75 / 79
75.やって欲しい事
しおりを挟む
祭りは九時までみたいだったけど、八時過ぎに『うさぎ』に戻ってきた。
同じように帰る人達が、ここのパンを買って行こうとしていて、夜なのに結構な盛況ぶり。
中には拓真くんの知り合いもいるみたいで、何人かに話し掛けられてる。
「あら、拓真くん久しぶりねぇ」
「おばちゃん、いらっしゃい」
そんな会話をしながら客の波を抜けて、レジ前の池畑さん夫妻の前までやって来た。
「あら、拓真。もう帰ってきたの?」
「うん、リナは?」
「まだ帰って来てないわよ」
「店、手伝わなくて平気か?」
「やる事あるんでしょ、こっちは気にしないの!」
「ん」
拓真くんはそれだけ言うと、私の手を引っ張ってきた。レジの奥に入り、そのまま工房を抜けて拓真くんのお家に帰る。
「ミジュ、まだ食えるか?」
「え? うん、パンを買おうと思って、あんまり食べてないから」
「んーじゃあ、俺の部屋で待ってて、持ってくるわ」
拓真くんは部屋に案内してくれた後、多分お店に戻って行った。
ここが、実家の拓真くんの部屋……なんか、なんか、部屋が若い!!
かわいいアイドルのポスターとか張ってあるよー、ビックリ。でもその隣に男子バレーのポスターもある。どういう組み合わせ。
多分、この部屋は高校卒業時で止まってるんだろうな。
本棚も、バレー雑誌が多いなぁ。そしてレシピ本も多い。バレー雑誌とレシピ本って、なんだかすごくアンバランスな本棚だね。
「そんなに一生懸命見ても、そこにエロ本は置いてねーぞ」
後ろから声が聞こえてビクリとする。
そ、そんなの探してないよ!! って、どこかには置いてあるの?!
振り向くと、拓真くんが小さなテーブルの上にケーキを置いてた。それも、ホールケーキ。
「えっ、拓真くん、それ……」
「今日は誕生日だろ? 昼間、パン焼いてる合間に作った」
「うわぁああ……」
すごい。スタンダードな生クリームのデコレーションケーキ。上には苺と、Happy Birthday って印刷されたチョコのプレートに〝ミジュ〟って名前を書いてくれてる。
更に更に。
「すごい、これ……もしかして、私?!」
ナース服を来て、ナースキャップを被った女の子が、ケーキの上に乗ってる。
今はナースキャップを被る所は殆どないし、私も被ってないんだけど。
「あんま、似なかったけどな。マジパンで作ってみたんだ」
「す、すごい、細かい……っ! かわいい!!」
こんなのまで作れちゃうんだ! すごいよー!
拓真くんは律儀に細い蝋燭を二十六本挿して、ライターで火を点けてくれる。
そして、部屋の電気を消した。
「んじゃ、誕生日おめでとう。消してくれ」
「歌ってくれないの?」
「ケーキならいくらでも作っけど、それは無理。恥ずい」
まぁそうだよね。私も歌えって言われたら、ちょっと無理かも。
私は二十六本も火の点けられた蝋燭を吹き消した。こんな大きなホールケーキで誕生日、いつ以来だろ。
もう一度拓真くんが「おめでとう」と言ってくれる。そして暗くなった室内で、電気のスイッチを探して点けてくれた。
「食べるか?」
「うん……でも良いの?」
「食ってもらうために作ったんだから」
「リナちゃんとか、池畑さんと一緒に食べた方が良いんじゃないかと思って」
「いいよ、別に。後で勝手に食うだろ」
拓真くんは気にせずにケーキを切り分けてくれた。当然の事ながら美味しくないわけがなく、ペロリと一切れ平らげちゃう。
「ミジュがハードル上げてきたから、誕生日どうしようか考えたんだけどさ。結局俺にはこれしか出来なかったな」
食べ終わったお皿を重ねながら、拓真くんは自嘲するように言う。気にしなくて良いって言ったのにね。
「灯篭祭りにも連れてってもらったし、大きなホールケーキでお祝いしてくれたし充分だよ。すごく良い思い出になっちゃった」
結局拓真くんとは付き合える事もなさそうだし……。
このいっぱいの思い出を、胸に大切に仕舞っておこう。
付き合えないって事を考えると、心が泣きそうになるけど、今日は最高の一日で終わらせたい。だから、泣くのは明日以降だ。
「誕生日のプレゼント、なんも用意出来なかったからさ。何かやって欲しい事ないか?」
「やって欲しい事……何でも良いの?」
「んー、まぁ俺が出来そうな事ならなんでも」
「じゃあ私、拓真くんと一緒にお酒飲みたい!」
拓真くんの誕生日の時に思ってたんだよね。一緒にお酒……楽しそう。
「ミジュ、酒癖悪ぃからなぁ」
「失礼な、悪くはないよ?!」
「まぁ良いけど、本当に危機感ないよな」
「そんな、前後不覚になるほど飲まないってば」
「いや、そうじゃなくて」
ん? そうじゃないの?
拓真くんはやっぱり呆れるように私を見てる。
「俺、酒飲んだ事ねーから、飲んだらどうなるか分かんねーぞって話」
「え、全然飲んだ事ないの?」
「洋菓子作るときに、コアントローとかアルコール飛ばさずに作って食うことはあるけど……そんくらいだなー。同級はまだ未成年も多いから、一緒に飲んだりもしねぇし、機会がなかった」
「わ、じゃあ私と飲むのが初めて? 飲もう!」
「ったく、どうなっても知らねぇからな」
拓真くんが立ち上がった時、玄関の方から「ただいまー」とリナちゃんの声がした。拓真くんはその声を聞いて、ドタドタと慌てて玄関に向かってる。
あ、もうお酒の事なんか忘れちゃってそうだなぁ、拓真くんは。
同じように帰る人達が、ここのパンを買って行こうとしていて、夜なのに結構な盛況ぶり。
中には拓真くんの知り合いもいるみたいで、何人かに話し掛けられてる。
「あら、拓真くん久しぶりねぇ」
「おばちゃん、いらっしゃい」
そんな会話をしながら客の波を抜けて、レジ前の池畑さん夫妻の前までやって来た。
「あら、拓真。もう帰ってきたの?」
「うん、リナは?」
「まだ帰って来てないわよ」
「店、手伝わなくて平気か?」
「やる事あるんでしょ、こっちは気にしないの!」
「ん」
拓真くんはそれだけ言うと、私の手を引っ張ってきた。レジの奥に入り、そのまま工房を抜けて拓真くんのお家に帰る。
「ミジュ、まだ食えるか?」
「え? うん、パンを買おうと思って、あんまり食べてないから」
「んーじゃあ、俺の部屋で待ってて、持ってくるわ」
拓真くんは部屋に案内してくれた後、多分お店に戻って行った。
ここが、実家の拓真くんの部屋……なんか、なんか、部屋が若い!!
かわいいアイドルのポスターとか張ってあるよー、ビックリ。でもその隣に男子バレーのポスターもある。どういう組み合わせ。
多分、この部屋は高校卒業時で止まってるんだろうな。
本棚も、バレー雑誌が多いなぁ。そしてレシピ本も多い。バレー雑誌とレシピ本って、なんだかすごくアンバランスな本棚だね。
「そんなに一生懸命見ても、そこにエロ本は置いてねーぞ」
後ろから声が聞こえてビクリとする。
そ、そんなの探してないよ!! って、どこかには置いてあるの?!
振り向くと、拓真くんが小さなテーブルの上にケーキを置いてた。それも、ホールケーキ。
「えっ、拓真くん、それ……」
「今日は誕生日だろ? 昼間、パン焼いてる合間に作った」
「うわぁああ……」
すごい。スタンダードな生クリームのデコレーションケーキ。上には苺と、Happy Birthday って印刷されたチョコのプレートに〝ミジュ〟って名前を書いてくれてる。
更に更に。
「すごい、これ……もしかして、私?!」
ナース服を来て、ナースキャップを被った女の子が、ケーキの上に乗ってる。
今はナースキャップを被る所は殆どないし、私も被ってないんだけど。
「あんま、似なかったけどな。マジパンで作ってみたんだ」
「す、すごい、細かい……っ! かわいい!!」
こんなのまで作れちゃうんだ! すごいよー!
拓真くんは律儀に細い蝋燭を二十六本挿して、ライターで火を点けてくれる。
そして、部屋の電気を消した。
「んじゃ、誕生日おめでとう。消してくれ」
「歌ってくれないの?」
「ケーキならいくらでも作っけど、それは無理。恥ずい」
まぁそうだよね。私も歌えって言われたら、ちょっと無理かも。
私は二十六本も火の点けられた蝋燭を吹き消した。こんな大きなホールケーキで誕生日、いつ以来だろ。
もう一度拓真くんが「おめでとう」と言ってくれる。そして暗くなった室内で、電気のスイッチを探して点けてくれた。
「食べるか?」
「うん……でも良いの?」
「食ってもらうために作ったんだから」
「リナちゃんとか、池畑さんと一緒に食べた方が良いんじゃないかと思って」
「いいよ、別に。後で勝手に食うだろ」
拓真くんは気にせずにケーキを切り分けてくれた。当然の事ながら美味しくないわけがなく、ペロリと一切れ平らげちゃう。
「ミジュがハードル上げてきたから、誕生日どうしようか考えたんだけどさ。結局俺にはこれしか出来なかったな」
食べ終わったお皿を重ねながら、拓真くんは自嘲するように言う。気にしなくて良いって言ったのにね。
「灯篭祭りにも連れてってもらったし、大きなホールケーキでお祝いしてくれたし充分だよ。すごく良い思い出になっちゃった」
結局拓真くんとは付き合える事もなさそうだし……。
このいっぱいの思い出を、胸に大切に仕舞っておこう。
付き合えないって事を考えると、心が泣きそうになるけど、今日は最高の一日で終わらせたい。だから、泣くのは明日以降だ。
「誕生日のプレゼント、なんも用意出来なかったからさ。何かやって欲しい事ないか?」
「やって欲しい事……何でも良いの?」
「んー、まぁ俺が出来そうな事ならなんでも」
「じゃあ私、拓真くんと一緒にお酒飲みたい!」
拓真くんの誕生日の時に思ってたんだよね。一緒にお酒……楽しそう。
「ミジュ、酒癖悪ぃからなぁ」
「失礼な、悪くはないよ?!」
「まぁ良いけど、本当に危機感ないよな」
「そんな、前後不覚になるほど飲まないってば」
「いや、そうじゃなくて」
ん? そうじゃないの?
拓真くんはやっぱり呆れるように私を見てる。
「俺、酒飲んだ事ねーから、飲んだらどうなるか分かんねーぞって話」
「え、全然飲んだ事ないの?」
「洋菓子作るときに、コアントローとかアルコール飛ばさずに作って食うことはあるけど……そんくらいだなー。同級はまだ未成年も多いから、一緒に飲んだりもしねぇし、機会がなかった」
「わ、じゃあ私と飲むのが初めて? 飲もう!」
「ったく、どうなっても知らねぇからな」
拓真くんが立ち上がった時、玄関の方から「ただいまー」とリナちゃんの声がした。拓真くんはその声を聞いて、ドタドタと慌てて玄関に向かってる。
あ、もうお酒の事なんか忘れちゃってそうだなぁ、拓真くんは。
0
あなたにおすすめの小説
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる