【異世界恋愛】あなたを忘れるべきかしら?

長岡更紗

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アリシア編

77.よく来るの?

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「ロクロウもグレイも、院には大きな存在だったのね……」

 孤児院を出たアリシアは、独り言のようにそう呟く。

「グレイの方が功績はでかいよ。ロクロウは一時的な者を救ったに過ぎないから。グレイの場合は、将来を見据えてるんだ。……自分がいなくなっても、やっていけるようにって」

 そんな風に言われると、酷く心が痛んだ。
 グレイは自分が若くして死ぬ予感でもあったのだろうかと、ありえない想像までしてしまう。

「……ねぇ、孤児院の周りの警備を強化した方がいいと思う?」
「どうして急に?」

 孤児院は町の中心から離れてひっそりと建っている。そこの人通りは少なく、人攫いが発生する地区でもある。

「おかしいと思ったのよ。この間、トラヴァスが警備ルートの確認に来たんだけど、グレイは受け持ちの地区外であるここの周辺も警備させてたみたいなの」

 トラヴァスは現在、グレイの隊を引き継ぐ形で将代行を務めている。正式な就任はまだだが、恐らくこのまま秋の改編には新たな将として任命されるだろう。
 そのグレイの跡を継いだ形のトラヴァスが、指定外の地区を警備していると知り、アリシアにどういうことか質問に来ていたのだ。
 アリシアは、グレイが勘違いしていた可能性があると結論付け、その警備ルートを外させていた。

「子どもたちに安心感を与えたかったのかもしれないな。近くで人攫いがあったら、やっぱりみんな怯えるし」
「そうよね」

 明日すぐに警備ルートを確認し、変更の許可とその理由を訴えようと心に決めながら、アリシアは馬の手綱を握る。

「ああ、大分遅くなったな……」
「次はどこに行くの?」
「『喫茶アリス』で」

 そう言うとジャンは、来た時よりも若干早く馬を歩かせ、アリシアもそれに合わせる。
 次のデート場所は、喫茶アリス。もしや? と思いながら黙ってついて行くと、そこには喫茶店などなかった。普通の小さな一軒家である。

「ここはもしかして……」
「入ろう」

 ジャンはドアノッカーを叩くこともせず、無遠慮に扉を開けた。するとドアベルがカランカランと綺麗な音を奏で、訪問客を知らせる仕組みになっている。
 ジャンはそれとは別に、玄関先に置いてある呼び鈴を手に取って大きくそれを振った。今度は高い音色のチリンチリンというかわいくも大きなベル音が、部屋中に鳴り響く。

「セリカ! 聞こえる? 入るよ!」
「ちょっと、ジャン!」

 家主が現れる前に上がろうとするジャンを、アリシアは止めた。ジャンはそれでも気にせず中にズカズカ足を踏み入れている。アリシアも仕方なく彼に続いた。

「あ、ジャンさん」
「聞こえなかった?」
「大丈夫、聞こえました。遅くなってごめんなさい」

 ジャンは一歩下がると、出てきた女性とアリシアを対面させた。

「俺たちの上司、アリシア筆頭大将だよ」
「え?」
「アリシア、筆頭大将」
「まぁ!」

 女性は居住まいを正し、スラリと姿勢を伸ばす。そしてゆっくりと頭を垂れた。

「初めまして、セリカと申します。いつも主人がお世話になっております」

 軍隊にいる女とは違い物腰は柔らかで、それでいて一本筋が通っている立ち居振る舞いだ。アリシアとは根本的になにかが違う。

「初めまして、アリシアよ。……ジャンの奥さん?」
「違うよ。どうしてそういうトボけた発想が出てくるかなぁ」

 ジャンが顔を苦らせると、セリカはクスクスと笑みを漏らしている。その姿が妖精のようにかわいらしい。

「失礼いたしました。私はマックスの妻です。アリシア様、どうぞ中へお入り下さいませ」

 勧められるまま、アリシアはジャンと部屋の中に進む。目の前のソファーに座るよう促され、アリシアはそこに座った。なぜかジャンはアリシアの隣には座らず、対面に座っている。

「アリシア様、甘い物はお好きですか? 私が焼いたクッキーがあるのですが」
「あら! いいわね!!」
「ごめん、セリカ。昼食がまだなんだ。なにか適当に作ってもらえる? クッキーはまた今度で」
「わかりました」

 折角のクッキーがお流れになってしまったが、確かに昼食が優先だ。アリシアのお腹の虫は今にも鳴き出しそうである。しかしいきなり来てジャンのこの態度とセリカの対応はどういうことだろうか。マックスは当然仕事で、現在この家にはいない。

「ジャン、マックスがいなくてもよく来るの?」
「あー……どうかな」

 その受け答えにアリシアはムッとした。いつもならさらりと流せるはずのことが、やけに引っかかる。そのアリシアの隠そうともしない顔を見て、ジャンは慌てて言い訳した。

「暇な時は覗きに来てほしいって、マックスに頼まれてるんだよ」
「どうして?」
「うん……まぁ色々と」

 どうにも釈然としない答えではあったが、言いづらくしているので言及はやめておいた。気にならないと言えば嘘になるが、無理に聞き出すほどのことでもない。
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