ見してきた。
「あー……ねぇし」
「はあ、我が息子ながら、ヘタレだわ……」
「ヘタレー! ヘタレー!」
「ちっげーし!! 俺とミジュは、そんな関係じゃねーの!!」
「なーに言ってんの、うっれしそうにこんな写真送って来たの、誰だっけ?」
池畑さんはスマホの写真を表示して突き出してくる。
そこに映し出されてたのは、よしちゃんの披露宴で顔を寄せ合って自撮りした写真。
「べ、べっつに嬉しそうになんか送ってねーだろ?」
「ふーん? でも浮かれてない人が、わざわざこーんなものを郵送してくるかしら?」
そう言いながらタンスの上に手を伸ばして取り出して来たのは、やっぱり披露宴の時に撮った写真。
二人で並んで、花嫁のよしちゃんが撮ってくれたやつだ。あの写真、ここに送ってたんだね。部屋で見かけないから、おかしいなとは思ってたけど。
「いや、スーツ着るの、入学式以来だったから、リナが喜ぶかと思って」
「バカタレ。そういう時は、ミジュちゃんと撮った写真を見せびらかしたかったって素直に言うのよ!」
え……ほ、ホントかな?
拓真くんは母親に言われたからか、ちょっと不貞腐れてるように見えるんだけど……そうする事で照れを隠してるようにも見える。
「それよりリナ、早く着替えないと、そろそろ桜助くん来るわよ。浴衣で行きたいんでしょ」
「うん!」
わ、浴衣! 良いなぁ~。
そんな思いが顔に出てたのか、池畑さんが私に笑みを向けてくる。
「ミジュちゃんも着る? 私の若い頃の浴衣で良ければあるわよ」
「え、良いんですか?!」
「良いの良いの。浴衣を着て、人生で一度もデートをした事のない男の相手をしてあげて! お願い!」
わ、お、お願いされちゃった!
勿論、私は嬉しいんだけど……
チラリと拓真くんに視線を投げると、私達とは違う、どこか宙を見ながら何でもない顔をしてる。
「何カッコつけてんのよ、あんたは!」
バシッと池畑さんの張り手が炸裂。
「別にカッコつけてねーって」
「拓真のそういう態度が、女の子を傷付けてるのよ! 胸に手を当ててよく考えてみなさい!!」
「ええ? んな事ないと思うけどなぁ」
さすが母親、よく見てるなぁ。私も拓真くんの、その何にも気にしてないっていうような態度に、何度か判断を誤った事があるよ。
「あのねぇ拓真。デートして欲しかったら、自分でちゃんと言いなさい! 何で母親に言わせてるの!」
「母さんが勝手に言ったんだろ! それに俺、店も手伝わなきゃいけねーし」
「もうあとは売るだけだから、拓真が居なくても大丈夫よ」
「でも飯は……」
「拓真! そんな事は良いから、ちゃんとエスコートしなさい! あんたが灯篭祭りを見せたいからって連れて来たんでしょ! お客様を放ったらかしにしてどうするの!」
「お、おー……」
池畑さんの勢いに圧倒されて、引き気味に頷いてる拓真くん。すごいなぁ、男の子の母親って。
「じゃあミジュちゃん、リナも、着付けしてあげるわ。拓真も浴衣出すから、着なさい」
「えー、俺は良いよ」
「じゃあせめて、甚平でも着なさいよ。お父さんのやつ貸してあげるから」
「えー……」
「えーじゃない、着る!!」
「……横暴」
「なんか言った?!」
「いや、着るよ!」
拓真くんはスタコラと逃げるように着替えに行って、私とリナちゃんも着付けしてもらう事になった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる