若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗

文字の大きさ
7 / 115
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

007●フロー編●05.シャインの思惑

 ラルスとは良い関係を築けていると言えた。
 今までにないタイプの護衛騎士。
 喜怒哀楽がはっきりしていて、心のままに声を発してしまうのが、ラルスという男だ。
 フローリアンが勉強していなくても、うるさいことはなにも言ってこない。けれど疲れている時には必ず声を掛けてくれ、同じテーブルで一緒に紅茶を飲んでくれる。

(ふふっ。まさか、まずい紅茶を飲みたいと思うようになるなんてね)

 ラルスが淹れるお茶を一緒に飲みたい……そう思う日が来るなんて、一体誰が想像しただろうか。
 彼と話をしているだけで、目の前が開かれるような新しい発見がいくつもできた。本当に不思議な男だとフローリアンは思う。
 いつの間にか、ツェツィーリアと話をするのと同じくらい、楽しい時間となっていた。


 ある日、ラルスを連れて廊下を歩いていると、兄の護衛騎士であるシャインが一人で向かい側から歩いてくる。
 いつも忙しくしているシャインだが、フローリアンに気づくと立ち止まり、丁寧に頭を下げて挨拶してくれる。
 そこでフローリアンは疑問に思っていたことを口に出した。

「なぁシャイン。どうして僕の護衛騎士にラルスを推薦したんだ?」
「あ、それ、俺も聞きたかったんです!」

 後ろに控えていたラルスが声を上げる。こう言ってはなんだが、ラルスには王族の護衛など務まらないと、誰しもが思っていることだろう。
 なのに、護衛騎士として、そして監視役としても家臣としても超有能なシャインが、どうしてラルスを推したのかが理解できない。
 フローリアンの問いに、シャインは「そうですね」とにっこり笑った。

「フローリアン様と王家のためには、彼のような人物が必要だと思ったのです」
「……こいつが?」
「殿下、その言い草はないですよー!」
「あはは、ごめんごめん」

 シャインはそんなやりとりするフローリアンとラルスを見て、端正な顔立ちをほころばせている。おそらくなんらかの意図があってのことだとは思うが、それがなにかはわからなかった。

「どうしてラルスが王家に必要だと?」
「いえ、まだ確定ではありませんので、殿下はあまりお気になさらず。それでは失礼いたします」

 シャインはフローリアンに礼をして去っていく。どうにも釈然としないが、直接聞いてもダメならもう教えてはくれないだろう。

「やっぱり俺に光るものが……!」
「だから違うって」

 フローリアンとラルスは、顔を見合わせるとプッと笑った。
 こんな風に小気味良く会話を交わせる相手がいるのが、心地よくて。
 ラルスが来てからよく笑うようになったと、フローリアンは自分でも感じていた。


 それにしても、王族や貴族というのは面倒なものだとフローリアンは息を吐く。
 何枚もの招待状を前に、無視できればどれだけ楽だろうかと思うが、そうもいかない。
 貴族は十五歳にもなると、社交界に出席しなければならないのだ。王子という身分であるフローリアンにも招待状がくるのは当然の話であった。
 今度はツェツィーリアのお目当てであるイグナーツの父親が主催する舞踏会があり、そこに出席しなければならないことになっている。
 ツェツィーリアも招待されていて、彼女は浮かれっぱなしだった。遊びに来てくれた彼女と、いつもと同じように部屋の端でこそこそとお話をする。

「イグナーツ様は、誰と踊られるのかしら」

 ほうっと息をつく姿はまさに恋する乙女だ。フローリアンは思わず笑みを漏らした。

「そりゃ、ツェツィーに決まっているよ。絶対イグナーツもツェツィーのことが好きだって!」
「そ、そうでしょうか? フロー様にそう言われると、期待してしまいますわ」

 胸に手を当てて、嬉しそうに微笑むツェツィーリア。彼女の高揚が、フローリアンにまで届いてきそうなほどに喜んでいるのがわかる。
 対するフローリアンは、薄い唇から重く滞る息を吐き出した。

「僕は気が重いよ……誰とも踊りたくないな」

 フローリアンは婚約者がいてもおかしくはない年齢だ。だから余計に目の色を変えた令嬢たちが、フローリアンを狙ってくる。
 そんな彼女たちを騙すのも申し訳なかったし、単純に女の子が迫ってくるのは気持ち悪かった。男なら良いかと言われると、そうでもなかったが。

「大丈夫、わたくしがいますわ! わたくしとなら、楽しく踊れますでしょう?」

「え? でもツェツィーはイグナーツと……」
「誘ってくださるかどうかは、わかりませんもの。それに踊れたとしても、続けて何曲も踊ることはあり得ませんし。必ずフロー様のところに行きますわね」
「うん……ありがとう、ツェツィー」

 にこっと微笑んでくれるその顔は、まさに天使。

(ツェツィーと結ばれるであろうイグナーツは果報者だな)

 実際に結ばれるかどうかわからないが、家柄的にも問題はないし、うまくいくのではないかと勝手に信じている。
 ツェツィーリアの腕に光るアパタイトのブレスレットは、イグナーツとの絆を強めて、幸せになれる象徴のように感じた。

(なにか障害があっても、僕の方で後押ししてあげれば、きっと二人は結婚できるよね)

 せめて、ツェツィーリアだけでも幸せになって欲しい。自分の分まで。
 女であることを隠して生きている以上、本当の幸せなんて手に入れられるはずがないのだから。

 フローリアンは舞踏会を想像してそわそわしている可愛らしい親友を見て、心からそう思っていた。
感想 35

あなたにおすすめの小説

誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ジュゼットは、兄から父が背負った借金の金額を聞いて絶望した。 しかも返済期日が迫っており、家族全員が危険な仕事や売られることを覚悟しなければならない。 そんな時、借金を払う代わりに仕事を依頼したいと声をかけられた。 ジュゼットは自分と家族の将来のためにその依頼を受けたが、当然口外できないようなことだった。 その仕事を終えて実家に帰るジュゼットは、もう幸せな結婚は望めないために一人で生きていく決心をしていたけれど求婚してくれる人がいたというお話です。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん
恋愛
 傾いていた伯爵家を復興すべく尽力するジェフリーには、第一夫人のアナスタシアと第二夫人のクララ。そして、クララとの愛の結晶であるジェイクと共に幸せな日々を過ごしていた。  二人の妻に愛され、クララに似た可愛い跡継ぎに囲まれて、幸せの絶頂にいたジェフリー。  アナスタシアとの結婚記念日に会いにいくのだが、離縁が成立した書類が残されていた。    アナスタシアのことは愛しているし、もちろん彼女も自分を愛していたはずだ。  何かの間違いだと調べるうちに、真実に辿り着く。  全二十八話。  十六話あたりまで苦しい内容ですが、堪えて頂けたら幸いです(><)

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。