56 / 115
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜
056●フロー編●49.決心
しおりを挟む
ツェツィーリアが寝室から出て行くのを、フローリアンは部屋の中から見送った。
イグナーツの部屋まではシャインが見回りを担当してくれている手筈で、誰にも気づかれないように彼の部屋までたどり着けるようにしてくれている。
フローリアンはツェツィーリアがいなくなった寝室で、ベッドの上に腰掛けてドキドキと高鳴る胸を押さえた。
女だと打ち明けたとき、ラルスはどんな顔をするのだろうか。
喜んでくれるのか、それとも残念そうな顔をされてしまうのか。
(恋人がいたんだから、女でも大丈夫ってことだよね? 前に会ったウェイトレスは女の人だったし……あれ? でもあの時、恋人って断定してなかった気が……)
彼女とは言っていたが、『彼女』が女ではなく、男の可能性だってある。
考えれば考えるほど、実はラルスは男が好きだったのではないかと不安になってきた。
ツェツィーリアと一緒に今夜結ばれようと約束しておいて、自分はしてもらえませんでした、では申しわけが立たない。
(どうしよう、怖くなってきた……っ!)
結ばれるにしても結ばれないにしても、結局はどっちも怖い。
ベッドから立ち上がってそわそわと歩いていると、コンコンと扉が鳴った。
「王、ラルスです」
「う、うん、ちょっと待って!」
わたわたと髪の毛を手櫛でとき、身なりはおかしくないかを確認する。
いつもなら入室の許可を下すだけだが、この日ばかりはフローリアン自身が扉を開けて彼を迎えた。
「ど、どうぞ、ラルス」
「……王みずから、ありがとうございます」
普段とは違うフローリアンの行動に少し驚いたようにそう言って、ラルスは部屋へと足を進めた。
「ツェツィーリア様は?」
「イグナーツのところに行かせたよ。朝まで、帰ってこない」
大人なラルスは、その意味を理解しただろうか。特に表情は変わらず、こくりと頷いていたが。
「今日は、俺の気持ちに王が返事をくれるんですよね」
「うん。それだけじゃなく、僕の話も色々と聞いてほしい」
「わかりました」
「そこ、座ってくれ」
フローリアンが促したのは、椅子ではなくベッドの上。今夜結ばれる覚悟が、フローリアンにはできているのだ。ラルスがその気になってくれるのならば、だが。
ラルスはベッドに腰掛けられるように促され、一瞬だけ躊躇したものの、言われるままに座ってくれた。
フローリアンは座らずに、ラルスの前に立つ。
「……王は座らないんですか?」
「少し話をしてから座るよ。ラルスはそのままでいてくれ」
「はい」
必死に虚勢を張ってみるが、胸は今にもはち切れそうだ。どこからなにをどう伝えようかと思案してしまう。
「王、落ち着いてください。ゆっくりでいいですよ。俺、待ちますから」
「……うん」
ゆったりとした声と優しい笑顔にほっと息を吐く。そしてようやくフローリアンは視線をラルスに落とした。
「ラルスの告白、嬉しかったよ。ありがとう」
まずはそう伝えると、ラルスは照れ臭そうに笑っている。
「人に告白するって多分、一大決心だよね。特に僕は王だし、結婚してるし、ラルスは護衛騎士だし、普通は言わないよ」
「はは、すみません」
「まぁそういうところがラルスらしいけど」
「まさか、今日はクビの通告です?」
「それはないから安心していいよ。でも」
「でも?」
言葉を詰まらせると、ラルスが先を促してくれる。
「……ラルスにお願いをしたいんだ。だけど、嫌なときは王の願いだからって無理して聞く必要はない。断ってくれればいい。それだけ、約束して」
「わかりました」
ラルスは良くも悪くもまっすぐな男だ。約束さえしてくれれば、きっと己の心に従ってくれるだろう。
「僕がラルスと出会ったのは、もう七年も前になるね」
そう言いながら、フローリアンはラルスの隣に座った。
あの頃は恋なんて知らなかった。ツェツィーリアの様子で、恋とはどういうものかを知ってはいたが。
「違いますよ、王。最初の最初は、十一年前です」
「あは、そうだったね」
ラルスとの運命の出会い。それをラルスはちゃんと覚えてくれていことに、心は温かくなる。
「僕はさ、ラルスが護衛騎士になったとき、変な騎士が来たなぁって思ってたんだ」
「え、俺、そんなに変でしたか?!」
「うん。めちゃくちゃな護衛騎士だったよ。軽いし、どこかおまぬけだし、勉強しろって言わないし」
「勉強しろなんて言わなくても、王は十分やってたじゃないですか」
「そんな風に思ってくれているのが、僕は嬉しかったよ」
そう思うと、最初から惹かれていたのかもしれない。変な護衛だったが、いつも緊張をほぐしてくれる大切な存在だった。
「なのに僕は……ずっとラルスに隠していたことがあるんだ」
心臓がドクドクと鳴る。ラルスを見上げると目が合い、フローリアンは一度ぐっと唇を引き締めた後で、言葉を放った。
「信じられないかもしれないけど、僕……女なんだ……!」
言った。言ってしまった。どういう反応が返ってくるのかわからず、怖い。
「今まで騙してしまっていたこと、許してほしい……ごめん、ラルス」
誠心誠意、フローリアンはラルスに謝った。ずっと隠していたということは、信用がないと取られても仕方のないことだ。
信用していないわけでは決してない。けれど、言ってしまえば秘密を知ったラルスを縛り付けることになりかねず、それが嫌だった。
「びっくり、した、よね……?」
フローリアンがおそるおそる話しかけると、ラルスはにっこりと笑っていた。
イグナーツの部屋まではシャインが見回りを担当してくれている手筈で、誰にも気づかれないように彼の部屋までたどり着けるようにしてくれている。
フローリアンはツェツィーリアがいなくなった寝室で、ベッドの上に腰掛けてドキドキと高鳴る胸を押さえた。
女だと打ち明けたとき、ラルスはどんな顔をするのだろうか。
喜んでくれるのか、それとも残念そうな顔をされてしまうのか。
(恋人がいたんだから、女でも大丈夫ってことだよね? 前に会ったウェイトレスは女の人だったし……あれ? でもあの時、恋人って断定してなかった気が……)
彼女とは言っていたが、『彼女』が女ではなく、男の可能性だってある。
考えれば考えるほど、実はラルスは男が好きだったのではないかと不安になってきた。
ツェツィーリアと一緒に今夜結ばれようと約束しておいて、自分はしてもらえませんでした、では申しわけが立たない。
(どうしよう、怖くなってきた……っ!)
結ばれるにしても結ばれないにしても、結局はどっちも怖い。
ベッドから立ち上がってそわそわと歩いていると、コンコンと扉が鳴った。
「王、ラルスです」
「う、うん、ちょっと待って!」
わたわたと髪の毛を手櫛でとき、身なりはおかしくないかを確認する。
いつもなら入室の許可を下すだけだが、この日ばかりはフローリアン自身が扉を開けて彼を迎えた。
「ど、どうぞ、ラルス」
「……王みずから、ありがとうございます」
普段とは違うフローリアンの行動に少し驚いたようにそう言って、ラルスは部屋へと足を進めた。
「ツェツィーリア様は?」
「イグナーツのところに行かせたよ。朝まで、帰ってこない」
大人なラルスは、その意味を理解しただろうか。特に表情は変わらず、こくりと頷いていたが。
「今日は、俺の気持ちに王が返事をくれるんですよね」
「うん。それだけじゃなく、僕の話も色々と聞いてほしい」
「わかりました」
「そこ、座ってくれ」
フローリアンが促したのは、椅子ではなくベッドの上。今夜結ばれる覚悟が、フローリアンにはできているのだ。ラルスがその気になってくれるのならば、だが。
ラルスはベッドに腰掛けられるように促され、一瞬だけ躊躇したものの、言われるままに座ってくれた。
フローリアンは座らずに、ラルスの前に立つ。
「……王は座らないんですか?」
「少し話をしてから座るよ。ラルスはそのままでいてくれ」
「はい」
必死に虚勢を張ってみるが、胸は今にもはち切れそうだ。どこからなにをどう伝えようかと思案してしまう。
「王、落ち着いてください。ゆっくりでいいですよ。俺、待ちますから」
「……うん」
ゆったりとした声と優しい笑顔にほっと息を吐く。そしてようやくフローリアンは視線をラルスに落とした。
「ラルスの告白、嬉しかったよ。ありがとう」
まずはそう伝えると、ラルスは照れ臭そうに笑っている。
「人に告白するって多分、一大決心だよね。特に僕は王だし、結婚してるし、ラルスは護衛騎士だし、普通は言わないよ」
「はは、すみません」
「まぁそういうところがラルスらしいけど」
「まさか、今日はクビの通告です?」
「それはないから安心していいよ。でも」
「でも?」
言葉を詰まらせると、ラルスが先を促してくれる。
「……ラルスにお願いをしたいんだ。だけど、嫌なときは王の願いだからって無理して聞く必要はない。断ってくれればいい。それだけ、約束して」
「わかりました」
ラルスは良くも悪くもまっすぐな男だ。約束さえしてくれれば、きっと己の心に従ってくれるだろう。
「僕がラルスと出会ったのは、もう七年も前になるね」
そう言いながら、フローリアンはラルスの隣に座った。
あの頃は恋なんて知らなかった。ツェツィーリアの様子で、恋とはどういうものかを知ってはいたが。
「違いますよ、王。最初の最初は、十一年前です」
「あは、そうだったね」
ラルスとの運命の出会い。それをラルスはちゃんと覚えてくれていことに、心は温かくなる。
「僕はさ、ラルスが護衛騎士になったとき、変な騎士が来たなぁって思ってたんだ」
「え、俺、そんなに変でしたか?!」
「うん。めちゃくちゃな護衛騎士だったよ。軽いし、どこかおまぬけだし、勉強しろって言わないし」
「勉強しろなんて言わなくても、王は十分やってたじゃないですか」
「そんな風に思ってくれているのが、僕は嬉しかったよ」
そう思うと、最初から惹かれていたのかもしれない。変な護衛だったが、いつも緊張をほぐしてくれる大切な存在だった。
「なのに僕は……ずっとラルスに隠していたことがあるんだ」
心臓がドクドクと鳴る。ラルスを見上げると目が合い、フローリアンは一度ぐっと唇を引き締めた後で、言葉を放った。
「信じられないかもしれないけど、僕……女なんだ……!」
言った。言ってしまった。どういう反応が返ってくるのかわからず、怖い。
「今まで騙してしまっていたこと、許してほしい……ごめん、ラルス」
誠心誠意、フローリアンはラルスに謝った。ずっと隠していたということは、信用がないと取られても仕方のないことだ。
信用していないわけでは決してない。けれど、言ってしまえば秘密を知ったラルスを縛り付けることになりかねず、それが嫌だった。
「びっくり、した、よね……?」
フローリアンがおそるおそる話しかけると、ラルスはにっこりと笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる